民事訴訟・刑事訴訟における営業秘密の保護

知的財産権・エンタメ

 C社は、競業他社であるD社の元部長Aを取締役として迎え、D社の製品の設計図や製造上のノウハウを使用して新製品の製造、販売を行っているとして、D社から差止請求の民事訴訟を提起されました。
 C社は確かに元部長Aからそれらの設計図等を受領しており、また受領の際にそれらの情報がD社の営業秘密であることについて悪意重過失ではあったものの、自社工場での新製品の製造にはまったく使用しておらず、新製品はあくまで自社独自の技術に基づき製造しています。
 このような民事訴訟において、営業秘密はどのように保護されているのでしょうか。
 また、刑事訴訟の場合にはどうでしょうか。

 民事訴訟においては、原告側、被告側ともに、自社の営業秘密の秘密管理性・非公知性が損なわれないように、訴訟記録の閲覧制限や秘密保持命令といった制度によって、営業秘密を保護することができます。刑事訴訟においても、営業秘密侵害罪の被害者の申出により、営業秘密を保護するための制度が設けられています。

解説

民事訴訟における営業秘密の保護

民事訴訟における営業秘密の保護の必要性

 裁判の公開原則(憲法82条)に基づき、民事訴訟の手続は公開の法廷で行われますし、裁判所に保管されている民事訴訟の訴訟記録は誰でも閲覧することができるのが原則です(民事訴訟法91条1項)。
 しかし、自社の営業秘密を守るために、原告となって民事訴訟を起こした途端に、営業秘密の中身が不特定多数の人の目に触れ、直ちに秘密管理性を失ってしまうのでは、本末転倒ですし、それを恐れて、原告が十分な訴訟活動をできずに敗訴してしまうというのでは意味がありません。逆に、他社の営業秘密の侵害を疑われた被告が、実は、自社の独自技術を用いて製造等を行っていることを主張・立証しようとするときにも、同様の問題があります。
 そこで、民事訴訟において営業秘密が取り扱われる際の保護が必要となります。

民事訴訟における営業秘密の保護制度

 民事訴訟における営業秘密の保護制度としては、民事訴訟一般に適用されるものと、営業秘密の侵害にかかる不競法に関する訴訟において適用されるものがあり、その概要は以下のとおりです。

民事訴訟一般 営業秘密侵害訴訟
制度 証言拒絶権/
文書提出義務の免除
訴訟記録の閲覧制限 書類提出義務の免除 秘密保持命令 非公開審理
法条 民訴法197条1項3号・220条4号ハ 民訴法92条1項2号 不競法7条1項ただし書 不競法10条 不競法13条
制度内容 「技術又は職業の秘密」について証人が証言を拒む権利を認め、同じく文書所持者の文書提出義務を免除するもの 訴訟記録に当事者が保有する「営業秘密」が記載・記録されている場合、その閲覧等を当事者に限るもの 不競法7条1項本文に基づく書類提出命令について、「正当な理由」がある場合、書類所持者の書類提出義務を免除するもの 裁判所に提出される証拠等に、当事者の保有する「営業秘密」が含まれている場合、当事者に訴訟目的以外の使用や漏えいを裁判所の命令で禁止するもの 当事者尋問等での「営業秘密」についての陳述が適正な裁判に不可欠な場合に、当事者尋問等を非公開で行うこと
インカメラ手続 ○(民訴法223条6項) ○(不競法7条2項) ○(不競法13条3項)

※民訴法:民事訴訟法、不競法:不正競争防止法

具体的な適用関係

( 1 ) 閲覧制限の申し立て

 本問の事例のD社は、C社を相手取った民事訴訟の訴状や証拠で、その使用を差し止めようとする自社製品の設計図や製造上のノウハウを特定することになります。そこで、D社としては、裁判所に提出されたそれらの営業秘密を含む訴訟記録が、当事者以外の者によって閲覧されることがないよう(自由に閲覧させておくと、秘密管理性あるいは非公知性が失われることになります)、閲覧制限民訴法92条1項2号)を申し立てることになります。

( 2 ) 提出義務の免除

 これに対し、C社は、D社の営業秘密を新製品の製造にはまったく使用していない以上、D社の主張を否認して、差止請求損害賠償請求の棄却を求めることになります。
 もっとも、その場合、D社からC社の新製品の設計図を証拠として提出するよう、民訴法に基づく文書提出命令や不競法7条1項本文の書類提出命令の申し立てがなされることが考えられます。
 この場合、C社としては、「技術又は職業の秘密」(民訴法197条1項3号・220条4号ハ)と「正当な理由」(不競法7条1項ただし書)があるとして、提出義務の免除を裁判所に求めることになります。

( 3 ) 閲覧制限と秘密保持命令の申し立て

 それでも提出義務の免除が認められない場合、C社が裁判所の命令に従わないと、「裁判所は、当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができる。」とされており(民訴法224条1項)、D社の主張が認められてしまう恐れがあります。
 そこで、C社としては、やむを得ず、自社の新製品にかかる設計図の証拠提出を検討することになりますが、その場合、同じく閲覧制限民訴法92条1項)を申し立てるのは当然として、C社としては、D社が、C社が証拠提出した設計図を使用し、もしくは第三者に開示することを禁止するため、秘密保持命令不競法10条)を申し立てることになります。

( 4 ) 秘密保持契約の締結と非公開審理

 なお、実務的には、秘密保持命令の申立ての代わりに、当事者間で秘密保持契約を締結する場合が少なくありません。加えて、C社としては、当事者尋問等については、非公開審理(不競法13条)を求めることになります。

( 5 ) インカメラ手続

 以上に対し、文書提出義務の存否等の判断の過程において、営業秘密を保護するため、問題の文書等を裁判所にだけ提示させ、裁判所がこれを閲読する「インカメラ手続」という制度もあります。これにより、当事者は安心して、裁判所に判断を委ねることができます。

刑事訴訟における営業秘密の保護

 刑事訴訟についても、裁判の公開原則のもと、その手続は公開の法廷で行われ、誰でも傍聴することができ、その事件の終了後には訴訟記録を閲覧することができます(刑事訴訟法53条1項)。また、営業秘密侵害罪についての刑事訴訟は、世間の耳目を集め、新聞紙面等での報道を含めて、大変な関心を集めつつ行われることが少なくありません。

 そのため、平成23年の不競法改正時に、不競法第6章として、「刑事訴訟手続の特例」の一章が設けられました。
 営業秘密侵害罪の被害者等またはその委託を受けた弁護士から、「その事件にかかる営業秘密にあたる情報を特定させることになる事項を公開の法廷で明らかにされたくない」といった申出がなされたときは、その事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定(秘匿決定)をすることができるほか、起訴状の朗読方法や証人尋問の実施に際して、特別な制度が設けられています。

 本問の事例のD社は、元部長Aの営業秘密侵害罪にかかる刑事訴訟において、自社の製品の設計図や製造上のノウハウに関する情報が公開の法廷で明らかとされないよう、上記の「秘匿決定」を求める申出を行うことにより、自社の営業秘密を保護することができます。
 なお、経済産業省の公表した「秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上に向けて~」には参考資料6として、営業秘密侵害罪にかかる刑事訴訟手続における被害企業のあり方が紹介されていますので、ご参照ください。

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