企業不祥事の公表の見合わせ

危機管理・コンプライアンス

 私が役員を務める上場会社において、内部調査により不祥事が発覚しました。この内容を公表した場合に、レピュテーションが大きく損なわれて、売上が減少するなどの影響が予想されるので、できれば公表を見合わせたいと思っていますが、これには法的な問題はないのでしょうか?

 企業において不祥事が発覚した場合、その企業が必ず公表や開示を行わなければならないというわけではありません。
 ただし、法令や証券取引所の規則などに基づき、公表や開示が義務付けられていないか検討する必要があるでしょう。
 また、法令等により公表や開示が義務付けられていなくても、将来、消費者や取引先などから損害賠償責任を追及されるリスクを低減するという観点や、企業のレピュテーションリスクなどを考慮して、むしろ積極的に公表や開示を行った方がよい場合もありえます。

解説

はじめに

 昨今、東芝による不適切会計を始め、企業不祥事が後を絶ちません。このような企業不祥事が社内調査などで発覚した場合、企業はこれを必ず公表しなければならないのでしょうか?

 基本的に、企業は、自社の不祥事について必ず公表や開示をしなければならないというわけではありませんが、まず、法令などにより義務付けられている場合には、開示を行わなければなりません。これには、以下に述べるような場合が考えられます。

法令等により開示が義務付けられるもの

上場会社における不祥事 証券取引所規則に基づく開示事由に該当する場合

(1) バスケット条項

 上場会社は、証券取引所の自主規制に基づき、「有価証券の投資判断に重要な影響を与える情報」については、適時に開示することが義務付けられています。 たとえば、東京証券取引所の定める有価証券上場規程は以下の場合、ただちにその内容を直ちに開示することを義務付けています。

402条2号a 災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害が発生した場合
402条2号f 免許の取消し、事業の停止その他これに準じる行政庁による法令に基づく処分又は行政庁による法令違反による告発が発生した場合
402条2号x
aからwまでに掲げる事実のほか、当該上場会社の運営、業務若しくは財産又は当該上場株券等に関する重要な事実であって、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすものが生じた場合

 有価証券上場規程402条xは「バスケット条項」と呼ばれており、一般に、企業の不祥事は広くこの条項に該当し、ただちに開示しなければならない可能性があります。
 このように、企業においては、不祥事の発生に際し、証券取引所規則に基づく開示事由に該当する場合には、開示が義務付けられることになります。

(2) 上場会社における不祥事対応のプリンシプル(案)

 なお、平成28年1月22日付けで公表された日本取引所自主規制法人の「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」(案)では、以下のように定められています。

 企業活動において自社に関わる不祥事又はその疑義が把握された場合には、当該企業は、必要十分な調査により事実関係や原因を解明し、その結果をもとに再発防止策を図ることを通じて、自浄作用を発揮する必要がある。その際、上場会社においては、速やかにステークホルダーからの信頼回復を図りつつ、確かな企業価値の再生に資するよう、本プリンシプルの考え方をもとに行動・対処することが期待される。

①〜③ 略
④ 迅速かつ的確な情報開示 不祥事に関する情報開示は、その必要に即し、把握の段階から再発防止策実施の段階に至るまで迅速かつ的確に行う。この際、経緯や事案の内容、会社の見解等を丁寧に説明するなど、透明性の確保に努める。

 このことから、上場会社の企業活動における不祥事については、透明性のある迅速かつ的確な開示・公表が要請される時代となっていることに留意する必要があるでしょう。

行政処分などの結果、不祥事が公表される場合

 法令に基づき特定の事態が発生したとき、何らかの行政処分が下される場合があります。この場合、その行政処分について官公庁などの行政機関が、事実の公表を行うのが一般的です。
 たとえば、食品事故が発生して、食品衛生法54条に基づく回収命令がなされた場合などには、同法63条に基づく厚生労働大臣による公表がなされることがあります。
 また、不当商品類及び不当表示防止法(景品表示法)6条に基づき、不当表示の禁止(景品表示法4条1項)に違反する行為がある場合などは、内閣総理大臣から権限の委任を受けた消費者庁長官の措置命令に基づき、一般消費者に対する不当の表示等に違反した行為の内容を周知することがあります。

その他法令などにより不祥事の開示・公表が義務付けられている場合

 上記で述べた以外にも、金融商品取引法および関連府令の規定に基づき、臨時報告書の提出が求められる場合があります。

 たとえば、企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項12号の規定する「提出会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローに著しい影響を与える事象が発生した場合」には、その事象の内容などを記載した臨時報告書の提出が義務付けられていますので、上記事象に該当するか否かを検討する必要があります。

 このように法令などにより不祥事の開示や公表が義務付けられている場合には、企業は不祥事の内容を公表・開示をしなければなりません。

自ら積極的に公表を行った方がよいと考えられる場合

 上記 2 のように法令に基づく公表が義務付けられていなくても、①第三者による損害賠償責任のリスクを軽減する必要があると考えられる場合、または、②後日、不祥事が発覚した場合のレピュテーションリスクを考慮して、自ら積極的に公表する方がよいと考えられる場合があります。
 以下ではその具体例を説明します。

第三者による損害賠償責任追及のリスクを軽減するための公表

 たとえば、製品や食品事故などが発生し、製品に人体への危険性があることが判明した場合や、いわゆるリコール措置の対象となった場合に、消費者やユーザーに対し、速やかにこれを公表しなかった結果、健康被害や事故などが発生すると、企業や役員などが損害賠償責任の追及を受けるリスクがあります。
 この点、いわゆる「ダスキン株主代表訴訟事件」(大阪高判平成18年6月9日判タ1214号115頁)では、販売していた肉まんに食品衛生法で禁止されている未認可添加物が使われていることを取締役が認識しながら、これを公表せず、販売を継続していたことに対して、取締役に善管注意義務違反が認められ、多額の損害賠償の支払が命じられました。
 参考までに、判決の一部を抜粋します。公表しなかったことに対して、厳しい態度が取られていることがわかります。

公表した後に予想される社会的な非難の大きさにかんがみ、隠せる限りは隠そうということにしたもので、現に予想されたマスコミ等への漏洩や、その場合に受けるであろうより重大で致命的な損害の可能性や、それを回避し最小限度に止める方策等についてはきちんと検討しないままに、事態を成り行きに任せることにしたのである。それは、経営者としての自らの責任を回避して問題を先送りしたに過ぎないというしかない。

後日、不祥事が発覚した場合のレピュテーションリスクを考慮した公表

 上記の場合以外にも、後日、不祥事が何らかの理由により公になる可能性があるような場合には、自ら積極的に公表した方が良いと考えられる場合もあります。
 後日不祥事が新聞報道などによって公になった場合には、記者会見等を行うことを余儀なくされ、そこで、不祥事の隠蔽を図ったなどと指摘されたり、発覚当時、公表しなかった理由等を問われたりする可能性が高いと思われます。
 他方で、不祥事が発覚した場合に、自ら積極的に公表し、その原因を特定して、適切な再発防止策を早期に講じて実施できる企業は、自浄能力が備わっていることをアピールでき、企業価値を回復・向上させる良い機会ともいえるので、早期の公表を実施する方が望ましいとも考えられます。   

不祥事の公表を見合わせることについて

 企業の不祥事の内容は様々であり、これまで述べてきたような不祥事の開示・公表が義務付けられる場合や、任意に不祥事の内容を公表することが望ましい場合に該当しなかったのであれば、経営判断として、あえて不祥事の公表を見合わせるという選択肢を取ることもありえるかもしれません。
 その判断に至るには、不祥事の原因、公表された場合に想定される社会的な影響、いずれ公になる可能性がどの程度あるか、公表しなかった理由についてマスコミやステークホルダー等の理解を得られる見込みがあるかなど、諸般の事情を総合的に考慮する必要があるでしょう。

おわりに

 企業で不祥事が発覚した場合に、これを公表することには通常、抵抗感が伴うと思います。
 しかし、これまで説明したように、まずは法令などで公表や開示が義務付けられていないか検討する必要があり、これには関係法令を網羅的にチェックする必要があります。
 また、法令などにより公表や開示が義務付けられていなかったとしても、任意に公表するか否かを判断するために、第三者によって損害賠償責任を追及されるなどのリーガルリスクの有無や、程度等も考慮する必要があります。
 さらに、公表を見送った場合、何らかの理由で公になることを想定して、その場合にも不祥事の隠蔽を図ったと烙印を押されることなく、説得的かつ合理的な説明ができるか否かの検討が必要となります。

 したがって、こうしたリーガルリスクの判断を伴う不祥事の公表の要否を決めるにあたっては、各種規制法に詳しい弁護士に相談することをお勧めいたします。

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