新日鉄住金の技術流出で元従業員と和解成立 問われる個人の責任

競争法・独占禁止法

 新日鉄住金の製造技術が韓国の鉄鋼大手ポスコに流出していた問題で、新日鉄住金と元従業員側が和解したと4月18日に報じられた。
 新日鉄住金は元従業員とポスコによる営業秘密の不正取得・使用が不正競争防止法違反にあたるとして提訴し、営業秘密の使用差し止めや損害賠償などを求めており、ポスコとは2015年に和解していたが、元従業員に対しても責任追及を続けていた。
 報道では、関与した元従業員全員が謝罪し、1億円を超す解決金を支払った者もいるとされているが、営業秘密の漏えいに関わった個人にはどのような責任が課されるのだろうか。
 不正競争防止法の実務に詳しい、弁護士法人北浜法律事務所の荒川 雄二郎弁護士に聞いた。

営業秘密の漏えいに対する法的な対応

元従業員による在職中または退職後の営業秘密の漏えいが疑われる場合、法的にどのような対応が取れるのでしょうか。

 元従業員による営業秘密の漏えいは、元勤務先の就業規則や在職中または退職時に差し入れた誓約書の定める守秘義務に違反するとともに、退職金の不支給や返還事由となる場合が多いと考えられます
 元勤務先は、それらに基づき、元従業員に対し、営業秘密の使用・開示の差止め損害賠償退職金の返還を請求することができます。
 また、元従業員による営業秘密の漏えいは、不正競争防止法上の不正競争行為にあたるので(不正競争防止法2条1項4号、7号)、同法に基づく営業秘密の使用・開示の差止め損害賠償を請求することができます(不正競争防止法3条、4条)。さらに、元従業員による営業秘密の漏えいは、図利加害目的などの所定の要件を満たす場合や、元従業員が営業秘密を不正に取得・領得した場合は無論のこと(不正競争防止法21条1項2号、4号)、取得自体は正当になされた場合でも、不正競争防止法上の営業秘密侵害罪という犯罪を構成することとなり(不正競争防止法21条1項5号、6号)、元従業員は10年以下の懲役もしくは2000万円以下の罰金に処せられます。元勤務先は元従業員の処罰を求めて、被害届の提出や刑事告訴を行うことができます。  

個人への責任追及は一般的か

相手の企業だけでなく、営業秘密を漏えいした個人に責任を追及するという事は一般的なのでしょうか。

 上記のとおり、営業秘密を漏えいした元従業員は、民事上・刑事上の責任を負うことになります。1996年以降の民事裁判例を確認したところ、元従業員が在職中または退職後に営業秘密を漏えいしたとされる事案においては、漏えい相手の企業だけではなく、共同被告として、元従業員に対しても損害賠償などが請求されている例が圧倒的に多く、営業秘密を漏えいした元従業員の民事上の責任を追及することは、かなり一般的と言えます。
 また、刑事責任については、2003年の不正競争防止法の改正による営業秘密侵害罪の創設以降、その処罰範囲や罰則は、法改正の都度、拡大・強化されており、ヤマザキマザック事件東芝事件ベネッセ事件など、近年報道されている著名事件においても、営業秘密を漏えいした元従業員らは、逮捕・起訴されたうえ、有罪判決を受ける場合が一般的です。その捜査の端緒として、元勤務先による捜査機関への被害届の提出や刑事告訴がなされているものと考えられます。  

金額の算定方法

1億円を超す解決金を支払った者もいると報じられていますが、金額はどのように算定されるのでしょうか。

 訴訟上の和解をする際、解決金の金額は、原告の被告に対する請求額をもとに、原告と被告双方から裁判所に提出された法律上・事実上の主張や証拠を総合的に勘案して、仮に判決となった場合に見込まれる認容額を導き出したうえ、被告の支払能力の有無や早期解決のメリットを踏まえて、判決となった場合に見込まれる認容額に相当程度の減額をした額となることが一般的です。
 とはいえ、和解である以上、どれだけ適切な条件が提示されていても、原告と被告の双方がこれに合意しなければ、最終的に和解が成立することはありません。その意味では、和解協議のタイミングや裁判外の様々な事情も、和解における解決金の金額に少なからず影響するものと言えます。今回のケースにおける解決金の金額が、どのような過程を経て決定されたものであるのかはわかりませんが、原告と被告双方が、上記のような諸点のほか、訴訟上・訴訟外の諸事情をまさに総合的に勘案したうえで、最終的に合意に至った金額ということになります。

今後の影響は

今回のケースを受けて営業秘密の漏えいなどの産業スパイ行為に対して個人への責任追及が進む可能性はあるのでしょうか。

 前記のとおり、元従業員による営業秘密の漏えいを理由とする民事裁判においては、漏えい相手の企業だけではなく、元従業員をも共同被告として、その責任追及を行うのがむしろ一般的です。これは、そもそも漏えい相手の企業が元従業員の新たに設立した企業であり、両者が一体であることが少なくないためとも考えられますが、今回のケースを受けて、いわゆる産業スパイ行為に関しても、 営業秘密を漏えいした元従業員個人への責任追及が強まることはあっても、弱まることはないと考えてよいのではないでしょうか。

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