延長登録された特許権の効力の及ぶ範囲

知的財産権・エンタメ

 存続期間が延長登録された特許権の効力はどの範囲に及ぶのでしょうか。

 知財高裁平成29年1月20日判決・「オキサリプラチン」事件判決に従えば、延長登録特許権の効力範囲は、「政令で定める処分の対象となった物」と「実質同一物」に及びます。
 医薬品医療機器等法上の処分(承認)については、医薬品の「成分、分量」(「物」の特定要素)と「用法、用量、効能及び効果」(「用途」の特定要素)により、「政令で定める処分の対象となった物」が定まります。
 他方、医薬品の成分に関する物質発明については、「成分」に関する差異、「分量」の数量的差異または「用法、用量」の数量的差異がある場合、「実質同一」であるか否かは、特許発明の内容との関連で、政令処分の対象物と、相手方の製品との「技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して、当業者の技術常識を踏まえて判断」することになります。

解説

延長された特許権の効力

 特許法67条の3の定める特許権の存続期間の延長登録(以下「延長登録」といいます)の拒絶事由がなく、延長登録された特許権の範囲については、特許法68条の2が定めています(特許権の存続期間延長登録制度とその拒絶事由については「特許権の存続期間延長登録とは」を参照)。

特許法68条の2(存続期間が延長された場合の特許権の効力)
特許権の存続期間が延長された場合(第67条の2第5項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となつた第67条第2項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない。

 実務上は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法・旧薬事法)上の処分について、延長登録の拒絶事由および期間延長された特許権の効力が問題となることが少なくありませんので、本稿では、同法の処分が行われた場合の延長された特許権の効力の範囲を解説します。

 結論を先取りすると、知財高裁平成29年1月20日大合議判決・判時 2361号73頁・「オキサリプラチン」事件(以下「オキサリプラチン事件判決」といいます)の判示に従えば、延長登録特許権の効力範囲は、「政令で定める処分の対象となった物」と「実質同一物」に及びます。

「政令で定める処分の対象となった物」

 特許法67条の3は、存続期間の延長を受けた特許権(以下「延長登録特許権」といいます)の効力が及ぶ範囲を①「政令で定める処分の対象となつた物」に限定しています。これは、延長登録の制度趣旨に照らせば、処分を受ける期間実施できなかったものについてのみ、特許権の効果を及ぼせば足りるからです。

 また、同条によれば「その処分において特定の用途が定められている場合」には、延長登録特許権の範囲は、②「当該用途に使用されるその物」にまで狭められることになります。

 つまり、延長登録特許権の効力範囲を確定するためには、①政令処分の対象となった「物」と、その②「用途」を特定する必要があります。

 そして、オキサリプラチン事件判決は、最高裁平成27年11月17日判決・民集69巻7号1912頁・「ベバシズマブ(アバスチン)」事件を踏まえ、医薬品の発明については、政令処分の形式的審査対象は「名称、成分、分量、用法、用量、効能、効果、副作用その他の品質、有効性及び安全性に関する事項」であるものの、延長登録特許権の効力範囲は、①「成分、分量」(「物」の特定要素)と②「用法、用量、効能及び効果」(「用途」の特定要素)により画されるとしています。

医薬品医療機器等法の承認の対象

 そのため、医薬品の成分を対象とする物の特許発明の場合、存続期間が延長された特許権は、具体的な政令処分で定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」についての「当該特許発明の実施」の範囲で効力が及ぶことになります。

「実質同一物」の範囲

 もっとも、政令処分の形式的な対象事項に延長登録特許権の効力範囲を限定してしまうと、些細な点を変更した後発医薬品が横行することになります。そのため、オキサリプラチン事件判決において、知財高裁は、延長登録特許権の効力を政令処分の形式的な対象となった「物」(医薬品)のみならず、これと「実質同一」物にまで及ぼしています

 そのうえで、医薬品の成分に関する物質発明については、「成分」に関する差異、「分量」の数量的差異または「用法、用量」の数量的差異がある場合、「実質同一」であるか否かは、特許発明の内容との関連で、政令処分の対象物と、相手方の製品との「技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して、当業者の技術常識を踏まえて判断すべき」とされています。

 具体的には、次の4類型については「実質同一」の範囲に入ると判示しています(なお、①、③および④の類型については、特許発明の技術的特徴および作用効果の同一性が事実上推認されます)。

  1. 医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明に関する延長登録された特許発明において、有効成分ではない「成分」に関して、対象製品が、政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合

  2. 公知の有効成分に係る医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において、対象製品が政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合で、特許発明の内容に照らして、両者の間で、その技術的特徴及び作用効果の同一性があると認められるとき

  3. 政令処分で特定された「分量」ないし「用法、用量」に関し、数量的に意味のない程度の差異しかない場合

  4. 政令処分で特定された「分量」は異なるけれども、「用法、用量」も併せてみれば、同一であると認められる場合

 そのため、上記①から④の場合も、延長登録特許権の効力が及ぶことになります。

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