インサイダー取引の適用対象者

ファイナンス
細井 南見弁護士

 インサイダー取引規制は、どのような者に適用されますか。

 会社役員などの会社関係者のほか、元会社関係者、情報受領者も一定の範囲で規制対象になります。

解説

金融商品取引法が定めるインサイダー取引規制の対象者

 金融商品取引法は、インサイダー取引規制の対象者として、会社関係者(金融商品取引法166条1項柱書前段)、元会社関係者(金融商品取引法166条1項柱書後段)、情報受領者(金融商品取引法166条3項)を定めています。

 なお、本稿においては、わかりやすさを重視して、上場会社の主要な対象者についてのみ説明し、上場投資法人(上場REIT)や実務上でほとんど問題にならない者については省略します。

「上場会社等」「役員等」の内容

 インサイダー取引規制の規制対象者について個別に説明する前に、各規制対象者に共通する「上場会社等」および「役員等」の内容について説明します。

 まず、「上場会社等」には、上場会社のほか、その親会社および子会社が含まれます(金融商品取引法166条1項1号)。そして、親会社・子会社に該当するかどうかは、いずれも、直近の有価証券報告書等の記載が基準になります(金融商品取引法166条5項、金融商品取引法施行令29条の3)。

 次に、「役員等」とは、「役員(会計参与が法人であるときは、その社員)、代理人、使用人その他の従業者」と定義されています(金融商品取引法166条1項1号)。①役員は、取締役、監査役、執行役および会計参与であり、②代理人は、会社法上の代理権を有する支配人や代理権を与えられた弁護士等です。また、③使用人その他の従業者には、パート、アルバイト、派遣社員、出向社員、相談役、顧問などが含まれます。契約関係がなくても事実上業務に従事していれば該当すると解されています。

会社関係者

概要

 金融商品取引法166条1項各号が定める「会社関係者」の概要は、以下のとおりです。

会社関係者 知覚方法
1号 当該上場会社等の役員等 その者の職務に関し知ったとき
2号 当該上場会社等に対して会社法433条1項・3項に定める権利を有する株主等(株主等が法人であるときはその役員等を、株主等が法人以外の者であるときはその代理人または使用人を含む) 当該権利の行使に関し知ったとき
3号 当該上場会社等に対する法令に基づく権限を有する者 当該権限の行使に関し知ったとき
4号 当該上場会社等と契約を締結している者または締結の交渉をしている者(その者が法人であるときはその役員等を、その者が法人以外の者であるときはその代理人または使用人を含む)であって、1号該当者以外のもの 当該契約の締結もしくはその交渉または履行に関し知ったとき
5号 2号・4号に掲げる者であって法人であるものの役員等(その者が役員等である当該法人の他の役員等が、それぞれ2号・4号に定めるところにより当該上場会社等に係る業務等に関する重要事実を知った場合におけるその者に限る) その者の職務に関し知ったとき

上場会社等の役員等(第1号)

(1)重要事実

 上記2で説明したところから、上場会社等の役員等には、①上場会社の役員等②上場会社の親会社の役員等③上場会社の子会社の役員等が含まれることになります。

 ここで、インサイダー取引規制の「重要事実」には、(a)上場会社に関する重要事実(金融商品取引法166条2項1号~4号)と、(b)上場会社の子会社に関する重要事実(金融商品取引法166条2項5号~8号)があるところ、①②については(a)(b)の両方が対象になりますが、③については(b)のみが対象になると解されています。これを整理すれば、以下の表のとおりです。もっとも、③子会社の役員等であっても、①や②を兼務していることも多く、また、情報受領者(後述)として規制対象になることも多いと考えられます。

 なお、上場会社自体は「会社関係者」には該当しませんが、課徴金や罰則の対象にはなります。

重要事実
(a)上場会社の重要事実 (b)子会社の重要事実
①上場会社の役員等
②上場会社の親会社の役員等
③上場会社の子会社の役員等 ×

(2)職務に関し

 このような上場会社等の役員等が、重要事実を、その「職務に関し知った」ときに、インサイダー取引規制の対象者になります。「職務に関し」は相当に広い概念であり、本稿で該当する事例・該当しない事例を詳しく説明することは困難ですが、基本的には、自己が担当する職務またはこれに密接に関連する職務(そのような職務を行う立場)に直接起因して重要事実を知れば「職務に関し」といえますが、職務と無関係なところで偶然知った場合は「職務に関し」には該当しないと理解することができます。

 典型的には、取締役等の役員が取締役会での報告・討議等を通じて知った場合、自己が所属する部署で担当しているプロジェクト(重要事実)を知った場合などが、「職務に関し」に該当します。

 これに対し、別の部署の社員の話を偶然聞いたような場合は「職務に関し」には該当しないと解されていますが、その線引きは難しく、上場会社等の役員等に含まれる場合は、当該上場会社株式の取引をしない方がよいでしょう。

会計帳簿閲覧権者等(第2号・第5号)

 金融商品取引法166条1項2号に定める会社関係者は、①上場会社等に対して会計帳簿閲覧権を有する者(原則として3%以上の議決権または株式を有する株主。会社法433条1項)と、②親会社の株主その他の社員(裁判所の許可を得て子会社の会計帳簿等を閲覧することができる。会社法433条3項、31条3項)です。

 このような株主等が法人であるときはその役員等を、株主等が法人以外の者であるときはその代理人または使用人を含みます。

 これらの者が「当該権利の行使に関し知ったとき」にインサイダー取引の規制対象者となります。

 ここで、金融商品取引法166条1項5号について説明すると、たとえば、上記①の者が法人である場合に、会計帳簿閲覧権の行使により重要事実を知った者は第2号に該当しますが、その重要事実を当該法人の職務を通じて知った他部署の者が第5号に該当することになります。

法令に基づく権限を有する者(第3号)

 金融商品取引法166条1項3号には、上場会社に対して調査権を有する監督官庁の公務員や、子会社調査権を有する親会社の監査役・会計監査人(会社法381条3項、396条3項)などが含まれます。ただし、後者は、第1号の問題であると解する見解もあります。

 また、「当該権限の行使に関し知ったとき」には、権限行使のための準備・調査等の過程で知った場合を含みます

契約締結者等(第4号・第5号)

 金融商品取引法166条1項4号には、融資銀行、顧問弁護士、監査法人、取引先企業、業務提携先などが該当します。範囲が広く、実務上もよく問題になる規定です。これらの契約締結者等が法人であるときはその役員等を、法人以外の者であるときはその代理人または使用人を含み(同号)、また、契約締結・交渉行為を行っていない他部署の役員等も会社関係者に該当します(金融商品取引法166条1項5号)。

 なお、文言上、4号の対象者から1号の対象者が除かれているため、たとえば上場会社の役員等が会社との間で委任契約や雇用契約を締結していても、4号ではなく1号が適用されます。この点で解釈上問題になるのは弁護士等の代理人であり、たとえば、上場会社と顧問契約を締結している顧問弁護士が、業務提携契約(重要事実)の交渉について上場会社を代理していた場合、業務提携契約については1号が適用されますが、顧問相談の過程で他の重要事実を知った場合に4号が適用されるのかが明らかではないものの、一般的には4号の適用を肯定すべきと解されています。

 また、「契約」の意義については、重要事実と関連している契約である必要はないと解されていますが、「当該契約の締結もしくはその交渉または履行に関し知ったとき」という要件を満たす必要があるため、重要事実とほとんど関係のない契約は、事実上問題にならないと思われます。

元会社関係者(金融商品取引法166条1項柱書後段)

 前記3で述べた「会社関係者」については、会社関係者でなくなった場合(たとえば、会社役員が退任した場合や、従業員の退職、契約関係が解消した場合など)でも、その後1年間は、インサイダー取引規制の対象者になります

 この趣旨は、会社関係者でなくなった後、すぐに取引ができるようになると、規制の実効性が失われてしまうからです。

 このような元会社関係者として規制されるのは、会社関係者であったときに知った重要事実に限られます。つまり、会社関係者でなくなった後に重要事実を知った場合は、後述の情報受領者として規制される場合を除いて、当該重要事実についてはインサイダー取引規制の対象者にはなりません。

情報受領者(金融商品取引法166条3項)

 第三者に重要事実を伝えることによって上記規制の潜脱を図ることを防止するため、会社関係者・元会社関係者から情報の伝達を受けた者(情報受領者)も、インサイダー取引規制が適用されます(金融商品取引法166条3項)。具体的には、次の者が情報受領者に該当します。

① 会社関係者・元会社関係者から重要事実の伝達を受けた者(第1次情報受領者、金融商品取引法166条3項前段)
② (上記①の者が職務上伝達を受けた場合において)①の者が所属する法人の他の役員等であって、その者の職務に関し重要事実を知った者(金融商品取引法166条3項後段)

 このように、②を除いて、情報受領者からさらに重要事実の伝達を受けた者(第2次の情報受領者)はインサイダー取引規制の対象者に含まれていません(もっとも、後述のように、形式的には第2次情報受領者にみえても、第1次の情報受領者と解される場合があります)。

 情報受領者にあたるかどうかは、「伝達」を受けたといえるかどうかによります。「伝達」かどうかは、伝達する側の意図や態様等を総合勘案して、個別具体的に判断されます。たとえば、(i)会社関係者Aが第三者Bに重要事実を伝えるつもりでBに話した場合は、Bは典型的な第1次情報受領者になりますが、(ii)会社関係者Aが使者Cを介して第三者Dに重要事実を伝えた場合も、Cが第1次情報受領者・Dが第2次情報受領者になるのではなく、Dが第1次情報受領者になります。これに対して、(iii)会社関係者Aが重要事実について話しているところを、第三者Eが偶然聞いた場合、AはEに重要事実を伝達する意図を有していないことから、Eは第1次情報受領者には該当しません。

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