日本版司法取引制度(協議・合意制度)の概要

危機管理・コンプライアンス

 日本版司法取引制度(協議・合意制度)とはどんな制度ですか。

 日本版司法取引制度とは、検察官と被疑者・被告人およびその弁護人が協議し、被疑者・被告人が「他人」の刑事事件の捜査・公判に協力するのと引換えに、自分の事件を不起訴または軽い求刑にしてもらうことなどを合意するという制度です(刑事訴訟法350条の2~350条の15)。

解説

制度の趣旨・特徴

 いわゆる日本版司法取引とは、組織的な犯罪(企業の関わる経済犯罪等)の解明を目的として導入された捜査・公判協力型の協議・合意制度のことで、米国における同様の制度を参考に、平成28年の刑事訴訟法改正により新設されたもので、2018年6月1日から施行されることが決まっています。

 すなわち、協議・合意制度とは、被疑者や被告人(以下「被疑者等」)が、組織的な犯罪において中心的な役割を担った第三者(法文では「他人」という表現)の犯罪を明らかにするため、検察官等に対し、真実に合致する供述をしたり証拠を提出するという協力行為の見返りに、自分の起訴を見送ってもらったり(不起訴処分)、起訴された場合でも軽い求刑をしてもらったりできるようにする仕組みのことです。

 いわゆるリニア談合事件(独占禁止法違反:不当な取引制限の罪)(2018年3月23日、東京地検特捜部が、関与したゼネコン4社のうち、捜査に協力的だった2社の担当者2名については、逮捕せず起訴自体も見送りましたが、否認を続けていた他の2社の担当者2名は逮捕・勾留の上、起訴しました)は、協議・合意制度の適用事案ではありませんが、このように、捜査へ協力したかどうかで処分等にはっきり差が付けられたことは、この新たな制度の運用開始を見越したものではないかという見方もできます。

 この制度は、組織的な犯罪等における首謀者の関与状況を含めた事案の全容解明に役立つ証拠を獲得することを目的とするもので、一定の財政経済関係犯罪も対象とされていることから、企業活動にも大いに関わりがあります。たとえば、犯罪の実行犯である部下従業員から、企業の役員あるいは幹部職員等の上位者の関与を明らかにする「有罪証拠」(供述やその裏付け証拠)を効率的に獲得するということが想定されます。

 これまで、日本にはなかった制度です。実際に何の見返りもなしに他の共犯者の捜査・公判への協力を求めるのはとても難しいため、そこで、協力に対するインセンティブを与えたというのがこの制度です。大きな特徴は、あくまで「他人」の刑事事件の捜査・公判に協力するという点です。「自分」の罪を認める代わりに不起訴などを約束してもらうもの(「自己負罪型」)ではありません。アメリカでは両方認められていますが、日本では協力型だけが導入されたので、「日本版司法取引」といわれるわけです。独占禁止法上の課徴金減免制度(リーニエンシー)と似た制度だといえます。

   参照:「課徴金減免制度(リニエンシー/leniency)とは」  

対象となる犯罪

 対象は特定の犯罪(特定犯罪)に限られますが、たとえば、独占禁止法違反、金融商品取引法違反など、企業活動に関わりの深いものが含まれます。

協力の内容

 法律上は、「真実の供述」と「証拠の提出その他の必要な協力」と定められているだけで、どんな行為が「協力」と認められるかは検察官の裁量に委ねられます。内容が虚偽ではないことは当然としても、いくら役立つと思って必要な証拠を提供したとしても、真相解明にあまり役立たないものであれば、検察官は合意に応じてくれないでしょう。

 この点に関し、真実の供述とは、客観的な事実関係に合致することではなく、自己の記憶に従った供述をすることを意味し、結果として誤りであることが後にわかったとしても、虚偽供述等処罰罪(刑事訴訟法350条の15)に問われることはありません。もっとも、実際には、客観的な裏付けもなく信用性があるかどうかもあやふやな供述では検察官と合意することは難しいので、弁護人と、十分協議し、信用性を確保するために考えられること(たとえば、「他人」が関与したとする供述内容の裏付けとなるメモ、手帳の記載、メールのやり取り等の客観的資料の確保、事情を知る関係者の特定など)をあらかじめ検討しておかなければなりません。

弁護人の関与

 協議には被疑者等だけではなく弁護人も関与することが必要ですし、合意には弁護人の同意が不可欠です(刑事訴訟法350条の3、350条の4)。したがって、この制度において、弁護人の果たす役割は大きく、刑事実務に精通した弁護士の起用は非常に重要となります。

日本版司法取引「協議・合意制度」とは?

Q&Aでわかる日本版「司法取引」への企業対応 - 新たな協議・合意制度とその対応 -
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