ファイナンス法の基礎

第3回 ストラクチャード・ファイナンス / アセット・ファイナンスとは? ファンド / SPVを利用した資金調達

ファイナンス

※本連載は、「ファイナンス法- 金融法の基礎と先端金融取引のエッセンス」(商事法務、2016)のダイジェスト版です。本文中、「本書」とはこちらの書籍のことを指します。

ストラクチャード・ファイナンス / アセット・ファイナンスとは?

 第3回連載では、(a)コーポレート・ファイナンス(参照:「第2回 コーポレート・ファイナンスとは? – デットとエクイティの区別を踏まえて」)におけるデメリットやリスクを回避する形で発展した資金調達手段であるノンリコース・ファイナンスや(b)投資運用の実務であるアセット・マネジメント(詳細は連載第4回で解説)などで利用されるファンドにつき、法的観点からその理論的基礎を検討する。ノンリコース・ファイナンスの代表例としては、ストラクチャード・ファイナンス一定の仕組みが組み込まれた金融取引(仕組み金融))やアセット・ファイナンス特定の資産のみに依拠して資金の融資を行う手法)があげられる。
 ノンリコース・ファイナンスは、コーポレート・ファイナンスのデメリットである、①資産価値の調査可能性・容易性、②負債価値の調査可能性・容易性、③回収競合性といった点に対応するファイナンス手法である(参照:「第2回 コーポレート・ファイナンスとは? – デットとエクイティの区別を踏まえて」)。

 その法的特徴の1つめは、資産価値の調査可能性・容易性(①)に対応するため、投資家の引き当てとなる責任財産の範囲が特定の資産などに限定される点である(下記2-1・2-2)。ノンリコース・ファイナンスにおいて、投資家は、資金調達者の総財産のうち実質的な経済価値があると調査・判断できる資産だけを選択し、当該資産からの回収可能性だけに着目して投資決定する。ノンリコース・ファイナンスでは、投資家(資金提供者)の引き当てとなる責任財産を特定の事業や資産に限定する代わり、他の債権者の同意を条件として、当該事業や資産は当該投資家(資金提供者)のみの引当財産とされる。この点で、資金調達者の総財産を責任財産とする一方で、資金調達者に対する他の投資家や債権者も資金調達者の総財産を引き当てとするコーポレート・ファイナンスとは区別される。

 その法的特徴の2つめは、負債価値の調査可能性・容易性(②)や回収競合性(③)に対応するため、SPVをその構成要素とするファンドが利用される点である(下記2-3・2-4)。SPVは、(i)資金調達の場面においては、最終資金調達者の総財産の一部を構成する特定の事業や資産を、最終資金調達者であるオリジネーターから移転し、最終資金調達者の信用リスクの影響を受けない投資の仕組みを組成するため利用される。次に(ii)投資運用の場面においては、SPVは、投資家の投資対象となる特定の有価証券その他の資産を、投資家の資金の運用を専門的に行うファンド・マネージャーの財産から切り離し、ファンド・マネージャーの信用リスクの影響を受けない投資の仕組みを組成するため利用される。

ストラクチャード・ファイナンス / アセット・ファイナンスの基礎

責任財産という考え方

 民法上、責任とは、一定の財産が債務の引き当てとなっていること、言い換えれば債務が履行されない場合その債権の満足を得させるために一定の財産が担保となっていることをいうとされる。ここでは、責任財産を、(より広義に)投資家の投資回収の引き当てとなる財産をいうと定義しておく。
 民法(総則)では、法人(私権の主体)内部の部署・業務・資産の種類ごとに、財産権(私権の客体)の帰属先を細分化することはできない。資金調達者が投資額を返済しない場合、デット投資家は強制執行などにより資金調達者の財産を取得・換価して回収を図るが、その引当となる財産(責任財産)は、資金調達者の法人格に帰属する全ての財産総財産)と一致するのが原則となる。

 もっとも、理論上存在し得る責任財産の範囲としては資金調達者の特定の事業や資産も存在し、実務においては、特別法や当事者の合意などに基づき、意図的にこのような責任財産を創設する仕組みがしばしば利用される。かかる仕組みとしては、①責任財産限定特約特定の債権者と債務者の間の合意に基づき、当該債権者との関係において、特定の事業または資産だけを責任財産とする特約)の利用や②SPV(ファンド)に対する事業や資産の移転などが存在する。後者では、特定の事業・資産の帰属を資金調達者から法的に切り離し(移転し)た上、その新たな帰属先としてSPVを利用する方法(本書において移転型という)が採られる。
 なお、新規に開始する事業の場合、資金調達者が当該事業を開始した後でこれをSPVに移転するのではなく、当該事業の運営のみを目的として設立したSPV自身が新規事業を開始する方法(本書において独立プロジェクト型という)も採られる。

責任財産の範囲とノンリコース・ファイナンス

 以上のような一定の法制度や仕組みを利用し、責任財産の範囲を柔軟に設定することにより、ノンリコース・ファイナンスが可能となる。これは、ファイナンスにおける最も本質的な要素のひとつである信用リスクのコントロールクレジット・エンジニアリング)を実現するものであり、これに対応する形でファイナンス手法の分類が行われている。

【図3-1:責任財産の範囲とファイナンス手法】

 【図3-1】は、理論的に存在し得る責任財産の範囲とファイナンス手法の大まかな関係を示したものである。まず、資金調達者の責任財産の範囲としては、大きく、①総財産、②特定の事業(または部門)、③特定の資産が存在する。次に、資金提供者のファイナンス手法としては、(i)資金調達者の総財産を引当に行われるコーポレート・ファイナンス(参照:「第2回 コーポレート・ファイナンスとは? – デットとエクイティの区別を踏まえて」)、(ii)資金調達者の特定の資産を引当に行われるアセット・ファイナンス、上記の中間的なものとして、(iii)資金調達者の事業を引当に行われるプロジェクト・ファイナンスなどが存在する。このうち、コーポレート・ファイナンスは、(終局的には)資金調達者の全財産を責任財産とするファイナンス手法フルリコース・ファイナンス)であるのに対し、アセット・ファイナンスとプロジェクト・ファイナンスは、一般的には、資金調達者の特定の資産または事業のみを責任財産とするファイナンス手法ノンリコース・ファイナンス)となる。

SPV

 SPVとはSpecial Purpose Vehicleの略称であり、特別の目的を実現するために設立または設定される器をいう。SPVは、その責任財産となる特定の事業や資産を、関係当事者の総財産から切り離して法的に帰属させるために設立または設定される
 もっとも、(i)オリジネーターやファンド・マネージャーが倒産手続に服した場合、SPVに帰属する責任財産やそのキャッシュフローが影響を受けると、投資家はこうした関係当事者の信用リスクを引き続き負担することになる。これを避けるため、SPVを利用したファイナンス取引においては、関係当事者の倒産による影響からの回避が必要となる。資金調達の場面においては、これはオリジネーターからの倒産隔離と呼ばれる。
 また、(ii)仮にSPV自身が倒産手続に服すると、投資家に支払われるべきキャッシュフローが毀損するため、投資家はSPVの信用リスクも考慮する必要が生じる。これを避けるため、SPVを利用したファイナンス取引においてはSPVの倒産による影響からの回避SPVの倒産隔離)も必要となる。
 (狭義の)SPVは、独立の権利義務の帰属主体としての機能を有する必要がある。このような意味におけるSPVの条件を満たすものとしては、会社と信託が存在する。

(1)会社(SPC)

 SPVとして利用される会社SPCSpecial Purpose Company)または特別目的会社という。SPCには、①特別法に基づき投資専用に設立される会社と、②会社法上の会社をSPVとして利用するものが存在する。前者(①)の代表例は、資産の流動化に関する法律(SPC法)に基づき設立される特定目的会社(TMK)や投資信託及び投資法人に関する法律(投信法)に基づき設立される投資法人(REITなど)である。後者(②)の代表例は合同会社GK)である。

(2)信託(SPT)

 SPVとして利用される信託を、SPTSpecial Purpose Trust)または特別目的信託という。SPTにも、①特別法に基づき投資専用に設定される信託と、②信託の一般法である信託法上の信託をSPVとして利用するものが存在する。前者(①)の代表例は、SPC法に基づき設定される特定目的信託(TMS)や投信法に基づき設定される(狭義の)投資信託である。

ファンド

(1)ファンドとは?

 一般的に、ファンドとは、他人から金銭などの出資・拠出を集め、当該金銭を用いて何らかの事業・投資を行い、その事業・投資から生じる収益等を投資家に分配するような仕組みを意味すると説明される。ここでは、下記①②③④⑤のファンド構成要素により構成される、投資から生じる収益等を投資家に分配する仕組み全体ファンドと定義する。

①金銭の出資・拠出(エクイティ投資

②上記①と併用されるデット投資(もしあれば)

→ファンドにおいては、投資効率を向上させるため、エクイティ投資(①)とデット投資が併用される場合も多い。


③上記①②の投資先(帰属先)となり、かつ下記④⑤の帰属先ともなるSPV

→この意味におけるSPVには、法人型のSPVと信託型のSPVが存在する。なお、本稿では、組合型のヴィークルは、SPVと組合型のエクイティ出資の組み合わせであると整理する。


④上記①②に基づく資金プールまたはこれを原資とする投資資産

⑤上記①②に基づく資金プールを運用するファンド・マネージャー

→ファンドは、エクイティ投資家に投資リターンを分配するために組成されるが、投資が実際に収益等を生むには、ファンド・マネージャーによる投資分析および投資運用情報生産機能)が必要となる。

 以上を踏まえ、ファンドの構成要素(構造)とこれに関連する諸概念の関係を示したのが【図3-2】である。

【図3-2:ファンドの構成要素(構造)と諸概念】

 ファンドにおける複数の投資家によるエクイティ投資は一般的に集団投資(Collective Investment)と呼ばれ、また仕組みを一般的にスキームとも呼ぶことから、ファンドは(広義の)集団投資スキーム(CIS)とも呼ばれる。これに対応し、ファンドにおけるエクイティ投資持分ファンド持分または(広義の)集団投資スキーム持分という。

(2)ファンド運用の種類:流動化型と運用型

 ファンド運用においては、流動化型と運用型の区別が重要となる。流動化型とは、投資対象となる資産または事業(責任財産)を最初に特定した上、投資家から投資を募る手法をいう。投資よりも先に資産が特定されることから、「まず(特定)資産ありき」と呼ばれるファイナンス手法である。特別法に基づく流動化型ファンドの代表例は、TMKとTMSである。他方、運用型とは、投資対象となる資産または事業(責任財産)を特定しないまま、投資家がファンド・マネージャーに投資運用を委託する手法をいう。資産の特定よりも先に投資が行われることから、「まずお金ありき」と呼ばれるファイナンス手法である。特別法に基づく運用型ファンドの代表例は、REITと投資信託である。

信託

 信託とは、信託法に規定される制度であり、①特定の者(委託者)が②一定の目的(信託目的)に従い③財産(信託財産)の管理または処分およびその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものと定義される。信託目的に従い、信託財産の管理または処分を行う特定の者受託者といい、受託者が信託財産を管理・処分する義務を負う相手方受益者といい、受益者が受託者に対して有する権利信託受益権または単に受益権という。以上を踏まえ、信託の当事者の関係図を示したものが【図3-3】である。

【図3-3:信託当事者の関係図(概要)】

 信託は、もともとは財産管理のための制度として発達したものであるが、現代においてはファンドとしての利用が増えている。

各種ストラクチャード・ファイナンス / アセット・ファイナンス取引

 ノンリコース・ファイナンスの代表例であるストラクチャード・ファイナンスやアセット・ファイナンスの具体例としては、プロジェクト・ファイナンス以外にも、買収ファイナンス(LBO)証券化、REITなどがある(本書第9章参照)

 以上、ストラクチャード・ファイナンス/アセット・ファイナンスについて説明を行った。次回は、アセット・マネジメントについて説明を行う予定である。

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