インサイダー情報となる重要事実とは

ファイナンス
浅沼 大貴弁護士

 インサイダー情報となる重要事実にはどのようなものがありますか。

 金融商品取引法には、上場会社やその子会社のそれぞれの決定事実(合併、新事業の開始等)、発生事実(損害の発生等)、決算情報(業績予想の修正)に分けて細かく定められています。また、バスケット条項も定められているため、慎重な対応が必要です。

解説

インサイダー取引規制にかかる重要事実の概要

 金融商品取引法は、インサイダー取引規制にかかる「重要事実」を、大きく、上場会社に関する事実と、子会社に関する事実に分けて詳細に定めています。また、それぞれ、決定事実、発生事実、決算情報、バスケット条項該当事実があるところ、「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」(以下「取引規制府令」といいます)において、決定事実と発生事実については軽微基準(重要事実に該当しない場合)が定められ、また、決算情報については重要事実となる基準が定められています

(1)上場会社に関する重要事実

  1. 決定事実(金融商品取引法166条2項1号、取引規制府令49条) 別紙1 上場会社の決定事実(PDF)参照
  2. 発生事実(金融商品取引法166条2項2号、取引規制府令50条) 別紙2 上場会社の発生事実(PDF)参照
  3. 決算情報(金融商品取引法166条2項3号、取引規制府令51条) 別紙3 上場会社の決算情報(PDF)参照
  4. バスケット条項該当事実(金融商品取引法166条2項4号)

(2)上場会社の子会社に関する重要事実

  1. 決定事実(金融商品取引法166条2項5号、取引規制府令52条) 別紙4 子会社の決定事実(PDF)参照
  2. 発生事実(金融商品取引法166条2項6号、取引規制府令53条) 別紙5 子会社の発生事実(PDF)参照
  3. 決算情報(金融商品取引法166条2項7号、取引規制府令55条) 別紙6 子会社の決算情報(PDF)参照
  4. バスケット条項該当事実(金融商品取引法166条2項8号)

 なお、上場投資法人に関する重要事実(金融商品取引法166条2項9号~14号)については割愛します。

 以下、決定事実、発生事実、決算情報、バスケット条項該当事実に関する一般的な留意点を述べます。

決定事実(金融商品取引法166条2項1号・5号)

業務執行を決定する機関

 金融商品取引法は、「会社の業務執行を決定する機関」が各事項を「行うことについて決定」したこと、または公表されている決定に係る事項を「行わないことを決定」したことを重要事実として定めています(金融商品取引法166条2項1号)。

 「会社の業務執行を決定する機関」とは、会社法所定の決定権限のある機関に限られず、実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関であれば足りると解されています(最高裁平成11年6月10日判決・刑集53巻5号415頁)。そして、どのような機関が業務執行を決定するかは、それぞれの会社や決定する事柄によって個別に判断することになりますので、個人であるか合議体であるかも問いません。

 そのため、代表取締役や取締役会だけでなく、経営会議や特定の個人の取締役であっても「会社の業務執行を決定する機関」に当たりうることになります。

行うことについての決定

 上記のような機関が、各事項を「行うことについての決定」をした場合に重要事実となります。行うこと「についての」決定ですから、その実施に向けた準備作業等を行うことを決定したことを含みます

 また、「決定」をしたというためには、業務執行決定機関において、その実現を意図して行ったことは必要ですが、実現可能性があることが具体的に認められることは不要と解されています。もっとも、実現可能性が全くあるいはほとんど存在せず、一般の投資者の投資判断に影響を及ぼすことが想定されないために、「決定」としての実質を有しない場合もあり得るとされています(最高裁平成11年6月10日判決・刑集53巻5号415頁最高裁平成23年6月6日判決・刑集65巻4号385頁)。

 したがって、たとえば新株発行が「重要事実」かどうかが問題となる際には、当該新株発行に向けた具体的な準備・検討作業(対象会社に対するデュー・ディリジェンス等)を行うことを、上記「機関」が「決定」した時点で、重要事実に該当することになります(単なる基礎資料の収集等は決定事実とならないと解されています)。

 実務的には、会社の決定事項が「重要事実」になる時点は、かなり早いと考えておくべきでしょう。

行わないことの決定

 ある事項を「行わないことの決定」がインサイダー取引規制の重要事実になるのは、当該事項が公表されている場合に限ります。

発生事実(金融商品取引法166条2項2号・6号)

 発生事実は、決定事実と異なり、上場会社の意思に関係なく該当事実が発生するものです。

 発生事実については、状況が日々刻々と変化することがあることから、当初は軽微基準に該当していたものが、状況の変化によって軽微基準に該当しなくなり、重要事実に該当することになる場合があるため、注意する必要があります。

決算情報(金融商品取引法166条2項3号・7号)

 決算情報については、売上高、経常利益もしくは純利益などについて、公表された直近の予想値(当該予想値がない場合は、公表がされた前事業年度の実績値)と比較して、新たに算出した予想値または当事業年度の決算において一定の差異が生じたことが重要事実になります(金融商品取引法166条2項3号)。

バスケット条項該当事実(金融商品取引法166条2項4号・8号)

 金融商品取引法166条2項4号は「当該上場会社等の運営、業務又は財産に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの」を掲げ、同項8号は「当該上場会社等の子会社の運営、業務又は財産に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの」を掲げています。これらは、バスケット条項と呼ばれます。

 バスケット条項の趣旨は、重要事実のすべてを網羅的に列挙することが困難であることから、上記のような包括的な定めを設けることにあります。

 バスケット条項の適用事例には、たとえば、任意整理の決定や重要な子会社の上場等が含まれます。また、「当該上場会社等の運営、業務又は財産に関する重要な事実」(金融商品取引法166条2項4号)、「当該上場会社等の子会社の運営、業務又は財産に関する重要な事実」(金融商品取引法166条2項8号)とされていることから、上場会社やその子会社以外の他社の事情がバスケット条項に該当しないと解されます。

 しかし、上場会社・子会社の事情であれば、決定事実や発生事実の「軽微基準」に該当するものであっても、それに包摂・評価されない側面があればバスケット条項が適用される可能性があり(最高裁平成11年2月16日判決・刑集53巻2号1頁)、バスケット条項の範囲は明らかとはいえません。

 実務的には、証券取引等監視委員会の「課徴金事例集」などを参考にしながら、個別に判断するほかなく、弁護士等の専門家に相談するなど、慎重な対応をすることが望ましいでしょう。

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