三菱自動車の燃費不正問題、元検察官の目にはどう映ったか

危機管理・コンプライアンス

(写真:Arseniy Krasnevsky / Shutterstock.com)

 三菱自動車で発覚した燃費不正問題は業界再編、社長の退陣へとつながり、新聞、TVなどのメディアで大きく報じられた。
 一連の報道の中で大きくクローズアップされたのは、企業の姿勢だ。三菱自動車は2000年代に2件のリコール隠し事件を起こし、コンプライアンスの徹底と企業風土改革を図っていたが、それでもなお不祥事が発生した原因は一体どこにあったのだろうか。
 元検察官でもあり、不正調査に詳しい渥美坂井法律事務所・外国法共同事業の早川弁護士に話を聞いた。

※ 質問と回答において前提とする事実は、三菱自動車のプレスリリースと国交省の公表内容に依拠し、その他のメディアで報道されている内容には依拠しておりません。

燃費不正の法的な問題は

三菱自動車が公表している方法による燃費不正は法的にどのような問題に当たる可能性があるのでしょうか

 三菱自動車は本年5月18日までに、軽自動車4車種について、型式指定の取得に当たり、実際より燃費を良く見せるため、燃費試験に際して提出が求められている走行抵抗値を不正に操作して国土交通省に提出し、その他9車種についても、走行抵抗を実測せず、不正に操作された他車種のデータから机上計算するなどの不正を行っていたことを公表しました。

 この公表内容の中で、これらの全車種について、燃費試験や排出ガス試験に使用する走行抵抗値に関し、長年にわたり国が定めた方法とは異なる方法で測定していたことが明らかにされています。

 燃費に関しては「エネルギー使用の合理化に関する法律」(いわゆる省エネ法)によって、排出ガスに関しては、道路運送車両法に基づく告示によって測定方法が定められていますので、少なくとも、国が定めた方法と異なる方法で走行抵抗値を測定していたという点については、省エネ法や道路運送車両法に違反する可能性があるといえます。
 今後、国土交通大臣が、型式指定を受けた自動車の構造、装置・性能が保安基準に適合しなくなり、または均一性を有するものでなくなったと判断した場合、道路運送車両法に基づき、型式指定を取り消す可能性も否定できないところであり1、この場合には、対象となる車種の生産や販売を行うことができなくなることになります。

 この他、景品表示法、不正競争防止法違反となる可能性も考えられますが、いずれにしても、今後、国土交通省による調査や三菱自動車の設置した「特別調査委員会」の調査による事案の解明を待って、認定された事実をもとに、法的な問題点や責任の所在などが検討されることになるでしょう。

国土交通省への報告をどう評価するか

不正が明らかになって以降、三菱自動車から国土交通省への報告は4月26日、5月11日、5月18日と3度にわたり行われ、その都度新しい事実が発覚しています。報告の都度新しい事実が明らかになる事は不祥事対応としてどのように評価しますか。

 今回の三菱自動車の燃費不正の場合、国土交通省から期限を設定の上、調査に基づく報告を求められており、報告内容の概要を公表するというプロセスを数回にわたり踏んでいるため、各段階で新しい事実が公表されるというのは、このような特殊性を考慮すれば、一定の限度ではやむを得ないといえるのかもしれません。

 もっとも、本年4月28日の国土交通省の石井大臣の記者会見要旨を見ると、4月26日付の三菱自動車の報告に関して、「この軽四自動車4車種以外の車種についてのデータ改ざんの有無や、また長年に渡って法令に定められた測定方法によらなかったこと等についての経緯の詳細、また責任等の特定などまだ報告されていない内容がございますので、三菱自動車工業に対しまして軽自動車4車種以外の車種を含め、今回の不正行為の全容を解明し、5月11日迄に再度報告するよう指示をしたところです」と発言されていますし、数回にわたる国土交通省の立入検査がなされていることも相まって、三菱自動車の社内調査による事実解明が不十分であるとの印象は拭えません。

不祥事が発生した場合、どのように対応する事が望ましいのでしょうか。

 一般に、企業不祥事が発生した場合、公表の度に新たな事実が判明することを繰り返すということは、「すでに社内で把握していたが隠していたのではないか」、「まだ隠していることがあるのではないか」、「今後どのような事実が発覚するか分からない」という印象を、株主や取引先等のステークホルダー、消費者や社会に与え、当該企業に対する信用を損ない、企業価値の更なる毀損を招くことになりかねません。

 本来の不祥事対応としてあるべき姿は、むしろ、社内の迅速かつ十分な調査に基づき、事案全体の外延、すなわちどこまでの事態に発展し得るかを正確に把握し、初回の公表に当たっても、その外延をある程度明確に示すことが、株主や取引先等のステークホルダーや消費者に安心感を与え、会社の自浄作用が十分に機能していることを対外的に示すことにつながるといえるでしょう。

不正はなぜ発生し、繰り返されたのか

会見では、相次ぐ燃費性能の引き上げがプレッシャーとなり、不正の背景になった可能性を認めています。このようなプレッシャーは、不正発生の一因となるのでしょうか。

 不正行為を実行するメカニズムに関しては、米国の犯罪学者D.R.クレッシーの打ち立てた仮説、すなわち「不正のトライアングル」理論が広く知られています。これは、①動機②機会③正当化の3つの条件がそろうと、不正リスクが生起するというものです。日本の企業不祥事では、上司の意向に従わざるを得ない企業風土の中で、会社組織における上司などからのプレッシャーが、しばしば①動機と③正当化となって、不正につながるという事例が散見されます。

「不正のトライアングル」のイメージ

不正のトライアングル

 例えば、昨年発覚した東芝の不適切会計に関する第三者委員会の調査報告書においても、原因の一つとして、当期利益至上主義と目標必達のプレッシャーが挙げられています2

三菱自動車では、2004年のリコール隠し発覚以降、社外有識者により構成される企業倫理委員会、企業倫理遵守の徹底を図るコンプライアンス・オフィサーを設置するなどの「企業倫理遵守推進体制」を構築していましたが、会見では、社長自ら「自浄作用が働かなかった。」と述べています。体制が機能しない原因はどこにあると考えられるでしょうか。


三菱自動車の企業倫理遵守推進体制

(※三菱自動車HPを参考に作成。なお、企業倫理委員会については、本年6月開催の第143回をもって終了することが公表された。)

 三菱自動車における燃費不正において、自浄作用が働かなかったとすれば、その背景や原因は、今後、特別調査委員会の調査で解明されることとなると思われます。

 一般に、コンプライアンス体制の整備は、会社法の求める内部統制システムの中核をなすものとされており、企業不祥事や法令違反行為等を未然に防止することを目的としています。
 また、内部統制システムの一環として、内部通報制度、すなわち企業において、法令違反等のコンプライアンス上問題となる事象やそのおそれがある場合に、従業員等が当該企業によって設けられた窓口等に通報することができる仕組みを設けている企業も少なくありません。

 ところが、このようなコンプライアンス体制や内部通報制度が整備されていても、これが機能しない原因として挙げられることが多いのは、①経営者や役員のコンプライアンス意識が低い②法令違反行為等に気が付いても、他人事として見て見ないふりをする企業風土がある③社内のコミュニケーションや連携が低調であり、組織内で連帯感・一体感が醸成されていない、などです。

 こうした企業では、コーポレート・ガバナンスが機能せず、コンプライアンス体制や内部通報制度などが形骸化し、企業不祥事や不正のリスクが高いと言わざるを得ないでしょう。なお、東芝の第三者委員会の調査報告書でも、不適切会計の間接的な原因として、コーポレートにおける内部統制が機能していなかったことや内部通報制度が十分に活用されていなかったことが挙げられています3

コンプライアンス体制が機能しない原因の例
  1. 経営者や役員のコンプライアンス意識が低い
  2. 法令違反行為等に気が付いても、他人事として見て見ないふりをする企業風土がある
  3. 社内のコミュニケーションや連携が低調であり、組織内で連帯感・一体感が醸成されていない

事実解明のために、企業、法務担当に求められる事

事実解明について、特別調査委員会には検事経験のある弁護士3名が選出されています。今後、どのような視点で調査が行われるのでしょうか。

 三菱自動車は、本年5月18日付けの国土交通省に対する調査結果の報告に関するプレスリリースにおいて、1991年に道路運送車両法で定められた「惰行法」と異なる「高速惰行法」を使用し続けてきた理由について、「退職者を含め当時の担当者からのヒアリングを行いましたが、明確な回答は得られませんでした」とした上で、「正規の『惰行法』に戻す機会が複数回あったにも拘らず、『高速惰行法』を継続していたことに関しては、2001年に実施した、正規の『惰行法』と『高速惰行法』の乖離が最大2.3%であった試験結果を根拠に、『惰行法』の使用を見送っていたと推測している」と公表しました。

 他方で、三菱自動車は、「経営陣の直接の指示はなく、開発プロセスを適正に管理する体制を構築しておりましたが、経営陣は開発部門の業務実態を十分に把握できておりませんでした」として経営陣の関与及び認識を明確に否定しています。

 これは、法令に従った測定法に改める機会が過去に複数回あったにもかかわらず、それでも長期間にわたり、あえて「高速惰行法」を使用し続けたという燃費不正の背景事情や原因となった可能性のある重要な事実関係について、真相は不明としながら、推測による事実認識を述べる一方で、経営陣の関与および認識は明確に否定していることになりますが、このような公表内容については、事実解明に不十分な点が残ったまま、経営陣の関与等を否定しているとの印象を抱かざるを得ません。

社内では調査しきれない点について外部有識者の力を借りるという事でしょうか。

 三菱自動車は本年4月26日付けのプレスリリースにおいて、「本件問題について、客観的かつ徹底的な調査を行うため、独立性のある外部有識者のみで構成される特別委員会を設置いたしました」とし、その活動内容は、(1)本件問題の事実関係の調査(関連書類・データの調査及び関係者への聴取を含む。)(2)本件問題に類似した不正の存否及び事実関係の調査(3)本件問題に関する原因分析、及び再発防止策の提言としており、また、「特別調査委員会の調査には、技術知見のある有識者にも参画いただくことを検討しております」としています。

 したがって、今後、技術知見を有する有識者も交えた特別調査委員会により、長期間にわたり法の定める測定法に改めなかった背景事情や原因、これに関する歴代の経営陣の関与や認識も含め、客観的かつ徹底的な事実関係の調査がなされ、これを踏まえた原因分析や再発防止策の提言がなされることが期待されるところです。

特別調査委員会の活動内容
  1. 本件問題の事実関係の調査(関連書類・データの調査及び関係者への聴取を含む。)
  2. 本件問題に類似した不正の存否及び事実関係の調査
  3. 本件問題に関する原因分析、及び再発防止策の提言
  4. 技術知見のある有識者も参画することが検討されている

外部有識者による調査を実効性あるものとするために企業としてどのような姿勢で臨むべきでしょうか。

 先ほども述べたとおり、三菱自動車では、外部専門家から構成される特別調査委員会を設置し、この特別調査員会では、技術知見のある有識者の参画も検討しており、今後、客観的かつ徹底的な調査を行い、3か月を目途に調査結果の報告を受け、これを速やかに公表する予定としています。

 一般に、外部有識者による調査において、企業として、全面的に協力し、要請された資料の提出や役職員等の関係者の聴き取りのアレンジなどについて、できる限り迅速かつ円滑に実施することが求められます。

 この過程で、企業には、社内調査では限界があることを踏まえて、外部専門家に調査を委ねる以上、社内調査の結果と異なる事実が発覚するのを恐れるのではなく、むしろこの機会に、外部専門家の徹底した調査により、自社の問題点を全て洗い出してもらい、提言された再発防止策を着実に実行することで、企業の再生を図り、企業価値を早期に回復するという積極的かつ前向きな姿勢で臨むことが肝要と思われます。

調査の中で法務担当はどのような役割を担うべきでしょうか

 調査の過程で、法務担当者は、調査対象者・部署と調査を実施する外部有識者との間の連絡調整役を担うことになるため、外部有識者の要請に対し、迅速に対応する一方で、調査対象者・部署等に対しては、積極的に調査に協力するよう求めるという役割を担うことになります。この際、留意すべきは、 法務担当者には中立性が強く求められるということです。

 法務担当者は、調査の進捗状況や内容に関する情報に触れる機会が多いと思われますが、仮にその中に社内調査では判明していなかった重大な事実が含まれていたとしても、特別調査委員会の意向に従って、秘密を保持し、調査の促進に向けて尽力することが、ひいては会社の早期の企業価値や信頼の回復につながるとの意識をもって対応することが肝要と思われます。

 間違っても、法務担当者が会社の組織防衛を図って、提出要請を受けた資料の提出を遅延したり、その判断で取捨選択したり、あるいは聴き取り調査の対象者に対し、会社に不利なことを述べないように指導するようなことは厳に慎むべきであり、こういった対応は、会社のためにとの意図からなされたとしても、結果的には、外部専門家の調査の事実の調査を阻害し、会社の早期再生や企業価値の回復を妨げるおそれがあることを十分に理解すべきでしょう。


  1. 道路運送車両法75条7項後段は,型式指定を取り消す場合でも、取消しの日までに製作された自動車について取消しの効力の及ぶ範囲を限定することができると規定しています。 ↩︎

  2. 第三者委員会の調査報告書277頁において、「各社内カンパニーにおいては、毎第1四半期及び第3四半期の期首において、月次ごとの予算が作成され、その達成を目指して事業が進められていた。そして、この作成された予算の達成及び見込みの状況については、毎月、社内カンパニー内において報告・検討が行われたのち、社長月例報告会と呼ばれる会議において、コーポレートPに対する報告がなされていた。この社長月例においては、Pから各CPに対し、「チャレンジ」と称して設定した収益改善の目標値が示され、その目標達成を強く迫っており、業績不振のカンパニーに対しては、収益が改善しなければ当該担当カンパニーの事業からの撤退を示唆することもあった。とりわけ、不適切な会計処理が幅広く行われた2011年度から2012年度にかけては、東日本大震災及びそれを契機とする福島第一原子力発電所の事故の発生、タイの洪水による東芝の工場の水没、超円高の進行など、東芝の事業にとって極めて厳しい経営環境が続いていた。そのような中でも、期初に高い予算を設定したため、それを達成できないカンパニーが存在し、予算を達成するためには当該カンパニーはPから厳しい「チャレンジ」(過大な目標設定)数値を求められていた。そのため、各カンパニーのCPらは、これらの目標を必達しなければならないというプレッシャーを強く受けていた。」と指摘されている。 ↩︎

  3. 第三者委員会の調査報告書287頁において、「東芝においては内部通報窓口が設置されており、毎事業年度数十件の通報が行われていたが、本案件に関係する事項は何ら通報されていなかった。東芝の規模を考慮した場合には、東芝の内部通報制度を利用した現状の通報件数は多いとは言えず、何らかの事情で内部通報制度が十分に活用されているとはいえないと推測される。また、今回の工事進行基準案件に関する不適切な会計処理の問題が発覚することとなる端緒が、証券取引等監視委員会による開示検査であったとのことであり、東芝の内部通報制度等による自浄作用が働かなかったのは、会社のコンプライアンスに対する姿勢について、社員の信頼が得られていないことも一因であると思われる。」と指摘されている。 ↩︎

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