最近のインサイダー取引における課徴金等の事例について 平成28年度の勧告件数は過去最高の43件

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※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュース No.145」の「特集」の内容を元に編集したものです。


 証券取引等監視委員会は、本年8月に「証券取引等監視委員会の活動状況」、「金融商品取引法における課徴金事例集〜不公正取引編〜」を公表していますので、最近のインサイダー取引における課徴金等の事例についてご紹介します。

勧告件数、課徴金額等の状況

 平成28年度の勧告件数は43件(19事案)であり、前年度の22件(16事案)に比べ大幅に増加し、年度別で過去最高の件数となりました(図表1参照)。その要因として、前年度は1事案で4件以上の勧告を行ったものがなかったが、平成28年度はそのような事案が3事案もあったことが挙げられます。 平成28年度の課徴金額合計は8,979万円となっており、前年度を上回り、年度別で過去最高の金額となりました(図表2参照)。

インサイダー取引に関する課徴金納付命令勧告件数の推移、インサイダー取引に関する課徴金額の推移

出典:「金融商品取引法における課徴金事例集〜不公正取引編〜」6頁

 次に、勧告件数(43件)を重要事実等別に分類すると、図表3のとおり、業務提携が33.3%(15件)と最も多く、課徴金制度導入時からの累計と比較して、大幅に増加しています(重要事実等45件に対する割合を記載)。

重要事実等別の構成割合

出典:証券取引等監視委員会「証券取引等監視委員会の活動状況」14頁

最近のインサイダー取引における課徴金等の事例

(1)情報伝達行為により告発された初めての事例

〔概要〕

 上場会社A社役員(取締役会長)は、平成27年9月開催のA社取締役会に出席し、同社の通期業績予想の経常利益を下方修正することとなる重要事実をA社社長から説明を受け、その職務に関し、本件事実を知った(業績予想修正の公表は平成27年10月29日)。

 A社役員は、本件事実の公表前に親族E名義のA社株式を売り付けた。また、A社役員は、親族(違反行為者①)および知人(違反行為者②)にそれぞれ損失の発生を回避させる目的をもって伝達し、この伝達を受けた両名が、本件事実の公表前にA社株式を売り付けた。
 さらに、A社役員の友人(違反行為者③)はA社役員と飲食を共にした席で、A社の調子を尋ね、その返答において、本件事実の伝達を受け、本件事実の公表前にA社株式を売り付けた。

 A社役員は、金商法166条(会社関係者の禁止行為)、金商法167条の2(未公表の重要事実の伝達等の禁止)に違反するとして告発・起訴され、平成28年11月1日、東京地方裁判所は、「被告人は、取締役会長という立場にあったがゆえに知り得た内部情報をもとに、損失の発生を回避するためA社の株券を売り付け、また、親族および知人に対しても、損失の発生を回避させるため、当該内部情報を伝える犯行に及んでおり、金融商品市場の公正性、健全性を害し、一般投資家の市場に対する信頼を大きく損ねた」として、A社役員に懲役2年(執行猶予3年)、罰金200万円の判決を言い渡した。

情報伝達行為により告発された初めての事例

(2)上場会社の従業員持株会による初めてのインサイダー取引事例

〔概要〕

 上場会社B社の役員および社員ら(違反行為者①〜⑩)は、B社がC社と業務上の提携を行うことについて決定した旨の重要事実を、社内の定例会議に出席するなどして、その職務に関し、知った。
 違反行為者①〜③(①は役員、②③は社員)は、本件事実の公表前に、B社株式を買い付けた。
 違反行為者④〜⑩(いずれも社員)は、本件事実の公表前に、B社従業員持株会に入会または拠出金を増額し、B社株式を買い付けた。
 違反行為者①〜⑩に対してはいずれも課徴金納付命令の勧告がなされている。

〔本件の意義・特徴等〕
 本件は、上場会社の従業員持株会による買付けを対象とする初の勧告事案である。
 上場会社においては、資本政策の一環として、あるいは、福利厚生の一環として、持株会の利用が盛んであり、そのメリットの一つとしてインサイダー取引規制の適用除外が挙げられることが多いが、持株会による買付けは、「一定の計画に従い」「個別の投資判断に基づかずに」「継続的に行われる」必要があり、これらの要件を欠く場合には、適用除外の対象から外れる。
 しかし、このような要件の存在にもかかわらず、持株会の新規入会や拠出金の増額に関しては、全てインサイダー取引規制の適用が除外されるとの誤解が生じているおそれがある。未公表の重要事実を知った上で持株会に新規入会したり、その拠出金を増額したりすることはインサイダー取引規制の適用除外の対象でないことに留意されたい。

 出典:「金融商品取引法における課徴金事例集〜不公正取引編〜」42頁

(3)上場会社子会社にバスケット条項が初めて適用された事例

〔概要〕

 上場会社D社の子会社であるE社が施工した工事の一部について、施工報告書の施工データの転用および加筆があったことが判明した。
 E社社員(違反行為者)は、E社が施工した工事における施工データの調査を依頼され、調査作業を行う中で、その職務に関し、本件事実を知り、本件事実の公表前にD社株式を売り付けた。
 E社社員(違反行為者)に対しては課徴金納付命令(63万円)が勧告された。

上場会社子会社にバスケット条項が初めて適用された事例

〔本件の意義・特徴等〕
  1. 特徴
     本件は、上場会社等の子会社のバスケット条項を適用した初の勧告事案である

  2. バスケット条項の適用について
     E社が施工した工事は建築物の基礎の安全性を確保する目的で行われることなどを踏まえると、本件事実は、同様の工事を事業として行っていたE社の社会的信用を毀損し、ひいては、D社の社会的信用を毀損し、その事業展開にも支障をきたしかねないものである。また、同様の工事についての調査を必要とし、疑義が払拭できない場合には補強・改修工事等が必要となるなど、E社の業績のみならずD社の連結業績の悪化を招くおそれのあるものである。
     これらの事情などを踏まえると、投資者が本件事実を知れば、当然に「売り」の判断を行うものと認められる。
     なお、本件事実公表後、D社株式の株価及び時価総額が大きく下落した(時価総額3000億円超)。

 出典:「金融商品取引法における課徴金事例集〜不公正取引編〜」64頁

問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部 会社法務コンサルティング室
03-6250-4354
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