先使用による法定通常実施権とは

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 先使用による法定通常実施権とは何ですか。また、先使用と認められるための要件を教えてください。

 先使用による法定通常実施権とは、一般に先使用権と呼ばれ、先願主義の例外として、同一発明が複数人によってなされた場合に、先に出願をした者以外の者に対しても、一定の要件のもとで当該発明の実施を認める権利をいいます。具体的な要件としては、以下の4点が必要となります。

  1. 特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、または特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得したこと(独自発明)
  2. その発明の実施である事業をし、またはその事業の準備をしていたこと(事業化またはその準備)
  3. 上記事業または準備が特許出願の際、現に行われていたこと(先使用権の基準時)
  4. 上記事業または準備が日本国内において行われていること(国内要件)

解説

先使用権とは

 特許法は、同一の発明をした人が複数いる場合について、最初に出願した人に特許を与える先願主義を採用しています(特許法39条1項)。そのため、同時期に同じ発明をしていたとしても、他の発明者が先に出願すると特許を取得できなくなります。また、先に出願した人に特許査定がなされ、特許が登録されると、単に特許を得られないだけでなく、以後その発明の実施は特許権侵害となり、原則として利用できなくなります。

 しかし、先願主義を貫いて、特許出願時にすでに事業化のための投資をしていた第三者をまったく保護しないとなると、公平に欠けることとなります。そこで、先願主義の例外として、特許法79条は、他の発明者が特許出願をした際、現に発明の事業化または事業化の準備をしていたなど、一定の要件を満たす場合に、法定の通常実施権を認めることとしています。この法定通常実施権は、一般に先使用権と呼ばれます。

 特許権者は、通常実施権を持つ者に対して特許権を行使できないので、先使用権者は、他の発明者が特許を取得しても、自己の発明を引き続き実施できることになります。このようにして、特許法79条は、先願主義の原則のもとで一定の要件を満たす場合に第三者の発明の利用を保護しているのです。

先使用権の要件

概要

 先使用権が認められるためには、以下の要件を充足することが必要です。

  1. 独自発明
    特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、または特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得したこと
  2. 事業化またはその準備
    その発明の実施である事業をし、またはその事業の準備をしていたこと
  3. 基準時
    上記事業または準備が特許出願の際、現に行われていたこと
  4. 国内要件
    上記事業または準備が日本国内において行われていること

 以下個々の要件について検討します。

独自発明

 先使用権が成立するためには、まず、先使用権を主張する者が特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、または、特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得したことが必要です。要するに、特許権者の発明と先使用権を主張する発明とは、内容は同一であっても、別ルートで独自になされたものであることが必要といえます。

 この要件を満たす類型としては、自ら独自に発明した場合と、独自になされた発明を知得した場合の2つがありますが、特許法の解釈として、わが国では自然人だけが発明者になることができるため、企業活動において生じる発明は、ほとんどの場合、使用者たる企業が、発明者である従業者からその職務発明として知得することとなります。したがって、実際に先使用権が問題になる場面の多くでは、「特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得した」といえるかが問題となります。

事業化またはその準備

 2つ目の要件は、その発明の実施である事業をし、またはその事業の準備をしていたことです。事業が行われているということは、論理的に、事業の準備もそれ以前に行われていたということになりますから、先使用権が成立する最も早い時点は事業の準備が認められる時点となります。そのため、解釈上は、事業の準備とは何をいうのかがしばしば問題となります。

 事業の準備の意味について、最高裁判所は、「『事業の準備』とは、特許出願に係る発明の内容を知らないでこれと同じ内容の発明をした者又はこの者から知得した者が、その発明につき、いまだ事業の実施の段階には至らないものの、即時実施の意図を有しており、かつ、その即時実施の意図が客観的に認識される態様、程度において表明されていることを意味すると解するのが相当である」(ウォーキングビーム式加熱炉事件・最高裁昭和61年10月3日判決・民集40巻6号1068頁)と判示しています。

 ここでいう「即時実施の意図」とは、たとえば、発注に応じて発明の実施品を製作する意図を有していたり、量産の具体的準備をしたりすることをいいます。「即時」の意味としては、時間的に短いことが必ずしも要求されるわけではなく、個々の発明や取引の実情に鑑みて、総合的に判断されます。たとえば、一定の時間をかけて製作するような受注生産タイプの設備機器などであれば、即時実施の意図の表明から実施までに時間を要しても「即時実施の意図」があったと認められる場合もあります。現に、上述のウォーキングビーム式加熱炉事件は、事業の準備と認められた見積書等の提出から実際の実施までの間に5年弱の時間を要した事案でした。

 次に、「客観的に認識される態様、程度において表明されている」とは、上記の「即時実施の意図」が対外的に表明されていることを意味し、設備業者に対し、量産設備の発注がなされたり、引き合いのあった取引先に設計図を提示したりする場合がこれにあたるといえます。

基準時

 先使用権の基準時は、「特許出願の際現に」とされています。すなわち、少なくとも特許出願の時点において、現に「即時実施の意図」があり、かつ、それが「客観的に認識される態様、程度において表明」されていたことが必要となります。

国内要件

 事業化または事業化の準備は、日本国内において行われていたことが必要です。この点、特許発明の実施品が外国で製造されているなど、物理的な実施行為は海外で行われている場合であっても、それが日本国内における事業活動の下請けとして行われる場合には、なお日本国内において事業化されているものと認められる場合があります(意匠権の先使用権に関するものとして、東京地裁平成15年12月26日判決・平成15年(ワ)第7936号)。

先使用権が活きる局面と他の制度との関係

 最後に、先使用権と他の制度との関係を整理しておきます。

 先使用権の問題が生じるのは、相互に疎通がない二者が独立して同一の発明をし、一方が特許を取得し、他方はその出願時に事業化または事業の準備をしていたという局面です。

 これに対し、まず、他社が自社の発明を何らかの形で知得して出願した場合、つまり、特許権者の出願が冒認などに該当する場合には別の対処も検討対象となります。すなわち、この場合には、状況により、出願人たる地位を取り戻すための特許を受ける権利の確認請求や、特許登録の移転を受けるための取戻請求(特許法74条1項)も検討の俎上に載せることが可能になります。他方で、自社でも出願している場合には、相手方の出願公開に、意に反する公知など、新規性喪失の例外事由(特許法30条1項、2項)が存在することを主張することなどが考えられます。

 第2に、自社が発明を事業化し、またはその準備をしたことにより、発明が公知になっていた場合には、相手方の特許について特許無効審判を請求することが考えられます。また、自社の発明が刊行物等書面に記載されているときは、出願段階で特許化を阻止したり、特許後に無効資料へのアクセスを容易にしたりするため、特許庁に対して情報提供することも考えられます。

 なお、これらの場合においても、自社の発明が独自になされたものであることには変わりなく、また、先願の特許に無効理由があるか否かは先使用権の成否とは関係がないため、先使用権を主張すること自体は妨げられません。

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