連帯保証人が自己破産前の財産処分をする際に留意しなければいけない点

事業再生・倒産
松永 崇弁護士 庄崎 裕太弁護士

 私は、A社の代表取締役を務めており、A社が金融機関に対して負っている借入金を連帯保証しています。

 今般、A社の資金繰りが悪化し、金融機関に対する借入金の返済期限が過ぎているにもかかわらず、返済の目途が立っていません。そのため、A社について、早急に破産申立てを行うことを考えています。

 私個人としては、住宅ローンの支払その他支払が滞っているものはありませんが、連帯保証している金融機関に対する借入金を、私個人で返済できる見込みはありませんので、私個人の破産申立てを行うことも検討中です。

 このような状況の中で、

  1. 私個人の破産申立ての前に、私がA社設立の際に父親Bから借りた2000万円を、返済してもよろしいでしょうか。
  2. 仮に父親Bへの返済が破産管財人に否認された場合、何か不利益はあるのでしょうか。

 ①について、父親Bが相談者の状況を知らずに弁済を受領したのでない限り、父親Bへの返済は偏頗弁済として否認の対象となる可能性があります。

 また、②の場合、父親Bは、年利5%の利息を付して2000万円全額を破産管財人に返還しなければなりません。また、仮に、父親Bからの借入金の返済期限が到来していなかったにもかかわらず返済をしていた場合は、相談者の破産免責が認められない可能性があります。

 参照:
 「会社(法人)の破産申請の概要
 「破産前に商品等の資産を債権者へ分配してもよいか(否認権の制度)

解説

否認権の制度とは

 否認権の制度とは、破産者が破産手続開始前の危機時期に行った債権者全体の利益を害する行為の効力を否定して、破産者の財産を原状に復させる制度です。

 否認には、大きく分けて、詐害行為否認および偏頗行為否認という2つの類型があります。簡単にいえば、詐害行為否認は、責任財産(債権者への配当の対象となる財産)を減少させる行為を否認するものであり、偏頗行為否認は、債権者間の平等を害する偏頗行為を否認するものです。詳細については、「破産前に商品等の資産を債権者へ分配してもよいか(否認権の制度)」をご参照ください。

偏頗行為否認の要件

支払不能

 偏頗行為否認の対象となるのは、支払不能になった後または破産手続開始申立て後の偏頗行為(担保の供与または弁済等)です。

 「支払不能」とは、「破産者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」を言います(破産法2条11項)。

 「弁済期にあるもの」について弁済することができない状態ですので、原則的には、将来の債務不履行が確実に予測されても、それをもって支払不能ということはできないと解されています。また、「一般的に」弁済することができない状態とは、債権者全体に対して弁済ができない状態を意味しますので、特定の債務を弁済できる資金があっても、他の債権者全体に対する弁済資金が不足する場合は、「一般的に」弁済することができない状態にあると解されます。

 設例では、主債務であるA社の金融機関に対する借入金について返済期限が到来することにより、相談者の連帯保証債務についても履行期限が到来していると思われます。そして、主債務者であるA社として返済の目途が立っておらず(したがってA社は支払不能)、かつ連帯保証人である相談者個人としても返済する見込みがないことからすると、父親Bへの返済の時点で、相談者個人も支払不能の状態にあるものと考えられます。

受益者の主観的要件

 偏頗行為について破産管財人が否認権を行使するには、破産者の支払不能等について受益者が知っていた(悪意だった)ことを、破産管財人において立証する必要があります。受益者の主観面の立証は、実務上、破産管財人が否認権を行使する際の大きなハードルの一つとなります。

 しかし、受益者が以下のように破産者の内部者・関係者である場合には、破産者が支払不能等であったことについて、受益者が知っていた(悪意だった)ことが推定されるため、立証責任が転換され、受益者が知らなかった(善意だった)ことを立証しなければなりません(破産法162条2項1号、161条2項)。

【受益者が悪意であると推定される場合】

破産者の法主体 受益者の立場
法人一般 理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人またはこれらに準ずる者
株式会社 総株主の議決権の過半数を有する者
株式会社 総株主の議決権の過半数を子株式会社または親法人および子株式会社が有する場合における当該親法人
法人(株式会社以外) 上記2つに準ずる者
個人 親族または同居者

 設例では、父親Bは相談者の「親族」であることから、父親Bは相談者が支払不能だったことを知っていたものと推定されます。したがって、父親Bが、相談者が支払不能だったことを知らなかったと立証できない限り、相談者から父親Bに対する2000万円の弁済は、偏頗弁済として否認の対象になると考えられます。

否認権行使の効果

 破産管財人が否認権を行使する旨の意思表示をすると、原状回復の効果が当然に生じると解されています(破産法167条1項)。そして、偏頗弁済による受益者が受け取ったのが金銭の場合は、当該受益者は、当該金銭に、金銭を受領した日以降の法定利率(私人による取引の場合は年5%)による利息を付して、破産管財人に返還しなければならないと解されています。

 設例では、破産管財人が否認権を行使した場合、父親Bは、返済を受けた2000万円全額に、弁済を受けた日から年5%の割合による利息を付して、破産管財人に返還しなければならないと考えられます。

 なお、偏頗弁済による受益者が金銭を返還した場合は、当該受益者が有していた債権は破産債権として復活しますので(破産法169条)、当該受益者は、破産手続において当該債権を破産債権として届け出て、配当を受けることができます。

破産免責・破産犯罪について

破産免責について

 個人の破産の場合、破産者は、免責不許可事由に該当しないか(破産法252条1項)、あるいは該当しても免責を許可することが相当と認められる場合(破産法252条2項)は、免責許可を受けることができ、それにより破産債権(破産手続開始前の原因に基づき生じた債権)についてその責任を免れることができます(破産法253条1項)。

 否認に関連する免責不許可事由としては、以下のようなものがあります。

  1. 破産者が、詐害目的(債権者を害する目的)で、破産者の財産の隠匿、損壊、不利益処分その他の財産の減損行為を行った場合(破産法252条1項1号)
  2. 破産者が、詐害目的等で、非義務偏頗行為(弁済期到来前の債務の弁済や代物弁済等)を行った場合(破産法252条1項3号)

 反対に言えば、弁済期限が到来した債務について本旨弁済(債務の本旨に従った弁済)する場合は、偏頗弁済として否認の対象になることはあっても、免責不許可事由には該当しません。

 設例からは明確ではありませんが、仮に父親Bからの借入金について支払期限が到来していないにもかかわらず相談者が返済していた場合は、免責不許可事由に該当する可能性がありますが、支払期限が到来していた場合は、免責不許可事由には該当しないと考えられます。

破産犯罪について

 破産法は、破産債権者を害する行為等のうち、違法性の強いものについて破産犯罪(罰則)を設けています(破産法265条以降)。

 詳細については割愛しますが、上記①または②に該当するような場合は、詐欺破産罪(破産法265条)または特定の債権者に対する担保の供与等の罪(破産法266条)が成立する可能性があります。ただし、破産犯罪として実際に起訴にまで至るのは、悪質な事例に限られます。

まとめ

 会社の代表者として会社の債務を連帯保証する場合、会社が支払不能の状態となれば、代表者個人についても支払不能と判断される可能性があります。かかる場合、会社の代表者としては、会社の債務に対する弁済等のみでなく、個人の債務に対する弁済等についても、後日破産管財人から否認されるおそれがあることを、認識する必要があります。そして、代表者が否認対象行為を行った場合は、個人について免責が許可されない可能性があることも、十分に留意する必要があります。

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