独占禁止法で禁止されている「優越的地位の濫用」とは

競争法・独占禁止法
小田 勇一弁護士 大多和 樹弁護士

 当社(X社)は、電子部品aの製造販売事業者です。電子部品aは特殊なセンサーであり、その中でも当社のセンサーはその精度において他社の追随を許さず、電子部品aの市場における当社製センサーのシェアは80%を超えます。

 電子部品aを不可欠のコア部品とする製品として製品αがあり、製品αは電子部品aをその制御に使用しています。製品αは、電子部品a以外は汎用的な部品で構成されており、その競争力はもっぱら電子部品aに依存しています。製品αの市場は立ち上がったばかりの市場で、多数の新興専業メーカーがしのぎを削っていますが、当社が電子部品aの供給を打ち切れば、当社の取引先の多くは製品αの市場から撤退を余儀なくされると見込まれます。

 当社は、製品αの専業メーカーであるY社らに電子部品aを継続的に供給していますが、Y社らは、製品αの販売先(設置先)から、製品αに搭載された当社製センサーを通じて取得するデータの提供を受けて、それらを分析し、顧客向けに独自のソリューションサービスを提供しています。

 当社は、当社製センサーの性能向上に役立てるため、新たに、Y社ら取引先に対して、Y社らが製品αの販売先から提供を受ける上記データの無償提供を求めていこうと考えています。センサー開発に協力的な取引先とのみ取引を行っていくとの方針を示せば、多くの取引先は応じてくれるのではないかと思いますが、こうした取り組みは独占禁止法上問題となるでしょうか。

 上記取り組みは、X社が優越的地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に、取引の相手方であるY社らに不利益を与える行為であるとして、独占禁止法が禁止する優越的地位の濫用に該当するおそれがあります。

解説

優越的地位の濫用とは

 優越的地位の濫用とは、①取引の一方の当事者が自己の取引上の地位が相手方に優越していること(優越的地位)を利用して、②正常な商慣習に照らして不当に、不利益を与える行為(濫用行為)を行うことをいい(独占禁止法2条9項5号)、独占禁止法は、これを不公正な取引方法の一類型として禁止しています(独占禁止法19条)。

 優越的地位の濫用行為とは、概要、取引の相手方の自由かつ自主的な判断を阻害し、経済上の不利益を与える行為であり、それが競争回避(停止)的な行為であるかどうか、あるいは競争者を排除する行為であるかどうかは問題にしていません(参照:「独占禁止法違反になり得る行為を特定する、競争回避と競争者排除という視点」)。その意味で、優越的地位の濫用規制は、独占禁止法の中で異質な規制であるといえます。

 平成21年の独占禁止法改正によって優越的地位の濫用に対する課徴金制度が導入されて以降、高額な課徴金が課されており、特に注意が必要となってきています。

優越的地位の濫用行為

優越的地位とは

意義

 優越的地位は、取引の相手方との間で相対的に判断されます。「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(以下「優越ガイドライン」)では、優越的地位とは、取引の相手方(乙)にとって、取引の一方の当事者(甲)との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても、乙がこれを受け入れざるを得ないような場合をいうとされています(優越ガイドライン第2の1)。

 この点、「事業経営上大きな支障を来す」とは、乙にとって不利益な要求であっても受け入れざるを得ないほど甲と取引することの重要性および必要性がある場合と説明され(「「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(原案)に対する意見の概要とこれに対する考え方」8頁)、文字通りの意味合いよりも相当緩やかに解釈されています。実際の審判事件でも、納入業者および小売業者間の取引において、納入業者の全売上高に占める当該小売業者との取引額の割合(取引依存度)が1パーセントを下回る場合であっても、当該小売業者は当該納入業者に対し優越的地位にあるとされた例があります。

考慮要素

 優越的地位の有無は、どのような考慮要素によって判断されるのでしょうか。優越ガイドラインは、下記の考慮要素を総合的に考慮し、優越的地位の有無を判断するとしています。そして、これらの考慮要素を総合的に考慮した結果、取引の相手方(乙)にとって取引の一方の当事者(甲)との取引必要性が高いといえる場合には、「乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすい」と評価しています優越ガイドライン第2の2参照)。

考慮要素 補足説明
①乙の甲に対する取引依存度 乙が甲に商品または役務を供給する取引の場合には、乙の甲に対する売上高を乙全体の売上高で除して算出される。
②甲の市場における地位 甲の市場におけるシェアの大きさ、その順位等が考慮される。
③乙にとっての取引先変更の可能性 甲以外の事業者との取引開始や取引拡大の可能性、甲との取引に関連して行った投資等が考慮される。
④その他甲と取引することの必要性を示す具体的事実 甲との取引の額、甲の今後の成長可能性、取引の対象となる商品または役務を取り扱うことの重要性、甲と取引することによる乙の信用の確保、甲と乙の事業規模の相違等が考慮される。

 ①~④の考慮要素の中でも、取引先変更の可能性(③)が重要な考慮要素であると考えられます。なぜなら、取引の継続が困難になったとしても、取引先を変更することができれば、そもそも「事業経営上大きな支障を来す」こともないからです。

近時の重要審決

 公正取引委員会は、日本トイザらス株式会社に対する平成27年6月4日審決において、「甲が濫用行為を行い、乙がこれを受け入れている事実が認められる場合、これは、乙が当該濫用行為を受け入れることについて特段の事情がない限り、乙にとって甲との取引が必要かつ重要であることを推認させるとともに、『甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても、乙がこれを受け入れざるを得ないような場合』にあったことの現実化として評価できる」との判断を示しました(公正取引委員会「日本トイザらス株式会社に対する審決について(子供・ベビー用品の小売業者による優越的地位の濫用事件)」)。

 ここで示された考え方は、①~④の考慮要素とは別に、濫用行為の存在から直接に優越的地位を推認するものと評価できます。この判断を前提とする限り、濫用行為が認められるか否かが優越的地位の要件の判断においても極めて重要なポイントになりますので、コンプライアンス上は、いかに濫用行為に該当するような行為をしないようにするかが重要になります。

設例の場合はどうか

 設例では、X社がY社らに商品を供給する取引であるため、Y社らのX社に対する取引依存度は観念できませんが、X社は製品αに不可欠である電子部分aの市場において圧倒的なシェアを有し、Y社らはX社に代わる調達先が限定されています。また、X社製電子部品aには他社の追随を許さない技術優位性があり、自社製品の競争力を電子部品aの性能に依存している製品αのメーカーであるY社らにとってはX社以外の電子部品メーカーへの切り替えが困難であると考えられます。

 こうした事情からすれば、Y社らにとって取引先変更可能性は低く、かつ取引の必要性も高いと考えられます。実際に、製品αの専業メーカーの多くは、X社が電子部品aの供給を打ち切れば、製品αの市場から撤退を余儀なくされることが見込まれるとのことでもあります。

 以上からしますと、専業メーカーであるY社らにとって、X社との取引の継続が困難になることは「事業経営上大きな支障を来す」ことになると考えられます。
 したがって、X社がY社らに対し優越的地位にあると判断される可能性は高いといえます。

濫用行為とは

濫用行為を構成する要素

 濫用行為とは、正常な商慣習に照らして不当に、独占禁止法2条9項5号イないしハに該当する行為を行うことです。
 その基本的な要素は、①取引相手方の自由かつ自主的な判断を阻害して、②取引相手方に対して経済上の不利益を与える点にあると考えられます

独占禁止法2条9項5号イないしハに該当する行為

 独占禁止法2条9項5号イないしハに該当する行為は、具体的には、下記表のとおりです。
 独占禁止法2条9項5号ハは包括的な条項(下線部)として規定されており、同号イ、ロおよびハの前半で列挙された具体的な行為に該当しないその他の行為も、濫用行為になり得ます

独占禁止法2条9項5号 行為類型

イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。

①購入・利用強制

ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。

②経済上の利益を提供させること

優越ガイドラインの例示)
・協賛金等の負担の要請
・従業員等の派遣の要請

ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること

③受領拒否
④返品
⑤支払遅延
⑥減額
⑦その他取引の相手方の不利益となる事項

(⑦に関する、優越ガイドラインの例示)
・取引の対価の一方的決定
・やり直しの要請

「正常な商慣習に照らして不当」な行為とは

 「正常な商慣習」とは、公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認されるものを指しており(優越ガイドライン第3)、現に存在する商慣習に合致していることをもってただちにその行為が正当化されることにはなりません。
 上記5号イないしロに該当する行為が取引の相手方に対し「正常な商慣習に照らして不当」な不利益を与える場合とは、具体的には、大きく2つに分けられます(優越ガイドライン第4の2(1)アおよび(2)ア参照)。

  1. 取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合
  2. 取引の相手方が得る直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となる場合

取引の相手方の同意があった場合は

 取引の相手方から書面による同意を得たなど外形的な「同意」が存在していたとしても、上記の不利益の受け入れを余儀なく「され」た場合は、取引の相手方の自由かつ自主的な判断により当該同意をしたとはならず、濫用行為と評価されます。したがって、取引の相手方から外形的に「同意」を得ていることのみをもって濫用行為性が否定されることにはなりません

設例の場合はどうか

 Y社らが製品αの販売先から提供を受けるデータは、その収集・処理に一定のコストを要し、それ自体に財産的価値が認められると考えられますので、独占禁止法2条9項5号ロの「経済上の利益」に該当し得ます。

 Y社らは従前からX社と継続的な取引を行っていますが、それまではX社とY社らとの間ではY社らによる収集データの提供についての取り決めはしてなかったことから、少なくともそれをX社がY社らに対し一方的にデータを無償提供させる場合、Y社らにとってあらかじめ計算できない不利益を与えることになるといえるでしょう。

 また、製品αの性能はX社製センサーに大きく依存していることから、X社製センサーの性能向上が製品αの性能向上に結び付くことが考えられますが、Y社らはデータの収集・処理に一定のコストをかけているでしょうから、それを無償提供させる行為は、Y社らに合理的な範囲を超えた負担を課すことになる可能性があります。

 加えて、X社がY社らに対し優越的地位にあることを背景に「センサー開発に協力的な取引先とのみ取引を行っていくとの方針」を示しつつ、データの提供を要請すれば、Y社らは、今後の取引に与える影響を懸念して当該要請を受け入れざるを得なくなるであろうと考えられます。

 以上からしますと、X社がY社らに対し一方的にY社らが収集・処理したデータを無償提供させる行為は濫用行為に該当するおそれがあります。

公正競争阻害性とは

 「正常な商慣習に照らして不当」性(公正競争阻害性)が認められるか否かについては、問題となる不利益の程度、行為の広がり等も考慮して、個別の事案ごとに判断されます(優越ガイドライン第1の1)。設例において、X社がその取引先の全部または大部分に対しデータの無償提供を求める場合には、そうでない場合と比較し、「正常な商慣習に照らして不当」が認められやすいと考えられます。

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