破産手続開始決定前に発注していた商品は納品してもらえるのか

事業再生・倒産
有木 康訓弁護士

 仕入先のA社について、破産手続開始決定がなされました。当社(B社)は、破産手続開始決定前にA社に商品を発注していましたが、納入はまだなされていません。発注していた商品は、破産管財人から納品してもらえるのでしょうか。

 B社が破産手続開始決定前にA社に売買代金を支払っているかどうかによって異なります。①B社が破産手続開始決定前に売買代金の全部または一部を支払っていない場合で、かつ、破産管財人が当該売買契約の「履行」を選択した場合には、売買代金の支払と引換えに商品の引渡しを受けることができますが、②破産管財人が当該売買契約の「解除」を選択した場合、および、③B社が破産手続開始決定前にすでに売買代金の全部を支払っていた場合には、破産管財人との間で新規に売買契約を締結しないかぎり、商品の引渡しを受けることはできません。

解説

はじめに

 買主が破産手続開始決定前に発注していた商品に係る法律関係は、破産手続開始決定前に目的物の売買代金が支払われているかどうかで異なります。以下、売買代金の全部または一部の支払が未了である場合と、売買代金の支払が完了している場合とに分けて解説します。  

売買代金の全部または一部の支払が未了である場合

売買代金の全部または一部の支払が未了である場合

破産管財人の選択権

(1)破産法53条1項の規律

 売買契約のような、当事者双方がたがいに対価的な意義を有する債務を負担する契約を「双務契約」といいます(これに対し、贈与など契約当事者の一方のみが債務を負っている契約を「片務契約」といいます)。

 破産法は、破産手続開始決定時に破産者およびその相手方が共にまだその履行を完了していない双務契約(一般にこれを「双方未履行双務契約」といいます)について、破産管財人に、「履行」するか「解除」するかの選択権限を与えています(破産法53条1項)。買主側から見た場合、破産管財人が売買契約の「履行」を選択した場合には、売買代金の支払と引換えに発注した商品を納入してもらえますが、破産管財人が売買契約の「解除」を選択した場合には、商品を納入してもらえないことになります。このように、破産法は、破産財団の管理や換価に不要な契約であればこれを解除し、有用な契約であれば履行するという選択権を破産管財人に与えることによって、破産清算の迅速・円滑な処理を実現させようとしています。

(2)破産管財人の判断ポイント

 一般に、破産管財人による双方未履行双務契約の「履行」と「解除」は、「どちらを選択することが破産財団の増殖に資するのか」という点を基準に判断されます。破産会社が取り扱う商品は時間の経過によって劣化することも多く、また、商品の保管にはコストもかかるので、破産管財人は、基本的には「より高く」「より早く」購入してもらえる先に在庫商品を販売したいという意向を持っています。設例でいうと、たとえばB社以外に商品の買手がいない場合には、破産管財人としてはB社との間の売買契約の「履行」を選択することになりますし、一方で、B社よりも高い金額で購入するという第三者が現れた場合には、B社との間の売買契約を「解除」し、当該第三者に商品を売却することになるでしょう。

 したがって、買主としては、早めに破産会社や破産管財人に対して商品を納品してほしいという意向を伝え、また、高額の買手が他に現れたことによって売買契約が解除されそうになった場合には、破産管財人にさらに高い金額での買取りを提案することなども検討しておくことが有用といえます。

契約の相手方による「催告」

 以上のように、買主は、破産管財人による双方未履行双務契約の「履行」または「解除」の判断に従わざるを得ない立場に立たされますが、破産管財人の判断がなされるまでいつまでも待たなければならないのかというと、そうではありません。破産法では、契約の相手方の不安定な地位を解消する制度として、破産管財人に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか、または債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができ、破産管財人がその期間内に確答をしないときは、契約の解除をしたものとみなす、との制度が設けられています(破産法53条2項)。

 すでに代替の仕入先から同様の商品を調達したにもかかわらず、後になって破産管財人から「『履行』の選択をしたから代金を支払え」と言われる事態も想定されますので、設例におけるB社としては、破産管財人の選択を待つまでもなく、この催告制度を利用することが効果的といえます。

破産管財人による選択権行使の帰結

 破産管財人が双方未履行双務契約の「履行」を選択した場合、契約の相手方の履行請求権は財団債権として存続します(破産148条7号)。したがって、買主は商品の引渡請求権を財団債権として行使することができますが、他方で、当該契約の条件に従って未払の売買代金を支払う必要があります。

 破産管財人が双方未履行双務契約の「解除」を選択した場合において、破産会社の受けた反対給付が破産財団中に現存するとき(たとえば、売買代金の一部を支払っていた場合など)は、契約の相手方はその返還を請求することができ、現存しないときは、その価額分について財団債権として権利行使することができます(破産54条2項)。なお、相手方が解除により被った損害については、破産債権として権利行使できるにとどまります(破産54条1項)。

【買主側の対応のポイント】
  • 早めに破産会社や破産管財人に対して商品を納品してほしいという意向を伝え、また、高額の買手が他に現れたことによって売買契約が解除されそうになった場合には、破産管財人にさらに高い金額での買取りを提案することなども検討しておくこと。
  • 破産管財人に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか、または債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告すること。

売買代金の支払が完了している場合

売買代金の支払が完了している場合

売買契約に基づく商品の引渡請求権=破産債権

 破産法53条に基づく規律が適用されるのは、「双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないとき」ですので、売買代金がすでに支払われている場合に破産法53条は適用されません。

 この場合、売買契約に基づいて買主の有する目的物の引渡請求権は、「破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」にあたり、買主は、目的物引渡請求権を破産債権(2条5項)として行使できるにとどまります。契約の相手方の立場から見た場合、このような取扱いは不公平に思われるかもしれません。ですが、売買契約の買主には、売主からの目的物の引渡しがないかぎり代金の支払を拒絶することができるという同時履行の抗弁権が認められており(民法533条)、にもかかわらず、目的物の引渡し前に代金を支払うということは、同時履行の抗弁権を放棄していることを意味し、デフォルト(債務不履行)リスクを引き受けているという見方をされることとなります。

 もっとも、買主が商品を手に入れる途がまったく閉ざされるわけではありません。上記のとおり、破産管財人は、在庫商品を金銭に換価するため、基本的に「より高く」「より早く」在庫商品を販売したいという意向を持っていますので、新たに商品の購入申込みをすることにより、商品を手に入れることができる可能性はあります。

所有権に基づく商品の引渡請求はできないのか

 商品などの動産の所有権は、売買契約の締結時(所有権の移転時期を代金の完済時とするなどの特約があるときは、特約で定めた時)に移転するため、買主は、破産管財人に対し、所有権(取戻権)に基づいて商品の引渡請求ができるように思えますが、そうではありません。

 これは、「動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない」(民法178条)とされているところ、破産債権者の利益代表者である破産管財人は民法178条に定める「第三者」に該当すると解されているため、引渡し未了のまま破産手続が開始された場合、買主は破産管財人に対して、みずからへの物権変動(所有権の移転)を対抗(主張)できないからです(これを「破産管財人の第三者性」といいます)。

おわりに

 以上のとおり、破産手続開始決定前に買主が発注した商品に対して有する権利は、代金の支払の有無により異なりますので、この点をしっかりと把握したうえで破産管財人と協議する必要があります。

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