独占禁止法違反となる共同研究開発後の拘束条件付取引とは

競争法・独占禁止法

 当社は、電子部品aの製造業者であり、電子部品aの市場における当社のシェアは30%です。電子部品aの製造業者は、他にシェア20%のA社、シェア10%のB社、その他シェア5%未満の製造業者が数社存在しています。
 この度、当社は、電子部品aの製造コスト削減のために、化学品メーカーであるX社と共同研究開発契約書(期間は1年間)を締結して、電子部品aの材料となる素材bの改良品の研究開発を行うことになりました。素材bについては、X社以外にもY社やZ社等複数の化学品メーカーが製造しており、X社のシェアは10%程度です。また、素材bが電子部品aの販売価格全体に占める割合は数%程度です。
 当社は、X社との共同研究開発契約書の中で、①素材bの改良品の開発が成功した場合に、X社が当社の競合であるA社とB社に対して販売するときは、当社に対する販売価格の1.5倍以上の金額で販売することを義務付ける条項と、②共同研究開発のために当社からX社に開示した技術情報について、X社は、契約期間満了後3年間は、他の目的に使用してはならないという秘密保持条項を設ける予定です。このような規定を設けることは、独占禁止法において問題となりますか。

 共同研究開発の成果である素材bの改良品の競合他社への販売価格を制限する条項については、その制限期間が合理的なものであれば、独占禁止法上問題となるおそれは低いといえます。また、X社に開示した技術情報について必要かつ相当な範囲で秘密保持義務を規定することは、原則として独占禁止法上の問題はありません。

解説

【設例の取決め】

設例の取決め

共同研究開発と独占禁止法

 競争関係にある事業者同士が共同研究開発を行う場合には、研究開発競争を停止する側面があり、不当な取引制限として独占禁止法上問題となる場合があり得ますが(「業務提携が不当な取引制限となる場合」参照)、競争関係にない事業者間では、研究開発の共同化自体が独占禁止法上問題となることは通常ありません。

 しかし、競争関係にない事業者間の共同研究開発であっても、共同研究開発後の成果の実施に関する取決めに関して、当該取決めによって、共同研究開発に参加した事業者の現在または将来の事業活動を拘束する場合で、それにより公正な競争が阻害されるおそれがある場合には、当該取決めは、不公正な取引方法のうち「拘束条件付取引」(一般指定12項)等に該当し、独占禁止法に違反することになります(独占禁止法違反となった場合の法的措置については、「独占禁止法で禁止されている『不公正な取引方法』とは」を参照)。

拘束条件付取引とは

 拘束条件付取引とは、取引の相手方の事業活動を拘束する条件を付けた取引のことをいい、拘束の手段・内容に限定はありません。したがって、様々な行為が拘束条件付き取引の「拘束」に該当しますが、その全てが独占禁止法に違反するということではなく、「不当に」行われた場合(公正競争阻害性が認められる場合)のみが独占禁止法違反になります。

公正競争阻害性が認められる場合

 それでは、公正競争阻害性はどのような場合に認められるのでしょうか。拘束条件付取引には、大きく分けて、競争回避(停止)型の行為競争者排除型の行為があります。

(1)競争回避(停止)型の行為

 メーカーが卸売業者に対して、安売りをする小売業者に販売しないことを条件に商品を供給するような場合が、小売業者間の価格競争を回避するという点で競争回避(停止)型の行為となります。

(2)競争者排除型の行為

 製品メーカーが部品メーカーから部品を購入する際に、その部品を使用して自社製品と同様の製品を製造販売することを禁止するなど、取引の相手方に対して自己の競争者(潜在的競争者を含む)となることを禁止するような場合が、競争者排除型の行為となります。


 このように、拘束条件付取引には、競争回避(停止)型と競争者排除型の行為がありますが、公正競争阻害性の内容は、以下の図で記載したとおり、問題となっている行為が競争回避(停止)型か競争者排除型かで変わってくることになります。

競争回避(停止)型と競争者排除型の比較

共同研究開発の成果の実施に関する取決めに公正競争阻害性が認められるかの判断要素

 共同研究開発の成果の実施に関して、共同研究の相手方を拘束する条件を付けた場合に、公正競争阻害性が認められるかは、以下のような事情等を総合的に勘案して判断されます(共同研究開発に関する独占禁止法上の指針第2-2)。

  1. 参加者の市場における地位(地位が有力であるほど公正な競争が阻害されるおそれが強くなる)
  2. 参加者の関係(競争関係にある者同士の共同開発であれば公正な競争が阻害されるおそれが強くなる)
  3. 市場の状況(市場における競争が少ないほど公正な競争が阻害されるおそれが強くなる)
  4. 制限が課される期間の長短(期間が長いほど公正な競争が阻害されるおそれが強くなる)

 また、共同研究の相手方を拘束する条件を付けた場合であっても、共同研究開発の中で開示した技術等の流用防止、研究開発の成果であるノウハウの秘密性の保持、共同研究開発への投下資本の回収等、共同研究開発の円滑な実施のために必要とされる取決めについては、その目的や手段の必要性・合理性等と、その取決めにより生じる公正競争阻害性とを比較衡量することにより、公正競争阻害性がないと判断されることがあります。

 このように、公正競争阻害性は、共同研究開発の相手方を拘束する条件によって生じる競争制限的な効果と、当該条件を付けることの正当化理由(競争促進効果を含む)の比較衡量によって判断されます。

公正競争阻害性

設例における取決めが拘束条件付取引に該当するか

販売価格の制限条項について

(1)問題

 それでは、素材bの改良品を競合他社に販売する際の価格を制限する条項を設けた場合、拘束条件付取引に該当するでしょうか。

 この条項は、競合他社に対し素材bの改良品の販売を一切禁止するものではありませんが、競合他社への販売価格を自社への販売価格より1.5倍以上高いものとすることによって、競合他社の購入コストを引き上げるまたは事実上購入を断念させることを通じ、電子部品aの市場から競合他社を排除するものとして機能し得ることから、競争者排除型の拘束条件付取引に該当するか否かが問題となります。

(2)見解

 設例で質問をしている会社の電子部品aの市場におけるシェアは30%であり、相当のシェアではありますが、本件条項を課す相手方はX社という1社のみであり、そのX社のシェアも10%程度であることから、競合他社であるA社やB社は、X社以外のY社やZ社等複数の化学品メーカーから素材bを購入することは容易です。そして、素材bが電子部品aの販売価格全体に占める割合が数%程度ということであれば、競合他社であるA社やB社は、仮に素材bの改良品を利用できなくとも、電子部品aの市場において競争していくことは十分可能であると考えられます。さらに、問題の条項は、X社が素材bの改良品をA社やB社に供給することを禁止していませんので、A社やB社は、X社から素材bの改良品を購入することも可能です(なお、制限対象の販売価格が競合他社による購入を事実上断念させるような価格である場合には、その価格制限の条項は販売自体の禁止条項と実質的に同様に機能することになりますが、設例にはこれを示唆する事情は見当たりません)。


 以上の事情からすると、競争者であるA社やB社が、素材bの改良品の購入コストを上げられるまたは素材bの改良品の調達先の確保が困難になることを通じ、電子部品aの市場から排除されるおそれは低いといえます。

 加えて、素材bの改良品をA社やB社に販売する際の価格を制限する条項を設けることには、共同研究開発のための投資の回収という必要性が認められます。そのため、投資回収という目的から考え、このような価格の制限の期間が合理的なものであれば、正当化理由が認められやすいと考えられます。

 よって、設例においては、A社やB社に販売する際の価格を制限する期間が合理的といえるものであれば、X社との共同研究開発契約書において問題となっているような条項を規定しても、独占禁止法上問題となるおそれは低いといえます。

秘密保持義務条項について

 X社に開示した技術等の情報について、必要かつ相当な範囲で秘密保持義務を課すことは、共同研究開発の円滑な実施のために必要とされる合理的な拘束であり、また、通常競争に及ぼす影響が小さいと考えられることから、拘束条件付取引には該当せず、独占禁止法上の問題はありません。

 もっとも、秘密保持義務の範囲を不必要に拡張することにより、X社の将来における類似の研究開発を制限または事実上禁止するような場合は、X社による将来の研究開発に関する競争を制限し、新規参入を阻害して潜在的な競争者を排除する側面があるため、場合によっては、公正競争阻害性があるとして、拘束条件付取引に該当するおそれがあります。また、不合理に著しい不利益を押し付けるものとして、優越的地位の濫用が問題になることも考えられますので、注意が必要です。

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