米国特許訴訟における懲罰的損害賠償とは

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 米国特許訴訟において認められる懲罰的損害賠償について教えてください。

 米国特許法では、裁判所が損害賠償額を三倍まで引き上げることができる、とする規定(いわゆる懲罰的損害賠償の規定)が存在しています。懲罰的損害賠償を命じることができる場合について、2016年に、裁判所の裁量の幅を拡大すると思われる連邦最高裁判決が出されています。

解説

米国特許法における懲罰的賠償に関する規定

 米国特許法284条は、特許侵害における損害賠償について「裁判所は、認定又は評価された損害賠償額を三倍まで増額することができる」(the court may increase the damages up to three times the amount found or assessed)と規定しています。この規定は、裁判所がその裁量において、陪審員が認定した額を増額して損害賠償を命じることができる、とするものです。

懲罰的賠償の規定に関する解釈

2016年の連邦最高裁判決前の状況

 米国特許法284条は、損害賠償額の増額について、裁判所に判断の裁量があることは認めていますが、いかなる場合に増額を命じるべきかについては、沈黙しています。
 この点について、2007年に連邦巡回区控訴審裁判所(CAFC)がIn re Seagate Technology, LLC, 497 F. 3d 1360(2007)において行った判決では、損害賠償額の増額を命じるためには、

  • 有効な特許を侵害する可能性が客観的に高い行為を被疑侵害者が行ったこと(客観的要件)
  • および、

  • その客観的な可能性を被疑侵害者が知っていたまたは知っているべきであったこと(主観的要件)

という、2つの要件の充足が必要であるとの基準が示されていました(いわゆるSeagateテスト)。

2016年の連邦最高裁判決の内容

 しかし、2016年に出された連邦最高裁判決(Halo Electronics, Inc. v. Pulse Electronics, Inc., 136 S. Ct. 1923Halo事件判決)では、前述のSeagateテストが否定され、主観的要件のみ立証されれば、裁判所は損害賠償の増額を命じることができる、と判断されました。

【裁判所が損害賠償の増額を命じることができる要件】
  • Seagateテスト:客観的要件+主観的要件の充足が必要
  • Halo事件判決:主観的要件のみで足りる

 また、裁判所が拡張的損害賠償を命令する判断に必要な立証のハードルについて、従前は、明白かつ確信を抱かせるに足る証拠(clear and convincing evidence)が必要とされていたところ、このHalo事件判決では、証拠の優越(preponderance of evidence)の基準が適用されるべき、と判示され、ハードルが従来よりも低くなりました。

 加えて、第一審裁判所である連邦地方裁判所による損害賠償額の判断の適否について、控訴審は、裁量権の濫用の基準によって審査すべきと、Halo事件判決は述べています。これにより、弁護士費用の負担に関する第一審裁判所の判断は、容易に覆らなくなったといえます。

Halo事件判決の影響

 Halo事件判決によって、一般に、裁判所は懲罰的損害賠償の支払いを命じやすくなったと解されています。それまでのSeagateテストによれば、被疑侵害者は、侵害行為当時に認識していなかった非侵害の主張や特許無効の主張を、事後的に、裁判の段階において一定の合理性をもって持ち出すことさえできれば、客観的要件を満たさず、懲罰的損害賠償の支払いを免れることができました。しかし、Halo事件判決以後は、かかる理由によって懲罰的賠償を逃れることはできません。

 また、懲罰的賠償を命じるために必要な証拠のハードルも、前述のとおり、Halo事件判決によって引き下げられましたので、この点においても、懲罰的損害賠償は認められやすくなったといえます。

懲罰的損害賠償を避けるための対策

 Halo事件判決の基準では、特許侵害を構成する行為の時点での主観的態様が悪質であったか否かが問題とされます。したがって、懲罰的損害賠償を避けるためには、特許侵害のリスクがある行為(製品の製造や販売、サービスの提供)を開始する前に、米国特許を専門とする弁護士から、特許非侵害または特許無効の鑑定書を取得しておくことが重要であるといえます。その際には、必要に応じて、侵害が懸念される特許の技術的範囲を回避するために、製品の設計を変更する、等の対応も必要になり得ます。

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