テロ資金供与、マネー・ローンダリング対策の最前線

ファイナンス

テロ資金供与等対策の重要性

世界中に広まるテロの脅威

 2015年1月と2月に発生した、「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)による、シリアにおける邦人殺害テロ事件の衝撃はまだ記憶に新しいところであるが、その後も、パリ同時多発テロ事件(同年11月)、ジャカルタ首都中心部における爆破テロ事件(2016年1月)、ベルギー首都ブリュッセルにおける連続テロ事件(同年3月)などが断続的に発生し、世界中をテロの脅威が覆っている。我が国では、2020年に東京オリンピックの開催が予定されており、この世界的な一大イベントの開催に向けてテロ対策の重要性は一層増していくと考えられる。

テロ資金供与とマネー・ローンダリングへの対策

 テロ対策には種々の取組みがあり得るが、その中でも、テロリストらの財源を遮断するためのテロ資金供与対策(Countering the Financing of Terrorism)およびこれと密接に関連するマネー・ローンダリング対策(Anti-Money Laundering。以下両者を合わせて「AML/CFT」という)は、非常に実効性が高い対策の一つである。テロの実行のためには、人員の確保や武装のために資金的な裏付けが必要であるところ、そのための財源を遮断してしまえば、少なくとも一定規模以上のテロは防止できると考えられるからである。

 本稿では、このようなテロ対策としても重要な意義を有するAML/CFTの進展や今後の動向について紹介するが、意見にわたる部分は筆者の私見であり、筆者が現に所属し、または過去に所属していた組織・団体の見解ではない。

国際的協調体制

テロを受けて高まる国際的協調体制

 AML/CFTがその実を挙げるためには、世界各国による協調体制が不可欠である。なぜならば、テロリストらは、常に財源確保のための抜け道を求めており、対策が不十分な国があれば、そこからの資金流入を適切に防止することができないからである。特にIT技術が高度に発展した今日では、クロスボーダーで資金を動かすことが極めて容易となっており、従前以上に各国が足並みを揃えて対策に取り組むことが重要となっている。

 この点、パリ同時多発テロ事件等を受けて2015年11月17日にG20が公表した声明においても、「テロ及びテロ資金供与に関わる的を絞った強固な金融制裁体制によって,テロ資金供与の経路に対処することに引き続きコミットする」旨言及されており、テロ資金供与対策に関する国際協調関係が確認されている 。

FATF勧告

 上記のG20声明でも言及されているFATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)は、AML/CFTについての国際的協調を推進するために組織された各国の政府間機関であり 、「FATF勧告」というマネー・ローンダリングなどの防止のために各国が採るべき国際的基準の策定や、その基準が遵守されているかの加盟国間における相互審査等を実施しており、各国のAML/CFT体制の底上げを図っている。

FATF勧告を踏まえた国内法の整備の進展

国内の法整備状況

 我が国も、前述のFATF勧告に対応すべく国内法制を整備してきたものの、2008年に行われた第3次対日相互審査では多くの指摘がなされていたところであり、2014年6月には指摘事項に早急に対処すべき旨のFATFによる声明が公表される事態となった 。

 この事態を受けて、同年9月から開かれた臨時国会では、改正犯罪収益移転防止法1改正テロ資金提供処罰法 2国際テロリスト財産凍結法3がそれぞれ成立し、国内におけるAML/CFT関連法の整備が進展することとなった 。同年10月に行われたFATF会合では、かかる状況を評価する旨の声明が出されている。

FATF勧告と国内法整備の経緯

年月 出来事
1990年 FATF 「40の勧告」を策定
1996年 FATF「40の勧告」を改訂
2001年 FATF 「8の特別勧告(テロ資金に関するFATF特別勧告)」を策定・公表
組織的犯罪処罰法の施行
2002年 テロ資金提供処罰法の施行
2003年 金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律(本人確認法)施行
FATF「40の勧告」を再改訂
2004年 FATF「8の特別勧告」にキャッシュ・クーリエ(現金運搬人)に関する9つ目の特別勧告を追加、9の特別勧告に
2007年 犯罪収益移転防止法が成立
2008年 第3次対日相互審査
2011年 改正犯罪収益移転防止法が成立(2013年4月施行)
2012年 FATF勧告改訂 40の勧告と9の特別勧告を統合
2014年6月 FATFによる対日声明
2014年9月 改正犯罪収益移転防止法
改正テロ資金提供処罰法
国際テロリスト財産凍結法
が成立

FATF関連法の概要

犯罪収益移転防止法

 犯罪収益移転防止法は、マネー・ローンダリングの防止のために、金融機関などに対して、顧客との間で一定の取引を実施しようとする場合における取引時確認の実施、確認記録の作成・保存、疑わしい取引があると認められる場合における届出義務を課している

 2014年改正法および関係政省令では、事業者が実施しようとする取引がマネー・ローンダリングなどに用いられるリスクに応じた措置を採るための措置、いわゆるリスクベース・アプローチの導入や、外国における重要な公的地位にある者(外国PEPs(Politically Exposed Personsの略))に対する厳格な取引時確認の実施法人を実質的に支配する自然人まで遡った確認の実施など、FATF勧告に示されていながらも、国内法で担保されていなかった内容をカバーするものとなっている。

 これらの内容は、2016年10月1日から施行される予定であり、同法の義務の対象となる特定事業者においては、事務フローの見直しやリスクベース・アプローチの前提となるリスク評価の実施が求められている。

テロ資金提供処罰法

 テロ資金提供処罰法は、テロを実行しようとする者に対して、その実行を容易にする目的で資金を提供した者に刑事罰を科すことを内容としている
 この点、FATFからは資金以外の利益提供についても対象とすべきとの指摘がなされていたことを受け、改正法では、土地、建物、物品、役務等の形による利益提供も対象に含まれることとされた(テロ資金提供処罰法3条1項)。また、直接の利益提供を行った者のみならず、間接的に利益提供した者についても処罰の対象に加えられている(同法4条)

国際テロリスト財産凍結法

 国際テロリスト財産凍結法は、従来、外国為替及び外国貿易法に基づく国際テロリストの対外取引に関する規制と異なり、その国内取引などを規制するものである。
 国家公安委員会により公告された国際テロリストは、金銭の贈与や貸付けなどの一定の行為については都道府県公安委員会の許可を受けなければならないとされており(国際テロリスト財産凍結法9条)、これに対応して、どのような人であっても公安委員会の許可証の提示を受けることなく、国際テロリストに対して一定の行為を行うことが禁止されている(同法15条)。
 また、都道府県公安委員会は、国際テロリストに対し、その所持している財産の提出を命じ、仮領置することができることとされている(同法17条)。

新しい技術を用いたテロ資金供与などへの対応

仮想通貨を用いたテロ資金供与

 AML/CFTの実効性を維持するためには、テロ資金供与やマネー・ローンダリングに用いられるおそれのある新たな技術が登場した場合に、イノベーションを阻害しないよう留意しつつも、迅速かつ適切に対策を施すことが重要である。

 この点、2014年2月にビットコインの交換事業者であるマウントゴックス社が東京地裁に民事再生を申し立てたこともあり、ビットコインを含む仮想通貨が世界的に注目を集めているところ、仮想通貨も新しい技術の一つとしてAML/CFTの分野でも活発な議論がなされている。

 仮想通貨は、IT技術の進展を背景として存在感を増してきたものであるが、その匿名性や移転の迅速性・容易性から、マネー・ローンダリングやテロ資金供与の手段として用いられている事例があるという報告が寄せられている。

 この状況認識を踏まえ、2015年6月のG7エルマウ・サミットの首脳宣言では、『テロ及びその資金調達との闘い』として「仮想通貨及びその他の新たな支払手段の適切な規制を含め、全ての金融の流れの透明性拡大を確保するために更なる行動をとる」旨が確認された 。一方、FATFにおいても、2014年6月に「Virtual Currencies: Key Definitions and Potential AML/CFT Risks」と題するリサーチ結果を 、2015年6月には「Guidance for a Risk-Based Approach to Virtual Currencies」と題するガイダンスを公表し 、各国に対して注意喚起を促していた。

仮想通貨に対する法規制

 このような国際的な動向を踏まえて、我が国でも仮想通貨に対する規制の必要性およびそのあり方などについて議論が開始された。具体的には、2015年7月から12月までの間、7回にわたって開催された、金融審議会「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ」において、仮想通貨に関する制度のあり方について議論され、その結果がワーキング・グループ報告書として公表された 。
 同報告書では、上記FATFガイダンスを踏まえて、AML/CFTの観点から、仮想通貨と法定通貨の売買などを行い、仮想通貨の世界と既存の金融システムとの間の繋ぎ目の役割を担う交換所に対して、取引時確認や疑わしい取引の届出等の犯罪収益移転防止法上の義務を負わせることが必要と考えられるとされている。
 加えて、同報告書では、このようなテロ資金供与等防止の観点に加えて、前述のマウントゴックス社の事例も踏まえて、利用者保護のための規制の枠組みについても触れられており、以下の内容を導入することが適当と考えられるとされている。

利用者保護のための規制の枠組み

  1. 利用者の保護等に関する措置
  2. ・誤認防止のための説明
    ・利用者に対する情報提供
    ・金銭等の受領時における書面交付
    ・内部管理の実施
  3. 名義貸しの禁止
  4. 顧客の預託金銭・仮想通貨の分別管理
  5. セキュリティ対策や個人情報管理体制の整備
  6. 最低資本金規制等の財務規制
  7. 帳簿書類等の作成・保存や事業報告書の当局への提出
  8. 当局による監督権限の明確化(報告徴求、立入検査、業務改善命令等の発出など)

今後の国内規制

 上記のワーキング・グループ報告書も踏まえ、2016年3月4日、「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律案」が第190回国会に提出された。当該法律案は、銀行法をはじめとする各種法律を改正し、金融グループを巡る環境変化、ITの急速な進展等を踏まえた制度面での手当を行おうとするものであり、上記のような仮想通貨への対応も盛り込まれている。

 この点、本稿に主に関係する仮想通貨のAML/CFT対応については、資金決済に関する法律を改正し(以下「資金決済法改正案」という)、仮想通貨の売買や交換、その媒介等を業として行う仮想通貨交換業者について登録制を導入した上で(資金決済法改正案63条の2、2条7項・8項)、犯罪収益移転防止法の対象として追加することとされている(犯罪収益移転防止法改正案2条2項31号)

 また、他人になりまして仮想通貨交換契約に関するサービス提供を受けるために必要なログイン情報等の提供を受ける行為、知りながら当該情報を提供する行為等を刑事罰の対象とすることや(同法案30条)、国際テロリスト財産凍結法の規制対象財産に仮想通貨を加える(同法改正案9条1号)という改正内容も含まれている

 この改正案が成立すれば、金銭等の財産と同様に、仮想通貨がマネー・ローンダリングやテロ資金供与に用いられることを防止するための法整備が整うこととなる。

今後のAML/CFT

 前述のとおり、我が国ではFATFによる第3次相互審査における指摘事項への対処のための制度整備が進められてきたところであるが、すでに、FATFにおいては、一部の国に対する第4次相互審査手続が開始されている。

 第4次相互審査のためのメソドロジーにおいては、対象国における関連法令などの整備状況のみならず、FATF勧告の実施の有効性=「関連法令が適切に運用され、期待どおりの結果に繋がっているか」という点の検証が行われることとされている 。

 有効性の検証においては、審査対象国の当局がテロ資金供与/マネー・ローンダリングのリスクに応じた適切な監督を実施しているかという観点、金融機関等がリスクに応じた適切な措置を採っているかなどの観点からの審査が行われるとされており、FATFが重点を置いているリスクベース・アプローチが機能しているかという点が重要なポイントの1つとなると思われる。

 FATFのホームページの記載上、第4次対日相互審査は、2019年11月にオンサイト調査2020年6月にFATF会合での議論が行われる可能性があるとされており、今後はこのようなスケジュールを念頭に、我が国におけるAML/CFTに関する議論が進展していくと考えられる。

 AML/CFTの実効性を担う金融機関等においては、本稿で述べたような国内外における背景を念頭に、テロ根絶に向けて、行政当局とも適切に連携しつつ取り組んでいくことが必要である。


  1. 正式名称は「犯罪による収益の移転防止に関する法律」 ↩︎

  2. 正式名称は「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律」 ↩︎

  3. 正式名称は「国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法」 ↩︎

コンテンツの更新情報、法改正、重要判例をもう見逃さない!メールマガジン配信中!無料会員登録はこちらから
  • facebook
  • Twitter

関連する特集