Initial Coin Offering(ICO)の法的位置付け

ファイナンス

(jull-gull / Shutterstock.com)

ICOの概況

 近時、Initial Coin Offering(ICO)と呼ばれる手法による資金調達が注目されています。海外では数億ドル規模の資金調達を行うICOの事例が見られるようになっており、国内でもICOの実施事例・検討事例が増えてきており、ICOのためのプラットフォームを提供する事業者も現れています。

 一方で、具体的なスキームにもよるもののICOにおける投資家の権利は法的には不安定であることが想定され、また、ICOとして実施される取引の中には詐欺的な事例も少なくないと言われています。ICOを使った詐欺やマネーロンダリングを防ぐ観点から、中国や韓国などICOを禁止することを公表する国も出てきています。

ICOの仕組み

ICOの多様性

 ICOとして実施・検討されたり、論じられているスキームは、電子的にトークン(コイン)を発行して資金調達を行う(円、ドルなどの法定通貨を調達する場合のほか、Bitcoin、Etherなどの仮想通貨を調達する場合もあります)という点では共通しているものの、それ以外の内容は一様ではなく、ICOにおいて投資家に付与されるトークンの機能(投資家の権利)も多様なものが想定されています。また、どのような要素を満たすスキームがICOといえるかについても、まだはっきりとしていないように思われます。

 ICOは、通常、インターネット上で不特定多数の者を対象にトークンの買い手の募集が行われるものであり、クラウドファンディングの一類型と評価することもできます。実務上、ICOにおいてはトークンの発行者がウェブサイトにおいてホワイトペーパーと呼ばれる説明資料を開示するのが一般的となっています。ホワイトペーパーには、ICOの期間・調達額、調達した資金で実施するプロジェクトの内容、トークンの技術的な説明、トークン保有者の権利・メリットなどの情報が記載されることが一般的ですが、項目や様式が定まっているものではありません

ICOの類型

 Initial “Coin” Offeringと呼ばれるものの、ICOで発行されるトークンは必ずしも資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます)上の「仮想通貨」(同法2条5項)に該当するとは限らず、法的性質は個々の取引ごとに異なるものと考えられます。トークン(あるいは一定数以上のトークン)の保有者には、一定の権利・メリットが付与されることがあるほか、一定事項についての議決権が付与され、調達した資金で実施されるプロジェクトに関する意思決定に参画できる場合もあります。また、トークンについて、国内外の仮想通貨取引所に上場され、トークンの保有者が取引を行うことができるようになることもありますが、規制対応等の観点から、トークンの設計上、第三者への譲渡を禁止することも考えられ、トークンの流動性についてもスキームごとに異なります。

 トークンの保有者にいかなる権利・メリットが付与され、トークンがいかなる機能を有するのか必ずしも明確ではないことや、トークンが複数の機能を併せ持つことも想定されますが、ICOにおいてトークンの保有者に付与される権利・メリットをモデル化すると、以下のように分類することができると考えられます。

【トークンの保有者の権利・メリットによるICOの類型】

類型 トークンの保有者の権利・メリット
仮想通貨型 トークンの保有者に特別の権利はなく、決済・交換に利用できるのみ
法定通貨型 トークンの保有者は、決済・交換に利用できるほか、発行者に法定通貨により当初の拠出額相当額の払戻しを請求することができる
ファンド型 トークンの保有者は、発行者がトークンの対価により営むプロジェクトの収益の分配を受けることができる
商品券型 トークンの保有者は、発行者または特定の第三者の提供する商品・サービスの対価として、トークンを使用する(費消する)ことができる
会員権型 (一定数量以上の)トークンの保有者は、発行者の提供するサービスを利用したり、優遇措置を受けることができる(利用に際してトークンを費消しない)
期待権型 トークンの保有者には将来的に何らかのメリットが提供されることが期待されているが、メリットの内容は確定しておらず、その実施も約束されていない

ICOによる資金調達のメリット・留意点

資金調達者にとってのメリット・留意点

 前述のとおり、トークンの保有者にいかなる権利・メリットが付与されるか、換言すると、トークンを発行する資金調達者がいかなる負担を負うことになるかは、個々のICOのスキーム・条件次第となります。そのため、ICOにおける資金調達者のメリットや留意点もスキーム次第ということになりますが、一般的には次のようなことがあげられます。

 まず、投資家に対して株式を付与するわけではないことから資金調達者の株主構成や自らの支配権に影響を与えることなく資金を調達できることになります(もっとも、トークンの保有者にプロジェクトの運営に関する「議決権」が付与される場合には、資金調達者はトークンの保有者の意思を踏まえてプロジェクトを運営することが求められます)。また、保有者に利息・収益配当を受領する権利がなく、かつ、元本の償還(払戻し)も行われないトークンによる場合には、資金調達者は経済的な負担を伴うことなく資金調達を行うことが可能となります。

 他方、特にこのように資金調達者からの投下資本の回収が図れない、あるいは限定されているICOにおいては、何を誘因として投資家に資金を拠出してもらうか、工夫が必要となると考えられます。

 次に、電子的にトークンを発行するための技術が備わっていれば、手続面等での事務負担は少なく、迅速に資金調達を行うことが可能となると考えられます。また、インターネットを介して勧誘を行うことにより、証券会社等の仲介者を要することなく不特定多数の投資家から資金調達を行うことができることになります。さらに、トークンの性質にもよるものの、株式や社債を発行する場合と異なり、金融商品取引法に基づく開示規制の適用を受けずにトークンを発行できる場合が多いと考えられ、規制コストを抑えて資金調達ができる可能性があります。

 もっとも、後述のとおり、トークンが資金決済法上の「仮想通貨」に該当する場合には、資金調達者が仮想通貨交換業の登録を受けないとトークンを発行して販売することができない可能性があるほか、トークンの性質次第では金融商品取引法上の集団投資スキーム規制等が適用される可能性もあり、必ずしも規制コストを抑制できるとは限りません。

 また、税務・会計面の取扱いが明確となっていないことにも留意が必要です。

投資家にとってのメリット・留意点

 ICOにおいて資金を拠出する投資家にとっては、他の投資商品と性質や経済条件の異なるトークンへの投資が可能となることにより、投資ポートフォリオを多様化させることが可能となると考えられます。トークンが国内外の仮想通貨取引所に上場される場合には、市場価格が高騰することもあり、(投資というよりは投機というべき状況と思われますが)大きな値上がり益を得られる可能性もあります。

 もっとも、トークンの保有者にいかなる権利・メリットが付与されるかは個々のスキームによって異なり、前述の仮想通貨型や期待権型に該当するICOにおいては、法的には何らの権利も保障されていないことになります。調達した資金によって実施されるプロジェクト自体は有望なものであるとしても、必ずしもプロジェクトの成果・収益がトークンの保有者に還元されるわけではありません。トークンの発行価格や市場価格が何に裏付けられているのか、明確とは思われないICOも見受けられますので、投資家は、(プロジェクトの内容だけでなく)トークンの実質的な価値を十分に検証したうえで、投資判断を行うことが必要といえます。

 また、スキームによっては、トークンの保有者に配当が支払われたり、トークンの元本償還または買戻しが行われるICOも存在するようですが、そのような仕組みとなっていないICOでは、経済的にはトークンを売却することによって投下資本の回収を図ることになると考えられます。

 もっとも、(トークンが仮想通貨取引所に上場されると説明されていたとしても)実際に仮想通貨取引所に上場がされるのか、また、将来的に上場された状態が維持されるのか不確定であり、さらに、上場されているとしても十分な流動性が生じるのかどうかも保障されるものではありません。ICOによっては、金銭的な収益ではなく、サービスの利用権などによるメリットを期待してトークンを購入する場合もあるものとは思われますが、そうではなくて投資家が経済的なリターンを期待してトークンを購入する場合には、抽象的な値上がりの期待というだけでなく、投下資本の回収方法・回収可能性について、個別の条件を踏まえて検討することが求められます。

 加えて、以下に述べるとおり、規制の適用関係も明確ではなく、投資家は、株式やファンドなどに投資を行う場合と比べて、十分な規制による保護が得られない可能性があることにも留意する必要があります。また、ICOに関する税務・会計面の取扱いが明確となっていないことは、投資家にとっても留意事項となります。

ICOに対する規制

 海外では規制当局もICOに対する対応を取り始めています。たとえば、中国ではICOを含むトークンの発行による資金調達行為を禁止する文書を2017年9月に公表しています。また、米国やシンガポールなどでは一定のICOが証券規制の対象となり得ることを公表し、特に米国では実際に規制違反として当局が訴訟提起する事例も生じています。

 日本では、2017年10月27日に、金融庁が「ICO(Initial Coin Offering)について~利用者及び事業者に対する注意喚起~」と題する文書を公表しました。その中では、利用者(投資家)に対して、ICOで発行されるトークンを購入することについて、価格下落の可能性や詐欺の可能性があることを注意喚起するとともに、事業者に対して、ICOの仕組みによっては、資金決済法や金融商品取引法等の規制対象となることを示しています

 トークンの保有者に付与される権利・メリットその他ICOの条件によって規制の適用関係も全く異なることになります。ファンド型のようにプロジェクトの収益が分配される場合には、金融商品取引法に基づく集団投資スキーム規制の対象となる可能性があり、また、商品券型のように商品・サービスの対価としてトークンが利用できる場合には、資金決済法に基づく前払式支払手段として発行者に規制が適用される可能性があります。

 さらに、仮想通貨型のスキームに限らず、トークンが不特定の者に対して商品・サービスの対価として利用でき、また、法定通貨や他の仮想通貨と相互に交換できるような場合には、資金決済法上の「仮想通貨」に該当し、資金決済法の規制の対象となる可能性があります。トークンが「仮想通貨」に該当する場合には、トークンを発行・販売して資金調達を行おうとする者の行為は仮想通貨交換業に該当し、資金決済法に基づく登録を受けなければならない可能性が高いと考えられます(他の仮想通貨交換業者にトークンの販売行為を委託することにより、発行者自身は仮想通貨交換業の登録が必要とされないと解釈できる可能性もありますが、この場合には仮想通貨交換業者に当該トークンを取り扱うことについての届出が求められ、事実上、トークンの性質・内容について規制当局の審査を受けることが必要となります)。

 ICOによって資金調達を行うことやそのような資金調達のプラットフォームサービスを提供することを検討する場合には、トークンの内容や想定される取引状況を踏まえて、いかなる規制が適用されることになるのか慎重に検討することが必要と言えます。

おわりに

 ICOは企業やプロジェクトの新しい資金調達手段として活用できる可能性があるものです。もっとも、投資家の権利が十分に保全されない資金調達手段であり、ICOによって資金調達を行おうとする者は、具体的なスキームの条件を踏まえて規制の適用関係を慎重に判断したうえで、ホワイトペーパー等を利用してプロジェクトやトークンに関して投資家に対する十分な情報開示を行うことが求められます。他方で、ICOにおける投資を行おうとする者は、実施されるプロジェクトとともに、取得することになるトークンの内容や自らの権利について、十分に理解したうえで、投資の当否を判断すべきと言えます。

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