長崎県地銀統合 - ふくおかFG(親和銀)・十八銀 公正取引委員会の承認に至る経緯と地銀統合のこれから

競争法・独占禁止法

公正取引委員会は8月24日、ふくおかフィナンシャルグループ(ふくおかFG)と十八銀行の統合承認を公表した。統合に向けて基本合意をしたのは2016年2月。2年を超える審査を完了し、ふくおかFG傘下の親和銀行は十八銀行と2020年4月に合併する。他行への債権譲渡という初の手法によって得られた承認は、今後の地銀統合案件にどのような影響を与えるのだろうか。

独占禁止法の実務に詳しい平山法律事務所の平山賢太郎弁護士に聞いた。

【公正取引委員会の承認までの経緯と統合までのスケジュール】

時期 できごと
2016年2月26日 ふくおかFGと十八銀行の経営統合を公表(「経営統合に関する基本合意について」)

ふくおかFG傘下で長崎県に本拠をおく親和銀行と、同じく長崎県に本拠をおく十八銀行の合併が、2018年4月に予定されていた。
2016年6月8日 公正取引委員会 株式取得に関する計画の届出の受理(第1次審査の開始)
2016年7月8日
公正取引委員会 2社に報告等要請(第2次審査の開始)
2017年7月25日 ふくおかFGと十八銀行によって、期限を定めずに統合スケジュールを延期することが発表される(「株式会社ふくおかフィナンシャルグループと株式会社十八銀行の経営統合のスケジュールに関するお知らせ」)

公正取引委員会における企業結合審査が完了していない点が理由としてあげられた。
2018年4月11日 金融庁の検討会議「地域金融の課題と競争のあり方」公表
2018年8月15日 公正取引委員会 全ての報告等の受理(意見聴取の通知期限:平成30年11月14日)
2018年8月24日 公正取引委員会「株式会社ふくおかフィナンシャルグループによる株式会社十八銀行の株式取得に関する審査結果について」公表

排除措置命令を行わない旨の通知
2018年10月(予定) 両社による株式交換契約の締結
2018年12月(予定) 臨時株主総会
2019年4月(予定) 両社の経営統合
2020年4月(予定) 親和銀行と十八銀行の合併

公正取引委員会の承認に至るまで

2016年に経営統合が公表されてから公正取引委員会の承認まで2年以上かかりました。どのような点が審査の長期化につながったのでしょうか。また、公正取引委員会による審査の方法に問題はなかったでしょうか。

ふくおかFGと十八銀行(以下、当事会社といいます)の過去のプレスリリースや新聞報道等によれば、公正取引委員会と当事会社との間では、競争上の懸念の有無等や、懸念を解消するためにとるべき措置(問題解消措置)の内容について、長期間にわたる協議が続けられ、この過程では、顧客等に対する大規模なアンケート調査が公正取引委員会によって複数回実施されたようです。

本件では、この協議等の長期化が審査期間の長期化につながったといえるでしょう。本件においてとられることになった問題解消措置は後述のとおり先例とは異なる面のある新規なものでしたので、その要否や具体的内容をめぐって公正取引委員会と当事会社との間の協議が異例の長期間を要したとしても、それはやむをえないことだったと感じます。

なお、公正取引委員会は、2016年7月に第二次審査(詳細審査)を開始しました。第二次審査の審査期間は、当事会社が公正取引委員会からの資料・情報提供要請に対応する報告等の提出を完了してから90日間です(独占禁止法10条9項)。本件では、すべての報告等が提出されたのが今年8月15日であり、公正取引委員会はその日から90日が経過する前(8月24日)に審査を終了しましたので、法律上の期限内に審査が終了しています。当事会社は、すべての報告等を性急に提出すると公正取引委員会が検討を尽くす時間的余裕のないままに本件を阻止(排除措置命令)してしまうのではないかと懸念して、報告の一部について最近まで提出を差し控えていたのかもしれません。

今年の4月に金融庁の検討会議が発表した「地域金融の課題と競争のあり方」報告書は、公正取引委員会による今回の承認にどのような影響を与えているのでしょうか。

公正取引委員会は、当事会社の主張のみに影響されて誤った競争分析をしてしまうことのないよう、顧客、同業他社など第三者に対するヒアリング等をしばしば行っていますし、個々の業界について専門的な知見を有する所管官庁から情報を入手して参考とすることもあるでしょう。しかし、公正取引委員会は他省庁からの干渉を受けることのない独立行政委員会ですので、最終的な判断は専門的な競争分析に基づいて独立して行うことが重要です。

金融庁検討会議の報告書は、各界の有識者が本件について具体的に考察したものですので、公正取引委員会にとっても参考とすべき示唆を含んでいたといえます。しかし、この報告書は、競争分析の基本的なあり方それ自体についての見直しを提言していたほか、他行への債権譲渡という問題解消措置に否定的な見解を示し、むしろ金融庁による事後的な監視措置を提言していました。

公正取引委員会は、他行への債権譲渡という問題解消措置を是認した点において、金融庁報告書と異なる方針を採用しましたが、貸出金利等の事後的監視という問題解消措置については、金融庁検討会議報告書と矛盾しない方向性を示したといえます。

公正取引委員会の審査結果は金融庁検討会議報告書に直接に応答するものではありませんが、公正取引委員会は、報告書の提言や問題提起を無視することなく、また単に従うのでもなく、報告書の存在を意識しながら独禁法理論に基づいて慎重に検討を行い、その結果を上記のとおり審査結果公表文に織り込んだように感じられます。

はじめて用いられた「債権譲渡」(他行での融資借り換え)

銀行再編の審査で、公正取引委員会の懸念を払拭するために、融資の借り換え(他行への債権譲渡)という手段がとられるのは初めてとの事ですが、具体的にどのような手法なのでしょうか。

本件において公正取引委員会は、長崎県内の中小企業が融資を当事会社2行に大きく依存している状況に注目し、本件統合によって中小企業が借入先の選択肢を十分に確保できなくなることを懸念しました。

銀行業界における統合案件では、このような懸念を解消するための問題解消措置として一部店舗の他行への譲渡が行われることが、わが国でも米国等でも一般的です。店舗が他行へ譲渡される場合には、行員も、また融資先企業の従業員給与振込など種々の取引関係も、そのまま他行へ移ることが想定されます。譲渡を受けた他行は融資先のメインバンクの地位を獲得しやすいので、競争が維持されることを期待できます。

しかし、本件では、店舗譲渡ではなく、長崎県のうち離島地域以外における融資債権の一部譲渡、また長崎県全域における貸出金利等の事後的な監視措置が、問題解消措置としてとられることとなりました。

公正取引委員会報道発表「株式会社ふくおかフィナンシャルグループによる株式会社十八銀行の株式取得に関する審査結果について」

出典:公正取引委員会報道発表「株式会社ふくおかフィナンシャルグループによる株式会社十八銀行の株式取得に関する審査結果について

融資債権の譲渡は、融資先企業からの希望と他行の応諾があることを前提として、当該他行へと債権を譲渡するというものです。融資先企業が融資をいったん完済したうえで他行から新規の融資を受ける、という形式をとることもあり得ます。

債権譲渡においては、店舗の譲渡とは異なり行員が他行へ移籍しませんので、融資先が担当者の変更や取引条件変更に対する不安を抱くことがあり得ます。したがって、融資先企業から希望があることが必要であるといえます。

また、債権譲渡を受ける他行は、地域の事情に通じた営業職員を包括的に譲り受けることができないことに、不安を感じるかもしれません。しかし他方において、店舗という施設を獲得することは、支店網を拡大することの重要性が近年において低下しているのだとすれば、事業拡大の絶対条件であるともいえません。公正取引委員会によれば、債権を譲り受けて融資先を獲得したうえで自ら営業職員を増員すればビジネス拡大の足掛かりを得られる、と期待している銀行もあるとのことであり、そのような積極的な営業姿勢を有する銀行が債権を譲り受けるのであれば、競争の維持・拡大を期待できるでしょう。

今後の地銀統合に与える影響は

今回の判断は、地銀を取り巻く状況、今後の統合案件、公取委による審査のあり方などにどのような影響を与えると考えられますか。

本件は、県内トップ2行の統合案件であったうえ、経済規模の小さい離島地域を対象地域に含む点において、特徴的な案件であったといえます。

公正取引委員会は、債権譲渡という新しい問題解消措置を採用したうえ、離島のうち他行の参入を期待しがたい地域については、本件統合によって違法な競争制限効果が生じるという認定自体を差し控え、債権譲渡すら求めることなく審査を終了しました。本件ほどの特徴的な案件であっても承認され得るということが明らかになったことにより、地銀の統合の選択肢は広がったといえます。

しかし、他方において、県内トップ2行による統合案件では審査に相応の期間を要する、ということも強く認識されることとなりました。融資先企業のM&A支援、フィンテック対応等、地銀業界ではスピード感ある事業運営が期待されるようになっていますので、統合案件を検討する地銀は、公正取引委員会の審査への対応が長期化すれば顧客や地域経済への貢献が遅れてしまいかねないという問題を認識する必要があるでしょう。顧客や地域経済へ貢献するための手法は、他県の金融機関との統合、異業種提携など多様なはずであり、その比較検討においては、公正取引委員会の審査に対応する難易度や所要期間がこれまで以上に具体的に勘案されるようになることが想定されます。

なお、本件においては、公正取引委員会が当事会社の県内融資額シェア数値が高いことを問題視しているという報道が盛んに行われ、これに対して、公正取引委員会による審査は画一的で不当であるなど批判が数多くみられました。

しかし、公表された審査結果をみれば、公正取引委員会が融資額シェア数値をみて画一的な判断をするのではなく競争状況を具体的に観察したことが明らかです。

公正取引委員会が案件審査中にコメントを公表することは秘密保持や中立性の観点から困難も伴うでしょう。しかし、グローバルな独禁法理論をふまえて採用し実践している競争分析の考え方を国民へ積極的に説明して理解を得ていくこともまた、重要なはずです。本件は、公正取引委員会による競争政策の普及・宣伝のあり方について課題を残すものだったように感じられます。

関連する特集

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

90秒で登録完了

無料で会員登録する