企業不祥事を予防するための効果的な方策

危機管理・コンプライアンス

 企業不祥事が相次ぐ中、不祥事を予防するための効果的な方策としてどのようなものがありますか?

 コーポレート・ガバナンスの構成要素の機能を高めるという観点からの方策として、①内部統制システムの構築・強化、②内部通報制度の導入・活用、③内部監査における不正リスク対応、④研修等による役職員のコンプライアンス意識の醸成・向上等が挙げられますが、各方策には一定の限界があります。
 そこで、これを補完する方法として、人工知能(AI)を活用したEメール自動監査システムやパソコンの不正操作探知システム等のテクノロジーを使った不祥事予防策も考えられますので、各企業の実情に応じた効果的な方策を検討することが必要になると思われます。

解説

 はじめに

 昨年発覚した東芝の不適切会計に代表されるように、いったん上場会社において不祥事が起きると、株価の大幅な下落、当局による課徴金納付命令、株主等による民事責任の追及、業績の悪化等により企業価値が毀損されることになり、最悪の場合には、上場廃止に追い込まれるリスクもあります。
 他方、非上場会社等において不祥事が起きた場合であっても、事業継続に支障を及ぼしかねないリスクとして、主力商品の売上の減少による業績悪化、上場会社である大口取引先による取引の打切りや金融機関から追加融資の見送り等が考えられます。
 このように、上場の有無を問わず、不祥事の発生は、企業価値の毀損を招くだけでなく、状況次第では、事業継続自体が危うくなる事態に発展しかねないことから、企業においては、平時から不祥事の予防に努めることが肝要となります。

 それでは、不祥事の予防するための効果的な方策として、どのようなことが考えられるのでしょうか?

従来型の不祥事の予防策について

 不祥事を予防するための方策として、従来から、コーポレート・ガバナンスを構成する要素の機能を高めるという観点から、①内部統制システムの構築・強化、②内部通報制度の導入・活用、③内部監査における不正リスク対応、④研修等による役職員によるコンプライアンス意識の醸成・向上等が挙げられることがあります。   

内部統制システムの構築・強化

 平成26年改正会社法において、「大会社」とされている、資本金5億円以上又は負債200億円以上の大規模な会社に関し、すべての「大会社」の取締役会は、当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するための体制の基本方針を決定する義務を負うこととなりました(会社法362条5項、4項6号、会社法施行規則100条1項5号等)。このような法改正も踏まえ、企業が構築する内部統制システムが実効性を持ち、有効に機能すれば、不祥事への抑止効果が期待できます。

 しかしながら、これまで発覚した企業不祥事においては、経営者自身が個人的な利得目的などにより違法行為を主導し、内部統制自体を無効化した事例も見受けられ、このような場合、内部統制システムはもはや機能しません。
 やはり、内部統制システムが有効に機能する前提条件としては、企業のトップが組織目標として、コンプライアンスを重視するという明確なメッセージを掲げ、これが役職員、管理者にも浸透し、コンプライアンスに常に気を配るという企業文化が醸成されることが必要であると思われます。  

内部通報制度の導入・活用

 従来から、不祥事の早期発見・未然防止の方策としての有効性が高く、不正の主な摘発手段であると言われています。実際に不正の発覚に際して、内部通報により告発がなされた事例も相当多数存在すると思われます。
 他方で、内部通報制度を導入しても、通報実績がほとんど認められないという企業も見受けられるようです。 内部通報制度が十分に機能するための工夫としては、内部通報制度による不利益を受けないことなども含め、制度を企業内で徹底周知することなどが対策として考えられます。
 ただ、内部通報制度は、これを利用する通報者においては、社内での自浄作用に期待できないために、いわば「内部告発」の手段として、すでに不祥事であることが明白あるいはその疑いが濃厚な情報をもたらすことから、多くの事例では本格的な調査が必要となる事態にまで発展してしまっている場合が多いといえます。

内部監査におけるリスク対応

 これに積極的に取り組んでいる企業もあるようですが、企業によっては、内部監査に当てられる人的・物的リソースが限られている点や、内部監査はそれ自体、不祥事や不正の早期発見を目的としたものではない点などにおいて、限界があることは否定できません。

研修等による役職員によるコンプライアンス意識の醸成と向上

 役職員のコンプライアンスの意識を醸成し、向上させることができるという点で一定の効果が見込めます。しかし、いくら役職員一人一人がコンプライアンス意識を高めたとしても、たとえば、社長が横領を行っているのを他の役職員が薄々認識していても、それを指摘することによる人事上の不利益等を恐れて、黙認し、あるいは、見て見ぬふりをするような企業風土、ガバナンスが機能せず、コンプライアンスに消極的な企業風土が存在するならば、コンプライアンス研修等の効果は望めないと思われます。

職場環境形成の理想と現実

 やはり、企業という組織においては、役職員が自分の担当業務に対するやりがいや組織自体に誇りを持つことができるような職場環境が形成されるか否かが重要であると思われます。
 このような環境が形成されれば、役職員がコンプライアンス意識を持ちつつ、その組織のために、あるいは、自己や他の役職員、ステークホルダー等に配慮し、良識を持って誠実に行動しようというインセンティブが醸成されるとともに、職場内でのコミュニケーションが活発となり、互いに連絡・相談できる良好な人間関係が構築され、組織としての連帯感が形成されるようになります。こうした組織内でのコミュニケーションや円滑・活発なコミュニケーションがひいては、不祥事の早期発見・未然防止につながると考えられます。

 ただ、これは、組織のマネジメントのあり方の問題であり、企業は理念・目的・規模・上場非上場の区別等も含め、様々であり、経営陣の資質の問題等も相まって、現実には全ての企業に対し、こうした組織体制の構築や企業風土の醸成を期待するのは現実的ではないと思われます。
 したがって、こうした従来から言われてきたコーポレート・ガバナンスを構成する要素の機能を高めるというアプローチとは異なる方策によって、不祥事の予防策を補完的に検討する必要があると思われます。   

テクノロジーを活用した不祥事の予防策

 米国の犯罪学者D.R.クレッシーにより提唱された不正が起きるメカニズムに関する仮説が広く支持されています。これは、「不正のトライアングル」とも呼ばれており、①動機・プレッシャー、②機会、③正当化の3つがそろえば、不正が起きやすいということです。
 そこで、一つの考えられる不祥事予防のアプローチは、「不正のトライアングル」のうち、時系列として先に来る、「①動機・プレッシャー」に着目し、かつ、テクノロジーを活用して、この要素を不祥事が起きる前に①動機・プレッシャーになり得る事象を特定して、そのリスクを排除または低減しようとするというものです。

人工知能を活用したEメール自動監査システム

どのようなシステムか

 行動情報科学により情報漏洩等の不正行為に結び付く徴候を「動機の段階」において把握するため、Eメールの中から、給料の金額や処遇等に関する会社への不平・不満、借金を抱えていることや病気を抱えているなどの個人的な不安や問題点等を把握し、不正の動機につながる情報を抽出して把握し、これに対し、速やかに適切な対応を講じることにより、不祥事を予防するというシステムが活用されています。

期待される不祥事の抑止効果

 このEメール自動監視システムは、人工知能(AI)を活用したものであり、Eメールの中から、不祥事の徴候につながる情報を早期に発見することに非常に効果的であると思われます。
 Eメールのモニタリングにあたっては、プライバシー等の関係で配慮すべき点はあるものの、仮にこのシステムが導入され、モニタリングされていること自体が企業内で周知されれば、それ自体が不祥事の抑止効果となることも期待されると思われます。

会社の組織全体にも生かすことができる

 このようなEメールの自動監査システムの効果は不祥事の予防にとどまるものではなく、会社の組織体制、業務プロセス、人事配置、労務管理、企業風土等を見直すのに必要な有用な情報を提供するものと思われます。
 こうしたEメールに表れる社内の生の声を、役員が会社の業務改善の参考になる有益な情報として真摯に受け止めれば、副次的な効果として、企業の組織体制の見直し、業務フローの合理化・効率化、人事配置・労務管理体制の見直し、風通しの良いコミュニケーションの構築、活力のある良好な企業風土の形成などにも生かすことができると思われます。

パソコン操作の不正探知システム

 企業内のパソコンに特定のソフトをインストールすることにより、従業員による機密情報のUSBメモリの使用状況や機密情報などの重要情報へのアクセス記録等をモニタリングし、必要な場合には遠隔操作によりデータを削除するなどの対応を可能とするシステムが活用されています。
 こうしたシステムにより、個人情報や営業秘密等の情報漏えいを始めとする不正の徴候を未然に探知し、予防することに効果を発揮することが期待できます。

おわりに

 企業不祥事を未然に防ぐことは不可能であり、不正のトライアングルの要素がそろえば不可避的に不祥事が発生するという指摘があります。
 仮に、そうであったとしても、企業としては、不祥事の発生が及ぼす影響の大きさを想定し、平時から不祥事の予防に取り組むことによって、不祥事の芽を早期に摘むことができ、あるいは、不祥事による企業価値の毀損を最小限に抑えることが可能となります。
 また、思いがけず不祥事が発生してしまったとしても、平時の不祥事防止に向けた取組状況が役員の責任の回避・軽減につながるといえます。
 このような観点からも、平時からの不祥事の予防に向けた取組は非常に重要であると思われます。

コンテンツの更新情報、法改正、重要判例をもう見逃さない!メールマガジン配信中!無料会員登録はこちらから
  • facebook
  • Twitter

関連する特集