インサイダー取引とは

ファイナンス
山川 和也弁護士

 どのような取引が、インサイダー取引として規制の対象になるのですか。また、インサイダー取引の規制に違反した場合には、どうなりますか。

 金融商品取引法がインサイダー取引として規制しているのは大きく分けて、①会社関係者によるインサイダー取引の規制、②TOB関係者によるインサイダー取引の規制、③情報伝達・取引推奨行為の規制の3つです。これらの規制に違反した場合には、刑事罰や課徴金の対象となります。

解説

インサイダー取引規制の趣旨と類型

 金融商品取引法の第6章は「有価証券の取引等に関する規制」を定めています。この中には、不正行為による取引の禁止(金融商品取引法157条)、風説の流布等の禁止(金融商品取引法158条)、相場操縦行為等の禁止(金融商品取引法159条)なども定められていますが、実務上、最も問題になるのはインサイダー取引規制(金融商品取引法166条、167条、167条の2)です。

 上場会社Xが、次の決算発表において業績の大幅な上方修正を行う予定であると仮定しましょう。業績の大幅な上方修正が公表されるのですから、その後に、X社の株価が上昇することが見込まれます。このような場合に、X社の役員が、公表前に、X社株式を買う行為が典型的なインサイダー取引であり、金融商品取引法上、禁止されています。また、逆に、業績の下方修正が見込まれる場合に、X社株式を事前に売却する行為も同様です。

 このようなインサイダー取引規制の趣旨については、いくつかの考え方がありますが、一般的には、上記のような行為は、一般投資家に比して、重要な事実を容易に知り得る立場にある内部関係者が、上記のような取引を行うことは極めて不公平であり、このような取引が放置されれば、証券市場の公正性と健全性が損なわれ、証券市場に対する投資家の信頼を失うこととなるから、規制の必要があると解されています。日本では、昭和63年の証券取引法(現在の金融商品取引法)改正に伴い、インサイダー取引に対する規制が設けられました。

 インサイダー取引規制には、大きく分けて以下の3つがあります。

  1. 会社関係者によるインサイダー取引の規制(金融商品取引法166条)
  2. 公開買付け(TOB)の関係者によるインサイダー取引の規制(金融商品取引法167条)
  3. 情報伝達行為・取引推奨行為の規制(金融商品取引法167条の2)

会社関係者によるインサイダー取引の規制(金融商品取引法166条)

規制の内容

 金融商品取引法166条は、①会社関係者であって、②上場会社等に係る業務等に関する重要事実を同条第1項各号に定めるところにより知ったものは、③当該重要事実の公表がされた後でなければ、④当該上場会社等の株式等(特定有価証券等)に係る売買等をしてはならないと定めています。

 先ほどの例でいえば、①X社の役員が、②業績の上方・下方修正という重要事実を知って、③その公表前に、④X社株式の売買を行ったため、インサイダー取引に該当するのです。

会社関係者によるインサイダー取引の規制(金融商品取引法166条)

 このように、インサイダー取引規制を理解するためには、①「会社関係者(等)」、②「重要事実」を「知って」、③「公表」、④「特定有価証券等」の「売買等」の概念を正確に理解することが重要になります。また、⑤インサイダー取引の適用除外取引も理解しておく必要があります。

 参照:①「インサイダー取引規制における行為者の認識

②「インサイダー情報となる重要事実とは

③「インサイダー取引規制における「公表」とは

⑤「インサイダー取引規制の適用除外取引

「特定有価証券等」の「売買等」

 これらの概念の詳細は、別途説明しますが、④については本稿で概要を説明しておきます。まず、「特定有価証券等」は、金融商品取引法163条1項で定義された「特定有価証券又は関連有価証券」をいいますが、株式だけでなく、社債、新株予約権、投資証券(上場REITの場合)が含まれます(適用除外有価証券を除きます)。基本的には、上場会社の上場株式が対象になると理解しておけば足りるでしょう。

 また、「売買等」には、売買その他の有償の譲渡・譲受け、合併・分割による承継、デリバティブ取引が含まれます。「売買その他の有償の譲渡・譲受け」には、売買だけでなく、代物弁済や現物出資などを広く含む(市場売買に限られません)と解されていますが、贈与や相続は含まれません。また、株式の新規発行はこれに該当しませんが、自己株式の処分は該当すると解されています(反対説もあります)。さらに、自己株式の取得もインサイダー取引規制の対象になることにも注意が必要です。

 もっとも、金融庁・証券取引等監視委員会による「インサイダー取引規制に関するQ&A」の問3では、重要事実を知ったことと無関係に行われたことが明らかな取引は「売買等」には該当しないとされており、たとえば、①株価上昇要因となることが一般的に明らかな「重要事実」を知った場合に、株式の「売付け」を行う場合、②「重要事実」を知る前に、証券会社に対して当該株式の買付けの注文を行っている場合などが挙げられています。

インサイダー取引の背景

 なお、証券取引等監視委員会は、インサイダー取引の背景には、①重要事実に基づいて株式を売買すれば確実に儲けられるとの誘惑、②膨大な取引が行われており自分の取引は見つからないだろう、自己名義口座では取引できなくても、他人名義口座を利用すれば大丈夫だろうとの誤解、③自分は取引できなくても、親しい友人には儲けさせてあげたいとの思惑、④上場会社の内部管理態勢や情報管理体制等の不備、⑤経営陣の認識不足などがあるとしています。

TOB関係者によるインサイダー取引の規制(金融商品取引法167条)

 金融商品取引法167条は、TOB関係者によるインサイダー取引を規制しています。その構造は、会社関係者によるインサイダー取引の規制と同様です。

 すなわち、①公開買付者等関係者(公開買付者の役員など)であって、②公開買付け等をする者の公開買付け等の実施に関する事実または公開買付け等の中止に関する事実を、職務等に関して知った者は、③公開買付け等の実施・中止が公表された後でなければ、④公開買付け等の実施の場合には株券等の買付け等をしてはならず、公開買付け等の中止の場合には株券等の売付け等をしてはならないとされています。

 TOB関係者によるインサイダー取引規制の詳細については、下記論稿をご参照ください。

 参照:「公開買付け(TOB)におけるインサイダー取引規制の内容は

情報伝達・取引推奨行為の規制(金融商品取引法167条の2)

 金融商品取引法167条の2第1項は、会社関係者であって、重要事実を知ったものは、他人に対し、当該重要事実の公表前に、当該他人に利益を得させまたは損失を回避させる目的をもって、重要事実を伝達しまたは売買等を勧めてはならないと定めています。TOB関係者についても同様です(金融商品取引法167条の2第2項)。

 従来は、インサイダー取引を助長するような情報伝達行為や取引推奨行為は、インサイダー取引の教唆犯や幇助犯として処罰される可能性はあったものの、それ自体は規制上直接禁止されていませんでした。しかし、会社関係者やTOB関係者から情報を受領した者による取引が多く見受けられたことから、平成25年の金融商品取引法改正によって直接規制の対象となりました。

 このような情報伝達・取引推奨行為の規制についても、別途説明します。

 参照:「情報伝達・取引推奨行為の規制

インサイダー取引規制に違反した場合の責任等

 インサイダー取引規制の違反は、刑事罰の対象となります。具体的には、5年以下の懲役、500万円以下の罰金またはその両方が科されることになります(金融商品取引法197条の2第13号ないし15号)。また、法人の役職員等が、その法人の業務または財産に関して、インサイダー取引規制違反を行った場合には、その法人についても5億円以下の罰金が科されることになります(金融商品取引法207条1項2号)。さらに、インサイダー取引で得た財産は、すべて没収・追徴されることになります(金融商品取引法198条の2第1項・2項)。

 このような刑事責任のほか、インサイダー取引規制に違反した場合は、課徴金の対象ともなります(金融商品取引法175条、175条の2)。課徴金の額の基本的な考え方は、インサイダー取引によって得られた利益相当額ですが、具体的には、①売付けの場合は「売付価格×売付数量」から「重要事実公表後2週間の最安値×売付数量」を控除した額(金融商品取引法175条1項1号)、②買付けの場合は「重要事実公表後2週間の最高値×買付数量」から「買付価格×買付数量」を控除した額(金融商品取引法175条1項2号)です。

 さらに、インサイダー取引違反者は、氏名等を公表される場合があります(金融商品取引法192条の2)。

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