YouTuberヒカル氏のVALU売却騒動、利用規約改定でトラブルは防げるか

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(出典:株式会社VALUのウェブサイト)

 本年8月15日、個人の価値(VALU)をネット上で取引するサービス「VALU」において、人気YouTuberヒカル氏や、所属事務所の顧問などの関係者による「売り逃げ」騒動が発生。騒動は運営会社による売買注文のキャンセルやヒカル氏らによるVALUの買戻し、ネット上でのヒカル氏らの個人情報の特定など各方面に広がり、9月4日にはヒカル氏らが謝罪動画を公開。無期限の活動休止を発表した。「VALU」をめぐっては、その取引の性質や利用者への案内などに関して批判や指摘が相次ぎ、運営会社は、利用規約の改定を行い、取引方法の見直し、誤解を招く表現を改めている。

 今回の騒動を振り返り、「VALU」が有する法的性質について金融法務を得意とする弁護士法人中央総合法律事務所の山田 晃久弁護士に聞いた1

【VALUをめぐる騒動のまとめ】

2017年8月14日

・ヒカル氏がSNSでVALUでの活動を表明、優待を期待させるツイート(すでに投稿内容は削除されている)をした事でヒカル氏のVALUが高騰

2017年8月15日

・ヒカル氏を含む関係者が高値で売却

・麻生太郎財務・金融相が「消費者保護と新しいものを育てることの両方を考える必要がある」と見解を述べる

2017年8月17日

・VAZ社より自らのVAをすべて買い戻したいという連絡を受け、特別措置として、運営会社がヒカル氏らの売買注文をキャンセル 、新たなルールの発表について公表

・ヒカル氏が自分のVALUの買戻しを開始

・ネット上でヒカル氏らの個人情報などが特定、公表される

2017年8月23日

・運営会社の顧問弁護士からVAZ社およびVAZ社の顧問であった井川氏に対し、(VAZ社から運営会社に対応すると伝えられていた)VAの 大量販売など一連の行為による損害または損失が発生したユーザーへの損害賠償または損失補填、VALU保有者からのVAの買取り、ならびに損害を被ったユーザーに対する今後の具体的な対応の内容およびスケジュールの公表等を勧告する通知書を内容証明郵便により送付

2017年9月4日

・ヒカル氏ら謝罪動画公開

・運営会社、ヒカル氏らの動画に対して不適切な言及があると公表

・運営会社、取引・利用規約をアップデート

「VALU」にはどのような規制が適用されるのか

VALUのサービス内容について教えてください。

 会員である個人がVALU(VALUの数量を表す単位を「VA」という)を発行し、他の会員へ売却することや、VALUを買い取った会員はさらに他の会員へ転売することができます。VALUの取引にはビットコインが用いられ、VALUの価値は発行者の注目度や取引状況などによって変動します。このため、VALUの発行者は売り出しによって資金調達を行うことができ、VALUの購入者は転売することで投機的な取引を行うことができます。

 このような取引が本来の目的であるかはさておき、利用規約においては、「VALUは、株式を含む有価証券、前払式支払手段、法定通貨または仮想通貨のいずれでもありません」。と強調して記されてはいますが、VALUの取引は、上場会社が発行する株式のように、有価証券の取引に似た側面を有しています。

VALUの仕組み

出典:株式会社VALUのウェブサイト

金融商品取引法は適用されるのか

有価証券の取引に似た側面があるということは、金融商品取引法が適用されるのでしょうか。

 有価証券の取引では、投資者保護のため、金融商品取引法によって募集・売出しに際して発行者に関する情報開示が求められるほか、取引の公正を害する風説の流布、相場操縦、インサイダー取引などが禁止されていますが、金融商品取引法上の有価証券は法律に列挙されるものに限られます(金融商品取引法2条1項・2項)。解釈論としては議論のあるところですが、個人が発行するVAは、ここで列挙されている有価証券に該当せず、金融商品取引法の適用を受けないように思われます。

「VALU」はクラウドファンディングに似た仕組みにも見えます。

 運営会社の代表取締役である小川氏は、9月5日付けの日経新聞の取材に対し「クラウドファンディング(本文ではCF)は『何をどうやって達成したいか』を明確にした上で、一定の期限しか支援してもらえない。VALUは継続的に支援する」と、その違いを説明されていますが、仕組みだけを見ると、「VALU」は、個人が多数の者から資金を調達する手段にもなることから、一種のクラウドファンディングともいえます。

 クラウドファンディングは、一般に、以下の類型に分けることができます。

類型 内容
①寄付型 一定の事業に対する寄付を募り、経済的なリターンがない。
②購入型 一定の製品・サービスを販売することを約束して、その対価として資金の提供を受ける。
③出資型 一定の事業に対する出資を募り、当該事業に係る収益・財産を分配する。
④融資型 将来返還することを約束して資金の貸付けを受ける。

 このうち、①寄付型と②購入型は、金融商品取引法が適用されません。③出資型については、集団投資スキームとして、その出資持分が金融商品取引法上の有価証券とみなされ、取引規制が及ぶほか、資金調達の仲介を行う者には第二種金融商品取引業の登録が求められます。④融資型については、資金の集め方によっては出資型と同様の規制が及ぶほか、貸付けの媒介を行う者に貸金業法に基づく貸金業の登録が求められます。

 「VALU」は、利用規約上、発行者が購入者に優待特典を提供することができるものの、それを行うか否か、何を提供するかは発行者が自由に決めることができ、一定の事業に係る収益・財産を分配するというものでもないことから、①寄付型または②購入型に整理されると考えられます。

資金決済法は適用されるのか

VALUは、それ自体が物やサービスではなく、発行者の「価値」とされていますが、ビットコインを通じて取引することができます。仮想通貨を用いた取引に関する規制は適用されないのでしょうか。

 最近、世界のベンチャー企業の間でICO(イニシャル・コイン・オファリング)と呼ばれる独自通貨(トークン)を使った資金調達が広まっています。ICOにおいては、発行者が発行したトークンを投資家がビットコインなどの仮想通貨を使って購入し、発行者は投資家から受領した仮想通貨を換金して資金調達を実現することができます。トークンを購入した投資家は、株式や社債のように配当や金利を受けることはできませんが、トークンで一定の製品やサービスを購入したり、トークンそのものを取引することができます。VALUは、このICOと一見似ています。

 仮想通貨に関しては、マネーローンダリング等の防止や利用者保護の観点から、本年4月施行の資金決済法の改正により、仮想通貨の売買等を行う仮想通貨交換業者に対する登録制が導入され、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、仮想通貨交換業を行うことができなくなりました。仮想通貨交換業者は、最低資本金や外部監査などの財務規制のほか、利用者保護のための各種行為規制が課され、当局による監督を受けることとなります。

資金決済法の適用を受けることになるのでしょうか。

 ポイントは、VALUが「仮想通貨」に該当するかという点です。資金決済法上、仮想通貨とは、①物品購入・サービス提供を受ける場合に、代価の弁済のために不特定の者に対して使用できるもので、かつ不特定の者を相手方として購入および売却ができる財産的価値で、電子情報処理組織を用いて移転できるもの、②不特定の者を相手方として①と相互に交換を行うことができる財産的価値で、電子情報処理組織を用いて移転できるもののいずれかをいうとされています(資金決済法2条5項)。

 VALUは、発行者から優待特典などを受けることができるほか、VALU自体の購入・売却もできますが、あくまでVALUの会員という特定の者との間での取引に限定されていますので、解釈論としては別の考え方もあり得るものの、資金決済法上の仮想通貨にあたらないと考えられます。

民法や消費者取引法が適用される余地がある

金融商品取引法、資金決済法の規制も受けないということですが、VALUには他にどのような規制が及ぶのでしょうか。

 VALUに金融商品取引法や資金決済法が適用されないとしても、取引について民法や消費者取引法が適用される余地はあります。発行者が虚偽の情報を用いてVALUの購入を勧誘し、これによりVALUを購入した者がいれば、その取引は詐欺や不実告知に基づく取消しの対象となるほか、発行者は購入者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。
 また、「VALU」の運営会社についても、取引の当事者でなく、取引の場の提供者という地位にとどまるものであったとしても、トラブルを未然に防止することができなかったことに過失があるとして、購入者に対する損害賠償責任を負う可能性があり得ます。

 今回のケースでは、運営会社から関係者に対し、VALUの大量販売など一連の行為による損害または損失が発生したユーザーへの損害賠償または損失補填、VALU保有者からの買取り、ならびに損害を被ったユーザーに対する今後の具体的な対応の内容およびスケジュールの公表等を勧告する通知書を内容証明郵便により送付したと公表されています。

 参考:株式会社VALU「ヒカル氏、ラファエル氏、いっくん氏(禁断ボーイズ)および井川氏に関する対応等についての続報

購入者保護のあり方

購入者を保護するにはどういうルールが必要でしょうか。

 VALUは株式と違って資産の裏付けがなく、発行者に対する支配権や利益配当・残余財産分配を受ける権利もありません。VALU発行者に対する一種の寄付と捉えれば、購入者を保護する必要はなく、投機的な取引で生じた損失は自己責任とする考え方もあり得ます。

 しかし、前述のとおり、VALUの取引は、有価証券の取引に似た側面を有しています。有価証券の取引においては、金融商品取引法上、発行者に関する情報開示や一定の取引に対する行為規制(風説の流布、相場操縦、インサイダー取引などの禁止)が課されるところ、同法は、これらの規制をもって、「有価証券の発行及び金融商品等の取引等を公正にし、有価証券の流通を円滑にするほか、資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成を図る」(金融商品取引法1条)ことを目的としており、この目的は、VALUにも通ずるものがあるでしょう。

 そこで、VALUの発行に関しては、購入者がとくに関心をもつと思われる事項、たとえば発行者のプロフィール、資金調達の目的、優待特典の内容・交付時期などを適切に開示させるルールを設け、不適切な開示を行った発行者に対してはサービス利用の停止、保有するVALUの没収など一定のペナルティを課すことが考えられます。

 さらに、VALUの取引に関しては、風説の流布、相場操縦、インサイダー取引の禁止を設けることが考えられますが、このうち風説の流布の禁止と相場操縦の禁止に類する事項は、本件騒動前の利用規約に禁止事項として規定されています(利用規約5条、8条1.6、8条1.9)。本件騒動後の9月4日における利用規約の改定では、インサイダー取引の禁止に類する事項が追加されています。

 このほか、VALUの運営会社において、金融商品取引所の自主規制業務を踏まえて、法令・利用規約等に対するVALU会員等の遵守状況の調査、その他VALUの取引の公正を確保するために必要な業務を行うことが考えられます。

VALU利用規約

第5条(会員の確約)
 会員は、反社会的勢力等のいずれにも該当しないこと、かつ将来にわたっても該当しないこと、および、自らまたは第三者を利用して、暴力的な要求行為、 法的な責任を超えた不当な要求行為、取引に関して脅迫的な言動をしまたは暴力を用いる行為、風説を流布し、偽計を用いまたは威力を用いて当社の信用を毀損しまたは当社の業務を妨害する行為、その他これらに準ずる行為を行わないことを確約するものとします。

第8条(禁止事項)
1.(略)

1.〜5.(略)

6.VALUの値上がりを保証しもしくは値上がりを謳うなどして購入を呼び掛ける行為、 VALUの値上がりもしくは値下がりについて他の会員に予断を抱かせる行為、他の会員にVALUの相場について何らかの誤解を抱かせ当該誤解に基づきVALUの売買を誘引する行為、またはVALUの相場について取引の実勢とかけ離れた相場を作出する行為

7.〜8.(略)

9.以下のいずれかの事実について、VALUサービス上で公開されている情報以外の情報により知った者が、当該事実がVALUサービス上で公開されてVALU全会員が知りうる状態となる前に、当該発行者のVALUの売買を行う行為

ⅰ.発行者による自己の発行したVALUの売買予定に関する事実

ⅱ.発行者による優待設定予定に関する事実

ⅲ.発行者の退会に関する事実

ⅳ.VALUERによるVALU売買予定に関する事実

ⅴ.上記以外で発行者のVALUに関する会員の売買判断に著しい影響を及ぼす可能性のある事実

10.〜33.(略)

 同日9月4日に、運営会社は、1日に売買することができるVALUの単位を制限したり、前日終値を基準に取引可能な値幅を制限したりするなど、取引ルールの見直しを行っています。このような対応も、VALUの価格の乱高下を防止する点で、購入者保護の方策として評価してよいでしょう。

発行者や運営会社が倒産、購入したVALUはどうなる

発行者や運営会社が倒産した場合、購入したVALUはどうなりますか。

 VALUの発行者が倒産した場合、VALUの払戻しはなく、約束されていた優待特典も受けられなくなる可能性があります。また、運営会社が倒産した場合には、「VALU」のサービス自体が受けられなくなり、保有するVALUをビットコインに交換することもできなくなる可能性もあります。
 つまり、VALUは、発行者に対する信用だけでなく、運営会社に対する信用の上でも成り立っているわけです。

 発行者または運営会社の倒産に対する購入者保護の方策として1つは、一定の金額を購入者保護基金として積み立てて分別管理することが考えられますが、そのような方策を講じるか否かは運営会社の判断になります。購入者は、VALUの値動きのみならず、発行者および運営会社の倒産リスクにも警戒して、取引を行うほかないでしょう。

 なお、前述した9月5日付の日経新聞の記事中、小川氏は「自社の倒産については考えていない。だが、例えば、持っているVALUをブロックチェーン上に送って別のブロックチェーンの市場で取引できるようにするなどの処置をとる可能性はある」と述べています。現時点では可能性にとどまるとのことですが、このような破綻時のバックアップ体制の整備も購入者保護の方策として有用といえます。

利用規約改定で暴落には一定の歯止めも

「VALU」の取引・利用規約改定によって今回と同様の問題が発生する可能性はなくなったと考えてよいのでしょうか。

 運営会社が見直したルールは以下のとおりです。

  1. 取引に関する新ルールについて
    • 売り注文について
      1日に売却できるVAは、対象VALUの総発行VA数の10%以下
      例:総発行VA数が1,000VAの場合、1日に100VAまで売却可能
      ※ 自身が発行しているVALU・他の方のVALUいずれも対象
    • 買い注文について
      1回に購入できるVAは、最大10VAまで
    • その他取引について
      回数制限:売買注文は、1営業日あたり合計10回まで
      1人のVALUに対する売買注文は、1日1回まで。ただし発行者による自己VALU売り出しを除く
      VALU発行直後の初回の売り出しは、5VAまで
      値幅制限:前日終値の75-150%
      出金制限:1営業日あたり最大2BTC
      自分で出した買い注文/売り注文は、自分で売り/買いが不可
  2. 利用規約について
    • MY VALU発行にあたっての審査基準の例示追記(第9条第5項)
    • 会員資格に関するルールの整理(相続が生じた場合等)(第4条第5項から第7項、第6条第5項)
    • 禁止事項および規約違反が生じた場合に当社がとりうる措置の明確化(第8条)
    • その他、ユーザーにわかりやすい文言への修正(全体)

編注:9月4日時点
参考:株式会社VALU「取引・利用規約についてのアップデートのお知らせ

 これによって今回のような問題を排除できるかどうかは、正直何とも言えません。ですが、取引可能な単位や値幅が制限されたことによって、大量のVALUが売り出され、一瞬にして価値が暴落するという事態に一定の歯止めをかけることはできるかもしれません。

新しいサービスの創造とリスクマネジメント

「VALU」のような新しいサービスが生まれる時、法的にはどのような視点が求められますか。

 近年、いわゆるFinTechをはじめ、ITを活用した画期的なサービスが次々と生まれています。その一方で、新しく生み出されたサービスが、法令上の規制に抵触したり、悪意のある者によって不正・不公正な目的に利用される等して、トラブルに発展することがよくあります。

 経済の成長にとって新しいサービスの創造は必要不可欠であり、ただ危ないという理由だけで、これを否定することはあってはなりません。かといって、何でも許されるものではありません。既存の法令に違反しないことはもちろんのこと、新しいサービスによって不当に不利益を被る者が生じないか、レピュテーションに悪影響を及ぼす事象が生じないか、といったリスクマネジメントも必要となります。ビジネスの創造力のみならず、リスクへの想像力にも力を入れ、取り組んでいくことが肝心といえるでしょう。

<追記>
2017年9月20日(水)14:10:4.利用規約改定で暴落には一定の歯止めも、に「9月4日時点」と追記いたしました。
2017年9月27日(水)17:00:冒頭の「VALUをめぐる騒動のまとめ」の記載内容を一部修正いたしました。

  1. なお、本稿のコメントは、公表されている情報に基づくものであるとともに、あくまで私見であり、所属する法人・団体の意見ではない。 ↩︎

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