まだ特許登録されていない発明についてライセンスを受けるためには(仮専用実施権・仮通常実施権)

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 まだ特許登録されていない発明についてライセンスを受けるためにはどうすればよいですか。

 仮専用実施権の設定を受け、または、仮通常実施権の許諾を受けることが考えられます。これらの権利を取得することによって、特許が登録されたときには自動的にライセンスを取得することができ、また、出願名義人が変更されてもライセンスを失う心配がなくなります。
 これらの権利の取得の方法として、仮専用実施権は、特許を受ける権利を有する者から設定を受けることが必要で、登録をしなければその効力を生じません。他方、仮通常実施権は、特許を受ける権利を有する者に加えて、特許を受ける権利を有する者からの承諾があることを条件として、仮専用実施権者から設定を受けることも可能であり、また、効力発生のために登録をする必要はありません。

解説

特許登録前のライセンスの類型

 特許法は、特許登録後のライセンスとして、通常実施権と専用実施権の2種類を規定するとともに、それぞれに対応して、特許登録前のライセンスの類型として、仮専用実施権(特許法34条の2)と仮通常実施権(同法34条の3)を定めています。
 これらの規定に基づき、特許登録前であっても、仮専用実施権の設定を受け、または仮通常実施権の許諾を受けることにより、ライセンスを取得することが可能です。  

特許登録前のライセンスを受ける方法

仮専用実施権の設定を受ける方法

 仮専用実施権の設定を受けるためには、特許を受ける権利を有する者との間で設定契約を締結するとともに、これを特許庁に登録する必要があります(特許法34条の4第1項・27条1項4号)。仮専用実施権の登録は、専用実施権の登録と同様、単なる対抗要件ではなく効力要件です。そのため、登録がなされない場合、仮専用実施権は当事者間でも効力を生じません。したがって、仮専用実施権を設定するときは、登録を怠らないよう留意する必要があります。

 なお、特許を受ける権利が共有に属するときは、すべての権利者から同意を得ることが必要です(同法33条4項)。

仮通常実施権の許諾を受ける方法

 仮通常実施権は、通常実施権と同様、特許を受ける権利を有する者から許諾を得ることによって生じ、登録をしなくとも第三者に対抗することができます(特許法34条の5)。また、仮通常実施権は、特許を受ける権利を有する者からの承諾があることを前提に、仮専用実施権者から許諾を受けることもできます(同法34条の2第4項)。この場合にも通常実施権の登録は必要ありませんが、仮専用実施権は登録されなければ効力を生じないため、仮専用実施権の登録がなされていないと、仮通常実施権も効力を生じないこととなります。

 仮通常実施権の許諾の形式に制約はありませんが、後日特許を受ける権利や仮専用実施権を取得した第三者に確実に対抗できるよう、仮通常実施権許諾契約などの形で書面化しておくことが望ましいでしょう。日付の立証を特に確実にしたい場合には、契約締結後速やかに公証人役場で確定日付を得ておくことも考えられます。

 特許を受ける権利が共有に属する場合に、すべての権利者から同意を得ることが必要になるのは、仮専用実施権と同様です(同法33条4項)。  

特許登録前のライセンスの権利範囲

 仮専用実施権や仮通常実施権は、「その特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」許諾ないし設定することができます(特許法34条の2第1項・34条の3第1項)。当事者間の契約により、より狭い範囲とすることは妨げられません。

特許登録・分割出願と特許登録前のライセンス

 仮専用実施権または仮通常実施権にかかる特許出願について特許登録があったときは、専用実施権が設定され、または通常実施権が許諾されたものとみなされます(特許法34条の2第2項・34条の3第2項)。また、仮専用実施権者から許諾を受けた仮通常実施権については、仮専用実施権について、専用実施権が設定されたものとみなされたときに、通常実施権の許諾があったものとみなされます(同法34条の3第3項)。
 さらに、仮専用実施権または仮通常実施権にかかる特許出願について出願の分割があったときは、別段の合意がない限り、分割出願について仮専用実施権の設定または仮通常実施権の許諾があったものとみなされます。

仮専用実施権と特許出願の放棄・取下げ

 仮専用実施権を設定した特許出願人は、仮専用実施権者の承諾を得なければ特許出願を放棄し、または取り下げることができなくなります(特許法38条の5)。これは、排他的権利の特許登録前の確保を目的とする仮専用実施権に特有の制度で、仮通常実施権の場合には、特許出願人は、任意に出願の放棄、取下げ等を行うことができます。

特許登録前のライセンスの活用

 仮専用実施権や仮通常実施権は、特許登録前に付与されるもので、いまだ特許による独占権が生じていない段階でのライセンスであるため、仮通常実施権はもとより、仮専用実施権についても第三者に対する排他力はありません。

     法的観点から見た場合の主たる効力は、
  1. 出願公開による補償金請求の回避
  2. 上述の第三者に対する対抗力の取得
  3. 特許登録があった場合の権利の確保
  4. 仮専用実施権が設定された特許出願の維持
  5. にあるといえます。

     他方、実際的には、
  6. 特許登録より早い段階でライセンスを確保し、製品やサービスの開発を進めることにより、事業活動において特許の独占力を長期にわたって利用できること
  7. 特許を受けられるかどうか分からない時点でライセンスを受けることにより、特許にならないリスクを引き受ける反面、より有利な条件でライセンスを受けられる可能性が生じること
  8. といったメリットがあります。

 仮専用実施権と仮通常実施権とは、最終的に専用実施権と通常実施権のいずれを取得したいかによって使い分けることになります。一般的には、専用実施権のような強力な排他的権利を取得する必要があるか、出願人がそのような強力な権利を与えることに同意するか、また、専用実施権の登録によりライセンスの存在が公示されることによる不都合はないか、といった点が考慮されることとなるでしょう。実務的には、専用実施権は利用される機会の少ない権利であるため、多くの場合、仮通常実施権が利用されるものと考えられます。

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