会社の破産申請により生じる取締役と株主への不利益

事業再生・倒産
山内 邦昭弁護士

 私はある会社の代表取締役なのですが、昨今多額の負債を抱えていて経営が苦しく、事業をたたんでしまおうと考えています。具体的には破産を申し立てることを考えているのですが、会社が破産してしまった場合、私にはどのような不利益が生じるのでしょうか。
 また、私の妻が会社の設立以来株主になっているのですが、妻には何らかの不利益が及ぶのでしょうか。

 取締役は会社の破産手続開始決定によって、財産の管理処分権限を失いますし、報酬も得られなくなります。他方、破産法上、破産管財人等に対する説明義務等の負担や居住地の制限が課されており、また、代表者については、裁判所で開催される債権者集会に出席することも必要となります。
 株主については、株式は通常は無価値になり、また、破産手続開始決定により株式会社は解散して最終的にはその地位を失います。

 参照:「会社(法人)の破産申請の概要

解説

取締役について

権限、地位等

(1)破産財団の管理処分権の喪失

 破産手続開始決定によって破産管財人に破産者の財産の管理処分権が専属しますので(破産法78条1項)、取締役は破産財団(破産者の財産)の管理処分権を失います

(2)役員報酬について

 破産会社との間で定められていた役員報酬も支払われなくなります。未払いの役員報酬債権がある場合でも、一般の破産債権と同列にしか取り扱われませんから、多くの場合には、破産配当手続において他の破産債権との按分的な配当を得られるにとどまります。配当率が数%程度になることや、配当が全くないことも珍しくはありません。ただし、従業員兼務取締役であり、従業員としての給料の未払いがある場合には、優先的な債権として取り扱うべきかを検討する場合もあります。

(3)取締役と会社間の委任契約について

 なお、取締役と会社の関係は委任契約であるところ、委任契約は委任者が破産手続開始決定を受けたことによって終了するとされています(民法653条2号)。

 そうすると、破産手続開始決定によって、取締役はその地位を喪失するように思えます。この点、株式会社の取締役等の解任または選任を内容とする株主総会決議不存在確認の訴えの係属中に当該株式会社が破産手続開始の決定を受けたという事案で、原審(仙台高裁平成20年2月27日判決・金判1321号55頁)は同社の破産手続開始決定によって委任契約が終了して取締役は地位を喪失している(したがって訴えの利益がない)と判断しました。

 しかし、最高裁(最高裁平成21年4月17日判決・集民230号395頁)は、「会社につき破産手続開始の決定がされても直ちには会社と取締役又は監査役との委任関係は終了するものではないから、破産手続開始当時の取締役らは、破産手続開始によりその地位を当然には失わず、会社組織に係る行為等については取締役らとしての権限を行使し得ると解するのが相当である」と判示しており、株主総会の招集等の会社組織に係る行為については、従前の取締役がなお権限を有すると解されています。

破産法上の主な義務等

(1)破産手続の進行に必要な事項についての破産管財人に対する説明義務

 取締役は、破産管財人等の求めに応じて、破産手続の進行に必要な事項について説明をしなければなりません(破産法40条1項3号、2号(代表者))。なお、当該義務には、書類等を提出する義務が付随的に含まれると解されています。

 破産管財人に携帯電話やメールアドレス等の連絡先を開示し、破産管財人から照会がなされることが多いでしょう。この説明義務の違反があった場合には、破産法上、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する(破産法268条)など、一定の制裁が課されることもあります。

(2)居住地を離れることへの制限

 また、裁判所の許可を得なければ、居住地(破産手続開始決定時に現に居住する場所)を離れることができないといった制限も課されます(破産法37条、39条)。なお、居住地を離れることには、一時的な外出は含まれません。

(3)債権者集会への出席義務

 破産会社の代表者であった取締役については、債権者集会への出席義務も課されます(破産法136条1項)。出席のために要する交通費等は支弁されず、また、債権者集会は平日のオフィスアワーに行われますので、予定の調整も必要です。

 債権者集会の中心は破産管財人からの説明となりますが、第1回債権者集会では破産会社の代表者から出席債権者に対して挨拶する場面が設けられ、お詫びが述べられることもあります。

役員責任(損害賠償義務)

 取締役等の役員は、会社に対して善管注意義務を負っているところ(会社法330条、民法644条)、この義務に違反し会社に損害が生じた場合、取締役は会社に対して損害賠償義務を負うことになります

 特に、破産会社においては、粉飾決算により、本来必要のなかった納税をしたり、配当可能利益がないにもかかわらず配当を行うなどして、会社資金が違法に社外へ流出して会社に損害が生じているといった事態がまま見られます。

 破産会社において粉飾決算がなされていたとされる事例は、報道でも目にされたことがあると思います。なお、粉飾決算によって業績良好であるかのように装った決算書等を基にして金融機関等から融資を受けた場合、刑法上の詐欺罪に該当しうることにもなります。

 このように善管注意義務違反があり、それにより破産会社に損害を生じさせた場合には、破産管財人は、責任のある取締役に対し損害賠償責任を追及することを検討します。その手段として、破産法上、訴訟より簡易迅速に責任追及を可能とするための役員責任の査定申立ての手続が用意されており、査定手続では、裁判所の「決定」により、役員の損害賠償請求権の存否・額が判断されることになります(破産法178条)。

 さらに、このような責任追及制度の実効性を確保するため、破産管財人等が、役員の財産に対する仮差押えなどの保全処分を申し立てることもできます(破産法177条)。

役員責任の査定申立ての手続

株主について

株主の地位

 会社の破産手続開始決定によっても株主の地位はただちには変動しませんが、破産手続開始決定により株式会社は解散し(会社法471条5号)、最終的には株主はその地位を失います

 このような不利益を防止するため、破産手続開始決定に対して株主が即時抗告(破産法9条、33条)により異議を申し立てられるかについては、肯定・否定両説があり、破産開始によりただちに株主権が消滅したりするわけではないことなどを理由に、株主による即時抗告の申立てを否定する裁判例(大阪高裁平成6年12月26日決定・判時1535号90頁)もあるところです。

株主の経済的不利益

 会社の破産手続開始決定によって株主が有する株式は通常は無価値になり、株主にとっては出資を回収できないという経済的な不利益が生じます

 例外的に、債権者に対して100%配当(債権全額の弁済)を行った上でなお余剰財産がある場合には、株主に対する残余財産分配がなされます。破産手続の終了によって原則として法人格が消滅しますが、会社に財産が残存する場合、清算人を選任して財産の清算がなされるまでは、法人格はなお存続し、清算人において株主への残余財産の分配がされることになります。これにより、出資の(一部)回収が可能となりますが、実際には、通常の破産会社ではそのような事態は生じないでしょう。

 ただし、近時、ビットコインを取り扱っていた破産会社において、保有するビットコインの価値の急上昇により、債権者へ100%配当を行ってもなお財産が残る見込みとなり、株主へ分配できる可能性が出てきた事例が報道されました1。当該会社の例では、保有するビットコインの価値が破産手続開始決定時の評価額の20倍程度(2017年11月末時点)にまで急騰したことで、仮に同時点の価値にてビットコイン返還請求権を評価した場合には、債権者への100%配当が可能となり、その上でさらに2,000億円程度の残余財産が生じるという事態となったものです。なお、当該事例で残余財産を株主に分配するのは不当であるとして、そのような帰結としないために、一部債権者において民事再生手続開始の申立てを行ったようです(参照:「Mt.Goxに対する民事再生手続開始の申立てのお知らせ」(2017年11月30日))。非常に珍しい事例であり、今後の事態の推移が興味深いところです。

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