インサイダー取引規制における「公表」とは

ファイナンス
北田 晃一弁護士

 インサイダー取引規制において、重要事実の「公表」とはどのような場合を指すのですか。

 公表の方法としては、①2以上の報道機関に対して重要事実を公開した後、12時間が経過した場合、②金融商品取引所に対する通知および金融商品取引所による公衆縦覧がなされた場合、③重要事実が記載された有価証券届出書、有価証券報告書、臨時報告書等が公衆の縦覧に供された場合が定められており、そのいずれかの手続を履践してはじめて重要事実の「公表」がなされたことになります。

解説

「公表」によるインサイダー取引規制の解除

 金融商品取引法は、会社関係者・元会社関係者・第1次情報受領者が、重要事実を知った場合には、当該重要事実が「公表」された後でなければ、特定有価証券等の売買等をしてはならないと定めています(金融商品取引法166条1項・3項)。
 したがって、重要事実が「公表」された後は、インサイダー取引規制が解除されることになります。

 なお、本稿においては、上場会社に関する事項に限定して解説します。

公表の方法

 重要事実の公表方法としては、金融商品取引法で定められた一定の手続によることが求められています。これは、市場に参加する投資家に向けて、透明かつ公正に重要事実が開示されることを担保する趣旨によるものと解されており、具体的には、以下の①から③のいずれかの方法で重要事実が開示された場合に、「公表」がなされたことになります。

  1. 上場会社・子会社の代表者またはその委任を受けた者が、日刊新聞紙を販売する新聞社、通信社または放送局等の2以上の報道機関に対して当該重要事実を公開した後、12時間が経過した場合(金融商品取引法施行令30条1項1号・2項)
  2. 上場会社が、上場する金融商品取引所に対して当該重要事実を通知し、当該金融商品取引所等において電磁的方法(TDnet)により日本語で公衆縦覧に供された場合(金融商品取引法施行令30条1項2号、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令56条)
  3. 重要事実が記載された有価証券届出書、有価証券報告書、臨時報告書等が公衆の縦覧に供された場合(金融商品取引法166条4項)

 においては、報道機関による報道は要件となっていません。そのため、報道機関への公開後、12時間が経過すれば「公表」されたことになります(なお、いわゆる報道機関へのリークについては、後述の判例を参照ください)。

 は、金融商品取引所の適時開示制度を利用して、重要事実が適時開示された場合に「公表」がなされたこととするものです。①のように時間の経過が要件とならないことから、早期にインサイダー取引規制を解除することが可能となります。

 は、有価証券届出書、有価証券報告書等の金融商品取引法に基づく法定開示書類を通じて、重要事実が開示された場合に「公表」がなされたこととするものです。これらの書類の提出は、EDINETシステムを用いて行われています。

公表の主体

 上記2の公表を行う主体は、上場会社またはその子会社ですが、子会社による公表は、子会社に関する重要事実が対象となる場合に限られます(金融商品取引法166条4項1号)。

公表の内容・程度

 公表の内容としては、の方法による場合は、適時開示、有価証券届出書、臨時報告書等に記載すべき事項を公表することになります。

 また、どの程度の情報の開示が求められるかについては、インサイダー取引規制の目的が、会社関係者等が内部情報を利用して取引をすることにより一般投資家に比べて著しく有利になることを防止する点にあることに鑑み、当該公表により、一般投資家の投資判断に影響を及ぼすべき事実の内容がすべて明らかにされる必要があると解されています。

 そのため、投資判断に十分でない断片的・抽象的な情報の開示は公表とはみなされない場合がありますので、注意が必要です。

最高裁平成28年11月28日決定

 最後に、「公表」があったか否かが問題となった事例を紹介します。
 この事案は、経済産業省大臣官房審議官が、職務上の権限の行使に関して、上場会社の合併等の重要事実を知り、妻名義で上場株式を買い付けたというものです。

報道機関への匿名のリークは「公開」にあたるか

 最高裁平成28年11月28日決定・刑集70巻7号609頁は、金融商品取引法が公表方法を限定列挙した趣旨は、「投資家の投資判断に影響を及ぼすべき情報が法令に従って公平かつ平等に投資家に開示されることによりインサイダー取引規制の目的である市場取引の公平・公正及び市場に対する投資家の信頼の確保に資するとともにインサイダー取引規制の対象者に対し個々の取引が処罰等の対象となるか否かを区別する基準を明確に示すことにある」としたうえ、報道機関に対する公開による公表方法は、「当該報道機関が行う報道の内容が同号所定の主体によって公開された情報に基づくものであることを投資家において確定的に知ることができる態様で行われることを前提としていると解される」ことから、「情報源を公にしないことを前提とした報道機関に対する重要事実の伝達はたとえその主体が同号に該当する者であったとしても同号にいう重要事実の報道機関に対する『公開』には当たらないと解すべきである」と判示しました。

 したがって、報道機関への匿名でのリークは、「公開」には該当しないことになります。

報道がされれば「公表」となるか

 また、「法令上規定された公表の方法に基づかずに重要事実の存在を推知させる報道がされた場合にその報道内容が公知となった」としても、これによってインサイダー取引規制の効力が失われると解することは、当該報道に金融商品取引法166条所定の「公表」と実質的に同一の効果を認めるに等しく、上記趣旨と相容れないものであるから、インサイダー取引規制の効力が失われることはないと判示しています。

 なお、原審である東京高裁平成26年12月15日判決・刑集70巻7号717頁では、上記のほか、リーク報道を受けて、「本日付の半導体業界再編に関する一部報道については、当社が発表したものではございません。また、報道されたような事業再編について当社として決定した事実はございません。」という内容の適時開示をしたことは、「合併することについての決定をしたことを公表するものでない」ことから、「公表」には該当しないとされています。

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