民法改正が取引先倒産時の債権回収に与える影響(債権譲渡後に譲渡人が倒産した場合の取扱い)

事業再生・倒産
矢田 悠弁護士

 平成29年の民法(債権法)改正によって、取引先倒産時の債権回収にはどのような影響があるのでしょうか。

 今回の民法改正は、基本的に平時のルールに関するものですので、倒産時の債権回収のあり方にただちに影響を及ぼすものではありません。

 もっとも、債権譲渡(債権譲渡担保を含む。)については、譲渡制限特約付債権の譲渡が可能となったこととの関係で(参照:「民法改正が債権譲渡に与える影響」)、債権譲渡後に譲渡人が破産した場合について新たに特別の規律が設けられています。すなわち、改正民法は、譲渡人に破産手続開始の決定があった場合、譲渡制限特約付債権の全額を譲り受け、第三者対抗要件を備えた譲受人・譲渡担保権者は、悪意・重過失であっても、第三債務者に対して債権全額の供託を求めることができ、譲受人は、供託金から当該債権の回収を行うことができるとしました。この供託請求を行うことによって、実質的に第三債務者からの直接回収に準じた優先的な回収が可能となります(※)

 民事再生手続および会社更生手続との関係では、以上のような特別の規律は設けられていませんが、譲渡制限特約付債権の譲渡が可能となったこととの関係で倒産時のルールが複雑化しており、留意が必要となるため、以下の解説ではこれらの手続との関係についても説明します。

 なお、今回の民法改正で譲渡制限特約付債権の譲渡が有効とされたことにより、今後、改正法下で中小企業の資金調達の手段として債権譲渡や債権譲渡担保の利用が増加する可能性があります。そうした状況下では、以下の取扱いにつき理解しておくことの重要性は一層増すものと思われます。

(※)このほか、倒産時の規律との関係では、詐害行為取消権(改正民法424条以下)の行使要件が倒産時に用いられる類似の制度である否認権(破産法160条以下等)と平仄を合わせるよう改正されている点に留意が必要です。

解説

※本QAの凡例は以下のとおりです。

  • 改正民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)による改正後の民法

法的倒産手続と債権譲渡・債権譲渡担保

 企業が債務の弁済や資金調達の手段として、自社が取引先に対して有している債権を譲渡したり、あるいは、完全には譲渡しないまでも、担保として差し出したりすることがあります(このような担保を「債権譲渡担保」といいます)。

 譲受人(譲渡担保権者)は、譲受債権の弁済期が到来した際(債権譲渡担保の場合には、さらに、譲渡担保権設定者が期限の利益を喪失した場合に限ります)には、譲受債権の債務者(このような債務者を「第三債務者」といいます)から弁済を受けることで債権回収を図ることになります。

 そして、譲渡(または譲渡担保)の対象が譲渡制限特約が付されていない債権(以下「無特約債権」といいます)の場合には、第三債務者から直接に債権を回収することで優先弁済を実現できることになるものの、譲渡制限特約付債権の場合には、第三債務者は、譲渡制限特約について悪意・重過失の譲受人(譲渡担保権者)からの履行請求を拒絶することができるため、このような譲受人(譲渡担保権者)は、第三債務者が任意に弁済をしない限り、第三債務者から債権を直接回収することができず、あくまで譲渡人を介して債権回収を図れるのみということになります。

 もっとも、改正民法には破産手続時の譲渡制限特約付債権についての特則が設けられ、また、倒産法(破産法、民事再生法、会社更生法)上、担保権の取扱い一般について特則が設けられていることから、上記の取扱いは一部変容することになります。以下、法的倒産手続の種類ごとに見ていきます。

 なお、以下では、譲渡(譲渡担保権の設定)について、否認権行使の問題は生じていないことを前提としています。債権譲渡が、不適正な金額で、あるいは、他の債権者を害する不公平な形で行われている場合には、別途、否認権の行使により譲渡(譲渡担保権の設定)が否定されるおそれがある点には留意が必要です。

破産手続における取扱い

無特約債権の場合・譲渡制限特約について善意・無重過失の場合

 譲渡人の破産手続開始前に(債権譲渡担保の形ではなく)確定的に債権が譲渡されていれば、譲受人は譲渡人の破産の影響を受けることなく、第三債務者から債権を回収することが可能です。
 また、債権譲渡担保の場合にも、破産手続において、譲渡担保権者は別除権者として取り扱われるため(破産法2条9項)、譲渡担保権設定者に破産手続が開始した後でも、譲渡担保権は、手続外で行使することができます(破産法65条)。

 したがって、無特約債権について、譲渡担保権者が担保権を実行して当該債権を第三債務者から直接回収することは、破産手続により制限されません。譲渡制限特約付債権で、当該譲渡制限特約について善意・無重過失の場合にも同様です。

 なお、破産手続開始後、仮に譲受人が債権を回収しないうちに、破産管財人が第三債務者から弁済金を受領した場合、譲受人が有する弁済金の引渡請求権は不当利得返還請求権の性質をもつため、当該債権は財団債権に該当すると解されます(破産法148条1項5号)。財団債権は破産手続によらないで随時弁済を受けることが許されますが(破産法2条7項)、破産財団が財団債権の総額に満たない場合、各財団債権は割合的な弁済を受けるにとどまる点には留意が必要です(破産法152条1項本文)。

譲渡制限特約について悪意・重過失の場合

 これに対し、譲渡制限特約付債権で、譲渡担保権者が当該譲渡制限特約について悪意・重過失の場合については、破産手続開始前と同様、直接回収を行うことはできません
 したがって、債権譲渡の譲受人も、債権譲渡担保の譲渡担保権者も、この場合には、いったん、破産管財人に第三債務者から弁済金を受領してもらい、譲受人・譲渡担保権者が財団債権(不当利得返還請求権)を有するものと整理して(破産法148条1項5号)、破産手続によらないで随時弁済を受けることが考えられます。

 もっとも、上記2-1のとおり、破産財団が財団債権の総額に満たない場合、各財団債権は割合的な弁済を受けるにとどまります。そうすると、譲渡制限特約付債権については常にこのような「割合的弁済しか受けられないリスク」にさらされることになってしまいます。しかし、これでは譲渡制限特約付債権の譲渡を可能とし、債権譲渡による資金調達を促進しようとした民法改正の意義が薄れることになります。

 そこで、改正民法は、譲渡人に破産手続開始の決定があった場合、譲渡制限特約付債権の全額を譲り受け、第三者対抗要件を備えた譲受人・譲渡担保権者は、悪意・重過失であっても、第三債務者に対して債権全額の供託を求めることができ、譲受人は、供託金から当該債権の回収を行うことができるとしました(改正民法466条の3)。したがって、この供託請求を行うことによって、実質的に第三債務者からの直接回収に準じた優先的な回収が可能となります。

民事再生手続における取扱い

無特約債権の場合・譲渡制限特約について善意・無重過失の場合

 譲渡人の民事再生手続開始前に(債権譲渡担保の形ではなく)確定的に債権が譲渡されていれば、譲受人は譲渡人の破産の影響を受けることなく、第三債務者から債権を回収することが可能です。
 また、債権譲渡担保の場合にも、再生手続において譲渡担保権者は別除権者として取り扱われるため(民事再生法53条1項)、無特約債権について、譲渡担保権者は担保権を実行して第三債務者から債権を直接回収することができます(民事再生法53条2項)。譲渡制限特約付債権で、当該譲渡制限特約について譲渡担保権者が善意・無重過失の場合も同様です。

譲渡制限特約について悪意・重過失の場合

 債権譲渡の場合も債権譲渡担保の場合も、改正民法は破産手続における供託請求のような特段の規律を設けていないため、第三債務者は原則どおり譲渡人に対し弁済を行えば足ります。したがって、譲受人・譲渡担保権者が譲渡制限特約付債権を直接回収できるのは、特約の存在にもかかわらず第三債務者が任意に弁済に応じた場合に限られるなど、基本的に、平時において譲渡制限特約付債権から債権回収をする場合と同様の立場に置かれます。

 譲渡担保権者による直接回収が行われず、再生債務者である譲渡担保権設定者が第三債務者から弁済金を受領した場合、担保契約に従い譲渡担保権設定者が取立権限を喪失しているとすると、破産手続の場合と同様の理由から弁済金の引渡請求権は共益債権に該当すると解されます。共益債権は再生手続によらないで随時弁済を受けることが許されます(民事再生法121条1項)。

 なお、民事再生手続や下記4に説明する会社更生手続に関しては破産手続の供託請求と同様の制度は設けられていません。制度上は、破産手続における財団不足と同様の問題は民事再生手続や会社更生手続でも生じ得ますが、再建型の手続であり、破産手続と比べれば相対的に財団不足と同様の問題が生じるリスクが少ないことが考慮されているものと思われます。

会社更生手続における取扱い

無特約債権の場合・譲渡制限特約について善意・無重過失の場合

 譲渡人の民事再生手続開始前に(債権譲渡担保の形ではなく)確定的に債権が譲渡されていれば、譲受人は譲渡人の破産の影響を受けることなく、第三債務者から債権を回収することが可能です。

 他方、債権譲渡担保の場合には、会社更生手続において、譲受人は更生担保権者(会社更生法2条10号)として扱われ(最高裁昭和57年3月30日判決・民集36巻3号484頁)、担保権の実行を禁止(会社更生法50条1項)されます。したがって、譲渡担保権者は、直接債権を取り立てることはできず、当該債権が更生会社に弁済されたとしても弁済金を手続外で被担保債権に充当することはできません。譲渡担保権者は、更生計画による弁済を待つことになります。

譲渡制限特約について悪意・重過失の場合

 債権譲渡の場合、民事再生手続と同様、第三債務者は原則どおり譲渡人に対し弁済を行えば足ります。したがって、譲受人が譲渡制限特約付債権を直接回収できるのは、特約の存在にもかかわらず第三債務者が任意に弁済に応じた場合に限られるなど、基本的に、平時において譲渡制限特約付債権から債権回収をする場合と同様の立場に置かれます。

 他方、債権譲渡担保の場合には、上記4-1のとおり、会社更生手続において、担保権の実行を禁止(会社更生法50条1項)されます。したがって、譲渡担保権者は、更生計画による弁済を待つことになります。

法的倒産手続開始前に回収された弁済金の取扱い

 以上では、法的倒産手続開始後に弁済金を回収する場合の取扱いについて説明しました。
 それでは、譲渡制限特約付債権の譲渡担保について、譲渡担保権者が法的倒産手続前に担保権を実行したところ、譲渡担保権設定者が第三債務者から弁済を受領した後、その回収金を譲渡担保権者に引き渡す前に法的倒産手続が開始された場合に、譲渡担保権者が譲渡担保権設定者に対して有する回収金引渡請求権はどのように取り扱われるのでしょうか。

 これは、コミングリング・リスクと呼ばれる問題であり、基本的に、この場合の回収金引渡請求権は法的倒産手続開始前の原因に基づく債権といわざるを得ず、債権カットの対象となる倒産債権(破産債権、再生債権、更生債権)に該当するものと考えられます。したがって、譲渡担保権者がこれらについて優先弁済を受けることはできません。

 ただし、譲渡担保権設定者のもとで、弁済金について譲渡担保権者のための信託が成立しているといえるような特殊な場合については、譲渡担保権者の回収金引渡請求権は譲渡担保権設定者の倒産から隔離されているとの主張が可能となる余地もあるものと思われます(公共工事前払金について信託の成立を認めた最高裁平成14年1月17日判決・民集56巻1号20頁、商事留置権が及ぶ手形の取立金について留置を認めた最高裁平成23年12月15日判決・民集65巻9号3511頁等)。

 このようなことにならないよう、譲渡担保権者としては、譲渡担保権実行後の回収タイミングには特に留意する必要があります。

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