実効性のある内部通報制度の運用に向けて

第3回 内部通報制度を構築するためのポイント

危機管理・コンプライアンス
新飯田 悦孝
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内部通報ガイドライン

 第1回は「内部通報制度とは」と題して、内部通報制度の意義・目的である「リスクの早期発見・早期対応」について言及しました。第2回では、「内部通報制度において企業が抱える問題点・課題」と題して、規程と実態の乖離について考えました。今回は、2016年12月9日に消費者庁が公表した「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(以下、「内部通報ガイドライン」)を通じて、「内部通報制度を構築するためのポイント」を考えていきたいと思います。

 なお、2017年3月30日には、消費者庁消費者制度課が主催して「内部通報制度に関する民間事業者向けガイドラインの説明会」が行われました。また、5月18日に東京、5月30日に大阪においても説明会が開催されました。内部通報ガイドラインについて、昨年実施されたパブリックコメントの内容も一部織り交ぜながら、内部通報ガイドラインにおける4つの視点(通報者に係る視点、経営者に係る視点、中小事業者に係る視点、および国民・消費者に係る視点)ごとに説明があり、その中で、2016年7月に策定された「消費者基本計画工程表」への言及がありました。

 工程表においては、今回の内部通報ガイドラインとともに、インセンティブの導入(内部通報制度に係る認証制度、公共調達での評価)についても記載があります 1 。消費者庁によれば、内部通報制度に係る認証制度は現時点では情報収集の段階ではあるものの、認証基準は内部通報ガイドラインになるであろうとの方向性が示されました。加えて、2017年度(平成29年度)に認証制度設計に係る予算が組まれており、早ければ2018年4月(平成30年度)からの運用となる可能性があるとのことでした。筆者としてもこの認証制度がどのような制度設計となり、どのように運用されるのかについて着目していきたいと考えています。

経営トップの責務

 内部通報ガイドライン「I.内部通報制度の意義等 2.経営トップの責務」では、以下のとおり記載されています。

 公正で透明性の高い組織文化を育み、組織の自浄作用を健全に発揮させるためには、単に仕組みを整備するだけではなく、経営トップ自らが、経営幹部及び全ての従業員に向け、例えば、以下のような事項について、明確なメッセージを継続的に発信することが必要である。
  • コンプライアンス経営推進における内部通報制度の意義・重要性
  • 内部通報制度を活用した適切な通報は、リスクの早期発見や企業価値の向上に資する正当な職務行為であること
  • 内部規程や公益通報者保護法の要件を満たす適切な通報を行った者に対する不利益な取扱いは決して許されないこと
  • 通報に関する秘密保持を徹底するべきこと
  • 利益追求と企業倫理が衝突した場合には企業倫理を優先するべきこと
  • 上記の事項は企業の発展・存亡をも左右し得ること

 こうしたメッセージが必要とされるのは、内部通報制度それ自体が目的になるのではなく、内部通報制度を手段として活用し、内部通報制度の意義・目的を達成していくためです。本連載の第1回「内部通報制度とは」にて述べたように、内部通報制度の意義・目的は企業ごとに異なるでしょうが、「リスクの早期発見・早期対応」あるいは「(企業価値向上に資する)組織の自浄作用の維持・強化」といった目的を実現していくという視点が不可欠です(「組織の自浄作用の維持・強化」については、本連載の第4回に譲りたいと思います)。

 企業は、内部通報制度にどのような役割を求め、どのような成果をもたらしたのかを絶えず検証していかなければなりません。「企業や組織の非行(違法や不正行為)があった場合、伝統的な集団思考と強烈な忠誠心によって、これに関わった者が責任を一身に引き受けて自殺したり、事実を知る者が墓場までもって行くことを考えることはあっても、それを告発し白日の下にさらして組織の浄化に寄与するという発想にはなりにくい」2 という風潮が未だ残っていることは否定できません。

 内部通報制度に期待される役割のひとつは、こうした「内部告発/外部通報、あるいは公益通報」に対する風潮を徐々に「リスクの早期発見・早期対応」へ向けていくことにあります。そのためには、一定期間ごとに内部通報制度の利用状況や、内部通報をきっかけとして「何が、どのように」変わった、改善されたのかを周知する必要性があるでしょう。そこではお題目や感情論のメッセージは不要であり、検証結果に基づき、守秘義務の範囲内で情報開示をしながら発信する必要があるものと考えます。

内部通報制度の整備をどのように行うか

 内部通報ガイドライン「II.内部通報制度の整備·運用 1.内部通報制度の整備 (1)通報対応の仕組みの整備」では以下のとおり記載されています。

仕組みの整備

(仕組みの整備)
  • 通報の受付から調査・是正措置の実施及び再発防止策の策定までを適切に行うため、経営幹部を責任者とし、部署間横断的に通報を取り扱う仕組みを整備するとともに、これを適切に運用することが必要である。また、経営幹部の役割を内部規程等において明文化することが適当である。

 内部通報の性格上、通報者の匿名性確保、通報者が特定されることによる報復行為等の不利益取扱いに関するリスクを極小化するためには、情報共有の範囲をむやみに広げることは好ましくないと言えます。そのため、案件の軽重によっては一概に言えませんが、内部通報制度を所管する取締役以外の取締役が直接的に内部通報に関与することは、望ましくないと考えられます。なぜなら、取締役という立場上、裁量の範囲内において、内部通報担当部署そして内部通報担当部署を所管する取締役の方針(調査・是正措置、フォローアップの方向性)と異なる形で情報収集することや被通報者あるいは通報者へ接触することが、一般社員に比べて遥かに容易だと考えられるためです。内部通報制度の独立性・中立性の観点からは、内部通報担当部署を所管する取締役が他の取締役に情報開示する決裁をしない限り開示しない運用が求められます。

 一方で、前述の通り内部通報制度の意義・目的に即したメッセージを発信するためには、検証作業が不可欠です。内部通報担当部署からは、通報件数の推移や通報内容の傾向、通報受付時や通報の対応時における特徴的な事例等を通して、社内で発生したリスク情報を匿名化のうえで経営幹部に報告し、経営幹部が対策を検討するような仕組みが求められます。

通報窓口の整備

(通報窓口の整備)
  • 通報窓口及び受付の方法を明確に定め、それらを経営幹部及び全ての従業員に対し、十分かつ継続的に周知することが必要である。

 周知活動については、量と質の視点が不可欠だと言えます。すなわち、周知活動の量とは、内部通報ガイドラインにも示されているように、周知用ポスターを社内の各所に掲示したり、名刺サイズの周知用カードを配布したり、あるいは内部通報に関する説明会を実施したりする方法が考えられます。一方、質について考える際には、たとえばポスターであれば休憩室や洗面所など、窓口の電話番号やメールアドレスを誰にも見られずにメモできる場所に掲示するといった方法や配慮が考えられます。

 また、説明会においては窓口の存在を周知することだけではなく、通報時の留意点や、通報者探しの禁止・不利益取扱いの禁止・守秘義務について言及するなどの工夫を検討する必要があります。なお、説明会においては、一般職を含めた全社員を対象とする説明会なのか、管理職者のみを対象とする説明会であるかによって、説明のポイントが異なります。前者のように一般職を含めて全員という場合には、窓口の認知度向上を主眼に置く必要がありますが、後者のように管理職者のみを対象とする場合には、以下の4点を含めることが望ましいものと考えます。

  1. 管理職者も通報をし得る立場と捉え、一般職同様に窓口の認知度向上を図り、利用を促進するような内容とします。
  2. 一方で、管理職者は、実際にはどうしても被通報者とされることが多いと言えます。仮に被通報者とされた場合にも、「会社は通報者の話を100%鵜呑みにすることなく、中立的な立場で話を聞くので、万が一通報内容において問題視された場合にも正直に話してほしい」といった趣旨で伝えることが必要です。同時に、「守秘義務」、「通報者探しの禁止」および「不利益取扱い(報復行為等)の禁止」について徹底するよう指導する必要があります。
  3. 管理職者は、通報の対応における調査の段階で当事者ではなくても調査協力者としてヒアリング対象となることがあるため、その意味でも「守秘義務」についての説明は必要となります。
  4. 管理職者として、まずは職制のラインを通じて解決すべき問題から逃げないこと(管理職に相談があれば全力で解決にあたる姿勢)の重要性を再確認させたうえで、管理下の社員に対して(職制のラインを通じた解決が望めない場合の非常手段として)内部通報を選択することも職場環境の改善につながるという指導も考えられます。職制のラインと通報の奨励は、どちらが欠けても内部通報、ひいては企業の内部統制システムの実効性に悪影響を及ぼすことを認識してもらう必要があります。適切に職制のラインを通じた解決を模索しないままで管理下の従業員に対して内部通報を促すようなことがあると、それは「管理職の劣化」を招きかねません。

利益相反関係の排除

 内部通報ガイドライン「II.内部通報制度の整備·運用 1.内部通報制度の整備 (3)利益相反関係の排除」では以下のとおり記載されています。

  • 内部通報制度の信頼性及び実効性を確保するため、受付担当者、調査担当者その他通報対応に従事する者及び被通報者(その者が法令違反等を行った、行っている又は行おうとしていると通報された者をいう。以下同じ。)は、自らが関係する通報事案の調査・是正措置等に関与してはならない。
  • また、通報の受付や事実関係の調査等通報対応に係る業務を外部委託する場合には、中立性・公正性に疑義が生じるおそれ又は利益相反が生じるおそれがある法律事務所や民間の専門機関等の起用は避けることが必要である。

 利益相反関係の排除については、本連載第2回「内部通報制度において企業が抱える問題点・課題」で言及しましたので、詳細は割愛したいと思います。通報内容を問わず、たとえ通報の対象を受けた部門が調査をした方がスムーズな場合であっても、利益相反関係の排除という観点からは、通報の対象となった部門が調査に関与することは望ましくありません

内部通報として取り扱うべきかどうかの検討

 内部通報ガイドライン「II.内部通報制度の整備·運用 2.通報の受付」では以下のとおり記載されています。

(通報内容の検討)
  • 通報を受け付けた場合、調査が必要であるか否かについて、公正、公平かつ誠実に検討し、今後の対応について、通報者に通知するよう努めることが必要である。

 ここでの「通報内容の検討」とは、内部通報として取り扱うべきか迷うということが含まれるでしょう。たとえば、社内恋愛や不倫といった男女関係などのプライベートに関する内容を多分に含む通報の場合には、あまり深入りしないようにする企業が多いかと思います。通報の受付自体はすることになると思いますが、その後、「調査の必要性検討結果の通知」の段階において、「私生活に関する内容であるため、内部通報担当部署としては今後の調査をいたしかねます」といった形で案件収束とする扱いが見受けられます。一方で、通報内容を検討する段階において、セクハラの要素が強いと判断される場合には、通常の内部通報として扱う必要があるでしょう。

 あるいは、不倫関係にあることが疑われる当事者ではない、すなわち第三者からの通報もあり得ます。通報者としては、「職場の風紀を乱している」という側面を重要視することが多いですが、あくまでも業務への支障の有無を基準にして調査・是正措置の必要性の検討をするべきでしょう。

担当者の配置・育成等

 内部通報ガイドライン「II.内部通報制度の整備·運用 3.調査·是正措置」では以下のとおり記載されています。

(担当者の配置·育成等)
  • 実効性の高い内部通報制度を運用するためには、通報者対応、調査、事実認定、是正措置、再発防止、適正手続の確保、情報管理、周知啓発等に係る担当者の誠実・公正な取組と知識・スキルの向上が重要であるため、必要な能力・適性を有する担当者を配置するとともに、十分な教育·研修を行うことが必要である。
  • 内部通報制度の運営を支える担当者の意欲・士気を発揚する人事考課を行う等、コンプライアンス経営推進に対する担当者の貢献を、積極的に評価することが適当である。

 企業規模によって状況は様々と思われますが、理想的な形として内部通報担当部署内には3つの役割が望まれます。①内部通報への対応に関するリーダー、②調査・是正措置のメイン担当、③内部通報担当部署における案件対応の監査的役割になります。

 リーダーは、案件の進捗管理、本来の職制のラインによる解決が望めない場合に内部通報担当部署が直接的に是正措置を行う場合の担当者の割り振り、あるいは本来の職制のラインによる解決を図る場合の関係各部署との連携・調整などが考えられます。

 調査・是正措置のメイン担当者は通報件数や地域性(全国規模であれば、ヒアリングのための出張等の必要性)を考慮して選任されるべきと言えます。管理部系の経験もさることながら、調査・是正措置を実態に即して行うという点では、現場経験もまた重要な素養と言えるかもしれません(あるいは、現場実務に関する深い理解が求められるとも言えます)。通報内容自体を理解できたとしても、通報に至る背景や過去からの経緯、規程と実態の乖離などへの理解が求められるためです。

 また、監査的役割としては、通報者によって調査・是正措置のクオリティにばらつきがないかという視点での「案件ごとの一貫性」、「会社方針との整合性」、そして「通報者への回答が外部に流失したとしても問題ない内容になっているかの精査」といった機能が求められます。

社内リニエンシー制度

 内部通報ガイドライン「III.通報者等の保護 3.自主的に通報を行った者に対する処分等の減免」では以下のとおり記載されています。

  • 法令違反等に係る情報を可及的速やかに把握し、コンプライアンス経営の推進を図るため、法令違反等に関与した者が、自主的な通報や調査協力をする等、問題の早期発見・解決に協力した場合には、例えば、その状況に応じて、当該者に対する懲戒処分等を減免することができる仕組みを整備することも考えられる。

 いわゆる社内リニエンシー制度については、次項の内部通報事例を踏まえて考えていきたいと思います。

内部通報事例

 前項までは内部通報ガイドラインを基に、内部通報制度を構築するためのポイントについて言及しました。前述した社内リニエンシー制度を導入するにあたって留意するポイントを補足するため、以下の通報事例 3 をご紹介します。こちらの通報事例は、実際に当社が受け付けた内容をアレンジしたものになります。

【通報事例:通報内容】

 私は正社員として働いています。現在私は入社5年目で接客業務を担当しています。メールをする前に、このような件をお伝えしていいのかどうか自分自身の中で葛藤がございました。
 私は懲戒規程違反をしました。本日、私はあるお客様の口座に、私自身の口座から30万円を振り込みました。特にお客様より脅されたということではありません。明らかにこちらのミスでした。そのミスによりお客様からは事前にいただいた売上金25万円の返却、さらに精神的苦痛に対して5万円(お客様から言われました)を追加するように言われました。

 ミスがあったとしても上司に報告せずにお客様に金銭を支払うということは今まで一度もしたことはありませんでした。このようなことは懲戒解雇に該当することも認識しております。ただし理由がありました。
  1. 商品指示書自体の不備によるミスであったこと
  2. 上記の商品指示書に不備があることを商品開発本部の担当者に電話したが、前例がないと言われて何も対応してくれなかったこと
  3. 直属の上司に今回のミスの原因(商品指示書の不備)を説明したが、その指示書の不備に気づかなかった私に責任があると言われたこと
  4. 今回のことをお客様に説明して、返金の要望があったことを上司に伝えたが、上司からは「不可」とだけ言われたこと
 以上の4点から、商品開発本部の担当者からの指示書に不備があるにもかかわらず、その誤った情報が原因でミスを起こしてしまった私の責任にさせるという会社のやり方に疑問と怒りと不満を感じ、懲戒解雇を覚悟のうえ、お金を振り込みました。
 このことは誰にもお伝えしていません。上司へ相談するのが筋かと思いますが、上司は、私がインターンのときからお世話になっている方です。私の行為により上司にも懲戒処分が及んでしまうのは避けたいと感じ、まずはリスクホットラインにお伝えした次第でございます。

 このようなことで懲戒解雇されたケースを何度も社内報で見てきました。ただし、誰しもがやりたくてやっているわけではなく、誰にも相談できずに行き場を失っての苦し紛れの行動だったということを、本社の方には理解してほしいです。

通報事例をどう考えるか

社内リニエンシー制度に関する議論

 「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会」(以下、「公益通報者保護制度検討会」)の最終報告書 4 によれば、社内リニエンシー制度について、「内部通報制度を有効に機能させるために、自らが関与した不正を自主的に申告した通報者や調査協力者等については、社内処分の減免を行う仕組み社内リニエンシー制度)を整備することも効果的である。」としています。同最終報告書では、「社内リニエンシーをガイドラインにおいて推奨することについては、今後進めていくべきである。」5 とされ、それを受けて前項でも紹介したように、内部通報ガイドラインにも「法令違反等に係る情報を可及的速やかに把握し、コンプライアンス経営の推進を図るため、法令違反等に関与した者が、自主的な通報や調査協力をする等、問題の早期発見・解決に協力した場合には、例えば、その状況に応じて、当該者に対する懲戒処分等を減免することができる仕組みを整備することも考えられる。」として掲載されました。

 しかしながら、「仕組みを整備することも考えられる」とは、現時点において明確にガイドラインで示すことができるまでの議論が深まっていないことが窺えるとする考え方もあるでしょう。実際、社内リニエンシー制度を積極的に導入するのは、現時点ではまだ検討の余地があります。

社内リニエンシー制度のメリットと懸念点

 社内リニエンシー制度導入のメリットは、まず、「リスクの早期発見、早期対応」に資することでしょう。そして、内部通報制度自体に対する会社のスタンスとして、「従業員が良心に基づいて通報すること」を奨励できることだと考えます。また、仮に現時点で通報が寄せられていない理由が、通報者が不正等に加担させられている場合に自身への懲戒処分を恐れて通報に躊躇しているとき、あるいは上司から口止めされている場合等に通報が寄せられやすくなることが考えられます。

 一方、社内リニエンシー制度導入に際しての懸念点は、「減免を一つの基準で判断することは困難であることや、リニエンシー制度による責任減免を目的とした通報が増え、通報目的の公益性に疑問が生じるおそれがあること」(同最終報告書)6 であるとされています。また、内部通報制度を所管する部署のみならず、懲戒処分を決定する機関(賞罰委員会等)との調整を疎かにすると、懲戒処分の公平性が担保されなくなり、社内リニエンシー制度自体が形骸化してしまうことが考えられます。

 このように、内部通報ガイドラインの内容は、実効性のある内部通報制度を構築するうえで重要な要素を含みつつ、近い将来、導入の検討が求められる制度についても言及されている点にも注意が必要です。

担当者の貢献をどう評価するか

 他方、意見は分かれると思いますが、筆者が内部通報ガイドラインの最も優れている点として感じられるのは、「Ⅱ.内部通報制度の整備・運用 3.調査・是正措置 (1)調査・是正措置の実効性の確保(担当者の配置・育成等)」において、「内部通報制度の運営を支える担当者の意欲・士気を発揚する人事考課を行う等、コンプライアンス経営推進に対する担当者の貢献を、積極的に評価することが適当である」ことが明記されたことです。現在のガイドラインが改定される前の平成17年のガイドライン 7 において、当該箇所の記載は、「特に、通報処理を行う担当者に対しては、十分な研修を行うことが必要である」との内容のみであり、「担当者の貢献」といった概念は皆無であったことからすると差は歴然としています。

 当然、内部通報担当者に対する人事考課が非常に難しいことは容易に想像できます。なぜなら、数値的な評価が困難であるためです。通報件数が多いことが良いのか、反対に少ないことが良いのか、その答えは明確ではありません。内部通報に至らない事象は、日々発生しており、また時代の変遷とともにその質・量も変容していきます。そうした中、通報件数が右肩上がりで伸びていることは、周知活動の成果として評価されるべきものでもあります。

 一方で、通報の対応を経て、最終的に職制のラインを通じた解決が図られる体制構築までを実施したことによって、本来のあるべき姿である「職制のラインを通じた解決」が図られるようになったために通報件数が減少することもまた、望ましいことです。内部通報担当者の人事考課のあり方については、今後の議論に期待したいと思いますが、いずれにしても、内部通報ガイドラインの求める水準を意識しつつ、現時点および近い将来の検討事項については、常に意識する必要があるでしょう。


  1. 消費者庁「消費者基本計画工程表(平成28年7月19日改定)」118頁(2016) ↩︎

  2. 中原俊明「米国における内部告発の法理―サーベンス・オックスリー法(SOA)を中心に」『志學館法学』第6号93頁(2005) ↩︎

  3. 株式会社エス・ピー・ネットワーク「内部通報窓口『超』実践ハンドブック」122〜123頁(清文社、2016) ↩︎

  4. 消費者庁「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会 最終報告書」11頁(2016) ↩︎

  5. 消費者庁「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会 最終報告書」55頁(2016) ↩︎

  6. 消費者庁「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会 最終報告書」138頁(2016) ↩︎

  7. 内閣府国民生活局「公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン(2005) ↩︎

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