実効性のある内部通報制度の運用に向けて

第2回 内部通報制度において企業が抱える問題点・課題

危機管理・コンプライアンス
新飯田 悦孝

消費者庁アンケートとSPNアンケート

 第1回は「内部通報制度とは」と題して、内部通報制度の意義・目的について考えました。今回は、今年(2017年)1月に消費者庁、消費者制度課が公表した「平成28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査」(以下、「消費者庁アンケート」)と株式会社エス・ピー・ネットワーク(以下、「当社」)が昨年実施した「内部通報制度に関するアンケート調査結果」(以下、「SPNアンケート」)を比較しながら「内部通報制度において企業が抱える問題点・課題」について解説します。

 両者の実施要領は以下の通りです。

① 消費者庁アンケート
  • 名称:民間事業者における内部通報制度の実態調査
  • 調査期間:平成28年7月22日~同年9月2日
  • 調査対象:全国の事業者 15,000社
  • 調査手法:インターネット調査及び郵送法
  • 有効回答:3,471 件(有効回答率23%)
② SPNアンケート
  • 名称:内部通報に関するWebアンケート
  • 調査期間:平成28年6月9日~同年7月8日
  • 調査対象:SPクラブ(当社会員組織) 463社
  • 調査手法:Webアンケートを用いた無記名式調査
  • 有効回答:74社(有効回答率16%)

取締役会への報告状況

 消費者庁アンケートによれば、どの従業員規模においてもおおむね80%前後の企業が内部通報制度の責任者を「経営トップ(社長等)」または「取締役・執行役その他の役員等」としています。

【図表1-1:内部通報制度の責任者(消費者庁アンケート)】

出典:消費者庁「平成28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査」27頁

 一方、SPNアンケートでは、内部通報制度の組織的な運用全般に関する取締役会の関与度について調査しています。取締役会へ報告(定期的報告と対応結果報告の合計)する割合は40%から60%弱となります。このことから、規程上は経営トップまたは取締役会を内部通報制度の責任者にしているものの、取締役会の関与度との間には乖離が存在することがわかります。責任者としての関与の仕方は様々あるかと思われますが、まずは窓口の周知状況、通報件数の推移、通報カテゴリーの分析、通報内容の中で全社的に検討するべき事項の有無と、全社的に検討するべき事項がある場合の問題提起については最低限行う必要があるものと考えます。

【図表1-2:内部通報制度の組織的な運用全般に関する取締役会の関与度(SPNアンケート)】

出典:株式会社エス・ピー・ネットワーク「SPNレポート2016(内部通報制度に関するアンケート調査結果)

通報窓口の設置場所

 消費者庁アンケートでは約60%、SPNアンケートにおいては約50%の企業が内部通報窓口を社内外両方に設置していることが読み取れます。当然、従業員規模に応じて社内外両方設置の割合が高まり、3,000人を超える従業員規模においては80%前後(消費者庁アンケートでは77%、SPNアンケートでは83.3%)となっています。

【図表2-1:通報窓口の設置場所(消費者庁アンケート)】

出典:消費者庁「平成28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査」28頁

【図表2-2:内部通報の受付窓口は、どちらに設置していますか。(SPNアンケート)】

出典:株式会社エス・ピー・ネットワーク「SPNレポート2016(内部通報制度に関するアンケート調査結果)

 一方で、社内外両方に設置することが難しい場合、すなわち社内にのみ窓口を設置するか社外にのみ設置するかについては、消費者庁アンケートとSPNアンケートでは差が見られました。

 消費者庁アンケートでは、「社外にのみ設置」とした割合は全体で7%であるのに対して、SPNアンケートでは21.3%となっています。また、消費者庁アンケートでは「社外通報窓口の設置理由」(図表2-3)に、「中立・公正な対応が取りやすい」ことや、「従業員が心理的に通報しやすい」ことがあげられています。「中立・公正な対応が取りやすい」とは社外に窓口を設置することで、対外的に「通報をもみ消していない、あるいはもみ消すことができない」と示せるというメリットがあると考えられます。この点を踏まえ、リソースの問題で社内外両方に窓口を設置できない場合の窓口設置場所を見直すべきでしょう。

【図表2-3:社外通報窓口の設置理由(消費者庁アンケート)】

出典:消費者庁「平成28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査」32頁

内部通報制度の信頼性・安心感向上のために

 多くの企業において、内部通報制度の信頼性・安心感向上はテーマの一つとなっています。そもそも内部通報制度自体に信頼性や安心感がなければ、適切な内部通報が阻害され、「リスクの早期発見・早期対応」といった目的を果たすことは難しいでしょう。消費者庁アンケートにおいても、「秘密が守られることを周知」したり「窓口担当者に守秘義務」を課したりといった方策がとられています。

【図表3-1:内部通報制度の信頼性・安心感向上のための方策(消費者庁アンケート)】

出典:消費者庁「平成28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査」34頁

 一方で、SPNアンケートにおいては、内部通報担当者の執務環境を調査しています。全体では42.3%の企業で担当者が「オープンスペース」で通報への対応を行っていると回答しています。これでは、いくら従業員に対して安心感を醸成する発信をしても、実態が伴っていません。仮に通報内容が筒抜けになってしまっている場合には、かえって信頼感・安心感を低下させてしまうことが懸念されます。最低限、通報の「受付」においては都度会議室を利用する必要があるでしょう。

【図表3-2:内部通報担当部門の執務環境について教えてください。(SPNアンケート)】

出典:株式会社エス・ピー・ネットワーク「SPNレポート2016(内部通報制度に関するアンケート調査結果)

内部通報事例

 ここまでは消費者庁アンケートとSPNアンケートから、規程と実態の乖離について言及しました。この部分を補足するため、以下の通報事例 1 をご紹介します。こちらの通報事例は、実際に当社が受け付けた内容をアレンジしたものになります。

【通報事例:通報内容】

 私は、週に3日間勤務しているパートです。私の名前は会社に伝えてください。
 2年前の6月に入社し、ときどき有給休暇を取っていました。今年の4月の給与明細を確認すると、6日間の有給休暇が追加で付与され、合計7日間の有休残日数となっていました。そこで、私は、2日間の有休申請を店長に申請しました。

 しかし、2、3日前に、本社人事部の方が、私と仲が良い職場の先輩Aさんに対して「○○さん(通報者)が今回有給休暇を取得したので、4月に付与された6日間はなくなります」と、たまたま私の話をした時に言ったようです。先輩は有休がなくなった理由がわからず、そんなことがあるのかと驚いて、私に教えてくれていました。
 そのことを聞いて、私も気になったため、今日の16時頃、本社人事部に電話をしました。最初は女性が受けてくれましたが、途中で男性に代わって「あなたの有休残日数は1日で、今回有給休暇の申請が出ていますので、有休残日数は0日になります。次は8月に付与されます。このようになった理由を書面で店舗に郵送していますので、店長に郵送物の確認をしてもらってください」と言われました。

 私は、週に3日間の勤務なので、店長と毎回顔を合せるわけではありませんし、店長もお忙しいと思います。それに、わざわざ直接担当部署である本社人事部に電話をかけたのに、教えてくれなかったことも、腹立たしく思います。私は、困ってしまい、別の社員に相談をしたら、「リスクホットラインに電話をした方がいい」と言われたので、電話をしました。

 まずは、有給休暇を本人へ何の説明もなく、会社が勝手に消滅させたことに、納得がいきません。理由をしっかりと説明していただきたいと思います。また、私は、入社後のいつ、何日の有給休暇が付与されたのでしょうか。次の有給休暇の付与は、8月と言われましたが、それまでの間はどうなるのかについての説明もお願いいたします。
【通報事例:顛末】
  • 本件においては、内部通報担当部署より人事部門に通報内容が共有され、人事部門が自ら通報内容の事実確認(調査)を行いました。
  • 人事部門のスタッフが有給休暇のデータを入力する際に、通報者のデータを間違って登録していたことが判明したため、修正した結果、多く付与されていた日数が削除されていたものです。
  • 有給休暇の件については、本来、間違って付与したことに対して、直接通報者へ謝罪をしなければいけないところ、書面での説明を優先させたこと、および通報者が通報前に直接人事部門に問い合わせたにもかかわらず、その際に適切な説明がなされなかったことについて人事部門より通報者に対して謝罪が行われました。

通報事例をどう考えるか

被通報者と調査担当者の利益相反

 今回は、「内部通報制度において企業が抱える問題点・課題」をテーマとし、内部通報制度の責任者とその関与度、内部通報制度の安心感・信頼感の向上のための方策と執務環境など、規程や想定と実態の乖離について考えました。内部通報制度の問題点や課題とは、こうした乖離だと言えます。そうした視点では、現在の内部通報制度に関する仕組み自体の見直しと実態がそれに伴っているのか、あるいは実態に即して体制を見直すことが必要です。

 紹介した通報事例においては、「規程と実態の乖離」からもう一つ、利益相反関係の排除について考えてみたいと思います。具体的には、通報受付後の調査(有給休暇の付与・取得状況の確認)を行う主体に焦点を当てたいと思います。

【図表4:内部規程の内容(消費者庁アンケート)】

出典:消費者庁「平成28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査」24頁

 図表4は、消費者庁アンケートにおいて、内部通報制度に関する社内規程に盛り込まれている内容を調査したものになります。多くの項目は貴社における内部通報制度に関する規程にも盛り込まれているのではないでしょうか。この中で、39.9% 2 の企業・組織が盛り込んでいる「利益相反行為の排除(受付担当者や調査担当者、社外通報受付窓口等の中立性・公正性の確保)」に着目したいと思います。

 そもそもこの内容が盛り込まれていない場合には、内部通報制度の中立性・公平性の観点から検討が必要ですが、仮に内部通報規程に盛り込まれていても、実態として規程に則した運用をしていくことは簡単ではありません。たとえば、内部通報担当者を被通報者とする通報においては、その他の内部通報担当者が対応することが必要であり、そのためにも内部通報担当者は複数名が望ましいと言えます。また、内部通報担当部署全体を被通報者とする通報においては、人事部門や総務部門に代替の内部通報担当者を設置するといった想定が必要です。加えて、取締役を被通報者とする通報などにおいては社外取締役や監査役等を内部通報担当者とするなど、通常の経営幹部から独立性を有する通報ルートの準備が求められます。

事例における問題点

 そうした前提で今回の事例にあげた通報内容とその顛末を振り返ると、今回の通報事例においては、仮に人事部門に内部通報担当部門としての機能がある場合には、人事部門が調査することは、利益相反関係の排除という観点からは望ましくありません。そして、内部監査部門やコンプライアンス部門といった「人事部門とは別の部門」が内部通報制度を所管している場合には、人事部門に対して情報開示を請求し、かつ人事部門内で有給休暇の処理(付与と取得の記録)がどのように行われているのかを解明しなければなりません。

 ここで問題になるのは、有給休暇についての通報であっても不正行為や法令違反に関する通報であっても、利益相反関係の排除という観点からは、通報の対象となった部門(今回の通報事例においては人事部門)が調査に関与することは望ましくないということです。

 本来、通報事例にあるような入力ミスを発端とした通報であれば、最初から人事部門が調査した方がスムーズでしょう。しかし、通報内容が不正行為や法令違反であった場合にはどうでしょうか。間違っても通報の対象となった部門(今回の通報事例においては人事部門)が調査を担うことはないものと思われます。この部分が利益相反関係の排除で難しいところです。

 すなわち、通報内容によっては「利益相反関係の排除」を逸脱して良いということではなく、どの通報内容においても、常に「利益相反関係の排除」を意識しなければならないということになります。仮に手続きとして煩わしいと感じることがあっても、「中立性・公平性の観点」を欠くことのない対応が望まれます。


  1. 株式会社エス・ピー・ネットワーク「内部通報窓口『超』実践ハンドブック」122〜123頁(清文社、2016) ↩︎

  2. なお、この点については、今回ご紹介している消費者庁アンケートと同様の実態調査が2013年6月にも消費者庁から公表されています(参照:「公益通報者保護制度に関する実態調査 報告書」)。その報告書によれば、通報処理(対応)に関する内部規程の内容において、内部規程にこの利益相反関係の排除についての内容を盛り込んでいるとする割合は30.2%でした。約4年間で9.7%の企業が新たに利益相反関係の排除について盛り込んだことが読み取れますが、それでも半数以下の結果となりました(参照:消費者庁「平成24年度 民間事業者における通報処理制度の実態調査 報告書」24頁)。 ↩︎

コンテンツの更新情報、法改正、重要判例をもう見逃さない!メールマガジン配信中!無料会員登録はこちらから
  • facebook
  • Twitter

関連する特集