業務提携が不当な取引制限となる場合

競争法・独占禁止法
小田 勇一弁護士 大多和 樹弁護士

 研究開発、原料調達、生産、販売、マーケティングや物流等の事業活動について競合他社と業務提携を行う場合、競合他社との業務提携自体が独占禁止法上問題となる場合はあるのでしょうか。その場合、どのように独占禁止法上の問題を検討すればよいでしょうか。

 業務提携は、多くの場合、ノウハウ・技術の補完、コスト削減や新規参入の容易化等を可能にし、ひいては価格の低下や生産量の拡大等をもたらすという点で競争促進的なものといえます。しかし、特に競争事業者間の業務提携の場合には不当な取引制限(独占禁止法3条後段)等として独占禁止法上問題となる場合があります。

 競争事業者間の業務提携といっても、その目的・形態等は様々であり、競争に与える影響もまちまちですので、競争事業者との業務提携が不当な取引制限に該当するか否かは、業務提携ごとに、当該業務提携により競争が制限される程度(競争制限効果)と競争が促進される程度(競争促進効果)の両側面を勘案しながら、競争が実質的に制限されるか否かを検討することが必要となります。

解説

業務提携における不当な取引制限の問題の所在

 不当な取引制限(独占禁止法3条後段)といえば、カルテルや入札談合を真っ先に思い浮かべる方が多いかもしれません。それは、公正取引委員会が「不当な取引制限」として取り上げる事件の大多数がカルテルや入札談合であることの影響ではないかと思います。しかし、不当な取引制限は、広く競争事業者間の「共同」行為を適用対象としており、競争事業者間の業務提携もその例外ではありません。

 競争事業者間の業務提携は、競争が制限される側面もありますが、カルテルや入札談合と異なり、ノウハウ・技術の補完、コストの削減やリスクの分散・期間短縮による新規参入の容易化等を可能にし、価格の低下や生産量の拡大等をもたらす場合があるため、競争制限効果のみならず、こうした競争促進効果も勘案したうえで、「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」か否かを検討する必要があります。

 参照:「独占禁止法で禁止されている「不当な取引制限」とは~カルテル・入札談合を中心に~

 なお、業務提携が資本提携を伴う場合や共同出資会社(いわゆるJV)を設立する形態の場合には、企業結合規制(独占禁止法10条等)の対象になる場合がありますので、その観点から検討する必要があります。

 参照:「独占禁止法が定める企業結合規制とは

業務提携の形態とガイドライン

 業務提携は、研究開発・技術標準化、原材料調達、生産(OEM取引含む)、マーケティング、販売、物流といった事業活動の様々な段階での形態が存在します。

事業活動のフロー(例)

 こうした業務提携全般を対象とする公正取引委員会のガイドラインは存在しませんが、共同研究開発については「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」(以下「共同研究開発ガイドライン」)、標準化については「標準化に伴うパテントプールの形成等に関する独占禁止法上の考え方」が存在します。また、事業者団体の共同事業を念頭においたものですが、「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」の1の第二の11が示す考え方は業務提携に関する独占禁止法上の問題を考える際に応用できます。

 そのほか、ガイドラインではありませんが、公正取引委員会が平成14年2月に公表した「業務提携と企業間競争に関する実態調査報告書」は、業務提携に関する独占禁止法上の考え方等を整理しており、有益です。

分析の視点

一定の取引分野(市場)の画定

 競争の実質的制限の有無を検討するにあたり、一定の取引分野(市場)を画する必要があります。

 カルテルや入札談合の場合には、具体的な競争制限行為が存在しますので、通常、当該行為が対象とする取引とそれにより影響を受ける範囲を検討することによって一定の取引分野(市場)の画定が行われます。しかし、これから業務提携を行うという場面では、そもそもそのような具体的な競争制限行為は存在しません。そこで、業務提携の内容に即して競争への影響が懸念される市場を大まかに特定したうえで(たとえば、共同生産の場合は製品市場、共同研究開発の場合は技術市場や製品市場への影響が考えられます)、企業結合審査の場合と同様に、需要者にとっての代替性を基本としつつ、主に商品役務の範囲と地理的範囲から、一定の取引分野(市場)を画定することになります

 参照:「独占禁止法が定める企業結合規制とは

競争制限効果と競争促進効果

 業務提携については、たとえば、ノウハウ・技術等の補完による効率化、コスト削減、リスクの分散・期間短縮による新規参入の容易化等の競争促進的な側面が認められる場合が多く、競争制限効果のみならず競争促進効果も勘案し、一定の取引分野における競争の実質的制限の有無を検討することになります。この点が、カルテルや入札談合の場合と大きく異なる点です。

 参照:「独占禁止法で禁止されている「不当な取引制限」とは~カルテル・入札談合を中心に~

検討フローおよび考慮要素

 その検討は、当該業務提携が将来の競争に与える影響をプラス、マイナス両面から個別具体的に検討し評価する作業になりますので、事の性質上、検討方法や考慮要素を一般化することは困難ですが、先に紹介した公正取引委員会の「業務提携と企業間競争に関する実態調査報告書」は、考慮要素を整理しつつ、わかりやすい形で検討の手順を提示しており、参考になります。具体的には、業務提携の参加者の属性とシェアから出発し、シェアが大きい場合には、業務提携の目的・内容・期間や市場の状況等を考慮し、競争に与える影響を仔細に検討するというものです。

検討フローおよび考慮要素

出典:公正取引委員会「業務提携と企業間競争に関する調査報告書」(概要)38頁

(1)提携先が競合する事業者か否か

 設例は競争事業者間の業務提携を検討していますのであてはまりませんが、業務提携の提携先が競争事業者でない場合には、通常、当該市場における競争が制限されるおそれは小さいと考えられます

(2)業務提携に参加する事業者の市場シェア等

 業務提携に参加する事業者の数、市場シェアや市場における地位については、一般に、参加者数が多いほど、市場シェアが高いほど、市場における地位が大きいほど、そうでない場合と比べ、競争が制限される程度が大きくなると考えられます

 製品の改良または代替品の開発のための共同研究開発に関し、共同研究開発ガイドラインは、参加する競争事業者の製品市場シェアの合計が20%以下である場合には、通常、独占禁止法上の問題とならないとしています(「共同研究開発ガイドライン」第1、2(1)[1])。

(3)業務提携の目的・内容・期間

 業務提携の目的・内容・期間は、競争制限効果と競争促進効果の両面に関わる重要な考慮要素です

 たとえば、業務提携の目的に知識・技術の補完、コスト削減等の競争促進的な側面が認められる場合には、競争促進効果が期待できますが、業務連携の内容が当該目的の達成に関連しているとはいい難い場合や、その目的達成に必要かつ合理的な範囲を超えて参加者の事業活動が拘束されるような場合には、競争促進効果が認め難くまたはそれを打ち消す競争制限効果の発生が考えられます。

 また、業務提携の内容が製造、販売段階の競争に直結する内容である場合(たとえば、製品の共同生産や共同販売)は、そうでない場合(たとえば、基礎研究の共同化、構成部品の一部の共同化や配送の共同化)と比較し、意思決定の一体化、コスト構造の共通化の程度が大きくなる分、競争の余地が少なくなり競争制限の程度も大きくなると考えられます。

 さらに、業務提携の対象範囲が広く(たとえば、製品ライン全体の共同生産や共同販売)、また、期間が長期化すればするほど、競争の余地やインセンティブが減少し、競争制限の程度が大きくなると考えられます。

(4)市場の状況

 当該業務提携の参加事業者が仮に競争制限的な行動を取ろうとした場合に、それを牽制する力(牽制力)が存在すれば、そのような行動は取り得ず、競争的な市場環境は維持されることになると考えられます。業務提携が競争に与える影響を考える際も、こうした牽制力の有無・程度が考慮要素として問題となります。たとえば、①業務提携の参加者以外に有力な事業者が存在するか否か、②新規参入は容易か否か、③輸入圧力はあるか否かといった点が考慮されます

公正取引委員会が公表している相談事例集

 公正取引委員会が公表している相談事例集には、業務提携の相談事例が多数存在し、具体的な検討を進めるうえで大変参考になります。業務形態別に、下記の表記載の事例があります(網羅的なものではありません)。

業務提携の形態 相談事例
研究開発 平成28年度・事例2平成25年度・事例8平成17年度・事例8
平成16年度・事例6平成14/15年度・事例5平成12年度・事例8
原材料調達 平成28年度・事例5平成24年度・事例3平成17年度・事例9
平成14/15年度・事例6平成14/15年度・事例7平成13年度・事例9
平成12年度・事例10平成12年度・事例12
生産 平成28年度・事例6平成27年度・事例5平成26年度・事例7
平成26年度・事例8平成25年度・事例5平成24年度・事例3
平成22年度・事例3平成21年度・事例4平成20年度・事例1
平成19年度・事例2平成18年度・事前相談事例平成17年度・事例7
平成14/15年度・事例11平成13年度・事例7平成13年度・事例8
平成12年度・事例11
物流 平成28年度・事例7平成27年度・事例6平成24年度・事例3
平成16年度・事例4平成13年度・事例6
販売促進活動 平成14/15年度・事例8平成12年度・事例9
販売 平成28年度・事例8平成22年度・事例4平成18年度・事例2
その他 平成26年度・事例9平成25年度・事例6平成22年度・事例5
平成20年度・事例2平成19年度・事例4平成14/15年度・事例10
平成13年度・事例5平成13年度・事例10

関連する問題領域

 競争事業者間の業務提携が不当な取引制限に該当しない場合であっても、業務提携に付随する取り決めによってこれに参加する事業者の事業活動が不当に拘束されるような場合や業務提携への参加を拒否された事業者が市場から排除されるような場合には、別途、不公正な取引方法(独占禁止法19条)や私的独占(独占禁止法3条前段)が別途問題になります。

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