ファイナンス法の基礎

第1回 ファイナンス法とは? ファイナンスと法とのコラボレーション

ファイナンス

はじめに - 連載にあたり

 本連載は、拙著「ファイナンス法- 金融法の基礎と先端金融取引のエッセンス」(商事法務、2016)のダイジェスト版である。本書は、大手法律事務所や金融実務の先端で取り扱われているファイナンス法とその実務全体を一冊の本にまとめたものであるが、他方で、多数の図表を利用したことや網羅性・正確性の観点から600頁を超える大著となった。本連載は、ファイナンス法の基礎を初心者にも読みやすい分量でまとめるとともに、本書へのイントロダクションとなるものである。

 本連載は、本書全体を全5回に分け、①「第1回:ファイナンス法とは? - ファイナンスと法とのコラボレーション」、②「第2回:コーポレート・ファイナンスとは? – デットとエクイティの区別を踏まえて」、③「第3回:ストラクチャード・ファイナンス/アセット・ファイナンスとは? - ファンド/SPVを利用した資金調達」、④「第4回:アセット・マネジメントとは? - 資産運用と投資の世界」、⑤「第5回:金融規制法 – レギュレーションと呼ばれる世界」というテーマで説明を行う。

ファイナンス法とは?

 ファイナンス(金融)法とは、ファイナンス(金融)を規律しまたはこれと関連する諸法令、法理論および法実務並びにこれと関連する金融経済学の一部の総称をいう。ファイナンス(金融)法という名称の法律やファイナンス(金融)全般に共通する基本法となるような法律は存在しないため、ファイナンス法の意味や内容は、金融経済学的観点からみたファイナンスの意味や内容による影響を受ける。

ファイナンスとは?

伝統的意義と現代的意義

 ファイナンス(金融)の最も基本的な要素は、資金提供者(貸し手)から資金調達者(借り手)に対する資金の融通であり、これは資金調達者にとっては資金調達、資金提供者にとっては投資となる(図1-1)。

【図1-1:ファイナンス(金融)とは?】

 なお、金融経済学やファイナンス法務においては、①資金調達を中心とする分野(コーポレート・ファイナンスなど:第2回・第3回連載)と②投資を中心とする分野(証券投資理論やアセット・マネジメント・ビジネス:第4回連載)とは専門分野が分かれている。これは、資金調達と投資は究極的には一連の流れであるものの、それぞれに必要または関連する経済学上の理論や金融規制などが異なるためである。
 また、現代においては資金の融通以外の各種ファイナンス取引(売買による資金調達やデリバティブなど)も存在するため、これらを含むファイナンスの現代的意義を検討する必要がある。ファイナンスの現代的意義については、例えば、リスクと利益を本質的要素とするものであるとか、現在価値が同じになるキャッシュフローの交換であるといった説明が行われている。

ファイナンスの本質的要素

 ファイナンス(取引)は、リスクのない時点間貸借取引とリスク負担取引の2つを本質的要素としている。

(1)リスクのない時点間貸借取引(金銭の時間的価値)

 金銭には時間的価値があるため、資金提供者(貸付人や株主など)は資金調達者(借入人や株式会社)から、金銭の貸借料/利用料を受領する。このような貸借料/利用料は、下記(2)のリスクとは関わりなく計算されるため、リスクフリーレートと呼ばれる。

(2)リスク負担取引(リスク・プレミアムなど)

 投資家(資金提供者)が負担する、資金調達者から資金が返済されないリスク信用リスクといい、信用リスク負担の見返りとして、投資家は資金調達者からリスク・プレミアムを受領する。この結果、①リスクフリーレートと②リスク・プレミアムの合計額が、投資家が要求するリターンの最低額となる。また、ファイナンス(金融)では、市場価格の変動による市場リスクもファイナンス取引の価値に影響を与える。

ファイナンスにおける権利義務:デットとエクイティ

 資金提供者と資金調達者のリスクに関する権利義務関係は、ローンや預金の場合と株式の場合では大きく異なる。

(1)ローンや預金の場合:デット

 資金提供者(貸付人や預金者)は資金調達者(借入人や銀行)に対し、提供した資金(元本)の返済と一定額のリターン(利息)の支払を、一定の期日に一定の金額で確定的に請求できる請求権を取得する。このような種類の請求権を一般的にデットという(第2回連載)。

(2)株式の場合:エクイティ

 資金提供者(株主など)は資金調達者(株式会社など)に対し、提供した資金(出資)に対するリターン(配当)の支払などを請求できるが、一定の期日に一定の金額で支払いを確定的に請求できるわけではなく、資金調達者の業績などに応じてその支払いの有無や時期が影響を受ける、(経済学的な意味における)条件付きの請求権を取得することになる。このような種類の請求権を一般的にエクイティという(第2回連載)。

(3)デット/エクイティと債権/債務の関係

 資金調達を目的とするファイナンスでは、一般的には、投資家は債権者、資金調達者は債務者の立場となる。金銭の給付を目的とする金銭債権の場合、債権者は債務者に対して金銭の支払い請求権(金銭債権)を有し、債務者がこれを履行しない場合には債務不履行(デフォルト)となる。
 デット性の請求権は、債権の典型例となる。これに対し、エクイティ性の請求権は、一定の条件を満たさない限り、資金調達者(株式会社)は資金提供者(株主)に確定的な支払義務を負わないので、条件が成就するまでの間は個別具体的な債権(債務)が発生しないという(経済学的な意味における)条件付きの債権(債務)となる。

各種ファイナンス取引とその分類

一般的分類

 ファイナンス取引の一般的分類には、以下のように様々なものが存在する。ただし、各分類の基礎となる概念や各分類相互の関係は、必ずしも一義的であるとは言えない(詳しくは本書第2章第1節参照)。

(1)金融機関を基準とする分類

 各金融機関の主体別に伝統的金融取引を説明し(例:銀行→ローン、証券会社→ブローカー/ディーラー業務、保険会社→保険業)、これに追加する形で先端ファイナンス取引(例:証券化、デリバティブ)の説明を行う方法である。

(2)直接金融と間接金融を基準とする分類

 直接金融資金調達者が、資金提供者から、市場における有価証券などの発行を通じて直接的に資金調達を行う手法)による資金調達(例:株式や社債など)と間接金融最終資金調達者が、最終資金提供者から、銀行などの間接金融機関を経由して間接的に資金調達を行う手法)による資金調達(例:ローンなど)の区別を基準とする説明方法である。

(3)デットとエクイティを基準とする分類

 エクイティ・ファイナンスエクイティによる資金調達)とデット・ファイナンスデットによる資金調達)の区別を基準とする説明方法である。実務的には、そのハイブリッドないし中間型が数多く存在する。

(4)その他の分類

 上記のほか、コーポレート・ファイナンス、アセット・ファイナンス、ノンリコース・ファイナンス、ストラクチャード・ファイナンスといった諸概念が存在する。

① コーポレート・ファイナンス

 コーポレート・ファイナンスという用語は多義的に使用されるが、①企業の観点から見た金融取引全般(広義)、②企業の信用力に基づく資金調達(狭義)、③企業全体の信用を引当に行うdebt finance(最狭義)といった意味を有する。上記①は、金融経済学におけるコーポレート・ファイナンスに対応するものである(第2回連載)。

② アセット・ファイナンス、ノンリコース・ファイナンス、ストラクチャード・ファイナンス

 アセット・ファイナンス、ノンリコース・ファイナンスやストラクチャード・ファイナンスは、コーポレート・ファイナンスの有するデメリットに対応するために利用される手法である(第3回連載)。

私見に基づく分類(試論)

 私見によれば、ファイナンス取引はその目的とリスクに応じ以下の4つ(またはその組み合わせ)に分類して整理することが有益と考える(詳しくは本書第2章第2節・第3節参照)。

(1)与信取引

 資金提供者にとっては投資=リターンの受領、資金調達者にとっては資金調達を目的として行われる、資金調達者の信用リスク(元本リスク)を伴う取引をいう(第2回~第4回連載)。

(2)売買(資金調達目的の資産売却)

 資金調達者が資金調達を目的として行う売買(資産売却)をいう(詳細については本書第8章第1節参照)。

(3)デリバティブ取引

 ヘッジ/投機目的を目的として行われ、主として市場リスクを取引するデリバティブ取引をいう(詳細については本書第10章参照)。

(4)フィービジネス

 各種ファイナンス取引に関連し、手数料(フィー)を受領する目的で行われる取引やサービスをいう(詳細については本書第11章参照)。

ファイナンス法の意義と特徴

ファイナンス法の分類:金融取引法と金融規制法

 ファイナンス(金融)法は、一般的には、金融取引法(第2回~第4回連載)と金融規制法(第5回連載)の2つに分類される。

ファイナンス法とファイナンス(金融経済学)との関係

 ファイナンス(金融)法は、ファイナンス(金融)と法の両方に関連する分野であるため、金融経済学(伝統的金融論や現代ファイナンス理論)の一部は、ファイナンス法(金融取引法と金融規制法)と不可分一体の関係またはその前提となっている。
 また、金融取引法、金融規制法と金融経済学の3つを比較した場合、(i)金融経済学最も経済学的色彩の強い分野であり、(ii)金融規制法は、多くの場合個々の金融規制の詳細(条文解釈)はファイナンス法を専門とする法律学者または実務家(弁護士)がその中心的な役割を果たしていることから、相対的には法律学的色彩の最も強い分野であり、(iii)金融取引法は、金融取引を行う経済主体自身がその希望する経済目的や取引の内容を提案し、ファイナンス法実務家(弁護士)の役割はこれを実現するための法的サービスを提供することであることから、経済学的色彩と法律学的色彩が不可分に交錯する中間的分野である。
 さらに金融取引法は、①民法上の契約類型や訴訟上の攻撃防御方法である要件事実を構成するといった観点から、金融取引を実体法的または手続法的に捉える場合には、より法律学的色彩が強い分野となるが(本書においてファイナンス取引法という。)、②経済主体の希望する経済目的を実現するため、法理論を動的に活用するという観点から捉えた場合には、より経済学的色彩が強い分野となる(本書においてファイナンス(取引)法務という。)。以上をまとめたものが【図1-2】である。

【図1-2:ファイナンス(金融)法全体のイメージ】

ファイナンス法務の特徴

 ファイナンス法務において、ファイナンス(金融)と法は、(ⅰ)基本的には、動機(目的)と手段の関係にあり、(ⅱ)目的とするファイナンス取引と一般的に利用されるファイナンス取引(手段)との間に齟齬や乖離が存在する場合、かかる齟齬や乖離に伴うリスクを分析・検証したり、このような齟齬や乖離を解消するため、取引の仕組みそのものを修正、変更または創造したりする関係にある。以上のようなファイナンス法務では、①予防法務紛争の発生あるいは損害の発生を未然に防止・回避するという観点で対応する法務)、②現代ファイナンス理論経済学において証券投資理論/インベストメント理論やコーポレート・ファイナンスと呼ばれる分野)、③金融技術情報技術の発展を背景として発達した金融工学に基づく技術)、④アンバンドリング投資リスクまたは金融仲介機能を分解すること)などが重要概念となる。以上をまとめたものが【図1-3】である(詳細については本書第3章第2節~第5節参照)。

【図1-3:予防法務におけるリスク分析と対応のイメージ】


 今回は初回ということで、ファイナンス法の意義と役割について概要を説明した。次回は、コーポレート・ファイナンスを中心により詳細な説明を行う予定である。

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