競業他社の元従業員・元役員を中途採用する場合に注意することは何か

知的財産権・エンタメ

 当社(C社)は、競業他社であるD社の元部長Aを取締役として迎え、元部長Aから開示を受けたD社製品の設計図や製造上のノウハウを使用して自社工場で新製品の製造を行い、販売を開始していました。そんな折、D社から警告書の送付を受けました。
 元部長Aから開示を受けた設計図等は、もっぱら当社のP事業部が所管する工場で使用されており、当社の代表者を含めた取締役は、D社の営業秘密を使って新製品を製造・販売していた事実をまったく知りませんでした。
 一方で、P事業部長Bや工場長をはじめ製造担当者のほぼ全員が、それらがD社の営業秘密であり、元部長Aから不正に取得または不正に開示されたものであることを、開示当初から知っていました。
 当社はどのような対応を取るべきでしょうか。
 また、当社が、元部長Aからそれら設計図等の開示を受けたものの、自社工場での製造にはまったく使用しておらず、新製品はあくまで自社独自の技術に基づき製造している場合、問題はありますか。

 自社の民事上・刑事上の法的責任の有無を踏まえて、適切に対応する必要があります。
 また、コンタミネーション・リスク、すなわち、意図せずして他人の営業秘密を入手してしまい、無用な法的紛争に巻き込まれてしまうリスク一般への対応として、秘密情報の取得機会の全社的な把握に始まり、営業秘密の保護についての社内規程の整備や社員教育、内部監査の実施といった、幅広い事項について対応する必要があります。

解説

C社が元部長Aから開示を受けた設計図等を使用している場合

民事上の責任について

( 1 ) どのような不正競争行為に当たるか

 C社が元部長Aから開示を受けた設計図等を使用して新製品の製造を行っていることは、不正競争防止法(以下「不競法」)2条1項5号もしくは8号の不正競争行為に当たります。

 法人の善意・悪意や(重)過失の有無は、その代表者を基準として判断されますが、C社のように、代表者や取締役が事実を知らなかったとしても、実際に設計図等を使用しているP事業部の事業部長Bや工場長をはじめ製造担当者のほぼ全員が、それらがD社の営業秘密であり、不正に取得または不正に開示されたものであることを、開示当初から知っていたという場合には、「重過失」を認定される可能性が十分にあるものと考えます。
 また、設計図等の開示時点で悪意重過失とは認められなかった場合でも、少なくとも、D社から警告書の送付を受けた後は、悪意重過失となりますので、その後の新製品の製造継続は、不競法2条1項6号もしくは9号の不正競争行為に当たることになります。

( 2 ) どのような請求を受けるか

 したがって、C社は、将来に向かって、新製品の製造・販売の停止、新製品と新製品の製造ラインの廃棄といった差止請求(不競法3条)を受けるとともに、過去に遡って、C社の不正競争行為によってD社が受けた損害(新製品の販売による売上減少の消極的損害を含みます)の賠償請求(不競法4条)を受けることになります。

 加えて、法人としての不法行為(民法709条)、もしくはP事業部の事業部長Bや工場長らといった被用者がその事業の執行についてC社に損害を与えたものとして、使用者責任(民法715条)を根拠とした損害賠償請求を受けることも考えられます(とりわけ、警告書の送付以前の新製品の製造・販売について、C社の悪意重過失が認められず、不正競争を理由とした過去に遡っての損害賠償請求が認められない場合、このような損害賠償請求を受けることが考えられます)。

刑事上の責任について

 C社は、同社の取締役となった元部長Aが、同社の業務に関し、営業秘密侵害罪のうち、不正取得後不正使用・開示罪(不競法21条1項2号)に当たる行為を行っているとして、また、P事業部の事業部長Bや工場長ら、同社の使用人が、同社の業務に関し、営業秘密侵害罪のうち、二次取得者不正使用・開示罪(不競法21条1項7号)に当たる行為を行っているとして、法人として書類送検され、両罰規定の適用により5億円以下の罰金刑に処せられることが考えられます(不競法22条1項2号)。

C社が取るべき対応策

 C社としては、社内調査によって事実を確認し、専門家への相談等により自社の法的責任の有無を確認した上で、民事上および刑事上の責任追及を可能な限り軽減すべく、D社と交渉することになります。

C社が元部長Aから開示を受けた設計図等を使用していない場合

C社の法的責任

 C社が、元部長Aから設計図等の開示を受けた時点で悪意重過失であった場合、C社がそれらの情報を取得した行為は、不正競争行為(不競法2条1項5号、8号)に該当することになり、将来の使用・開示の禁止(予防請求)や取得した設計図等の廃棄請求(不競法3条)の対象とはなりますが、特に損害の発生は認められないことから、損害賠償請求の対象とはならないものと考えられます。
 また、二次的取得者以降の者の取得行為については、営業秘密侵害罪の対象とはなりませんので、刑事上の責任は生じません。

使用行為の推定規定(不競法5条の2)

 しかし、C社が元部長Aから開示を受けた設計図等を使用していないとはいえ、競合する新製品を製造・販売している以上、D社が簡単に納得するとは思えません。
 この点に関連して、平成27年の不競法改正により、使用行為の推定規定(不競法5条の2)が新設されていることに注意が必要です。
 すなわち、営業秘密の不正な侵害を理由とする民事訴訟において、原告が、被告による原告の営業秘密(技術上の秘密のうち、生産方法等の情報に限られます)の不正取得(不競法2条1項4号)または不正開示による悪意重過失での取得(同5号、8号)と、その営業秘密を用いて生産できる物の生産等を行っていることを立証した場合には、被告がその物の生産にあたってその営業秘密にかかる技術を使用していることが推定されることになりました。

 そのため、この規定に基づく推定がなされた場合には、被告側で不使用の事実を立証しなければならないことになりました。
 実務上は、その営業秘密にかかる技術とは異なる技術を用いて生産等を行っていることを具体的に立証する必要があるものと考えられます。
 したがって、仮に、D社から民事訴訟を提起された場合、C社としては、逆に自社の生産技術等の開示を迫られることになりかねませんので、注意が必要です。C社としては、D社と秘密保持契約を締結した上で、例えば代理人限りで自社の生産技術等を開示し、示談解決を図ることも検討すべきでしょう。

コンタミネーション・リスクへの対応

 上記1および2のとおり、不正取得または不正開示された他社の営業秘密をひとたび取得してしまった場合の法的リスクには大変大きいものがあります。この点、「秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上に向けて~」(経済産業省 平成28年2月) 108頁以下では、他社の営業秘密の意図しない侵害が生じやすいと考えられる場面として、①転職者の受入れ、②共同・受託研究開発、③取引の中での秘密情報の授受および④技術情報・営業情報の売込みが挙げられており、C社の事例は、このうち①転職者の受入れ時の問題ということになります。

 C社は、転職者の受け入れに際して、意図せずにD社の営業秘密を入手してしまい、法的紛争に巻き込まれてしまっており、コンタミネーション・リスクが顕在化したものと言えます。

 そのようなコンタミネーション・リスクへの対応として、C社が取り組むべき事項としては、以下のようなものが挙げられます。
① 秘密情報の取得機会(中途採用者の採用を含む。)の全社的な把握
② ①の取得機会における取得情報の厳選・明確化
③ 秘密情報の出所、権利関係(開示者の秘密保持義務の有無を含む。)の確認
④ 開示者からの表明保証、誓約の取得
⑤ 取得した秘密情報の内容、取得時期、取得経緯、受領者の記録
⑥ 取得した秘密情報の自社の独自情報との分別管理
⑦ 営業秘密の保護についての社内規程の整備と社員教育
⑧ ⑦の社内規程の遵守状況等についての内部監査
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