米国特許商標庁での手続きと特許訴訟との関係

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 米国特許商標庁において特許の有効性を争う手続きと特許訴訟との関係について教えて下さい。

 いわゆるAmerica Invents Act(AIA法)による改正後、米国特許商標庁において米国特許の有効性を争う手続きとしては、査定系再審査(Ex Parte Reexamination)、当事者系レビュー(Inter Partes Review)、付与後レビュー(Post Grant Review)が存在します。他方で、特許侵害訴訟の被告は、特許無効の判断を裁判所に求めることもできます。

 査定系再審査、当事者系レビュー、付与後レビューの各手続きは、申立てをすることができる時期や理由が異なるなど、それぞれ特徴があります。特許侵害訴訟の係属が開始してから1年経過後は、当事者系レビューを開始することはできません。

解説

査定系再審査

 査定系再審査は、特許が付与された後、米国特許商標庁に再審査を請求する手続きです。査定系再審査の請求は、利害関係を有さない第三者も行うことができ、さらに、匿名での請求も可能です。

 査定系再審査の請求の理由は、新規性の欠如または非自明性の欠如に限られており、しかも、根拠とする証拠は、先行特許または刊行物に限られています。すなわち、先行して販売されていた製品等を理由に査定系再審査を求めることはできません。また、記載要件違反を理由とすることもできません。

 査定系再審査が請求されると、審査官は、提出された先行特許や刊行物を検討し、特許性に関して「実質的に新しい疑問」(substantial new question)が提示されているか否かを検討します。かかる提示がなされていると審査官が認めた場合、特許権者は、審査官の指定する期間内に反論を提出することができます。かかる反論が提出された場合には、査定系再審査の請求人から、弁駁書を提出することが可能です。その後、審査官は再審査を継続し、特許性が否定されるべきと判断した場合には、拒絶理由通知を発します。その後は、通常の特許出願の審査と同様に、特許権者は補正によって拒絶理由の解消を試みたり、意見書を提出して拒絶理由に反論したりすることが可能です。

 このように、査定系再審査では、手続き開始後に請求人が意見を述べる機会が、弁駁書の提出のみに限られており、口頭審理は行われません。さらに、特許権者が最初の反論を行わなければ、そもそも弁駁書の提出の機会も与えられませんので、注意が必要です。

【査定系再審査の流れ】

査定系再審査の流れ

当事者系レビュー

 当事者系レビューとは、特許が付与された後9か月が経過した日または後述する付与後レビューの終了日のうちいずれか遅い日以降に、米国特許商標庁において当該特許の効力を争う手続きです。当事者系レビューの請求を行うには、利害関係を明らかにすることが必要であり、匿名での請求は許されていません。

 当事者系レビューの請求の理由は、査定系再審査と同様に、新規性の欠如または非自明性の欠如に限られています

 当事者系レビューが請求されると、米国特許商標庁の審判部(Patent Trial and Appeal Board。PTAB)に属する審判官からなる合議体が、提出された先行特許や刊行物を検討し、特許性が否定される「合理的な見込み」(reasonable likelihood)が存在するか否かを検討します。かかる合理的な見込みが存在すると合議体が認めた場合に、当事者系レビューの審理が開始されます。

 当事者系レビューでは、査定系再審査と異なり、請求人と特許権者の双方が、それぞれ主張書面と、自らの主張を裏付ける証拠を提出できます。また、一定の範囲でのディスカバリが認められ、さらに口頭審理も開催され得ます。

 当事者系レビューでは、原則として審理開始日から1年(ただし6か月延長可能)以内に合議体による決定がなされます。決定が確定すると、各当事者を拘束する禁反言の効果が生じます。すなわち、当事者系レビューにおいて主張した理由または主張できたはずの理由に基づいて、米国特許商標庁や連邦裁判所における手続きにおいて、改めて特許無効を主張することはできなくなります。

付与後レビュー

 付与後レビューとは、特許の付与後9か月以内に、米国特許商標庁において当該特許の効力を争って請求する手続きです。付与後レビューの請求を行うには、利害関係を明らかにすることが必要であり、匿名での請求は許されていません。また、付与後レビューの対象は、2013年3月16日以降に有効出願日を有する特許に限られます。

 付与後レビューの請求の理由は、新規性の欠如や非自明性の欠如に限られず、特許適格性違反や記載要件違反を主張することも許されます

 当事者系レビューが請求されると、米国特許商標庁の審判部に属する審判官からなる合議体は、特許が無効である可能性が有効である可能性より高い(more likely than not)か、 新たなまたは未解決の法律問題(a novel or unsettled legal question)が存在するか否かを検討します。いずれかが認められると合議体が判断した場合に、付与後レビューの審理が開始されます。

 付与後レビューでは、請求人と特許権者の双方が、それぞれ主張書面と、自らの主張を裏付ける証拠を提出できます。また、一定の範囲でのディスカバリが認められ、さらに口頭審理も開催され得ます。

 付与後レビューでは、当事者系レビューと同様に、原則として審理開始日から1年(ただし6か月延長可能)以内に合議体による決定がなされます。また、付与後レビューの決定が確定すると、これも当事者系レビューの場合と同様に、各当事者を拘束する禁反言の効果が生じます。

申立てをできる時期 請求理由 請求できる人 匿名での請求
査定系再審査 特許が付与された後
  • 新規性の欠如
  • 非自明性の欠如
利害関係を有さない第三者も請求できる
当事者系レビュー 特許が付与された後9か月が経過した時または付与後レビューの終了日のいずれか遅い日
  • 新規性の欠如
  • 非自明性の欠如
利害関係を明らかにすることが必要 ×
付与後レビュー 特許の付与後9か月以内
  • 新規性の欠如
  • 非自明性の欠如
  • 特許適格性違反
  • 記載要件違反

など

利害関係を明らかにすることが必要 ×

特許訴訟との関係

 特許侵害訴訟が係属開始してから(すなわち、特許侵害を主張する訴状が送達されてから)1年経過以降に当事者系レビューが請求された場合には、米国特許商標庁は審理を開始しません。また、特許の有効性を争う民事訴訟がすでに提起されている場合には、重ねて当事者系レビューを請求することはできません。

 他方、当事者系レビューが請求された後に、対象特許の有効性を争う訴訟が提起された場合には、その訴訟は中断されます。

 特許侵害訴訟が提起されて訴状を受領した場合、被告としては、当事者系レビューを請求するか否かを、1年以内に決めなければなりません。当事者系レビューの利点としては、決定が比較的迅速になされることおよびディスカバリの範囲が制限されていることから、訴訟において特許の有効性を争うよりも、一般に低いコストで済むことがあげられます。

 また、米国特許商標庁では、特許のクレームの解釈において「最も広く合理的な解釈」(broadest reasonable interpretation)という基準を用いており、「証拠の優越」(preponderance of evidence)によって特許の有効性を判断します。一方、裁判所では、「一般的かつ通常の意味」(plain and ordinary meaning)の基準で特許のクレームは解釈され、さらに、特許有効の推定が働くため、無効とするためには「明確かつ確信を抱くに足る証拠」(clear and convincing evidence)が求められます。この両者の違いに照らして、米国特許商標庁において特許の有効性を争う方が、被疑侵害者にとっては容易であるとの意見もあります。

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