米国特許訴訟における差止めと損害賠償

知的財産権・エンタメ

 米国特許訴訟において認められる差止めと損害賠償について教えてください。

 日本においては、特許の侵害が認められれば、ほぼ自動的に差止請求が肯定されますが、米国においてはこれと異なり、一定の要件を満たす場合に限り差止めが認められます。
 また、日本の特許法では損害賠償額の推定規定が存在しますが、米国の特許法ではこのような規定は存在せず、特許権者の逸失利益か合理的なロイヤルティの額に基づいて損害賠償額は決められます。

解説

差止めについて

 米国特許法283条は、特許侵害を防止するため、「衡平の原則」(principles of equity)に従って、裁判所が差止命令を出すことができる、と規定しています。この規定は、裁判所が差止めを認めるか否かについて一定の裁量を有することを認めています。

 そして、2006年に連邦最高裁判所がeBay Inc. v. MercExchange, L.L.C., 547 U.S. 388 (2006)において行った判決(いわゆるeBay事件判決)により、差止めが認められるためには、以下の4つの要件の充足が必要であることが明らかにされました。

  1. 特許権者が回復不可能な損害(irreparable injury)を被ったこと
  2. 制定法に基づく救済が損害を補償するのに不十分であること(remedies available at law are inadequate to compensate for that injury)
  3. 原告と被告の不利益のバランスに照らして、差止めが必要とされること(considering the balance of hardships between the plaintiff and defendant, a remedy in equity is warranted)
  4. 差止めによって公共の利益が害されないこと(the public interest would not be disserved by a permanent injunction)

 たとえば、特許権者が被告以外の第三者に対してすでにライセンスを許諾していた場合、被告としては、特許権者の関心は金銭のみにあり、差止めを認める必要がないとの主張が可能です。実際、上記eBay事件の最高裁判決によって差し戻された後、連邦地方裁判所は、特許権者がライセンスを許諾する意図を有していたことを考慮して、金銭賠償による救済によって損害は十分に補償されると判断して、差止めを否定しました。

 以上のとおり、米国特許訴訟において差止めが認められるためのハードルは、日本に比べて高いといえます。

損害賠償について

日本と米国との違い

 日本の特許法では、102条各項により損害賠償額の推定が認められており、特許権者は、①自らの逸失利益の額に基づく請求、②侵害者が得た利益の額に基づく請求、③相当なロイヤルティの額に基づく請求を選択することができます。

 米国においては、このような規定は存在していませんが、米国特許法284条は、特許の侵害が認められた場合について、裁判所が適切な損害賠償を認めなければならないと規定しています。さらに、同条では、かかる損害賠償の額は、合理的なロイヤルティの額を下回ってはならないと規定しています。

 この規定に照らして、米国特許訴訟において特許権者は、特許侵害がなければ自らが得られたはずの利益(逸失利益)の額に基づく損害賠償請求と、合理的なロイヤルティの額に基づく請求の2つを主張できますが、侵害者が得た利益の額に基づく請求はできません。

【損害賠償に関する日本と米国の違い】

日本 米国
逸失利益の額に基づく損害賠償請求
侵害者が得た利益の額に基づく損害賠償請求 ×
合理的なロイヤルティの額に基づく損害賠償請求

逸失利益の額に基づく請求

 米国における特許訴訟において、特許権者が逸失利益に基づく損害賠償を請求するには、以下の4つの要件を立証しなければならないとされています(いわゆるPanduitテスト)。

  1. 特許製品に対する需要
  2. 特許を侵害しない代替品の不存在
  3. 需要を満たすための製造および営業の能力があること
  4. 特許製品の販売によって得られたであろう額

 日本においては、逸失利益に基づく損害賠償を請求する場合には、通常、特許権者が侵害品の競合品を販売していれば足りると解されていますが、米国においてはそれだけでは足りず、上記の4つの要件の立証が求められます。そのため、米国において逸失利益に基づく損害賠償を請求するハードルは、一般に日本よりも高いということができます。

 たとえば、の要件については、特許技術を用いなくとも同等の製品を製造することができ、需要を満たすことが可能と認められれば、充足が否定されます。そのような場合、逸失利益に基づく請求は否定され、特許権者としては、合理的なロイヤルティの額に基づく損害賠償を求めることとなります。

合理的なロイヤルティの額に基づく請求

 合理的なロイヤルティの額に基づいて損害賠償を請求できる点では、日本と米国とに違いはありません。しかし、米国の裁判例では、合理的なロイヤルティの額を定める際に考慮すべき要素が細分化されており、いわゆるGeorgia Pacificファクターとして15の要素を考慮するとの実務が一定程度受け入れられています

 合理的なロイヤルティの額を計算する場合の一つの方法としては、合理的なロイヤルティ「率」を決めたうえで、侵害品の販売価格に乗算するとの計算があげられます。ここで、問題となった特許技術が、製品の有する機能のごく一部にしか関与していない場合に、侵害品全体の販売価格を基礎とすべきか、という問題が生じます。

 この点、日本においては、「寄与率」「寄与度」といった概念を用いて、特許技術が侵害品全体の価値に貢献する割合を考慮し、合理的なロイヤルティの額を定める(割引く)という実務が一般的です。

 他方、米国においては、「寄与率」「寄与度」といった概念を用いずに、ロイヤルティを算定する基礎となる売上を定める際の対象として、製品全体とするのか、一部の部品のみとするのか、という検討を行います。製品全体の価格を基礎とするか否かを定めるルールを、「全体市場価値ルール」(Entire Market Value Rule)といいますが、最近の裁判例の傾向では、特許技術によって実現される機能が、顧客の需要を喚起する「唯一の」根拠となっている場合に限り、製品全体の価格を基礎としたロイヤルティの算定を認める、というルールの適用が優勢となっているようです。

 この裁判例の傾向に従うと、需要者の求める様々な機能を侵害品が有していて、特許技術がその一部にしか寄与していない場合、特許権者は、製品全体の価格に基づくロイヤルティの額に基づく損害賠償を求めることは難しくなり、結果として得られる賠償額は低くなります。

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