独禁法上問題となり得る流通段階の取引行為とは?
競争法・独占禁止法
独占禁止法と流通・取引慣行ガイドラインの概要
高まるコンプライアンス意識と独占禁止法
今日の企業活動においては、コンプライアンス意識の高まりとあいまって、独禁法に対する関心・懸念が従前よりも強くなっています。企業法務に携わる方々にとっても、独占禁止法(以下「独禁法」といいます)の考え方を理解しておくことは非常に有益です。もっとも、独禁法の条文は、他の法令と比べて文言が抽象的ですので、個別具体的な事案において、どの条文が、どのような解釈により、適用されるのかが、分かりにくいと言われています。
メーカーや流通業者にとって重要な「流通・取引慣行ガイドライン」
このような独禁法を理解する上で参考となるのが、公正取引委員会が定めるガイドラインです。数あるガイドラインのうち、流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針(以下「流通・取引慣行ガイドライン」といいます)は、独禁法の一般的な考え方とともに、問題となり得る具体的な行為を例示していますので、とても参考になります。
流通・取引慣行ガイドラインは、第1部「事業者間取引の継続性・排他性に関する独占禁止法上の指針」、第2部「流通分野における取引に関する独占禁止法上の指針」、第3部「総代理店に関する独占禁止法上の指針」の3部構成となっています。直近では、平成27年3月30日に一部改正されています。
本稿では、メーカーと流通業者(卸売業者・小売業者)の間で問題となり得る行為と関係する、第2部「流通分野における取引に関する独占禁止法上の指針」(以下「流通分野取引ガイドライン」といいます)について、取り上げることとします。
流通分野において独禁法上問題となり得る行為について
メーカーが卸売業者や小売業者等の流通業者に対して、販売価格、取扱い商品、販売地域、取引先等の制限(これらの行為を総称して「垂直的制限行為」といいます)や、リベートの供与および経営関与を行うと、流通業者間の競争やメーカー間の競争を阻害する効果が生じることがあると言われています。
流通分野取引ガイドラインでは、大別すると、特徴的な8つの行為類型について定めていますが、以下では、メーカーによる垂直的制限行為の例を取り上げることとします。
再販売価格維持行為
再販売価格拘束は原則違法
メーカーが流通業者に対し、自社製品の販売価格(再販売価格)を示し、これに拘束させることを再販売価格の拘束といいます。このような再販売価格の拘束は、流通業者間の価格競争を減少・消滅させることになるので、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となります(独禁法2条9項4号〔再販売価格の拘束〕)。
例外:「正当な理由」がある場合
再販売価格の拘束が行われる場合であっても、「正当な理由」がある場合には違法とはならないとされています。
この「正当な理由」については、平成27年の流通・取引慣行ガイドライン改正で考え方が明確化されており、以下の要件が充足された場合に「正当な理由」があり違法とならないとされています。
「正当な理由」の要件
- 再販売価格の拘束によってブランド間の競争が促進されること
- 当該商品の需要が増大し、消費者利益も増進すること
- 他の方法によっては当該競争促進効果が生じ得ないこと
- 必要な範囲及び必要な期間の拘束であること
- 当該商品の需要が増大し、消費者利益も増進すること
もっとも、実務家からは、現実的にこれらの要件を全て満たす場面は極めて限定的であると考えられ、実際の価格戦略としては、「正当な理由」に依拠するのでなく、「拘束」の要件を満たさないという点を根拠にすることが、現実的な選択であるとも指摘されています 。
価格拘束があると再販売価格の拘束があるとみなされる
文書によるか口頭によるかを問わず、メーカーと流通業者との間の合意によって、メーカーの示した価格(確定した価格のみならず、条件付や一定の幅のある設定も含みます)で販売するようにさせている場合や、メーカーの示した価格で販売しない場合に経済上の不利益を課し、または課すことを示唆する等、何らかの人為的手段を用いることによって、当該価格で販売するようにさせている場合には、再販売価格の拘束があるものとされています。
委託販売や取次販売の場合における価格指示は通常違法とならない
メーカーからの委託販売やメーカーの取次ぎとして機能し、実質的にみてメーカーが販売していると認められる場合には、メーカーが直接の取引先に対して価格を指示しても、通常、違法とはならないとされています。
流通調査は通常独禁法の問題とならない
メーカーが自社の商品を取り扱う流通業者の販売価格、販売先等を調査することがあります。このような流通調査については、平成27年の流通・取引慣行ガイドライン改正により考え方が明確化され、「メーカーの示した価格で販売しない場合に流通業者に対して出荷停止等の経済上の不利益を課したり、または課す旨を通知・示唆したりする等、流通業者の販売価格に関する制限を伴うものでない限り、通常は独禁法上の問題とはならない」とされています。
流通業者の競争品の取扱いに関する制限
「流通業者の競争品の取扱いに関する制限」とは、例えば、メーカーが流通業者に対して、自社商品のみの取扱いを義務付けたり、競争関係にある商品の取扱いを禁止・制限したり、流通業者の取扱い能力の限度に近い販売数量の義務付けを行うような場合をいいます。
原則違法となる場合
①市場における有力なメーカーが、②競争品の取扱い制限を行い、③これによって新規参入者や既存の競争者にとって代替的な流通経路を容易に確保することができなくなるおそれがある場合(市場閉鎖的効果を生じる場合)には、不公正な取引方法に該当し、違法となるとされています(一般指定 11項〔排他条件付取引〕または12項〔拘束条件付取引〕。
例外1:市場におけるシェアが10%未満かつその順位が上位4位以下
「市場における有力なメーカー」とは、市場閉鎖的効果が起こり得る場合を想定して、競争関係にある商品の市場におけるシェアが10%以上、またはその順位が上位3位以内であることが一応の目安となるとされています。
言いかえれば、市場におけるシェアが10%未満であり、かつ、その順位が上位4位以下である事業者が競争品の取扱い制限を行う場合には、違法にならないとされています。
市場における有力なメーカーかどうかの目安
- 市場におけるシェアが10%未満
- 市場における順位が4位以下
例外2:市場閉鎖的効果を生じない場合
市場における有力なメーカーが競争品の取扱い制限を行っても、市場閉鎖的効果を生じない場合には、違法とはなりません。市場閉鎖的効果を生じるか否かは、次の事項を総合的に考慮して判断されます。
市場閉鎖的効果を生じるかどうかの判断基準
- ブランド間競争の状況
- ブランド内競争の状況
- メーカーの市場における地位
- 流通業者の事業活動に及ぼす影響
- 流通業者の数及び市場における地位
販売地域に関する制限
販売地域に関する制限の例
メーカーが販売店の営業地域をテリトリー制によって制限することはよくあるかと思いますが、これを「販売地域に関する制限」といいます。
責任地域制 | 一定の地域を主たる責任地域として定め、当該地域内において、積極的な販売活動を行うことを義務付けること |
販売拠点制 | 店舗等の販売拠点の設置場所を一定地域内に限定したり、販売拠点の設置場所を指定すること |
厳格な地域制限 | 一定の地域を割り当て、地域外での販売を制限すること |
地域外顧客への販売制限 | 一定の地域を割り当て、地域外の顧客からの求めに応じた販売を制限すること |
責任地域制、販売拠点制
メーカーが、商品の効率的な販売拠点の構築やアフターサービス体制の確保等のため、流通業者に対して責任地域制や販売拠点制を採ることは、厳格な地域制限または地域外顧客への販売制限に該当しない限り、違法とはならないとされています。
厳格な地域制限、地域外顧客への販売制限
市場における有力なメーカーが、流通業者に対し厳格な地域制限を行い、これによって当該商品の価格が維持されるおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となります(一般指定12項〔拘束条件付取引〕)。
また、メーカーが流通業者に対し地域外顧客への販売制限を行い、これによって当該商品の価格が維持されるおそれがある場合にも、不公正な取引方法に該当し、違法となります(一般指定12項〔拘束条件付取引〕)。なお、この場合においては、文言上、「市場における有力なメーカー」に限定されていません。
当該商品の価格が維持されるおそれがある場合とは
「当該商品の価格が維持されるおそれがある場合」とは、非価格制限行為により流通業者間の競争が妨げられ、流通業者がその意思で価格をある程度自由に左右し、当該商品の価格を維持しまたは引き上げることができるような状態をもたらすおそれが生じる場合をいい、前記の市場閉鎖的効果を生じるか否かを判断する際の判断基準に従って判断されます。
当該商品の価格が維持されるおそれがある場合の判断基準
- ブランド間競争の状況
- ブランド内競争の状況
- メーカーの市場における地位
- 流通業者の事業活動に及ぼす影響
- 流通業者の数及び市場における地位
流通業者の取引先に関する制限
流通業者の取引先に関する制限の例
流通分野取引ガイドラインでは、次の3類型が挙げられています。
帳合取引の義務付け | メーカーが卸売業者に対して、その販売先である小売業者を特定させ、小売業者が特定の卸売業者としか取引できないようにすること |
仲間取引の禁止 | メーカーが流通業者に対して、商品の横流しをしないよう指示すること |
安売り業者への販売禁止 | メーカーが卸売業者に対して、安売りを行う小売業者への販売を禁止すること |
安売り業者への販売禁止
メーカーが卸売業者に対して安売りを行うことを理由に小売業者へ販売しないようにさせたり、メーカーが従来から直接取引している流通業者に対して安売りを行うことを理由に出荷停止を行ったりすることは、当該商品の価格が維持されるおそれがあるとされ、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となるとされています(一般指定2項〔その他の取引拒絶〕、12項〔拘束条件付取引〕)。
帳合取引の義務付け、仲間取引の禁止
小売業者の仕入先として特定の卸業者が決定している取引を「帳合取引」といい、また、流通段階において同じレベルにある卸売商相互間の取引を「仲間取引」といいます。
帳合取引を義務付ける行為や、仲間取引を禁止する行為を行った場合、当該商品の価格が維持されるおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となるとされています(一般指定12項〔拘束条件付取引〕)。
選択的流通について
メーカーが自社の商品を取り扱う流通業者に関して一定の基準を設定し、この基準を満たす流通業者に限定して商品を取り扱わせようとする場合、取引相手の流通業者に対し、自社の商品の取扱いを認めた流通業者以外の流通業者への転売を禁止することがあります。これを「選択的流通」といいます。
このような「選択的流通」については、平成27年の流通・取引慣行ガイドラインの改正により考え方が明確化され、①流通業者に関して設定される基準が、商品の品質保持、適切な使用の確保等、消費者の利益の観点からそれなりの合理的な理由に基づくものと認められ、かつ、②他の流通業者に対しても同等の基準が適用される場合には、通常、独禁法上の問題とはならないとされています。
小売業者の販売方法に関する制限
小売業者の販売方法に関する制限の例
メーカーの小売業者に対する販売方法の制限として、次のような態様が挙げられます。
- 商品の説明販売を指示すること
- 商品の宅配を指示すること
- 商品の品質管理の条件を指示すること
- 自社商品専用の販売コーナーや棚場を設けることを指示すること
適法となる場合
メーカーが小売業者に対して、上記のような態様で販売方法を制限することは、商品の安全性の確保、品質の保持、商標の信用の維持等、①当該商品の適切な販売のためのそれなりの合理的な理由が認められ、かつ、②他の取引先小売業者に対しても同等の条件が課せられている場合には、それ自体は独禁法上問題となるものでないとされています。
違法となる場合
メーカーが小売業者に対して、販売価格、競争品の取扱い、販売地域、取引先等についての制限を行っている場合には、上記「再販売価格維持行為」から「流通業者の取引先に関する制限」の考え方に従って違法性の有無が判断されることとされています(独禁法2条9項4号〔再販売価格の拘束〕、一般指定11項〔排他条件付取引〕または12項〔拘束条件付取引〕)。
おわりに
以上のとおり、流通分野において独禁法上問題となり得る行為を見てきましたが、自社の取引行為が独禁法に違反していないか、反対に過度に委縮していないか、見直してみてはいかがでしょうか。なお、公正取引委員会の考え方は、毎年度公表される相談事例集のほか、電話・来庁による相談でも把握することができますので、これらも活用されることをお勧めします。

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