ファイナンス法の基礎

第5回 金融規制法 レギュレーションと呼ばれる世界

ファイナンス

※本連載は、「ファイナンス法- 金融法の基礎と先端金融取引のエッセンス」(商事法務、2016)のダイジェスト版です。本文中、「本書」とはこちらの書籍のことを指します。

金融規制法

金融規制の意義

 ファイナンス法は、金融取引法金融規制法およびこれと関連する金融経済学の一定のテーマにより構成されるが(参照:「第1回 ファイナンス法とは? - ファイナンスと法とのコラボレーション」)、第5回連載ではこのうち金融規制法を取り扱う。金融規制法は、金融機関や金融制度を規律する法律を中心とするものである金融規制法に基づく法規制金融規制という。
 なお、金融規制の種類としては、開示規制、業規制、不正行為取引規制などが存在する(下記参照)。

金融規制法の必要性(目的)

 金融規制の目的や必要性は、(伝統的)金融論を踏まえた観点から、直接金融と間接金融に分けて説明される場合が多い。

(1)間接金融の場合

 間接金融(参照:「第1回 ファイナンス法とは? - ファイナンスと法とのコラボレーション」)においては、預金者などの最終資金提供者は、金融機関を直接の取引の相手方とし、金融機関の信用リスクを負担する
 間接金融における金融規制の第1の目的は、預金者などの最終資金提供者の保護となる。金融機関と最終資金提供者の間には情報の非対称性に起因する逆選択モラルハザードといったリスクが存在するため、最終資金提供者が金融機関の経営を自ら監視することは不可能または困難であることが多く、最終資金提供者に代わって規制当局が金融機関の経営を監視し、最終資金提供者を保護する必要がある。
 間接金融における金融規制の第2の目的は、信用秩序の維持である。ひとつの金融機関が破綻したときに、これと連鎖する他の金融機関の破綻が順次拡大することシステミック・リスクと呼ぶが、特に間接金融においては、システミック・リスクを防止して信用秩序を維持する必要がある。
 間接金融における金融規制法の代表例は、銀行法保険業法である。

(2)直接金融の場合

 他方、直接金融(参照:「第2回 コーポレート・ファイナンスとは? – デットとエクイティの区別を踏まえて」)では、投資家の保護市場の健全性確保に主眼が置かれる。
 直接金融では、投資家は自らの判断と責任において発行者の発行する有価証券などに投資を行うが(自己責任の原則)、投資家と発行者またはその仲介機能を果たす証券会社等の金融機関の間には情報格差(情報の非対称性)や交渉力格差が存在することから、投資家保護制度が必要となる。
 また、現実の市場は市場価格に利用可能な情報が完全には反映されない不完全な市場であるため、市場において公正かつ円滑な価格形成が行われるためには、市場の健全性を確保することにより、投資家の市場に対する信頼を確保する必要がある。
 直接金融における金融規制法の代表例は、金融商品取引法(金商法)である。

開示規制

 直接金融における投資家保護と市場の健全性確保のため、資金調達者である発行者を規制対象とし、投資家のために、発行する有価証券に関する情報(証券情報)や発行者に関する情報(企業情報)を適切に開示する義務を課する規制開示規制である。投資家保護のための開示規制は主として金商法により行われるが、金商法における開示制度を金商法開示制度という。金商法開示制度には、(1)有価証券を発行する際の開示制度である発行開示制度と、(2)上場会社等が行う継続的な開示制度である継続開示制度の2つが存在する。【図5-1】は、発行開示制度と継続開示制度を含む金商法開示制度の全体構造を示したものである。

【図5-1:金商法開示制度と発行開示および継続開示】

(出典)近藤光男ほか『基礎から学べる金融商品取引法〔第3版〕』(弘文堂、2015)の図をもとに筆者が作成

業規制

 預金者や投資家の保護、また、間接金融においては信用秩序の維持、直接金融においては市場の健全性確保といった目的を実現するため、金融業を営む金融機関を規制対象とし(i)当該金融業を行うための参入規制としてライセンスを要求したり(ii)当該金融機関が行う各種行為に対する規制(金融機関の行為規制)を課したり(iii)特に間接金融に携わる銀行や保険会社についてはその経営または財務の健全性を確保するための諸規制(プルーデンシャル規制)を課すのが、金融業に対する規制(業規制)である。このうち行為規制の代表例としては、金商法における金融商品の取得勧誘や販売に関するルールなどがあげられる。業規制は各種金融サービス毎に行われるため、金融サービスを提供してその対価(フィー)を受け取るフィービジネスの提供者は、業規制の対象となることが多い。

不正行為取引規制

 (不正行為)取引規制とは、市場の価格を人為的に操作したり、根拠のない噂を流したりする市場参加者の不公正な行為に対する規制をいう。その代表例としては、金商法における、①インサイダー取引の禁止、②人為的に市場価格を操作する株価操縦の禁止、③風説の流布の禁止などがあげられる。

SPV/ファンドに関する特別法

 金融規制法の中には、SPVやファンドに対して特別の金融規制を行う法律がある(参照:「第4回 アセット・マネジメントとは? - 資産運用と投資の世界」)。

金融機関と金融業

金融機関とは?

 本書において、金融機関とは、各種金融業を営む法人その他の組織をいうものと定義する。金融機関は、金融経済学においては、金融制度または金融システムの主要な構成要素または主体として説明される。【図5-2】は、金融経済学の観点から日本の金融機関を説明した図である。

【図5-2:日本の金融機関】

(出典)岩田規久男『初歩から学ぶ金融の仕組み』(左右社、2010)の図、鹿野嘉昭『日本の金融制度〔第3版〕』(東洋経済新報社、2013)の図をもとに、筆者が作成

 金融規制法における金融業および金融機関の代表例としては、民間金融機関(II)のうち、①銀行業を営む(普通)銀行、②第一種金融商品取引業(証券業)を営む第一種金融商品取引業者(証券会社)、③保険業を営む保険会社、④投資運用業を営む投資運用会社など、⑤投資助言(・代理)業を営む投資顧問会社など、⑥信託業を営む信託銀行や信託会社などがある(下記参照)。上記②④⑤は、金商法における金融商品取引業を行う金融機関であるため、金融商品取引業者と総称される。なお、金融仲介機能を果たす金融機関金融仲介機関という。以下では、主な金融機関につき、各金融業の内容と業規制の概要につき説明を行う。

銀行と銀行業

 銀行とは、銀行法上の免許に基づき、銀行法上の金融規制を受けながら銀行業を行う金融機関をいう。銀行業とは、①預金もしくは定期預金の受入れと資金の貸付け(貸出またはローン)もしくは手形割引を併せて行うこと、または②為替取引を行うこと、のいずれかを行う営業をいう。預金または定期預金の受入れ、資金の貸付けまたは手形割引、為替取引の3つの業務を、銀行の固有業務または三大業務という。
 銀行は、固有業務以外にも(i)付随業務、(ii)他業証券業務、(iii)法定他業と呼ばれる業務を行うことができるが(詳細については本書第13章第2節参照)、これら以外の業務を営むことは禁止されている(他業禁止)。また、金商法および銀行法上、銀行が有価証券関連業務を行うことは原則として禁止される銀証分離規制)。

第一種 / 第二種金融商品取引業者と有価証券関連業

 第一種金融商品取引業者とは、金商法上の登録に基づき、金商法上の金融規制を受けながら第一種金融商品取引業(第一項有価証券に係る有価証券関連業を中心とする金融業)を行う金融機関をいう。第一項有価証券(例:株式や社債など)とは、①金商法2条1項に規定される有価証券と、金商法2条2項前段に規定される②有価証券表示権利および③特定電子記録債権をいう(詳細については本書第8章第2節参照)。

 第二種金融商品取引業者とは、金商法上の登録に基づき、金商法上の金融規制を受けながら第二種金融商品取引業(第二項有価証券に係る有価証券関連業を中心とする金融業)を行う金融機関をいう。第二項有価証券(例:信託受益権や狭義の集団投資スキーム持分(参照:「第4回 アセット・マネジメントとは? - 資産運用と投資の世界」)など)は、金商法2条2項各号に規定されている(詳細については本書第8章第2節参照)。

 第一種 / 第二種金融商品取引業には各種のものがあるが、その中心は有価証券関連業(証券業)である。有価証券関連業にも各種のものがあるが、その主要なものとしては、①自己売買 / ディーリング業務、②委託売買 / ブローカー業務、③引受 / アンダーライター業務、④有価証券の募集・私募の取扱いと呼ばれる業務などがあげられる(詳細については本書第13章第2節参照)。これらの業務を中心とする第一種 / 第二種金融商品取引業を総称して、第一種 / 第二種金融商品取引業者の本来業務という。
 第一種金融商品取引業者(証券会社)は、本来業務以外にも、(i)付随業務、(ii)届出業務、(iii)承認業務と呼ばれる業務を営むことができる(詳細については本書第13章第2節参照)。なお、第二種金融商品取引業者には、かかる業務範囲規制(兼業規制)は存在しない。

保険会社と保険業

 保険会社とは、保険業法上の免許に基づき、保険業法上の金融規制を受けながら保険業を行う金融機関をいう。
 保険業とは、生命保険、損害保険その他の「保険の引受け」(保険者の立場における保険契約の締結)を行う事業をいう。保険業には、生命保険に関する保険業である生命保険業と、損害保険に関する保険業である損害保険業がある。保険の引受(保険業)と保険料として収受した金銭その他資産の運用の2つを総称して、(保険会社の)固有業務という。
 保険会社は、保険業以外にも、付随業務法定他業と呼ばれる業務を営むことができる。保険会社は、その専門外の業務により経営または財務状態を悪化させないよう、固有業務、付随業務、法定他業以外の業務を営んではならないとされている(他業禁止)。なお、生命保険業と損害保険業の兼営は禁止されている生損保兼営禁止規制)。

投資運用会社と投資運用業 / 投資助言会社と投資助言業

 投資運用業者とは、金商法上の登録に基づき、金商法上の金融規制を受けながら投資運用業を行う金融機関をいう。投資運用業とは、投資家との間で資産の運用を一任される契約(投資一任契約)を締結し、有価証券にかかる権利に対する投資として、投資家に代わって金銭その他の財産の運用を行う金融業などをいう。
 投資助言業者とは、金商法上の登録に基づき、金商法上の金融規制を受けながら投資助言業を行う金融機関をいう。投資助言業とは、投資家との間で資産の運用に関する助言を行う契約(投資顧問契約)を締結し、投資家に対し、当該投資顧問契約に基づき助言を行う金融業をいう。
 投資運用会社には、金商法上、第一種金融商品取引業者と同様の業務範囲規制が存在する。なお、投資助言業者には、かかる兼業規制は存在しない。

信託会社 / 信託銀行と信託業

 信託会社とは、信託業法上の免許に基づき、信託業法上の金融規制を受けながら信託業を行う金融機関をいう。信託業とは、「信託の引受け」をいう。銀行などの金融機関は、金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(兼営法)に基づき、信託業を兼営することが認められている。銀行のうち、信託業を兼営するもの信託銀行という。
 信託業法上、信託会社は、信託業以外にも(i)法定業務と(ii) 承認を受けた兼業業務を営むことができる。他方、兼営法上、信託銀行は信託業以外にも(i)法定業務と(iii) 兼営法に規定される一定の業務を営むことができる。信託会社は、信託業、法定他業、兼業業務以外の業務を営んではならないとされている(他業禁止)。

金融グループに対する金融規制

 個別の金融機関に適用がある金融規制以外にも、金融グループに適用のある金融規制として、以下のようなものが存在する。

(1)ファイアーウォール規制

 ファイアーウォールとは、金融グループに属する各金融機関間における弊害防止措置を意味する。ファイアーウォール規制には、金融グループ会社に対する兼職規制非公開情報の授受に関する制限がある。

(2)アームスレングス・ルール

 金融機関が特殊な関係にある者(グループ会社など)と取引を行う場合、不公正な条件で取引が行われることにより利害関係人の利益を害する危険性がある。かかる弊害を防止するため、通常の条件で取引を行う義務を課す金融規制アームスレングス・ルールという。

(3)利益相反管理体制の構築義務

おわりに

 以上、金融規制法について説明を行った。今回で「ファイナンス法の基礎」全5回連載は最終回となる。なお、今後機会があれば、今回は紙面の関係で割愛させて頂いた各種テーマ(デリバティブ、クロスボーダー・ファイナンスなど)や各種個別ファイナンス取引(証券化、プロジェクトファイナンスなど)についても執筆を行う予定である。

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