情報伝達・取引推奨行為の規制

ファイナンス
藤田 俊輔弁護士

 インサイダー取引に関して、平成25年の金融商品取引法改正によって導入された「情報伝達・取引推奨行為の規制」とは、どのような内容の規制ですか。

 上場会社の内部情報を知り得る特別の立場にいる者が、その企業の重要事実の公表前に、他人に対し、利益を得させまたは損失を回避させる目的をもって、当該重要事実を伝達しまたはその企業の株式等の売買を勧める行為を行うことを禁止するものです。
 この規制に違反した者は、情報伝達・取引推奨を受けた他人が重要事実の公表前に株式等の売買をした場合に、刑事罰、課徴金等の処分を受けることになります。

解説

平成25年金融商品取引法改正の背景

 改正前のインサイダー取引規制は、上場会社の内部情報を知り得る特別の立場にいる者(会社関係者・公開買付等関係者といいます)が、その立場を利用して企業の重要事実を知った場合に、当該重要事実の公表前に、自分自身で株券等の売買を行うことを禁止するものであり、これらの者が当該重要事実を他人に伝達したり、これに基づいて他人に取引を推奨したりする行為自体は、直接の規制対象とはされていませんでした。

 しかし、近年は、会社関係者や公開買付等関係者自身よりも、これらの者から情報伝達を受けた者がインサイダー取引を行うケースが多くみられ、たとえば、上場会社の公募増資に際し、引受主幹事証券会社の営業職員による情報伝達に基づいたインサイダー取引事案等も発生しています。そこで、このような違反行為を防止するための規制として、平成25年の金融商品取引法改正により、会社関係者や公開買付等関係者による情報伝達・取引推奨行為も禁止されるようになりました。

情報伝達・取引推奨規制の要件

要件の概要

 金融商品取引法167条の2によれば、情報伝達・取引推奨行為として規制されるのは、以下の行為です。

【会社関係者の場合(金融商品取引法167条の2第1項)】
  1. 会社関係者・元会社関係者が
  2. 重要事実を知った場合に
  3. 当該重要事実の公表前の売買等により他人に利益を得させ、または当該他人の損失の発生を回避させる目的をもって
  4. 他人に対し、当該重要事実を伝達し、または当該売買等をすることを勧めること
【公開買付者等関係者の場合(金融商品取引法167条の2第2項)】
  1. 公開買付者等関係者・元公開買付者等関係者が
  2. 公開買付け等事実を知った場合に
  3. 当該公開買付け等事実の公表前の株券等の買付け等または売付け等をさせることにより他人に利益を得させ、または当該他人の損失の発生を回避させる目的をもって
  4. 他人に対し、当該事実を伝達し、または株式等の買付け等もしくは売付け等を勧めること

 本稿では、以下、会社関係者による情報伝達・取引推奨行為の規制について説明します。

規制の対象者

 情報伝達・取引推奨行為の規制対象者は、会社関係者および元会社関係者であり、情報受領者は規制対象者とはされていません。なお、会社関係者、元会社関係者、情報受領者については、以下の論稿をご参照ください。

 参照:「インサイダー取引の適用対象者

 したがって、それぞれの立場の者が規制される行為は、以下のようになります。

情報伝達・取引推奨行為の規制対象者が規制される行為

情報伝達等の相手方

 情報伝達の相手方となる「他人」については、特に限定はなく、会社関係者・元会社関係者が、会社内の役職員を含む他人に対して重要事実を伝達することが規制の対象となるとされています(金融庁の「情報伝達・取引推奨規制に関するQ&A(金融商品取引法第167条の2関係)」(以下「金融庁Q&A」といいます)問1)。

 もっとも、会社関係者が、会社内の者に対して重要事実を伝えた場合、当該伝達を受けた者は、「会社関係者」として規制される可能性が高い(したがって、このような伝達を受けた者が、さらに情報伝達等をすることも規制される)ことに留意が必要です。

目的要件

 情報伝達・取引推奨行為は、「他人に利益を得させ、又は当該他人の損失の発生を回避させる目的」をもってなされた場合に規制対象となります。したがって、このような目的がない情報伝達等は規制されません。

 規制対象とならない行為としては、業務上必要な社内外での情報交換(金融庁Q&A・問1)、家族や知人に対し世間話として重要事実を話した場合(同・問2)、IR活動の一環として投資を推奨する行為(同・問3)などです。もっとも、目的要件を満たさないとして規制対象とならないのは、情報伝達または取引推奨をした行為者のみであり、重要事実の伝達を受けた者(たとえば上記の家族や知人等)が会社株式の売買等を行えば、その者は会社関係者または第1次情報受領者として、インサイダー取引規制に違反することになります。

刑事罰・課徴金

 情報伝達・取引推奨規制に違反した場合でも、ただちに刑事罰等が科されるわけではなく、当該違反によって情報伝達・取引推奨を受けた者が、重要事実の公表前に株式等の売買をした場合(インサイダー取引規制に違反した場合)に限り、情報伝達・取引推奨行為をした者についても刑事罰や課徴金の対象になるとされています(金融商品取引法197条の2第14号15号、175条の2)。

 ただし、刑事罰や課徴金の対象とならない場合でも、情報伝達・取引推奨行為の規制違反には該当することになるため、金融商品取引業者がこのような違反行為を行った場合には、行政処分の対象となる可能性があります。また、上場会社の役職員が違反行為を行った場合には、社内規則違反となる可能性も考えられます。

最後に

 情報伝達・取引推奨規制に関しては、近年、課徴金納付命令の勧告がなされた事案や、刑事告発までなされた事案も発生していますので、企業においては、インサイダー取引規制に対応するための体制整備を一層強化していく必要があるものと考えられます。

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