インサイダー取引規制に違反した場合の課徴金の額と手続

ファイナンス

 インサイダー取引規制違反にかかる課徴金の額や手続について教えてください。

 インサイダー取引規制違反が行われた場合、課徴金が課されます。かかる課徴金については、違反行為の類型に応じて課徴金額が定められています。また、課徴金は、審判手続により決定されます。なお、インサイダー取引規制違反については、金融商品取引所や証券取引等監視委員会により日常的にチェックされています。

解説

課徴金とは

 課徴金は、規制の実効性を確保するために、違反者に対して金銭的負担を課す行政上の措置です。
 インサイダー取引規制に関する課徴金制度は、平成16年の証券取引法改正により導入され、その後の改正により、強化・拡充されています。

課徴金の対象行為

概要

 インサイダー取引規制違反となる行為は、以下に分けられます。

  1. 金融商品取引法166条1項・3項の違反(会社関係者・情報受領者による違反。以下「166条違反」といいます)
  2. 金融商品取引法167条1項・3項の違反(公開買付者等・情報受領者による違反。以下「167条違反」といいます)
  3. 金融商品取引法167条の2第1項・2項の違反(情報伝達・取引推奨行為。以下「167条の2違反」といいます)

 そして、課徴金は、上記区分に応じて、以下のように定められています。

誰の計算でなされたか 根拠規定
166条違反 (a) 自己・密接関係者・特殊関係者の計算 175条1項1号・2号、10項
(b) 他人の計算 175条1項3号
(c) (役員等による)上場会社等の計算 175条9項
167条違反 (d) 自己・密接関係者・特殊関係者の計算 175条2項1号・2号、11項
(e) 他人の計算 175条2項3号
167条の2違反 (f) - 175条の2第1項・2項・13項・14項

※誰の計算でインサイダー取引がなされたかについては、実質的に判断されます。

※密接関係者・特殊関係者については、後記2-2を参照ください。


 このうち、(a)・(c)・(d)について課徴金が課されるのは、インサイダー取引規制違反となる行為が「重要事実の公表前6か月以内に行われた場合」に限られます(金融商品取引法175条1項1号・2号、2項1号・2号)。
 また、(f)に関し、情報伝達・取引推奨を行った者に対して課徴金が課されるのは、情報伝達・取引推奨を受けた者が実際にインサイダー取引規制に違反する取引を行った場合に限られます(金融商品取引法175条の2第1項・2項)。

密接関係者・特殊関係者

 密接関係者・特殊関係者の計算でインサイダー取引が行われた場合は、自己の計算で行われたものとみなされます(金融商品取引法175条10項・11項)。

 密接関係者・特殊関係者の範囲は、それぞれ以下のとおりです(金融商品取引法第六章の二の規定による課徴金に関する内閣府令1条の23)。

密接関係者
  1. 親会社
  2. 子会社
  3. 兄弟会社
  4. 法人税法2条10号に規定する同族会社(違反行為者が個人の場合に限る。なお、違反行為者が支配していないことが明らかであると認められる会社を除く)
特殊関係者
  1. 親族(違反行為者が個人の場合に限る)
  2. 事実上婚姻関係と同様の事情にある者(違反行為者が個人の場合に限る)
  3. 役員等
  4. 違反行為者(個人に限る)から受ける金銭その他の資産によって生計を維持しているもの
  5. 上記②~④に掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族

課徴金が課される者

 課徴金は原則として違反者に課せられます(金融商品取引法175条1項・2項、175条の2第1項)。

 ただし、上場会社等の役員等が上場会社等の計算でインサイダー取引をした場合(2-1 表中(c)の場合)および上場会社の業務として役員等が情報伝達・取引推奨行為をした場合は、上場会社等に対して課徴金が課されることに注意が必要です(金融商品取引法175条9項、175条の2第13項)。同様に、公開買付者等の業務として役員等が情報伝達・取引推奨行為をした場合は、公開買付者等に対して課徴金が課されます(金融商品取引法175条の2第14項)。

課徴金の額

原則

 課徴金の額は、以下のとおりです。

違反類型 課徴金の額
(a)(c)(d) 売付け等の場合 (売付け等の価格×売付け等の数量)-(重要事実の公表後2週間の最安値×売付け等の数量)
買付け等の場合 (重要事実の公表後2週間の最高値×買付け等の数量)-(買付け等の価格×買付け等の数量)
(b)(e) 資産運用業者 1か月分の運用対価の額×3
その他 違反行為に係る対価の額
(f) 仲介関連業務 1か月分の仲介関連業務の対価の額×3
募集等業務 (1か月分の仲介関連業務の対価の額×3)+(募集等業務・引受業務の対価の額÷2)
その他 情報伝達・取引推奨を受けた者が得た利益額÷2

※「仲介関連業務」とは、特定有価証券等に係る金融商品取引法2条8項2号・3号に掲げる行為、同項4号に掲げる行為(店頭デリバティブ取引を除く)、同項10号に掲げる行為(有価証券の売買を除く)その他これらに類するものとして政令で定める行為に係る業務(これらに付随する業務として内閣府令で定めるものを含む)をいいます(金融商品取引法175条の2第1項1号)。

※「募集等業務」とは、特定有価証券等に係る金融商品取引法2条8項9号に掲げる行為に係る業務をいいます(金融商品取引法175条の2第1項2号)。

課徴金額の増額・減額

 上場会社等の役員等が上場会社等の計算でインサイダー取引を行った場合(上記(c))のうち、自己株式取得が行われた場合において、金融商品取引法177条に定める課徴金に関する調査のための処分がなされる前に、自主的に証券取引等監視委員会に報告すれば、課徴金額は半額になります(金融商品取引法185条の7第14項、金融商品取引法第六章の二の規定による課徴金に関する内閣府令61条の7)。これ以外の場合には、課徴金の減額に関する規定はありません。

 他方、インサイダー取引や情報伝達・取引推奨行為を行った者が、違反行為日から遡って5年以内に課徴金納付命令を受けたことがあるときは、課徴金額は1.5倍になります(金融商品取引法185条の7第15項)。かかる増額については、対象行為は制限されていません。

除斥期間

 インサイダー取引や情報伝達・取引推奨行為が行われた日から5年を経過した場合は、課徴金納付に関する審判手続開始決定をすることができない(金融商品取引法178条27項・28項・29項)とされています。

課徴金の手続

インサイダー取引の調査

 インサイダー取引は、証券取引等監視委員会や金融商品取引所等によって調査されています。

 金融商品取引所は、自主規制業務(金融商品取引法84条1項)の一環として、インサイダー取引に関する調査を行っています(金融商品取引法84条2項、金融商品取引所等に関する内閣府令7条1号)。たとえば、日本取引所自主規制法人による売買審査は、投資者の投資判断に重大な影響を与える情報(重要事実)が公表された銘柄の取引を「すべて」チェックし、その中からインサイダー取引と疑われる取引を絞り込んでいく方法により行われています。そして、疑わしい取引があれば、証券取引等監視委員会に報告されます。

売買審査業務の流れ

出典:日本取引所グループ「インサイダー取引

 また、証券取引等監視委員会では、市場分析課による取引審査が行われた後、課徴金事案については取引調査課に引き継がれ、さらなる調査(金融商品取引法177条)が行われて、違反行為が認められた場合は、課徴金納付命令の勧告が行われます。

 参考:証券取引等監視委員会「告発の現場から

審判

 課徴金納付命令の勧告が行われた場合、金融庁長官は、審判開始決定を行い(金融商品取引法178条、194条の7第1項)、審判手続が開始されます。
 なお、審判の期日前に、課徴金に係る事実および納付すべき課徴金の額を認める旨の答弁書を提出したときは、審判の期日は開かれません(金融商品取引法183条2項)。過去の事例では、このような答弁書が提出され、審判期日が開催されずに課徴金納付命令が出された例が多いです。

 審判手続の後、課徴金納付命令が出されます(金融商品取引法185条の7第1項)。納付期限は決定書の謄本を発した日から2か月を経過した日です(金融商品取引法185条の7第21項)。

争う手段

 課徴金納付命令については、行政事件手続法は適用されず(金融商品取引法185条の20)、また、審査請求をすることができません(金融商品取引法185条の21)。
 課徴金納付命令を争う場合には、効力発生日から30日の不変期間内に、課徴金納付命令の取消しの訴えを提起することになります(金融商品取引法185条の18)。

課徴金の具体例

 課徴金納付命令の勧告がなされた事例については、証券取引等監視委員会のウェブサイトに掲載されています(証券取引等監視委員会「報道・広報」)。
 たとえば、本稿執筆時における直近の事例は、平成29年6月30日付け「海外に居住するサン電子株式会社との契約締結者による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について」であり、勧告にかかるイスラエル国に居住する者(契約締結者)に対する課徴金の額は1,857万円です。

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