信託を用いた金融取引

第1回 信託の基本的構造と機能

ファイナンス

はじめに

 信託とは、旧来、英米法において育まれてきた制度ですが、大陸法系に属する我が国でも明治時代以降に取り入れられ、社会・経済の発展と共に進化してきました。近時では、平成19年施行の新信託法によって信託の概念・制度が明確化され、その活用例も日々多様化しています。

 本連載では、信託の活用例のうち金融取引の分野にテーマを絞り、3回に分けて、①「信託の基本的構造と機能」、②「金融取引における信託の具体的活用例」、③「信託スキームの新たな潮流(自己信託)」をご説明いたします。

信託の基本的構造

信託とは何か

 我が国の信託法上、信託とは、信託行為により特定の者が一定の目的に従い財産の管理または処分およびその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいいます(信託法2条1項)。
 この説明だけでは実態が掴みにくいので、便宜上分かりやすくすると、ある資産を保有しているAが、当該資産を上手に管理・処分してその収益をCに分配することを目的として、専門家Bに管理・処分を委ねるために当該資産をBに移転し(AB間の契約)、BがCのために資産の管理・処分を行うようなケースが挙げられます。

信託の主要な当事者

 上記事例を踏まえ、信託の主要な当事者である「委託者」「受託者」「受益者」の役割を押さえていきます。

委託者

 委託者とは、信託行為(後ほど説明します)により信託をする者(信託法2条4項)であり、上記事例のAがこれに該当します(Bとの契約という信託行為により、Bに財産を移転して信託を設定)。委託者の信託行為がなければ信託が成立しないのであって、委託者は、信託成立の端緒となる存在です。

受託者

 受託者とは、信託行為の定めにしたがい信託対象となる財産の管理・処分等を行う者(信託法2条5項。いわば信託を引き受ける者)であり、上記事例のBがこれに該当します。単に管理・処分等の委任を受けるのではなく、受託者自らが財産の名義人となって管理・処分等を行うところ(財産名義の移転)に信託の本質的特徴があります。
 上記事例でいえば、受託者(B)は、信託された資産(信託財産)を他人に賃借したり売却したりして管理・処分し、そこから得た収益を受益者(C)に分配する役割を担います。この役割の重要性から、受託者を業として行うには、一定のライセンスが必要です。すなわち、銀行その他の金融機関が行うには、金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(「兼営法」といいます)上の認可が必要とされ(いわゆる信託銀行)、また、それ以外の者が行うには、信託業法上の免許または登録が必要になります(信託会社)。

受益者

 受益者とは、受益権を有する者(信託法2条6項)をいいます。分かりやすくいえば、信託財産から生じる利益等を得る者であり、上記事例のCがこれに該当します。

 受益権の内容は、①信託財産の収益分配等を受託者に求めることができる権利(受益債権。株式会社の株主でいえば、概ね自益権に相当)と、②受益債権を確保するために受託者等に一定の行為を求めることができる権利(指図権や調査権など。株式会社の株主でいえば、概ね共益権に相当)に大別されます(信託法2条7項)。受益権とは受託者にとってみれば義務に他ならず、受託者が受益者のためにこの義務を履行するという関係性(受託者と受益者の信認関係)も信託の本質的特徴の一つです。

 受益者は、原則として信託行為(上記事例でいえばAB間の契約)の定めにより指定されるものであり(信託法88条)、信託行為の時点において、①委託者が受益者を兼ねるケースを「自益信託」②委託者以外の者が受益者となるケースを「他益信託」といいます。すなわち、上記事例で、①AB間の契約で受益者をA自身と定めるのであれば自益信託(なお、上記事例では、Cへの利益分配が企図されているので、後に、AがCに受益権を譲渡することになる。)、②AB間の信託契約で受益者をCと定めるのであれば他益信託となります。

 なお、民法上の債権譲渡と同様に、受益権の譲渡は原則自由とされており、受託者への通知または受託者の承諾が対抗要件とされています(信託法93条、94条)。

信託行為

 信託を生み出すためには、どのような行為が必要なのでしょうか。信託を生み出すための行為を「信託行為」といい、その方法には、信託契約、遺言、自己信託の三種類があります(信託法第22項各号)。ここでは、金融取引の実務上最も多く用いられている方法である「信託契約」について説明します(自己信託については、第3回で解説します)。

信託契約

 信託契約とは、委託者が受託者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに受託者が信託目的に従い財産の管理または処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約をいいます(信託法3条1号)。上記事例でいえば、AB間の契約が信託契約に該当します。

 実務上、信託契約の内容は多岐に渡りますが、全ての信託契約に共通する特に重要なポイントは、①財産の譲渡等の処分②信託目的③受託者が行うべき信託事務(その裏返しとしての受益権の具体的内容)の3つです。

財産の譲渡等の処分

 上記のとおり、受託者への財産名義の移転が信託の本質的要素であるため、信託契約では、何らかの財産の譲渡等の処分を規定する必要があり、その代表例が「財産の譲渡」です。
 もっとも、信託法3条1号は「譲渡、担保権の設定その他の財産の処分」としており、既存財産の譲渡だけではなく、委託者が受託者に対し新たな地上権、担保権を設定するような行為も認められます(いわゆる設定的移転)。

 また、ここでいう財産とは、不動産・動産・債権等の積極財産に限られ、消極財産である債務は含まれません。したがって、何ら積極財産の移転を行わず、委託者の債務を受託者に移転するだけでは、有効な信託設定になりません。但し、積極財産の移転に伴って委託者の債務を受託者に移転すること(民法上の債務引受の手続きが必要)は可能と解されており1 、このような行為によって、いわゆる「事業の信託」(第3回で解説します)が可能になります。

信託目的

 信託目的を信託契約で明確に定める必要があります。ただし、専ら受託者自身の利益を図る目的は許されず(信託法2条1項)、訴訟行為をさせることを主たる目的とすることも許されません(信託法10条)。

受託者が行うべき信託事務

 信託契約は、いわば信託という法律関係の設計図であり、受託者が行うべき信託事務(信託財産の管理、処分その他の行為)を明確に規定し、受託者・受益者(場合により委託者を含む)間の法律関係を可視化しておく必要があります。

 具体的には、受託者が信託財産をどのように管理、処分するか(条件、時期、委託先の利用の可否等)、信託財産の状況(損益等)をどのようなルールで計算し報告するか(計算期間、計算期日、レポーティングの時期・内容等)、収益等をどのように受益者に分配するか(条件、時期等)、受益者にどのような共益権的権利を認めるか(指図権、調査権、複数受益者の場合の決議ルール、信託契約の変更権限等)といった点が挙げられます。

信託財産

信託財産とは何か

 受託者が信託により保有する財産信託財産(信託法2条3項)といい、受託者が信託によらずに保有する財産固有財産(信託法28項。例:信託銀行が信託業務ではなく銀行業務で保有している貸付債権)といいます。ここでいう信託財産には、信託行為によって移転された財産のみならず、その管理、処分、滅失損傷その他の事由により受託者が得た財産等も含まれます(信託法16条。例:不動産が信託された場合における不動産賃料、不動産売却代金、火災保険金等)。

信託財産の独立性

 信託財産は、法形式上受託者に帰属しており、独自の法人格を持つわけではありませんが、引当財産(責任財産)としては受託者の固有財産から分離されます。この効果を「信託財産の独立性」といいます。
 詳しくいえば、信託財産は、受益者に対する債務、受託者の信託事務により生じた債務など、受託者が信託に関連して負担している債務の引当財産にはなるものの(信託法2条9項、21条)、受託者が信託とは無関係に負担した債務(例:信託銀行が本社ビルを賃借している場合の建物賃料債務)の引当財産にはならず、原則として、信託とは無関係な債権者による信託財産への強制執行等は禁止され(信託法23条)、また、受託者自身の倒産手続には巻き込まれないものとされています(信託法24条)。

 このように、信託財産が受託者自身の信用不安や倒産から守られていることが、信託利用の大きな理由の一つとなっています。

信託の公示

 信託財産の独立性を認めるためには、第三者(信託とは無関係な債権者等)の立場にも配慮する必要があり、信託法は、信託財産であることを第三者に対抗するために一定の対抗要件具備(公示)を必要としています。具体的には、登記または登録をしなければ権利の得喪等を対抗できない財産(不動産等)については、当該登記・登録制度上の信託登記・信託登録をする必要があります(信託法14条)。他方、それ以外の財産権(動産、債権、金銭等)については、特段の公示は不要と解されています2

信託スキームの分類基準

 上記のとおり、重要な法的効果を有する信託財産ですが、実務上は、信託スキームを分類する基準としても役立ちます。具体的には、信託対象とされる財産の種類に着目し、金銭の信託、不動産信託、金銭債権信託、有価証券信託、包括信託(複数の財産が対象となる信託)といった名称で分類されるのが一般的です。

信託の機能

 信託を利用する当事者は、信託のどのような機能に着目しているのでしょうか。信託の特徴的な機能としては、①倒産隔離機能、②財産管理機能、③権利転換機能の3点が挙げられます。

倒産隔離機能

 「倒産隔離」とは、聞き慣れない言葉かも知れませんが、対象となる財産がスキーム当事者の信用不安や倒産から守られている状態(当該財産がスキーム当事者の一般債権者による差押や倒産手続による包括執行の対象にならず、平常時と同様の権利行使が可能となる状態)をいいます。信託スキームにおいては、主に、「委託者からの倒産隔離」と「受託者からの倒産隔離」が問題となります。

委託者からの倒産隔離

 まず、前述で述べたとおり、信託では委託者から受託者に財産が移転されるため、信託財産が委託者の倒産手続の影響を受けないような仕組みが可能となります。もっとも、そのためには、特に「真正譲渡」という論点をクリアする必要があり、詳しくは第2回で解説します。

受託者からの倒産隔離

 受託者からの倒産隔離については、「信託財産の独立性」によって確保されます。上記事例でいえば、仮にBが信用不安や倒産に陥ったとしても、原則として、信託された資産がBの一般債権者による差押手続やBの倒産手続に服することはなく、当該資産からの収益等が平常どおり受益者Cに分配されるため、委託者Aや受益者Cは、一定の安心感をもって信託を利用できるわけです。

財産管理機能

 有事(受託者の信用不安、倒産)における財産保全は、上記3-1のとおりですが、平常時における適切な財産管理も当事者の重大な関心事です。

 この点、信託では、①原則として、信託銀行や信託会社といった有資格のプロが受託者に就任することとなり、また、②その受託者は、信託事務に関し、善管注意義務(信託法29条2項、信託業法28条2項)、忠実義務(信託法30条、信託業法28条1項)、分別管理義務(信託法34条、信託業法28条3項)を負い、利益相反行為や競合行為にも一定の制限が課される(信託法31条、32条、信託業法29条2項)など、適切な財産管理を確保するための手当てが法令上整備されています。

 倒産隔離だけであれば、新設の特別目的会社(一定の手当てを施した合同会社)等を用いることでも、ある程度は実現可能ですが、それに加えて上記のような財産管理機能を備えていることが、信託スキームの利点といえます。  

権利転換機能

 信託による受益権の発生は、信託財産から受益権への権利転換と捉えることが可能であり、特に資産流動化取引やファンド取引(いずれも第2回で解説します)の分野で、この機能が重視されます。

 すなわち、まず、①信託財産が信託の受益権となることで、金融商品取引法上の有価証券(同法2条2項1項等)として一定の流通性を備えます。また、②信託では、信託契約の定めで自由に受益権の種類・条件を設定することができるため、比較的容易に、単一の信託財産を小口・多数の受益権に分割し、また、信託財産のキャッシュフローを切り分けて(トランシェにして)、受益権を階層化(優先受益権、メザニン受益権、劣後受益権等)することが可能です。さらに、③信託法上、受益者は信託財産に関する債務を負わず、特段の合意がない限り、信託財産に関する費用の償還請求を受けないことから(信託法48条)、いわゆる「受益者の有限責任」が確保され、また、④税制上は、一定の例外を除き、いわゆるパス・スルー課税が適用され(所得税法13条1項、法人税法12条1項等)、受益者段階でのみ課税される(二重課税が回避される)ため、金融商品としての適格性が確保されています。

まとめ

 今回は、分かりやすさを重視し、簡略化した事例をベースとして、信託の基本的構造・機能を概説しました。第2回では、この基礎を踏まえ、金融取引における信託の具体的活用例をご説明いたします。


  1. 寺本昌広(2008)『逐条解説 新しい信託法[補訂版]』商事法務 34頁(注5) ↩︎

  2. 前掲寺本 71頁(注2) ↩︎

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