農業、漁業のブランド戦略と知的財産 ~商標、地域団体商標と地理的表示(GI)制度~

知的財産権・エンタメ

 当社は、日本の安全安心な野菜や果物、肉、魚などを、海外に展開しようとしています。しかし、海外で偽物が出回ったり、便乗した商品がでまわったりすると、商機を失うだけでなく、ブランドにも傷がつきますので、絶対に避けたいところです。
 海外に農産品や水産品などを展開する際に必要な知的財産戦略について教えてください。

 模倣品や安全性に問題のある「偽物」が出回るのを防ぐためには、まずは商標権をきちんと取得することを考える必要があります。商標権を取得する国は、「生産国」、「流通が経由する国」、「消費国(マーケット)」が基本です。
 また、海外展開を考えるときには、どういった名前(言語や表記)で消費者にアピールし、商標権を取得するかも、しっかりと検討しておく必要があります。

 そこで、「地名+商品名」でも商標登録を受ける重要性が高い場合には、農協や漁協等の組合、商工会など、その地域の生産者が加入できる団体に対して、商標登録を認めるという「地域団体商標」の制度があります。

 さらに、ある特定の地方で、長期間にわたり一定の品質を保って生産されている産品について、そのような生産地と結び付いた特性を有する農林水産物等の名称を、品質基準とともに登録し、地域の共有財産として保護する制度として、地理的表示(GI)制度があります。

解説

ブランド保護の必要性

 日本の農林水産品の海外展開は、「日本の安心・安全な食」の高い評価とともに、飛躍的に拡大しています。しかしながら、それに伴って、模倣品や類似品などに関する、様々な問題が発生しています。
 たとえば、「鹿児島和牛」「北海道ホタテ」「夕張メロン」などの偽物が海外で出回っていたという報道も、ご覧になった方は多いかと思います。

 経済産業省・政府模倣品・海賊版対策総合窓口「模倣品・海賊版対策の相談業務に関する年次報告」(2017年6月)では、2011年度に経済産業省が実施した「インターネット上の模倣品流通実態調査」をもとに、「中国のインターネット販売大手で販売される日本産食品は55%が偽物(模倣品)と推定」されると紹介されています。

 また、農林水産知的財産保護コンソーシアムが行った地理的表示に関する監視調査では、日本の地名が海外のショッピングサイトで多く使用されているとのことです(参照:農林水産知的財産保護コンソーシアム「平成28年度 国内外における地理的表示(GI)の保護に関する活動レポート」)。

ショッピングサイト 日本の地名
青森 神戸 鹿児島 下関 但馬 八女 夕張
1688.com - 2 - - 18 - -
alibaba.com - 4 - - - 22 -
alibaba.de - - 1 - - - -
aliexpress.com - - - 34 - - -
dhgate.com - - - 6 - - -
ebay.com - 6 - - - 3 -
ruten.com.tw - - - - - - 1
taobao.com - - - - 15 - 4
amazon.com 1 41 - - - 2 -
amazon.de - 5 - - - - -
ec21.com - 1 - - - - -
合計 1 59 1 40 33 27 5

(出典:農林水産知的財産保護コンソーシアム「GIに関する不正使用調査」(2016年))

 このような模倣品が出回ることによって、本物のビジネスチャンスが大きく失われるばかりでなく、質が悪かったり、安全性に問題のある「偽物」が氾濫することによって、本物のブランド価値が大きく低下してしまうことになりますので、対策が必要です。

 最近では、日本の農産物の苗が持ち出されたりして、海外で生産された、ある意味「本物」の品種が、市場で日本の「本物」と競合するというような事例も出てきており、こういった点については、知的財産権の一種である育成者権1なども活用して防衛する必要があるのですが、この話については、また稿を改めようと思います。

商標権取得の必要性

 このような偽物を防ぐためには、まずは商標権をきちんと取得することを考える必要があります。

 商標権は国ごとの権利ですので、日本で販売した商品の名前について、それを見かけた人が外国で勝手に商標登録してしまうと、その国ではその名前は、登録をした人のものとなってしまいます。結果として、もともと日本で販売していた「本物」が、その国では販売できないといった事態になってしまいます。
 この話については、拙稿「海外で会社名や商品名を勝手に商標出願された場合の対応は(冒認商標対策)」をご参照ください。

 そこで、商品名を考えたときは、なるべく早く、必要とされる国で商標出願をする必要があります。外国での商標出願については、費用の一部を助成してくれる制度などもありますので、そちらの利用も検討するとよいでしょう(参照:特許庁「外国出願に要する費用の半額を補助します」)。

商標権を取得する国の選択

 商標権を取得する国は、「生産国」、「流通が経由する国」、「消費国(マーケット)」が基本です。このうち、「生産国」については、「競合品が生産されるかもしれない国」も含めることが重要です

 たとえば、甘くて大粒で、皮ごと食べられる人気の「シャインマスカット」は、一房1万円以上で販売されることもある高級・高付加価値農産品の一つですが、その苗が不法に持ち出されて中国で大規模に生産され、「香印(xiang yin)」も商標出願されてしまったとの報道がありました。また同様に、栃木のいちごである「スカイベリー」も、中国で栽培され、「SKYBERRY」も栃木県とは無関係の第三者に商標を盗られてしまったと報道されています。
 これらは、いずれも、いちごやぶどうなどの青果は検疫の関係上日本から中国への輸出も、中国から日本への輸出も、原則としてはできない状態であったため、商標出願や育成者権登録をしていなかったところ、その隙を突かれた事案です。

 仮に中国で販売する予定がなかったとしても、日本がマーケットとしてみている第三国において、中国で大規模生産された中国産「スカイベリー」や「シャインマスカット」と日本産のものが競合した場合、深刻な経済的損失を受けるリスクがあります。

商標の利用方法

 数年前、福岡県が開発し、商標権などの知的財産権も保有する、いちごの「あまおう」の偽物が、「JAかおふく八女」の「おまうあ」として香港で販売されているという事例がありました。
 正しくは、「JAふくおか八女」の「あまおう」なのですが、ひらがなが読めない香港の消費者にとっては、両者の違いを識別することはできませんので、「あまおう」だと思って買ってしまうことになります。
 笑い話のような話ですが、当事者にとっては、とても笑い事ではありません。

 商標は、「消費者の自他を識別する対象」ですので、対象となる消費者が読める言語で記載しなければなりませんし、その言語で商標を取得しておくことが必要です。この件も、日本のものであることをアピールするために、ひらがなの「あまおう」を記載すること自体は問題ありませんが、香港の消費者に読んでもらえるように、「AMAOU」などの表記も商品に記載した上で、その表記についても商標権を取得しておく必要があったといえる事案です。

 このように、どういった名前(言語や表記)で消費者にアピールし、商標権を取得するかも、しっかりと検討しておく必要があります

 参照:「海外取引や投資に必要な商標と知的財産戦略の基本

地域団体商標と地理的表示(GI)制度

地域団体商標

 ところで、このように商標を取るとしても、「草加せんべい」や「静岡茶」などのように、地名+商品名等の組み合わせは、基本的には、誰かの商品であるという識別力に欠けるため、商標登録を受けることは困難です(商標法3条)。たとえば、誰かが「静岡茶」を登録してしまうと、もう他の人は「静岡茶」を使うことができなくなってしまうわけですが、このような「静岡のお茶」という意味しかない、識別力の弱い言葉を、一人の人に独占させるべきではない、という考え方です。
 しかし、海外展開を考えたときは、このような「地名+商品名」等でも、商標登録を受ける重要性が高いともいえます。

 そこで、このような場合には、農協や漁協等の組合、商工会、商工会議所、NPO法人など、その地域の生産者が加入できる団体に対して、商標登録を認めるという「地域団体商標」の制度があります(商標法7条の2)

【地域団体商標の出願要件】

  1. 出願できる法人
    ※下記に相当する外国の法人も含まれます。
    1. 地域の事業協同組合、農業協同組合等の組合
    2. 商工会、商工会議所
    3. 特定非営利活動法人(NPO法人)

  2. 登録されるための条件
    1. 上記の団体がその構成員に使用させる商標であること
    2. 原則として「地域名+商品・役務名」の文字から成る商標であること
    3. その商標を、商標中の地域と密接に関連している商品などに使っていること
    4. 一定の地理的範囲である程度有名になっていること

(出典:特許庁「地域団体商標制度の紹介」)

 この地域団体商標は、広く活用されており、「神戸牛」「焼津鰹節」「松坂牛」「京人形」「宇治茶」など、多くの登録例があります(参照:特許庁「地域団体商標登録案件一覧」)。変わったところでは、「横濱中華街」なども地域団体商標として登録されています。

地理的表示(GI)

 一方で、ある特定の地域で、長期間にわたり一定の品質を保って生産されている産品について、伝統的な生産方法や気候・風土・土壌などの生産地と結び付いた特性を有する農林水産物等の名称を、品質基準とともに登録し、地域の共有財産として保護する制度として、地理的表示(以下「GI」という)制度があります(特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(地理的表示法))

 こちらは、その産品のみならず、加工品などにも効力が及ぶ上、権利者自身ではなく国による不正取り締まりが行われる他、海外でも効力を有するなど、地域団体商標にはない効力があります。

GIマーク
GIマーク

 また、登録された産品のGIとあわせて、産品の確⽴した特性と地域との結び付きが⾒られる真正な地理的表⽰産品であることを証する「GIマーク」を付すことになっています(参照:農林水産省「地理的表示及びGIマークの表示について」。

 諸外国では、地理的表⽰に対する独⽴した保護を与えている国は、100か国以上あり、GIは、TRIPS協定においても知的財産権の1つとして位置付けられています(参照:農林水産省食料産業局「地理的表⽰法について ー特定農林⽔産物等の名称の保護に関する法律ー」)。

地域団体商標と地理的表示(GI)の制度の違い

 地域団体商標とGI制度は、それぞれ、得意分野と不得意分野がある法律ですので、有効に活用できるように、その違いについて、簡単にまとめておきたいと思います。
 地域団体商標とGIの相違点については、農林水産省のウェブサイトにわかりやすく整理されています(参照:農林水産省「地理的表示活用ガイドライン」(2015年5月))。

【地域団体商標と地理的表示(GI)制度の違い】

地域団体商標と地理的表示(GI)制度の違い

出典:農林水産省「地理的表示活用ガイドライン」(2015年5月)

(1)保護対象について

 地域団体商標は、保護対象に制限はありませんが、使用する商品やサービスの区分ごとに出願をしなければならず、指定商品役務が増えるほど、取得費用も増えることになります。
 一方、GIの場合は、登録すれば、その産品の加工品にも使用することができます。
 なお、GIは、一定期間(概ね25年)継続して生産された実績がある必要がありますので(参照:農林水産省「地理的表示保護制度申請者ガイドライン」(2015年10月1日))、最近新商品を開発して、新しく名前を付けて販売され、人気が出て知られるようになった、といったような場合には、GIはなじまないということになります。

(2)品質管理

 GIは、一定の品質であることが必要ですので、生産・加工業者の組織するGIを管理する団体を作り、品質が一定の水準以上のものに維持されるように管理する必要があります。
 地域団体商標でも、商標の管理をしなければなりませんが、「品質」に踏み込んだ管理が必要となる点は、地域団体商標の特徴といえるでしょう。

(3)使用義務

 地域団体商標は、その商標を使用する義務まではありませんが、GIの場合は、GIであることを明記して使用する必要があります。

(4)登録や更新手続

 地域団体商標は、登録時に登録費用がかかるほか、更新手続も必要で、更新時には費用も発生します。一方、GIは、登録時には費用は必要ですがそれほど高額ではなく、また、登録も不要です。

(5)取り締まり

 不正に使用された場合の取り締まりは、地域団体商標の場合は、商標権者が自力で行う必要がありますが、GIの場合、国がこれを取り締まってくれるというメリットがあります。差止請求訴訟を提起する必要がないというのは、GIのメリットといえるでしょう。
 ただし、GIの不正使用に対して、GIの制度を利用して直接に損害賠償請求をすることはできません。


  1. 新たに植物品種を育成した者は、国に登録することにより、知的財産権のひとつである「育成者権」を得て、登録品種の種苗、収穫物、加工品の販売等を独占できる(参照:農林水産省「育成者権」)。 ↩︎

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