実効性のある内部通報制度の運用に向けて

第4回 内部通報制度の検証の必要性

危機管理・コンプライアンス
新飯田 悦孝

内部通報制度の検証とは

 第1回は「内部通報制度とは」と題して、内部通報制度の意義・目的である「リスクの早期発見・早期対応」について言及しました。第2回では、「内部通報制度において企業が抱える問題点・課題」と題して、規程と実態の乖離について考え、第3回では、2016年12月9日に消費者庁が公表した「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(以下、「内部通報ガイドライン」)を通じて、「内部通報制度を構築するためのポイント」に触れました。最終回となる第4回では、「内部通報制度の検証の必要性」を取り上げたいと思います。

 内部通報制度の検証とは、内部通報ガイドラインにおける「フォローアップ」の意味合いを含み、「組織の自浄作用の維持・強化」を目的としたものと言えます。内部通報ガイドラインにおいて、フォローアップに言及されている部分を以下に抜粋します。

フォローアップ

 内部通報ガイドラインの「IV.評価・改善等 1.フォローアップ」では以下のように記載されています。

(通報者等に係るフォローアップ)
  • 通報者等に対し、通報等を行ったことを理由とした解雇その他不利益な取扱いが行われていないか等を確認する等、通報者等の保護に係る十分なフォローアップを行うことが必要である。その結果、解雇その他不利益な取扱いが認められる場合には、経営幹部が責任を持って救済・回復するための適切な措置を講じることが必要である。
(是正措置に係るフォローアップ)
  • 是正措置等の終了後、法令違反等が再発していないか、是正措置及び再発防止策が十分に機能しているかを確認するとともに、必要に応じ、通報対応の仕組みを改善することや、新たな是正措置及び再発防止策を講じることが必要である。

 「通報者等に係るフォローアップ」とは、本連載第1回「内部通報制度とは」の2「内部通報制度の概観」において触れたように、過去の内部通報への対応(調査・是正措置・フォローアップ)の中で制度(窓口)の信頼性が損なわれるようなことの有無を確認することです。具体的には、たとえば調査の段階で通報者の氏名や所属情報が何らかの形で漏れてしまい、通報者の匿名性が損なわれ、通報したことが周知の事実となっていないか、被通報者や通報者を快く思わない周辺者から通報者に対して不利益な取扱いがなされていないかを確認することが肝要です。通報者の匿名性が損なわれたり、通報者に不利益取扱いがあったりすると、内部通報制度の信頼性そのものに影響を与えてしまいます。

 そして、「是正措置に係るフォローアップ」とは、通報のきっかけとなった事象が解決され、一定期間を経過しても再発していないのかを検証することと言えるでしょう。すなわち、不正に関する通報に対して、調査の結果、通報内容が事実であり、被通報者やその上席者に対する処分が下された後、被通報者が不正を行っていないかはもとより、不正の温床となっていた状況(たとえばチェック機能・チェック体制の不備や形骸化等)が改善されたのかについて確認することが含まれます。

内部通報事例

 今回の通報事例 1 は、本連載の第1回「内部通報制度とは」でもご紹介した内容になりますが、あらためて「フォローアップ」という視点でご覧ください。

【通報事例:通報内容】

 私はこの店舗で10年働くパート社員です。
 今回、店長のパワハラについてご相談させてください。店長が異動してきて今年で5年になります。店長は私に対して特に言動がきつく、私は何年もずっと我慢してきました。しかし、耐え切れなくなり、去年、エリア長に店長のことを何度か相談しました。エリア長に相談したときは、ただただ私の話を受け流すように聞くだけで、何のアドバイスもありませんでした。最終的には、「店長と2人で直接話し合ってほしい」と言われてしまいました

 その後、エリア長が店長に伝えたようで、後日、店長から面談を持ちかけられ、2人で話し合うことになりました。しかし、店長に直接このことを話せるのであれば、わざわざエリア長に相談などしませんでした。結局、面談では店長に思っていることを伝えられず、状況は変わらないままです。
 店長は物言いがきつく、人によって態度を変えるのです。店長はある一人のパートを可愛がっており、他のパートたちとそのパートでは態度が全然違います。私は店長に、自身の発言の「きつさ」について聞いたことがあるのですが、本人も自覚し認めているようです。「私は友達や家族にもそうだから」と言い切られてしまいました。しかし、私は店長の友達でも家族でもありません。きつい言い方ばかりされたら誰だって気分が沈むと思います。

 重点商品のキャンペーンについて、お客様に声かけをして販売できると嬉しくて、店長に「売れました!」と報告しても無反応です。しかし、気に入っているパートが同じことをすると「すごい!」などと店内に響き渡るような大声で褒めます。歴然とした差があります。そんな状況で従業員はモチベーションがなくなりつつあり、キャンペーンで実績を上げようという意欲がなくなっています。
 このような毎日でストレスがたまり、最近では仕事のことを考えると頭やお腹が痛くなります。この間は出勤前に体調が悪くなり、嘔吐が続いて、熱も出てしまったため、シフト当日の朝7時頃、店長にメールで休ませてほしいと伝えました。すると、店長から「代わりのスタッフを探してから休んでください」と返信が来ました。店長は以前から、「代わりのスタッフを自身で探せば有給休暇を使わせてやってもいい」と言っています。しかし、代わりのスタッフを探すのは店長の仕事だと思います。このようなことをパートにさせるのは会社の方針なのでしょうか?お答えいただきたいと思います。

 この前の面談時に店長から「リスクホットライン(内部通報窓口)ができたから何かあればそちらに相談してください。でも、相談する前に私に一声かけてから連絡するようにしてください」と言われました。これもどうかと思います
 私はそれを聞いて失望し、また、前回エリア長に相談した際に、「問題が解決しないようなら私よりも内部通報窓口に連絡した方がよい」と言われたのもあって、今日こちらに相談をしました。この店舗のパートが辞める原因のひとつは店長です。今年もあるパートの方が辞める前は、店長は私とそのパートの方に交互に嫌がらせをしていました。今は私だけがターゲットになっているようです。相談できる社員の方も、「あなたに対する店長の言い方は特にひどい」と言っているくらいです。誰に相談しても何も改善されないし、もう辞めるしかないのかな、もうだめなのかなと思っています。

 店長の物言いは私や他のパートだけではなく、お客様に対しても同様で、実際、「あんな物言いする店長がいる店には行きたくない」「店長がいないときをねらって買い物に来ている」とお客様からのクレームを何件か受けています。
 私は仕事に行くのが苦痛で眠れなくなり、現在、睡眠導入剤を飲まなければ眠れません。

事例をどう考えるか

 今回ご紹介した通報事例の内容は本連載第1回「内部通報制度とは」と同じですが、別の箇所に下線を表記しています。すなわち、本稿第1回で指摘した問題点(店長の言動による影響等)を改善すると同時に、一定期間経過後に検証(フォローアップ)が必要となる部分に着目したいと思います。

 一般的に小売店舗は小さい組織で運営されるため、良い意味でも悪い意味でも人間関係が濃密(距離感が近い)であることが多いように見受けられます。そこでは統括者(通報事例においては店長)のマネジメント能力による差が如実に現れ、店舗の売上利益のみならず、離職率や人間関係の円滑さにまで影響を及ぼすことは想像しやすいでしょう。それだけに、今回の通報事例においても、適切に調査を行い、何らかの是正措置が必要であれば対策が講じられるものと考えます。問題はその後一定期間経過したのち、店長やエリア長のマネジメントスタイルに変化が表れているかどうかです。

 通報事例において、エリア長は通報者から店長との関係を相談された際、最終的には「店長と2人で直接話し合ってほしい」と言っています。
 通報者としては、(通報内容が事実であるかどうかは別として)店長との関係に不満を持っており、職制のラインを通じて解決を図るためには店長の上席者にあたるエリア長へ相談することは自然な流れと言えます。しかしながら、エリア長は、自ら解決しようとすることを放棄してしまっていると捉えられても仕方のない対応に終始しています。実際、通報者によれば「エリア長(職制のライン)よりも内部通報窓口」への相談・通報を促す発言があったとのことです。

 また、店長は、「リスクホットライン(内部通報窓口)ができたから何かあればそちらに相談してください。でも、相談する前に私に一声かけてから連絡するようにしてください」と通報者に発言しています。店長の真意として「基本的には店長の自分が解決したいと思うが、どうしても無理そうなら内部通報窓口に相談する方法もある」という意味合いで「一声かけてから」と発言したのであれば、通報者への伝え方が悪かっただけで、管理職としての考え方として恥ずべき点はありません。

 しかしながら、万が一にも「事前に通報されることを察知しておきたいだけ」といった意味合いであったならば、管理職としての資質に疑問が生じてしまいます。エリア長が自らの管轄下の問題を自ら解決する姿勢になること、そして店長が自らの保身ではなく、店舗の管理者としてこれまで以上に自覚を持つことまでフォローアップするところまでが内部通報担当部署、ひいては会社・組織が意識しなければならない部分と言えるでしょう。

 こうした「職制のラインの健全化」、言い換えれば「組織の自浄作用の維持・強化」が行われたところまでフォローアップ(検証)することが内部通報制度のもう一つの意義・目的として肝要であるということです。内部通報制度の意義・目的の一つを「リスクの早期発見・早期対応」として制度を設計し、規程等と実態の乖離を埋めながら、内部通報ガイドラインに則して制度や運営方法を微調整し続けると同時に、(必要となる通報に対しては)是正措置後のフォローアップ(検証)をすることで、「組織の自浄作用の維持・強化」が果たされたのを検証し続けることが、「実効性のある内部通報制度の運用」に向けての方策の一つとなるでしょう。

おわりに

 内部通報制度が今後も内部統制システムの一翼を担うものであることは明らかでしょう。しかし、制度の設計や運用面の課題を含めて、まだまだ議論の余地が多くある制度であることもまた確かでしょう。言い換えれば、公益通報者保護法との適切な距離感を保ちつつ、自社独自の内部通報制度を構築・運用することができるとも表現できます。

 そのために必要なことは、「意義・目的」を明確にすることから始めるべきです。そして、意義・目的に即して担当者の教育・スキルアップを日々行い、絶えず実効性の検証をし続けることが、「自社の」内部通報制度の構築・運用に欠かせません

 特に担当者の教育・スキルアップには、次世代を育成するという使命があります。下記の図表1は、本連載第2回「内部通報制度において企業が抱える問題点・課題」で紹介した「内部通報制度に関するアンケート調査結果」(以下、SPNアンケート)において、内部通報制度の導入からの経過年数と回答者(内部通報担当者)の担当年数の関係を示したものです。

【図表1:内部通報担当者の担当年数と内部通報制度導入年数(SPNアンケート)】

出典:株式会社エス・ピー・ネットワーク「SPNレポート2016(内部通報制度に関するアンケート調査結果)

 内部通報制度を導入してから3年~5年未満の企業において、内部通報担当者は50%が入れ替わっていることが読み取れます。貴社の担当者は何代目でしょうか。現在多くの企業が初代、2代目の担当者であることが推察される中、近い将来、ジョブローテーションからも担当者の交代が必要になります。

 担当者が交代した際、内部通報制度の意義・目的が定まっていなかったり、担当者ごとに統一されていなかったり、あるいは担当者の教育制度が確立されずに属人的なスキルに依拠している場合、安定した制度運営は望めません。制度運営に安定感を欠いてしまうことが内部通報制度の実効性を低下させるリスクとならないようにする必要があります。本連載でお伝えしたかったことは、ここに集約されます。繰り返しとなりますが、「意義・目的」の明確化、担当者の教育・スキルアップおよび実効性の継続的な検証が求められます。


  1. 株式会社エス・ピー・ネットワーク「内部通報窓口『超』実践ハンドブック」134〜142頁(清文社、2016) ↩︎

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