法的倒産手続と賃貸借契約

事業再生・倒産
大島 義孝弁護士

(1) 当社のオフィスビルの賃貸人であるオーナーについて破産手続が開始しました。家賃を従前通り支払い続けても大丈夫でしょうか。また、差し入れている敷金・保証金の扱いはどうなるでしょうか。

(2) 当社保有の不動産のテナントについて破産手続が開始しました。テナントの破産管財人によれば早急に明け渡して退去する方針のようです。この場合において留意すべき点について教えて下さい。

(1) 賃貸人に破産手続が開始されたとしても、賃借人保護の観点から賃貸人の破産管財人は賃貸借契約を解除することはできません。ただし、賃借人は賃料支払義務を免れませんので、家賃を従前通り払い続ける必要があります。一方、賃借人が賃貸人に差し入れた敷金・保証金については、目的物の明渡しを停止条件とする破産債権と扱われますが、賃借人としては、支払賃料と敷金との相殺の利益を確保するため、破産管財人に対して賃料の寄託請求を行うことが考えられます。なお、賃貸借契約を維持したまま目的不動産が売却された場合、不動産の所有権移転に付随して賃貸借契約も敷金関係含めて買主である新オーナーに承継されるので、その結果として敷金等については将来において目的物の明渡後、新オーナーに対して返還を請求すればよいこととなります。

(2) 賃借人の破産管財人が賃貸借契約を解除して明け渡す場合、賃借人が預け入れていた敷金・保証金の返還を求めてくると思われます。賃貸人側としては、賃貸借契約上の違約金条項に基づく違約金や原状回復費用について返還すべき敷金からの控除を主張することになると思われますが、管財人がこれらの主張について争ってくる可能性があります。

解説

賃貸人について倒産手続があった場合

賃貸借契約と賃料支払い義務

 賃貸借契約は双務契約ですが、賃借人の生活や事業の本拠たる不動産賃借権を保護する必要があるため、賃貸人について破産手続が開始したとしても、賃貸人の破産管財人は未履行双務契約の解除を行うことができません破産法56条1項)。
 したがって、賃借人としては、賃貸人が破産したことを理由としてただちに退去を求められることにはなりませんが、従前通り賃料を支払う義務を負っており、賃借人が賃料を正当な理由なくして支払わない場合、賃貸借契約上の債務不履行責任を負う可能性があります。

敷金・保証金の回収方法について

 一方、賃借人は賃貸人に対して、敷金または保証金を差し入れているのが通常であると思われますが、敷金または保証金は目的不動産の明渡しを停止条件とする破産債権と解されているため、債権に弁済期が到来している状態にするためには、目的不動産を明け渡す必要があります。ただ、未払賃料がある場合には明渡しの際に当然に敷金債権に充当されますので、賃料を未払いにしておいて敷金に充当することによって債権を回収するということも考えられます。
 もっとも、上記のとおり、賃借人は賃料の支払義務を免れないことから、将来の敷金または保証金への充当を前提として、賃借人は破産管財人に対し賃料の寄託請求を行った上で支払うことが考えられます破産法70条後段)。

目的不動産が売却された場合

 なお、倒産手続の中で目的不動産が売却され、目的不動産の所有権移転に伴って賃貸借契約が新オーナーに承継された場合には、敷金関係も承継され、旧オーナーは賃貸借関係から離脱するので、敷金または保証金は将来の退去時において新オーナーに対して請求すればよいということになり、新オーナーから全額の償還を受けることになると思われます。

賃借人について倒産手続があった場合

賃貸借契約の解除

 賃貸借契約は双務契約であり、賃借人について破産手続が開始した場合、賃借人の破産管財人としては、賃貸借契約を未履行双務契約として解除するか、維持して賃借人の義務を引き続き履行するかのいずれかを選択することになります民事再生法53条1項)。
 なお、賃貸借契約において相手方の倒産手続申立てや開始を理由とする解除特約が規定されている場合がありますが、かかる特約を理由に賃貸人側から賃貸借契約を解除することも可能と解されます。

違約金や原状回復費用を敷金・保証金から控除することができるか

 賃貸人は、多くの場合賃借人から敷金または保証金を預かっていますが、賃貸借契約が解除され目的物の明渡しを受けた場合、賃貸人として返還すべき預かり敷金から、①賃貸借契約に規定のある中途解約に伴う違約金、②原状回復費用を控除することができるかが問題となります。

 まず、①の違約金については、賃貸借契約の規定内容にもよりますが、破産管財人が破産法53条1項に基づき賃貸借契約を解除した上で退去する場合には、賃貸借契約の中途解約に該当しないものとして、違約金規定の適用がないと判断される可能性があります。
 また、賃貸借契約上の違約金規定自体の有効性についても争いになる可能性があります。

 次に、②の原状回復費用の控除ですが、一般の賃貸借契約における退去時の原状回復費用の精算の問題と同様、無制限な原状回復費用の計上および控除は認められず、経年に伴う劣化や損耗に伴って必要となる原状回復費用については、賃貸人の負担とされる可能性があります。

 いずれにしても、賃貸物件の明渡しや敷金返還に関しては破産管財人と争いになる可能性が高いので留意する必要があります。

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