金融商品取引法における発行開示規制とは

ファイナンス

 有価証券の開示規制とは何ですか。また、金融商品取引法における発行開示規制はどのような内容ですか。

 発行者に対し、その発行する有価証券に関する情報(証券情報)や発行者に関する情報(企業情報)を開示する義務を課す規制を開示規制といいます。開示規制のうち、有価証券を発行する際の開示規制を発行開示規制といいます。発行開示規制は、有価証券の募集または売出しを行う場合に適用されますが、その例外として私募や私売出しがあります。

解説

開示規制とは

 直接金融(参照:【連載】ファイナンス法の基礎「第1回 ファイナンス法とは?」)における投資家保護市場の健全性確保のため、資金調達者である発行者を規制対象とし、投資家のために、発行する有価証券に関する情報証券情報)や発行者に関する情報企業情報)を適切に開示する義務を課する規制が開示規制です(参照:【連載】ファイナンス法の基礎「第5回 金融規制法」)。投資家保護のための開示規制は主として金融商品取引法により行われます。

開示規制の種類:発行開示規制と継続開示規制

 金融商品取引法に基づく開示制度(規制)には、(1)有価証券を発行する際の開示制度である発行開示制度と、(2)上場会社等が行う継続的な開示制度である継続開示制度の2つが存在します(参照:【連載】ファイナンス法の基礎「第5回 金融規制法」)。本稿では、発行開示規制について解説します。

発行開示規制

発行開示規制が適用となる場合

 発行開示規制は、有価証券の募集または売出しを行う場合に適用されます(金融商品取引法2条3項・4項、4条1項)。

有価証券該当性

 金融商品取引法において開示規制の対象となるのは、私法上の有価証券(拙著「ファイナンス法 – 金融法の基礎と先端金融取引のエッセンス」(商事法務、2016)第8章第2節「有価証券」参照)ではなく、金融商品取引法上の有価証券です。金融商品取引法上の有価証券には、第一項有価証券第二項有価証券(いわゆるみなし有価証券)の2種類が存在します。第一項有価証券は、①金融商品取引法2条1項に規定される有価証券(株式や社債など)と、金融商品取引法2条2項前段に規定される②有価証券表示権利および③特定電子記録債権で構成されます。第二項有価証券は金融商品取引法2条2項各号に規定されており、その代表例は信託受益権狭義の集団投資スキーム持分などです(参照:【連載】ファイナンス法の基礎「第3回 ストラクチャード・ファイナンス / アセット・ファイナンスとは?」)。

 なお、流通性の低い第二項有価証券においては、主として有価証券への投資を行う投資ファンド持分などの有価証券投資事業権利等についてのみ開示規制が課されており(金融商品取引法3条3号各号)、その他の第二項有価証券には開示規制は課されていません。以上をまとめたものが下記の図です。

【金融商品取引法上の有価証券の開示規制】

条文 有価証券の種類 開示規制の有無・内容
2条1項 第一項有価証券 開示規制あり
2条2項
前段・中段
(有価証券表示権利・
特定電子記録債権)
2条2項各号
(集団投資スキーム持分等)
第二項有価証券 有価証券投資事業権利等
(投資型ファンド等)
開示規制はあるが、開示要件に違いあり
上記以外
(事業型ファンド等)
開示規制なし

出典:近藤光男ほか『基礎から学べる金融商品取引法〔第3版〕』(弘文堂、2015)の図をもとに筆者が作成

募集と売出し

(1)募集と売出し

 有価証券の発行者が、当初発行時(プライマリー)に、多数の投資家に対し、新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘(取得勧誘)を行うこと募集といいます。私募と対比する意味において公募とも呼ばれます。また、すでに発行された有価証券の転売時(セカンダリー)に、多数の投資家に対し、その売付けの申込みまたはその買付けの申込みの勧誘を行うこと売出しといいます(金融商品取引法2条4項)。多数とは、第一項有価証券の場合には50名以上(金融商品取引法2条3項1号、金融商品取引法施行令1条の5・1条の8)、第二項有価証券の場合には500名以上(金融商品取引法2条3項3号、金融商品取引法施行令1条の7の2・1条の8の5)とされます。なお、第二項有価証券の場合、募集に該当するかどうかは、取得勧誘の相手方の数ではなく取得勧誘に応じて取得(所有)した者の数が基準となります。開示規制は、募集と売出しの場合に適用されます。

 開示規制が適用される場合、(ⅰ)募集または売出しに先立ち、発行者は、証券情報と企業情報などが記載された有価証券届出書を提出した上、公衆縦覧に付する必要があり(金融商品取引法5条)、(ⅱ)勧誘を行う相手方(投資家)に対しては、予めまたは同時に有価証券届出書に記載される情報を記載した目論見書を作成・交付する必要があり(金融商品取引法13条1項、15条2項)、さらに継続開示が義務付けられます。

(2)私募と私売出し

 開示規制の対象となる募集と売出しの例外として、開示規制の対象とならないものを私募または私売出しといいます。私募は当初発行時(プライマリー)における開示規制の例外であり(金融商品取引法2条3項2号イ・ロ・ハなど)、私売出しは転売(セカンダリー)時における開示規制の例外です(金融商品取引法2条4項2号イ・ロ・ハなど)。

 私募には、①取得勧誘を行う相手方が少人数である場合少人数私募)と、②取得勧誘を行う相手方が独自にリスク判断のできるプロ(金融機関など)=適格機関投資家(金融商品取引法2条3項1号、金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令(定義府令)10条)に限定されることから開示の必要性が低い場合(プロ私募)が存在します。2008年には、③特定投資家私募の制度が創設されました。特定投資家は、適格機関投資家を含むがより広い概念であり(金融商品取引法2条31項、定義府令23条)、特定投資家のみを相手方とする私募が特定投資家私募です。私売出しにおいても、同様の種類が存在します。

 なお、少人数私募と少人数私売出しでは不特定多数の者に、プロ私募とプロ私売出しではプロ(適格機関投資家)以外の者に、当該有価証券が転売されないよう、当該有価証券の転売に一定の制限が付された上転売制限)、告知書により当該転売制限を告知する義務が課されています(金融商品取引法23条の13)。

(3)まとめ

 以上を踏まえ、募集と私募の要件とこれに関連する金融規制を示したものが下記の図です。

【募集と私募】

定義 規制(条件)
募集 多数への取得勧誘

私募以外

(ⅰ)有価証券届出書の提出
(金融商品取引法5条)

(ⅱ)目論見書の交付
(金融商品取引法13条1項、15条2項)

(ⅲ)継続開示(注3)
私募

(1)少人数私募(人数基準)
50名未満(注1)

(ⅰ)転売制限
(ⅱ)告知書の交付

(2)プロ私募(投資家基準)(注2)
適格機関投資家のみ

(ⅰ)転売制限
(ⅱ)告知書の交付

(3)特定投資家私募(投資家基準)(注2)
特定投資家のみ

(ⅰ)転売制限
(ⅱ)告知書の交付は不要(注4)

注1)第一項有価証券の場合。第二項有価証券の場合には500名未満。

注2)第一項有価証券の場合のみ。第二項有価証券の場合には適用なし。

注3)有価証券報告書などを継続的に提出する義務をいう。

注4)ただし、その他の方法(取引所規則や店頭市場開設者の定める方法など)により告知する必要あり。

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