民事再生手続の開始と相殺の処理

事業再生・倒産
大島 義孝弁護士

 取引先が民事再生手続を申し立てました。当社は、取引先に対して売掛債権を有しており再生債権となりますが、一方で当社は再生債務者に対して支払うべき債務を負っており、両債権債務を相殺によって処理したいと考えています。このときに留意すべき点について教えて下さい。

 再生債権者が同時に再生債務者に対して債務を負っている場合、実質的な債権回収を図るため債権債務を対当額で相殺することが考えられますが、相殺権を行使する場合、時期的制限がありますので留意する必要があります。また、かかる要件を満たしたとしても法の定める相殺禁止規定に該当するとして相殺が認められない場合もあります。
 取引先が、民事再生手続に入ったとき、債権を持っている場合にはこれを回収する必要があります。しかし民事再生手続が開始するとこの手続を経て弁済されることとなり、また、全額が支払われることは難しくなります。
 そこで、再生を申し立てた企業(再生債務者)に対し、自分が持っている債権と自分が負っている債務とを相殺し、自己の債権回収できないかと考える企業は多いのではないでしょうか。
 本稿では、再生手続において相殺によって債権回収を図ることについて解説します。

解説

民事再生手続における相殺の要件

相殺の要件

 ①再生債権者が再生手続開始当時、再生債務者に対して債務を負担する場合において、②再生債務者に対して有する(再生)債権(自働債権)と再生債務者に対して負う債務(受働債権)の双方が再生債権の届出期間の満了前に相殺適状(注1)になるときには、③再生債権者は再生債権の届出期間内に相殺の意思表示を行うことにより、再生計画の定めによらずして相殺することができます(民事再生法92条)。

民事再生における相殺の要件
  1. 再生債権者が再生手続開始当時、再生債務者に対して債務を負担すること
  2. 再生債務者に対して有する(再生)債権(自働債権)と再生債務者に対して負う債務(受働債権)の双方が再生債権の届出期間の満了前に相殺適状にあること
  3. 再生債権の届出期間内に相殺の意思表示を行うこと

 かかる相殺によって再生債権者は実質的に再生債権の全部又は一部について実質的な全額回収を図ることができます。したがって、再生債権者としては届出期限内に忘れずに相殺の意思表示を行う必要があります。相殺の意思表示を書面で行う場合には、届出期間内に書面が到達する必要があります(民法97条1項)。一方、届出期限満了後になされた相殺の意思表示は効力を生じません。

(注1)
相殺適状とは、相殺の効果が発生するために必要な要件の一つで、相殺に適した状態にあることを意味します。具体的には、以下のような要件を充たしている必要があります(民法505条以下)。
  1. 同一当事者間に対立する債権が存在していること
  2. 双方の債権が同種の目的を有すること
  3. 自働債権と受働債権の両方に弁済期が到来していること
  4. 双方の債務が性質上相殺を許さないものでないこと

    債権が条件付または期限付の場合に相殺することができるか

     受働債権(再生債務者が再生債権者に対して有する反対債権)が条件付または期限付の場合に相殺することができるでしょうか。

     この場合、この条件・期限により利益を受ける受働債権の債務者(再生債権者)自らが条件または期限の利益を放棄することにより相殺適状を満たすこととなるので、その上で届出期間内に相殺の意思表示を行えば有効に相殺することができると解されます。
     受働債権に条件・期限が付いているということは、再生債権者にとって有利な状況というわけですから、自分でこの利益を放棄することは問題ないというわけです。

    受働債権の条件・期限については、利益を放棄して相殺をすることができる

     一方、自働債権たる再生債権が条件付または期限付きの場合、当該条件または期限は再生債務者の利益のために存し、破産手続とは違って再生手続では手続開始に伴って弁済期限が到来しないので、原則として届出期間内に条件が成就または期限が到来しない限りは相殺ができないこととなります。
     もっとも、期限に関しては、契約において再生手続の申立てまたは開始を期限の利益喪失事由と定めていることが多いので、通常は期限の利益が失われ、相殺可能になると考えられます。

    自働債権の条件・期限については、条件成就・期限到来しないかぎり、相殺をすることができない

    相殺禁止規定

     前記のとおり、再生債務者と債権者との間に債権債務が存在し、届出期間満了前に相殺適状になっている場合には原則として相殺可能ですが、相対立する債権債務の発生時期ないし取得時期によっては、再生債権者の相殺の期待は保護に値しないとして相殺が禁止される場合があります。

    受働債権の負担時期が問題となる場合

     再生債権者が再生債務者に対して負う債務(受働債権)が、(a)再生手続開始後、(b)支払不能となった後、(c)支払停止があった後、(d)再生手続、破産手続または特別清算手続の各申立てがあった後、にそれぞれ負担された場合について考えてみます。
     (a)の場合は無条件、(b)ないし(d)の場合は該当事実を知っていた場合には、再生債務者がすでに支払いが困難になったような後にこれを知りつつあえて債務を負担させたということになり、もはや再生債権者の相殺の期待を保護する必要はないとして相殺は禁止されることとなります(民事再生法93条1項)。

    受働債権の負担時期 相殺の可否
    (a)再生手続開始後に負担された場合 無条件に相殺禁止
    (b)支払不能となった後に負担された場合 支払不能の事実を知っていた場合には相殺禁止
    (c)支払停止があった後に負担された場合 支払停止の事実を知っていた場合には相殺禁止
    (d)再生手続、破産手続または特別清算手続の各申立てがあった後に負担された場合 申立ての事実を知っていた場合には相殺禁止

     ただし、(a)再生手続開始後の負担の場合を除き、受働債権となる債務を負担した原因が、(ⅰ)法定の原因、(ⅱ)該当事実を知った時より前に生じた原因、(ⅲ)再生手続開始時より1年以上前に生じた原因、のいずれかに該当する場合には、相殺の期待を保護すべきであるとして、相殺が認められることとなります(民事再生法93条2項)。

    再生債権の取得時期が問題となる場合

     再生債権者が、相殺に供しようとする再生債権を、(a)再生手続開始後、(b)支払不能となった後、(c)支払停止があった後、(d)再生手続、破産手続又は特別清算手続の各申立てがあった後、に取得した場合はどうでしょうか。
     この場合も、(a)の場合は無条件、(b)ないし(d)の場合は該当事実を知りながら取得した場合、やはり 2-1 と同様に再生債務者がすでに支払いが困難になったような後にこれを知りつつあえて債権を取得したのですから、再生債権者の相殺の期待を保護する必要はないとして相殺は禁止されます(民事再生法93条の2第1項)。

    再生債権の取得時期 相殺の可否
    (a)再生手続開始後に負担された場合 無条件に相殺禁止
    (b)支払不能となった後に負担された場合 支払不能の事実を知っていた場合には相殺禁止
    (c)支払停止があった後に負担された場合 支払停止の事実を知っていた場合には相殺禁止
    (d)再生手続、破産手続または特別清算手続の各申立てがあった後に負担された場合 申立ての事実を知っていた場合には相殺禁止

     ただし、(a)再生手続開始後の取得の場合を除き、再生債権を取得した原因が、(ⅰ)法定の原因、(ⅱ)該当事実を知った時より前に生じた原因、(ⅲ)再生手続開始申立時より1年以上前に生じた原因、のいずれかに該当する場合には、相殺の期待を保護する必要がありますので、相殺が認められることとなります(民事再生法93条の2第2項)。

    まとめ

     相殺禁止規定は概略上記のとおりとなりますが、いずれにしても、相殺禁止事由に該当するか否かは難しい判断となる場合が多いと思われますので、弁護士等の専門家に相談して対応するのが安全と言えます。

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