公正取引委員会がアマゾンに立ち入り検査を行った理由 MFN条項と拘束条件付き取引の問題点

競争法・独占禁止法

(写真:rvlsoft / Shutterstock.com)



 8月8日、公正取引委員会が、米アマゾンの日本法人であるアマゾンジャパンに立ち入り検査を行ったと報じられた。理由は、独占禁止法違反の疑いのある契約を取引先と結んでいたこととされているが、問題となった契約はどのような内容で、何が問題視されているのか。また、今後企業や消費者にはどのような影響があるのだろうか。

 公正取引委員会での勤務経験もあり、独占禁止法に詳しい北浜法律事務所の籔内俊輔弁護士に聞いた。

アマゾンの何が問題視されたのか

今回の事例はどこに問題があったのでしょうか。

 今回の事例は、まだ公正取引委員会の立ち入り検査がなされたという報道のみであり、事実関係の詳細は不明ですので、いくつかの報道を前提に考えてみたいと思います。

 公正取引委員会が今回調査の対象にしているのは、アマゾンが出品者に対して課していた「最恵国待遇条項(most-favored-nation clause)」(以下、「MFN条項」)といわれています。
 このMFN条項は、アマゾンの通販サイトでの価格が、他社の通販サイトでの価格よりも高くならないこと(アマゾンで買うのが一番安いか、少なくとも他社で買うのと同じ価格であること)を、出品者等に対して約束させるものとされています。

 公正取引委員会は、電子書籍を中心に調査をしているとも報道されていますが、その背景には、日本の電子書籍の市場でアマゾンの取り扱いシェアが増加してきていることにあるのかもしれません。

 MFN条項を課された取引条件でアマゾンと取引をする電子書籍の出品者(出版社等)が増えていること、また、出版社等にとってアマゾンが重要な電子書籍の提供チャネルになってきているのではないかと推測されます。

 そうした状況で、アマゾンが多くの出版社等に対してMFN条項が入った取引条件で取引をすると、出版社等は、アマゾン以外の通販業者でアマゾンよりも安く提供すると、アマゾンでも値下げが義務付けられることになります。
 電子書籍はネット上で提供されているものですから、アマゾンよりも安い価格で提供したとなると、アマゾンにすぐ知られてしまいます。

 このため、出版社等は、アマゾンより安く他の通販サイトで出品することを差し控えるようになり、アマゾン以外の通販業者は、アマゾンより安い価格で出版社等から供給を受けることが困難になるかもしれません。そうなると、アマゾンに価格競争で対抗できなくなってしまうという懸念があります。また、電子書籍の価格が高止まりする可能性もあります。

 このような競争が機能しにくくなる影響が生じていると、独占禁止法違反となる不公正な取引方法の1つである「拘束条件付き取引」として、問題になる可能性があります(独占禁止法19条、2条9項6号二、不公正な取引方法12項)。

拘束条件付き取引とは

拘束条件付き取引とはどのような取引を言うのでしょうか。

 「拘束条件付き取引」とは、事業者が、取引の相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて取引することです。
 取引における当事者間の取引条件は、何らかの意味で取引の相手方の事業活動を拘束するものですが、その中でも「不当」なもの、すなわち、競争に悪影響を与えるものだけが独禁法上問題になります
 「拘束条件付き取引」の典型例は、自社の商品を供給するに際して、取引先に商品の転売可能な地域を指定したり、販売方法を指定したりすることで競争が生じにくくなるような行為ですが、MFN条項のような取引の相手方への拘束も、前記のような競争への悪影響がある場合には、この拘束条件付き取引にあたる可能性はあります。

MFN条項と法的問題

MFN条項は全てが違反になるというわけではないのですね。

 MFN条項は、一般的に、競争にとって良い場合もあれば、悪い場合もありうるもので、前提となる事実関係をよく見てみないと、独禁法上問題があるかどうかは判断が難しいと言われています。
 ですので、MFN条項を用いること自体が直ちに問題というわけではありません。一般的には問題がないといえるケースの方が多いように感じます。また、仮に競争によって悪い面があるとしても、どのような悪影響が強く出るかは、事案によって必ずしも一様でないとも言われており、この点も、慎重な検討を要する理由といえるでしょう。

では、なぜ今回は問題視されたのでしょうか。

 今回の事案では、報道内容を前提とすると、出版社等が商流で川上にあり、アマゾンやその競争者である通販業者(楽天など)が川下にいる市場で、アマゾンが出版社等にMFN条項を課すことで、ライバルである他の通販業者を市場から不当に排除することになるという弊害が問題視されているようです。また、価格競争による価格の引き下げが生じにくくなる点も懸念されます。

 このようなケースでは、①川下のアマゾンが一定の取扱いシェアを有しており、そのため川上の出版社等の多くがアマゾンを通じた取引を重要視していてMFN条項を含む取引条件で電子書籍を提供するようになっていること、②MFN条項の実効性が確保されていること、すなわちアマゾンからみて出版社等が他の通販業者への提供価格が監視しやすく、また、出版社等もそれを理解していてMFN条項を守らざるをえないこと、この2点はMFN条項によりライバルを排除する効果が生じやすいことを示す事情といえます。

電子書籍以外は問題になっていないのでしょうか。

 これに対して、家電の販売等については、他の通販業者が出品に関する手数料を安くする等してアマゾンのMFN条項が事実上機能していない場合もあるとの指摘もあります。上記の②を欠ける場合には、先にあげたような弊害が生じにくく、独禁法上問題になるとは考えにくいです。

 今回の事案で問題になっている他社の排除という弊害を指摘されないようにするためには、MFN条項を用いる場合に、前記の①、②のような事情があるかどうかについて、まずは留意すべきと思われます。

 他方で、アマゾンの立場からすれば、商品の説明やカスタマーレビューによる情報提供サービスを行っているのに、他の通販業者がアマゾンよりも低価格で提供できるとすると、情報提供サービスにただ乗り(フリーライド)されることになりかねません。こうしたサービスでの競争を促進させるインセンティブを確保するための方法としてMFN条項には合理性があるといった主張もあるかもしれません。
 このような事情があるのであれば、公取委としては、その事情も踏まえた上で、MFN条項以外の取引条件による影響も含めて調査して、独禁法上の問題があるのかを検討していくことになるでしょう。

今後の影響は

アマゾンの行為が違反となった場合、今後どのような影響が考えられますか。

 アマゾンのMFN条項を付した出版社等との取引が独禁法違反と判断された場合には、公正取引委員会は、アマゾンに対してMFN条項を取引条件から除外すること等を排除措置命令という行政処分で命じることになると思われます。
 なお、今回は、不公正な取引方法の1つである「拘束条件付き取引」での調査とのことですので、違反であっても課徴金が課されることはありません。

 また、公正取引委員会の処分がなされた場合には、アマゾンを含めた電子書籍の提供を行う通販業者の間での価格競争が、より活発になる可能性もあると思われます。
 他方で、前記のようにサービス面での競争のインセンティブが減退するとなれば、一般消費者にとってはよくないことでしょう。

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