特許権侵害紛争の解決手段とは

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 特許権侵害紛争の解決手段としてはどのようなものがありますか。裁判外紛争手続の種類についても、教えてください。

 特許権侵害を巡って利用される定番の手続は、特許権侵害訴訟と特許無効審判です。特許権侵害訴訟は、裁判所において特許権侵害の差止めや損害賠償を求める民事訴訟で、特許無効審判は、特許庁において特許を無効にするための行政審判手続です。
 そのほかには、特許権侵害訴訟または交渉の材料として用いるために特許庁における判定制度を利用することも考えられます。さらに、侵害品の輸入を差し止めるために、税関において関税法に基づく輸入差止が行われることもありますし、場合によっては、特許権侵害罪に基づく刑事告訴も対応手段となりえます。日本での利用頻度は高くありませんが、調停や仲裁が用いられることもあります。

解説

特許権侵害紛争の解決手段の種類

 特許権侵害を巡って利用される定番の手続は、特許権侵害訴訟と特許無効審判ですが、それ以外にも、税関申立て、刑事告訴、仲裁等の利用も考えられます。その概要は次表のとおりです。

法的手続の種類 手続の内容 備考
特許権侵害訴訟 裁判所において特許権侵害の差止めや損害賠償を求める民事訴訟 国際的な訴訟に発展することもある
特許無効審判 特許庁において特許を無効にするための行政審判手続 侵害訴訟における無効主張とは別に請求できる
判定 特許庁において、判定対象による特許権侵害の有無を判断する行政サービス 判定結果に拘束力はないものの、訴訟における証拠や、交渉における交渉材料として用いることが考えられる
輸入差止 関税法に基づく輸入差止 ブランド模倣品(商標権侵害)などと比較すると、立証に留意が必要
刑事告訴 特許権侵害罪に基づく刑事告訴 商標権侵害と比較すると、訴追に至ることは少ない
調停 日本知的財産仲裁センターなどによる調停 調停人の意見に拘束力はなく、不調となった場合には裁判または仲裁による解決を図る
仲裁 日本知的財産仲裁センターなどによる仲裁 仲裁付託について、双方の同意が前提となる

 以下、各紛争解決手段について、その内容を概説します。

特許権侵害訴訟

 特許権侵害訴訟とは、原告(特許権者)が被告(被疑侵害者)に対して、特許権の侵害に基づき、損害賠償請求や差止請求等を求める民事訴訟手続です。

 特許権侵害訴訟の審理は、裁判所で行われますが、その専属管轄は、東京地方裁判所または大阪地方裁判所が有しています。東京地方裁判所には4か部、大阪地方裁判所には2か部、知的財産関連事件を専門に取り扱う専門部が存在します。

 特許権侵害訴訟も民事訴訟の一類型であることから、当事者対立構造で審理されますが、判決の拘束力は当事者にしかおよびません。また、判決の理由中の判断にも、第三者に対する拘束力はありませんので、たとえば、裁判所が被告による特許無効の抗弁(特許法104条の3)を受け入れ、侵害訴訟の対象特許が無効であると判断しても、その判断は対世効を有しません(特許無効の抗弁については「特許無効の抗弁とは」を参照)。

 また、特許権侵害訴訟については、各国における訴訟が同時並行で進むことも少なくありません。たとえば、対象発明が方法の発明である場合には、米国やドイツ等の情報収集手段が豊富な法域において訴訟を提起することもあります。加えて、米国特許法においては、三倍賠償の制度(懲罰的損害賠償規定)もあり、日本と比較して高額の賠償が認められる傾向にあることから、損害賠償を日本で提起し、他方、差止請求は日本で行うとの戦略を採ることもあります。

特許無効審判

 特許無効審判とは、無効理由のある特許を無効にするための特許庁における行政審判手続です。審理の対象は、あくまでも、特許の客観的な有効性であって、具体的な当事者間の権利義務を取り扱うものではありませんが、訴訟類似の当事者対立構造で審理されます。

 どのような場合に無効審判を請求できるかについては、特許法123条1項に列挙されています。特許無効審決には、対世効があり、確定した場合、特許権は当初から存在しなかったものとみなされます(特許法125条)。実務上は、特許権侵害訴訟の提訴を受けた被告から、特許無効審判が申し立てられることは珍しくはありません。

判定

 判定とは、特許発明や登録実用新案の技術的範囲について、特許庁が、判定対象の権利侵害の可能性について、中立的な立場から判断を下す制度です(参考:特許庁「特許庁の判定制度について」)。その判断には法的な拘束力はありませんが、特許権の侵害可能性の事前判断や、侵害訴訟における証拠として用いることが可能です。

 判定は、原則として3か月で下され、かつ、請求費用も安価であること(1件あたり4万円)であることから、特許権者から侵害の主張を受けた被告としては、特許庁による判定を仰ぐことも有効なオプションです。仮に、非侵害の判定を得ることができれば、自らに有利に交渉を進めることができる可能性があります。

輸入差止

 輸入差止手続は、関税法69条の13に基づく手続です。特許権者は、自己の権利を侵害していると認められる貨物が輸入されようとする場合には、税関長に対して、当該物品の認定手続をとるように申し立てることができます(参考:税関「差止申立制度等の概要」)。

 この申立てが受理された場合、当該被疑侵害物品(侵害疑義物品)が輸入されようとする際には認定手続がとられることになり(関税法69条の12)、その結果、侵害物品であると認定されれば、その輸入が禁止されます(参考:税関「認定手続の流れ」)。

 なお、申立ての段階で、被疑侵害物品が必要であることの根拠資料が必要となります。もっとも、実務上は、侵害判断がされた判決書等の提出を求められることが少なくなく、この場合には、判決、あるいは仮処分決定の実効性を確保するために用いることになると思われます。

刑事告訴

 特許権を侵害した場合、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金に処し、またはこれらが併科されます(特許法196条)。なお、みなし侵害(特許法101条)の場合は、特許法196条の2が適用され、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処し、またはこれらが併科されます(みなし侵害については「特許権の間接侵害の類型とは」「特許権侵害品の部品が販売されたとき、特許権者は部品メーカーに特許権侵害を主張できるか」「特許権の間接侵害の成否をめぐる争点」を参照)。

 ただし、実務上は、商標権と比較して、特許権侵害を理由とする刑事告訴は多くありません。

調停

 調停は、裁判所外において、公平・中立な第三者である調停人が、当事者間の協議を促進することで、紛争の解決を試みる制度です(参考:日本知的財産仲裁センター「調停とは」)。

 訴訟(前記2)や仲裁(後記8)と異なり、調停人に拘束力を持った判断をする権限はなく、調停人が提示した和解案を当事者が受け入れる義務はありません。そのため、調停が不調となった場合には、多くの場合、裁判または仲裁により紛争を解決することになります。

 国内で知的財産関連の紛争を専門に取り扱う調停機関としては、日本知的財産仲裁センターがあります。

仲裁

 仲裁は、当事者の合意に基づき(直接または仲裁機関を介して)選択した裁判所以外の第三者が、当事者間の紛争を解決する紛争解決手段です(参考:日本知的財産仲裁センター「仲裁とは」)。

 仲裁には、大きく分けると、国内仲裁と国際仲裁があります。国内仲裁に関しては、仲裁判断は、確定判決と同じ効力を有し、裁判所の執行決定を経ることにより、強制執行が可能です。他方、国際仲裁判断は、ニューヨーク条約(外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約)による仲裁判断の全世界的な執行が可能です(ただし、具体的な執行手続は執行国の仲裁法規によることになります)。

 仲裁手続を採用するためには、当事者による仲裁合意において、紛争解決を仲裁に付託することが必要となります。その際には、仲裁地の仲裁法規や、仲裁規則等の内容を確認しておくことが重要です。

 知的財産関連の紛争を専門に取り扱う仲裁機関としては、日本国内においては、日本知的財産仲裁センターがあります。また、海外の専門機関としては、WIPO(世界知的所有権機関)などが用いられることがあります。

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