じげんの新株予約権発行に見る「あるべきエクイティ・ファイナンス」のかたち

ファイナンス

 2016年7月5日、株式会社じげんは「株価・トリプル25」達成条件型新株予約権の発行を発表した。本新株予約権は、じげんが第1次中期経営計画「Protostar」で業績目標として掲げた「トリプル25」(営業利益率、営業利益成長率、ROE、全て25%以上)と、資本市場からの評価を映す「株価」、双方を達成して初めて、新株を発行して資金調達が実施できる、日本で初めての仕組みだという。株価要件・業績要件をつけ、さらに資金使途をM&Aに限定するなど、これまでには見られない新しいかたちの手法が取られており、業界でも多くの注目が集まっている。

 そこで、今回は、じげんの経営戦略部長として調達を主導した寺田修輔氏に調達の仕組みや狙いについて伺ってみた。聞き手として登場していただいたのは、プルータス・コンサルティング取締役の岡田広氏。プルータス・コンサルティングは、新株予約権や転換社債型新株予約権付社債、企業価値の評価業務を行っているコンサルティング会社である。同社は、ストックオプションおよび新株予約権の評価業務において、数多くの実績を有し、トヨタやシャープの種類株式の算定を行うなど、業界におけるリーディングカンパニーとして広く認知されている。今回じげんが発行した新株予約権の価値評価も同社が行っており、取締役である岡田氏は、今回の聞き手としてまさに最適の人物と言えよう。

 2人の議論は、今回の資金調達にとどまらず、「あるべきエクイティ・ファイナンス」論にまで発展し、日本の今後の資本市場を指し示す意味で、非常に示唆に富んだ内容となった。

(写真右:じげん 経営戦略部 部長 寺田修輔氏、左:プルータス・コンサルティング 取締役 岡田広氏)

経営計画と連動する、画期的な資金調達スキームが誕生

岡田氏
 それでは早速ですが、今回発行された新株予約権の概要について説明していただけますか。

寺田氏
 はい。今回弊社で発行した新株予約権には5つの特徴があります。まず、1点目の特徴として、ハイアップ型、つまり、新株予約権の当初行使価額が発行決議の時点の株価以上に設定されていることです。今回の新株予約権のトランシェは3つに分かれています。そのうち最初のトランシェについては、調達の蓋然性を高めるために、当初行使価額について、発行決議日である7月5日の株価(終値)と同じ1,215円に設定しています。そして、2つ目と3つ目のトランシェについては、7月5日から遡って過去1か月の終値平均である約1,100円に対して、それぞれ、27%と211%のプレミアムを乗せた水準となっています。
 なぜ、27%、211%のプレミアムかというと、これが2点目の特徴なのですが、この行使価額は、弊社が5月に発表した中期経営計画と連動しています。中期経営計画では、今期の営業利益の成長率を27%、5か年累計の営業利益の成長率を211%に設定しています。つまり、中期経営計画を達成すれば、業績はこのくらい上がるであろうと。バリュエーションについて我々はコメントする立場にはありませんが、仮にバリュエーションが一定であれば、このくらいの株価水準は正当化される可能性があると考えました。
 3点目の特徴としては、今回発行したものは、行使価額が変動するいわゆるムービング型の新株予約権にはなるのですが、下限行使価額が設定されており、また、発行株式数も固定されているため、当初の予測を超えて希薄化が促進されることはありません。逆に、株価が上昇すれば資金調達額も増加します。

 4点目と5点目の特徴は、いずれも日本では初めてのものです。4点目は、業績要件型であるということです。これは、中期経営計画において「トリプル25」として掲げているのですが、営業利益率、営業利益成長率、ROEにおいて、いずれも25%以上を前期において達成しない限り、新株予約権の行使はなされないということです。
 最後の5点目に、調達資金の使途を厳格に制限しているという特徴が挙げられます。本新株予約権がすべて行使されますと、100億円強の調達が予定されているのですが、その全額をM&A及び資本業務提携に充てるとプレスリリースに記載しています。
 逆に申し上げると、M&A及び資本業務提携以外には使うことができません。具体的には、今回調達した資金については、全額が信託口座で保管されることになっていまして、M&Aや資本業務提携に係る明確な意思決定をして初めて、資金が引き出せるよう、信託契約上規定しています。ですから、新株予約権による調達資金で本社ビルを建てたり、広告を打ったりといったようなことはできないようになっています。

あるべき成長投資の資金調達を目指して

岡田氏
 ありがとうございます。これは本当にかなり練られたスキームですね。ここまで作り込まれたものというのは、まさに日本初だと思うのですが、このようなスキームを考えるにいたったきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

寺田氏
 会社全体の背景と個人的な経験に基づくものがあります。
 まず、会社全体の背景ですが、じげんという会社は、創業してまだ10年のベンチャー企業ですし、業績の成長率は高い状況にあるわけですが、M&Aに積極的な姿勢を取っており、資金需要はしっかりあります。そして、今のじげんにとっては、例えば営業利益の年率成長率25%という目標は十分達成可能だと考えているのですが、一方で世間的には結構アグレッシブな数字であると見られています。この認識の差というか、情報の非対称性を埋めるために、資金調達とからませつつ、我々の意思をしっかりと資本市場に対して発信していこう、という考えがありました。

 次に、個人的な経験になるのですが、私は2009年〜2016年2月までセルサイドアナリストとして活動をしており、多くのエクイティ・ファイナンスを見てきました。日本のエクイティ・ファイナンスはどうしても、既存株主の価値を毀損してしまうことが少なくありません。新株を発行すると株数が増え、希薄化が生じて株価が下がるわけですが、調達資金が成長投資に振り向けられてリターンが出てくるまでにはタイムラグがあるわけです。そうすると、資金調達のタイミングで株を持っていた投資家だけに迷惑がかかってしまうという問題が構造的にあります。そういった意味では、今回の新株予約権のように、最初のトランシェによって調達した資金が投資にまわって企業が成長し、リターンが上がってから次のファイナンスに移る、という段階的な調達が、本来あるべき成長投資のための資金調達だと考えています。
 さらに、市場には本音と建前が乖離しているエクイティ・ファイナンスが多いという問題意識もありました。資金調達時のプレスリリースには、確定している使途しか記載できないので、リリースにうたってある資金使途と、ロードショーで言及される実際の資金使途が異なることは少なくありません。今回、信託スキームを用いて資金使途に制限をかけた背景には、こうした問題意識もありました。

岡田氏
 今回の調達において、業績条件をつけることというのはとても有意義なことだと思います。業績条件を付すことで、企業価値の実体の向上を伴った株価の上昇につなげていこう、という強いメッセージ性、そして市場に対する配慮を感じます。
 さらに、これは単純なアナウンス効果だけではなく、言い換えると会社がこの条件をコミットしているというスタンスを市場に見せるというわけですから、とても素晴らしいことだと思います。このように、会社と経営陣がコミットしたということをしっかりと伝えることが何よりも大事だと思いますし、投資家からするとそこしかよりどころがないのが実情ですからね。本当に理想的なスキームだと思います。
 その一方で、将来の不確実性はどの企業にもあるわけですから、万が一業績を達成することができなかった場合には、ファイナンスも行えないという阻害要因的な面もあると思います。今回のスキームでは、業績要件に加えて、市場の株価が上がってこないと、いざ資金需要があっても調達できないというわけで、そのあたりのリスクについてはどのようにお考えですか。

寺田氏
 そのあたりは理想と現実を分けて対応するということになろうかと思います。今回組成したスキームは理想的なファイナンスを目指していますが、そうは言っても株価は市場が決めるものです。例えば、新興市場がクラッシュしたような場合、3つ目のトランシェを行使することができないという事態になってしまうことはありえます。そのときに、理想を追い求めすぎて、資金調達できずに成長機会を逸するというのは望ましいことではないので、そのために我々は現実的な対処法を用意しています。
 具体的には、将来的に本スキームによる資金調達の必要性がなくなった場合、またはその他の条件での資金調達方法を選択する場合などには、当社の選択により、いつでも残存する本新株予約権を、発行価額と同額の対価で取得することが可能となっています。

岡田氏
 業績条件を達成し、順調に株価が上昇した結果、目標通りに211%のプレミアムがついた株価となり今回のファイナンスが成功する際には、じげんの時価総額は約2,000億円になりますよね。そこへ向けてコミットしたというスキームというのは、本当にエポックメーキングなファイナンスだと思います。
 また、信託口座に調達資金を入れて、資金使途を厳格に縛っているスキームというのも前例がないと思うのですが、このあたりもじげんと証券会社とのアイデアなのでしょうか。

寺田氏
 正直に申し上げますと、ここまでガチガチにしなくてもいいのではという意見もありました。
 当社の日々のキャッシュフローをみていると、いわゆる設備投資は少額で推移しています。数年に1回オフィスを移転するとか、後はPCを買うぐらいなんですよね。その意味で、M&A以外の投資、資金需要は限定的です。しかし、こちらも情報の非対称性という話なのですが、対外的にはそう思われない可能性もあります。当社は、社歴も10年しかなく、社長も経営陣も若い会社です。それだけに資金調達や企業の成長についてどのように考えているか、しっかりと意思を示したかった、という思いもありますね。

岡田氏
 発行した後、機関投資家からの反応はどういったものでしたか?

寺田氏
 一番多いご意見は、「スキームの詳細、各論は別として、とりあえず株主の方を向いていていることが分かったのはポジティブ」という評価でしたね。
 批判的な意見としては、「これによって、トリプル25という業績条件を何が何でも達成するというインセンティブが強く働きすぎてしまい、例えば単年度の営業利益の成長率を抑えにかかってしまうといったようなリスクがあるのではないか」「使うべき費用を抑えて営業利益率を維持しようとしてしまうのではないか」というものがありましたね。これらについては、まさにご指摘の通りだと思いますので、ガバナンスをしっかりときかせながらリスクに対応してまいります。
 ただ、先程も申し上げましたが、当社は今回の調達の前に、初めて5か年の中期経営計画を発表しています。5か年というのはインターネット企業としては異例の長さだと思うのですが、これは5年後にこれだけ我々は成長するんだという意思を示しています。もちろん、単年度25%の達成も大事ですが、長期での成長はもっと大事です。長期的な業績をしっかり作っていく必要がありますので、そのために必要な広告宣伝費や人件費については、適切な拠出を続けていくつもりです。

岡田氏
 今回、機関投資家からの信頼につながっているのは、3トランシェに分けている上に、株価を押し込んでいく売りの圧力につながるファクターが非常に少ないことですよね。MS型で下限が時価の60%とか70%というように設定してしまいますと、そこまで行使価格が下がるということになってしまうので、株をトレードしている人にとっては、どうしても売り圧力に捉えられやすくなってしまいますよね。最初のトランシェについては、ファイナンスの蓋然性を高めるために、10%だけディスカウントを入れていますが、このあたりは、どのような経緯があったのですか?

寺田氏
 はい。確かに、10%でディスカウント幅が足りるのかという議論もありました。ただ、例えば1,215円で30%ディスカウントしてしまうと、850円になるわけで、その数字をどういった形であれ外部に発信したくなかったという思いがあります。確実に調達したいという一方で、過度に低い株価をアナウンスしたくなかった、ということですね。

じげんが考えるM&A戦略とは

岡田氏
 今回調達する資金はM&Aに使うということで、その投資方針までかなり細かく説明されていますが、これもあまり見られないことだと思うのですが。

寺田氏
 当社は元々M&Aに積極的な会社だったんですよね。2年間で7件のM&Aを実施しています。本新株予約権によって約100億円という大きな額を調達するので、今後についての説明責任は、最低限果たすべきものだと思っています。IRというのは投資家を驚かせない事が大切ですので、コンプライアンスに則った形で、M&Aの対象となり得る領域について、適切にご説明を差し上げたいと考えています。

岡田氏
 今回、M&Aに使うとアナウンスしたことで、効果はありましたか?

寺田氏
 かなり多くの反響がありました。中期経営計画でM&A方針を明示した直後から件数が増えたのですが、今回の調達を行ったことで、さらにもう一段増えました。ただ、当社としては投資の目線はかなり厳しくおいています。これまでM&Aのソーシングは約330件あっても、実際にDDを行ったのは100件程度、そしてクロージングまでいったのは7件です。お金があるからといって投資基準を緩めるわけではないので、しっかりと中身を精査していきたいですね。

岡田氏
 100%買収以外の、資本業務提携やマイノリティ出資も検討しているのですか?

寺田氏
 過去7件のM&Aのうち、マイノリティ出資は1件だけで、残りの6件はすべて100%取得しています。もちろん今後方針が変わることはありえますが、我々としては、マジョリティを取得してしっかりとハンズオンでコントロールをきかせていく方が、高いリターンを得られると考えています。あくまで投資会社ではなく事業会社なわけですから、基本的には事業レバレッジをきかせる正攻法でいきたいですね。

「あるべきファイナンス」のかたち

岡田氏
 他の経営者やCFOからの反響はどうでしたか?

寺田氏
 かなり多くのお問い合わせをいただきました。思った以上に、「ここまでオーダーメイドでファイナンスできるということを知らなかった」「公募増資しか頭になかった」といったような方からのお問い合わせが多かったですね。CFOというよりは、経営者の方ですけれど。
 あとは、新株予約権だけではなく、中期経営計画と一括で考えた上での機関投資家とのコミュニケーションの取り方などについてのご質問もありましたね。こういったお問い合わせを受けていると、資本市場からみる発行体、発行体からみる資本市場というのは、まだまだ意思疎通が必要なんだろうなと思いました。

岡田氏
 なるほど。基本的にエクイティ・ファイナンスというと、上場会社の皆さんはまずは公募増資という選択肢がありますものね。先程寺田さんがおっしゃったとおり、公募増資は、資金調達と会社の業績が上がるまではタイムラグが生じるので、公募増資というのはどうしても基本的に株価が下落してしまうんですよね。それに対して、新株予約権というのは、行使されるかどうかは株価次第なので、MS型のあまりに激しいものは別として、今回のように当初からしっかり説明をしていれば、売り圧力につながらず、市場に対してフレンドリーな「あるべきファイナンス」の一つのかたちとなるのだと思いました。こういった「あるべきファイナンス」というものについて、どのようにお考えですか?

寺田氏
 私は、発行体が柔軟に意思を反映させることができ、かつ、ディシプリンがきくことが、とても重要だと考えています。
 公募増資というのは、値決めまでの期間など、ほぼフォーマットが決まっていますので、ディシプリンはききやすい構造にあろうかと思います。ただ、型が決まっているので、発行体の意思を柔軟に反映させることは難しくなります。特に、M&Aとファイナンスを同時に実施するのは、実務上非常に困難なので過去にあまり例がないんですね。だからM&Aを先に実施して利益の期待成長が高まったところでエクイティ・ファイナンスをして株価が下がるか、先に調達を済ませてから投資して、下がった株価が上がっていくかということになってしまうんです。投資とリターンのタイムラグを縮めるための一手として、テーラーメイド型のファイナンスというものは必要だと思います。
 ただ、過去には、それを逆手にとって、既存株主を毀損するようなファイナンスを行った企業が多いのも事実です。もっとも、最近では東証や金融庁の目も厳しくなり、証券会社の自主規制も整ってきて、ディシプリンがきくようになっていますから、柔軟なファイナンスも増えていくと思います。また、かつては少しでも変わったファイナンスを行うと、投資家のほうで、「よくわからないものをやってきた」と叩き売られることもありましたが、ここ10年ぐらいでかなり環境も変わってきたなと思います。

岡田氏
 力をもっている会社がその意思をファイナンスに反映させ、そして投資家の方でもそれに耳を傾けるような環境が整ってきたということですね。それはやはりあるべき姿だと思います。
 これまではこういったファイナンスを行うことができる人材が多くなかったということもあるかと思います。近年は、寺田さんのように、事業会社の中に金融機関や監査法人出身の方が参加することで、会社の資本政策や金融に対するリテラシーも高まり、結果的に様々なかたちのスキームも増えていくのでしょうね。
 本日はありがとうございました。

寺田氏
 こちらこそ、ありがとうございました。

じげん会議室の壁に掲げられた企業メッセージ

(取材、構成:BUSINESS LAWYERS編集部)

会社概要
株式会社じげん
本社所在地:東京都新宿区新宿6丁目27番30号 新宿イーストサイドスクエア5階
設立:2006年6月1日
資本金:1,145,056,000円
代表者:代表取締役社長 平尾 丈
※2016年7月31日現在


語り手・プロフィール
株式会社じげん
寺田 修輔(てらだ・しゅうすけ)
経営戦略部 部長
東京大学経済学部卒業。シティグループ証券にて株式調査業務(不動産グループヘッド)に従事。日本のシティグループ史上最年少でバイスプレジデント(26歳)、ディレクター(29歳)に昇格。2016年3月じげん入社。経営戦略部部長として財務、M&A、経営企画の責任者を務める。
じげんコーポレートブログも執筆中。

聞き手・プロフィール
株式会社プルータス・コンサルティング
岡田 広(おかだ・ひろし)
取締役
慶應義塾大学経済学部卒業。三菱東京UFJ銀行(旧東京銀行)、同行ニューヨーク支店、ゴールドマン・サックス証券などの外資系金融機関を経て現職。
国内機関投資家、事業法人に対する為替のフローセールス業務及び為替・金利のデリバティブセールス業務に従事してきた経験から、新株予約権や種類株などの有価証券の活用による戦略的な資本政策を提案している。
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