破産申立てによって従業員の雇用や給料・退職金等の支払にはどのような影響があるか

事業再生・倒産
有木 康訓弁護士

 破産申立てに際して、従業員の雇用や給料・退職金等の支払はどうなるのでしょうか。

 「清算型手続」である破産手続は、原則として会社の事業を停止することを前提としていますので、基本的に全従業員の解雇を伴うことになります。
 従業員の解雇には、労働関係法や雇用保険法などが適用されるため、それらの手続を遵守して行う必要があります。

 また、給料・退職金等の労働債権については、破産法上、一般の債権よりも優先的な取扱いがなされているほか、その支払を確保するための制度も設けられており、これらの点を踏まえた対応(従業員に対する説明を含む)が必要となります。

 参照:「会社(法人)の破産申請の概要

解説

解雇のタイミング

 破産手続に入った会社は、事業を停止し、最終的には清算することになりますので、いずれかのタイミングで従業員を解雇することになります。なお、会社の破産を理由とした解雇は、基本的には労働契約法上の解雇権濫用規制(労働契約法16条)には違反しないと考えられています。

 解雇の時期について、一般的には、事業を停止し、自己破産申立ての準備に入る(以下「支払停止」といいます)日に全従業員を即時解雇するケースが多いのですが、いつ、どの段階で、どの従業員を解雇するのかは、下記の事項を勘案して具体的に判断する必要があります。

  • 支払停止の時期
  • 破産申立て準備への従業員の協力の要否
  • 破産申立て後の管財業務への協力の要否
  • など

 なお、即時解雇後も元従業員に会社の残務(在庫整理、給与計算など)を手伝ってもらう必要がある場合には、あえて雇用を継続せずとも、全従業員を一度解雇した上で、一部の元従業員にアルバイトとして協力を依頼し、時給や日当を支給する方法もあります。

解雇にあたって必要な手続

 従業員を解雇する際は、解雇日や解雇の事実に関して紛議が生じるのを避ける観点から、解雇日と解雇理由(「自己破産手続を申し立てるため」等)を記載した解雇通知書を従業員に交付して受領書を受け取るのが望ましいといえます。また、従業員に貸与しているパソコン、携帯電話、ETCカード、クレジットカード、会社の鍵、警備用のカード等がある場合は、これらを回収する必要があります。

 解雇した従業員に対しては、せめてもの生活保障・再就職の支援のため、雇用保険の受給や再就職に必要な書類の交付・諸手続(従業員の健康保険・厚生年金被保険者の資格喪失届や住民税の異動届の提出、従業員に対する源泉徴収票や離職票の交付など)を速やかに行うことが必要です。

 また、労働基準法上、従業員を解雇する場合には少なくとも30日前に予告をする必要がありますが、従業員を即時解雇する場合には、30日分以上の平均賃金(「解雇予告手当」)を支払わなければならないとされています(労働基準法20条1項)

解雇予告手当・未払給料・退職金の支払について

 一般に、会社が支払停止を宣言した後、債権者に対する未払債務を弁済することは、債権者間の平等を害する行為(偏頗行為)に当たるものとして、認められていません(破産法162条等参照)。

 もっとも、会社・従業員間の労働契約に関して発生する解雇予告手当・未払給料・退職金などの労働債権は、破産法上、以下に述べるとおり「財団債権」または「優先的破産債権」として取り扱われており、一般の破産債権よりも優先して弁済または配当を受けることができます。そのため、支払停止後であっても、会社に「財団債権」「優先的破産債権」の全額を支払うことのできる資力がある限り、労働債権の弁済をすることは許容されると考えられております。

「財団債権」となる労働債権

 破産法上、債権の優先順位は「財団債権→優先的破産債権→一般破産債権」の順とされ、「財団債権」は他のどの債権よりも優先して弁済を受けることができます。なお、財団債権の中でも、破産財団の管理に関する費用が優先されるなど、財団債権間にも序列があることにご留意ください。

 労働債権のうち、以下のものが「財団債権」に該当するとされています。特に、①については、財団債権となるのは「破産手続開始決定前3か月間」に限られ、破産申立てが遅れれば、その分従業員が「財団債権」として弁済を受けられる額が減ってしまいますので、従業員の解雇後は早期の破産申立てを心がける必要があります。

  1. 破産手続開始決定前3か月間の従業員の給料(破産法149条1項)
  2. 破産手続の終了前に退職した従業員の退職金のうち、退職前3か月間の給料の総額に相当する額(破産法149条2項)

 なお、解雇予告手当は、解雇後の従業員の生活や経済的損失への打撃を緩和する観点から支給される特別の給付であるため、破産法149条1項にいう「給料」(労働の対価)には該当せず、解雇予告手当の発生した日が破産手続開始決定前3か月以内であっても、「財団債権」ではなく「優先的破産債権」として扱われるにとどまります。ただし、一部、異なる運用をしている裁判所もあります。

「優先的破産債権」となる労働債権

 上記3-1の「財団債権」に該当しない労働債権(「雇用関係に基づいて生じた債権」)は、全て「優先的破産債権」に該当し(破産法98条・民法306条2号・308条)、「財団債権」の次順位の債権として取り扱われます

 従業員が、出張などの際に会社のために立て替えた旅費やガソリン代も、「雇用関係に基づいて生じた債権」に該当するため、「優先的破産債権」となります。

【具体例:破産手続開始決定前4か月前から給料(20万円/月)の遅配があった場合】

具体例:破産手続開始決定前4か月前から給料(20万円/月)の遅配があった場合

(※)当該従業員の退職金総額が350万円で、破産手続開始決定と同時に退職した場合、当該従業員は、退職金350万円のうち、60万円(退職前3か月間の給料の総額に相当する額)が財団債権として、残り290万円が優先的破産債権として扱われます。

 なお、判例上、使用者が労働基準法20条所定の予告期間を置かず、または解雇予告手当の支払をしないで労働者に解雇の通知をした場合、原則として、当該通知は即時解雇としての効力を有しないと考えられています(最高裁昭和35年3月11日判決・民集14巻3号403頁参照)。したがって、破産申立ての際、財団債権と優先的破産債権の全額を弁済することができない可能性があったとしても、この判例の考え方も踏まえつつ、どの範囲で従業員に対して解雇予告手当や給料等の支給をするか、適切に判断する必要があります。

 会社の財産または破産財団から労働債権全額を支給できる見通しが立たない場合には、独立行政法人労働者健康安全機構が実施する未払賃金立替払制度の利用をすることができます。未払賃金立替払制度とは、企業の倒産によって毎月の賃金や退職金が支払われないまま退職した労働者に対し、国が事業主に代わって、未払賃金(一定の条件を満たした給与と退職金が対象。解雇予告手当は対象になりません)の8割を立替払する制度で、労働者のためのセーフティーネットとしての役割を果たしております。

 立替払の要件には、破産手続開始申立日の6か月前の日から2年の間の退職者であるなど、一定の要件が設けられております。制度の詳細などについては、厚生労働省「未払賃金立替払制度の概要と実績」などをご参照ください。

未払賃金立替払制度の要件には、破産手続開始申立日の6か月前の日から2年の間の退職者であるなど、一定の要件が設けられています

出典:独立行政法人労働者健康安全機構「未払賃金の立替払制度のご案内

 ただし、立替払を受けるためには、破産管財人に未払給料の額等を証明してもらった上で、機構の審査を受ける必要があるので、現実に立替払がなされるまでには相応の時間がかかります。万が一、労働債権全額を支給できる見通しが立たない場合、会社としては、上記2に指摘した点に加え、未払給料の計算や賃金台帳、タイムカードの整理など、破産管財人による証明や機構の審査をスムーズに進めるための資料の準備をしておくことも必要となります。

役員報酬等の取扱い

 なお、会社の役員(代表取締役、取締役、監査役など)の有する役員報酬や退職慰労金は、「財団債権」または「優先的破産債権」としては扱われず、「一般的破産債権」として扱われるにとどまります。これは、「株式会社と役員…との関係は、委任に関する規定に従う」(会社法330条、民法644条)とされ、役員報酬や退職慰労金は、会社・役員間の委任契約に基づいて発生する債権であって労働契約に基づいて発生する債権ではないからです。

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