出版契約をする際の注意点

知的財産権・エンタメ

 オリンピックのエンブレム問題について、ある方が書いたブログの記事が紹介されていたので読んでみたところ、深い内容が気軽に読めるよく書かれた記事でした。そこで、ブログのほかの記事も読んでみたら、いずれも非常によいものばかりでした。そこで、この方のブログの記事からいくつかを選び、また新たに執筆をしてもらって書籍を出版したい、また電子書籍化もしたいという企画が社内で浮上しました。書籍の出版にあたり、この方とどのような契約をしたらよいでしょうか。

 記事を執筆した方と出版に関する契約を締結するにあたって、いくつか契約の種類が考えられますが、基本的には出版権という権利を設定する契約を締結することが多いと思います。電子書籍についても出版権の設定が可能です。
 なお、新たに執筆をしてもらうにあたって執筆依頼の契約をすることになりますが、執筆依頼についての契約書は締結せず、原稿が出来上がった後に出版権設定契約を締結し、執筆に対する対価も出版権設定の対価に合算することが多いです。

解説

出版についての契約

(1)出版についての(独占的)許諾

 著作権のなかには、作品を無断で複製されない権利として「複製権」、作品を無断で譲渡されない権利として「譲渡権」、そして作品を無断で配信されない権利として「公衆送信権」があります。出版行為にはこれらの権利が関係しています。

 紙の書籍における「出版」とは、作品を印刷(複製)して販売(譲渡)することです。また、電子書籍において、作品をデジタライズしたデータを保存した記録媒体(DVD-Rなど)を販売する場合(販売型電子出版)も、「出版」とは、作品をデジタライズ(複製)して販売(譲渡)することとなります。これらについては、著作権者である作者から複製と譲渡の許諾を受ければ作品を出版することが可能となります。

 他方、電子書籍のうち、作品のデジタルデータを配信する場合(配信型電子出版)は、「出版」とは作品をデジタライズ(複製)して配信(公衆送信)することですから、著作権者である作家から複製と公衆送信の許諾を受ければ作品を電子出版することが可能となります。

【出版行為の種類と対応する著作権】

出版行為の種類 書籍の製作 書籍の販売
紙の書籍の出版 複製権 譲渡権
電子出版 販売型電子出版
配信型電子出版 公衆送信権

 ただ、出版社としては、自分のところで出版物として出そうとしている作品、あるいはせっかく出版物として出した作品が、他の出版社からも出版物として出されたのでは、ビジネスとして成り立たなくなってしまいます。そのために、作者から複製と譲渡・公衆送信の許諾を受ける際に、他社には許諾しない(つまり出版物として出す権利を自分が独占する)という契約にすることが必要になってきます。これを独占的許諾といいます。

(2)著作権の譲渡

 独占的許諾を受けた場合、たとえばある出版社(A)が著者との間で独占的許諾の契約をしたにもかかわらず、その作品が他社(B)から出版されてしまった場合、出版社(A)は著者に対して契約違反だとして損害賠償などを請求することが可能となります。

 ところが、このように作家の責任は追及できても、その出版社(A)は同じ作品を出版している他の出版社(B)に対しては原則的に何も請求することはできないとされています。つまり、他社から刊行された出版物が流通することは止められないわけです。これではせっかく独占的な契約をしてもあまり意味がないということになってしまいます。

出版社と著者間の独占的許諾契約の効果

 そこで、他社に対して出版行為を止めさせることができる権利として、著者から複製権、譲渡権、公衆送信権の譲渡を受けることが考えられます。医学書の分野などではこのような出版社に対する著作権の譲渡も行われています。

 しかし、そのような特殊な分野を除くと、著者は自分の作品の著作権譲渡には抵抗を示すことが少なくありませんし、有名な作家などに対して著作権譲渡を求めるのは出版社側でも躊躇を覚えるでしょう。そのようなことから著作権譲渡はしないけれども第三者による出版行為をとめることのできる権利として出版権という権利が認められています。

(3)出版権の設定

 「出版権」の直接の定義は著作権法に書かれていませんが、出版権の権利者(出版権者)の権利の内容については出版行為の種類に応じて以下のように規定されています。

出版行為の種類 設定する者 専有する権利の内容
①紙の書籍の出版 複製権者
 ↓
第1号出版権
頒布の目的をもつて、原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利(著作権法80条1項1号)
電子出版 ②販売型電子出版 原作のまま前条第1項に規定する方式により記録媒体に記録された電磁的記録として複製する権利(著作権法80条1項1号)
③配信型電子出版 公衆送信権者
 ↓
第2号出版権
原作のまま前条第1項に規定する方式により記録媒体に記録された当該著作物の複製物を用いて公衆送信を行う権利(著作権法80条1項2号)

 このように、複製権者が設定する出版権を第1号出版権、公衆送信権者が設定する出版権を第2号出版権と呼んでいます。また、この表で「前条第1項に規定する方式」とは、「電子計算機を用いてその映像面に文書又は図画として表示されるようにする方式」を指しています。文書・図画が対象なので、動画や音声については出版権は設定できません。

 出版権とは要するに、複製権者が設定する①②(第1号出版権)については著作物を出版物として出版(複製)する権利、公衆送信権者が設定する③(第2号出版権)については著作物を配信(公衆送信)する権利ということになります。重要なのはいずれもその権利を「専有」することとされている点で、この結果他人が同じ作品を出版していればそれを止めさせることもできることになります。

 なお、第1号出版権では出版権者が専有するのは書籍の製作の権利(複製権)だけで販売についての権利(譲渡権)は専有していません。ただ、出版権を侵害する行為によって作成されたものを譲渡すると出版権の侵害とみなされることになっていますので、その結果書籍の販売(譲渡)についても出版権者は間接的に専有していることになります。
 他方、第2号出版権では出版権者が専有するのは書籍の販売の権利(公衆送信権)だけで、書籍の製作についての権利(複製権)は直接的にも間接的にも専有していません。

出版行為の種類 書籍の製作 書籍の販売
紙の書籍の出版 第1号出版権 複製行為
→出版権者が専有
譲渡行為

→出版権侵害行為によって作成されたものの頒布は出版権侵害とみなされる

→間接的に出版権者が専有
電子出版 販売型電子出版
配信型電子出版 第2号出版権 複製行為
→出版権者は専有しない
公衆送信行為
→出版権者が専有

出版権設定契約書

 第1号出版権と第2号出版権、また第1号出版権の中でも紙媒体の出版権と電子書籍の出版権はそれぞれ別々に設定することができます
 出版権設定契約書のひな型として有名なのは一般社団法人日本書籍出版協会(書協)が発表しているものです。これを各社なりにカスタマイズして利用していることが多いようです。

 なお、新たに原稿の執筆をしてもらい、出来上がった原稿について出版権の設定をする場合、厳密には執筆依頼の契約と執筆してもらった原稿についての出版権設定の契約の2段階の契約が成立していることになります。しかし、契約書としては前者について締結されることはまれで、原稿が出来上がった後に出版権設定契約を締結し、執筆に対する対価も出版権設定の対価の中に含めていることが多いです。

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