新規成長企業へ供給されるべきリスクマネーのあり方について

ファイナンス
佐藤 光伸弁護士

 私はこれまで民間の事業会社で様々な新規ビジネスを創出してきました。今後は株式会社を設立して、これまでに培ったビジネス上のアイデアや技術を事業化し、証券取引所に上場することを目指しています。
 そのためには、新規成長企業に対する投資の制度整備がはかられていることが望ましいのですが、近年、新規成長企業への投資のあり方はどのような動きがありますか。
 また、クラウドファンディングという資金調達手法に注目しています。具体的にどのような手法か教えてください。

 平成25年6月、金融庁に「金融審議会 新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループ」が設置され、同ワーキング・グループの報告書は平成25年12月25日に公表されました。
 報告書では、クラウドファンディングを含め、新規成長企業に対するリスクマネーの供給に関する種々の規制緩和策が提言されていました。この報告書の提言を受けて、金融商品取引法や証券取引所の規則などが改正され、施行されています。
 クラウドファンディングは、一般的には「新規・成長企業などと資金提供者をインターネット経由で結び付け、多数の資金提供者から少額ずつ資金を集める仕組み」と言われています。

解説

ワーキング・グループ設置の背景

低い開業率という問題

 日本では、世界で通用する技術やアイデアがあるといわれているにもかかわらず、起業や新規ビジネスの創出という側面から見ると、世界トップレベルの成功を遂げているとは言い難い状況にありました。
 たとえば、日本と米国における開業率を比較すると、平成24年の段階では、米国が9.3%であるのに対して、日本は4.5%に留まっていました。
 こうした起業や新規ビジネスの創出を巡る日米格差の要因の一つとして、新規成長企業に対するリスクマネーの供給不足という問題について指摘がなされていました。

 米国では、投資型クラウドファンディングの制度整備を始め、リスクマネーの供給促進という観点から、種々の規制緩和策が講じられていたのです。
 リスクマネーとは、貸し手が相応のリスクを背負って投資する資金のことです。創業期にある企業では、倒産のリスクが比較的高いため、そのような企業に対して投資される資金のことを一般にリスクマネーと呼びます。
 また、それと同時に、新規成長企業の出口戦略を多様化するなどの観点から、新規上場時や上場後の資金調達の制度整備などにも着手する必要があると考えられました。

ワーキング・グループの設置とワーキング・グループ報告書の提言

 このような動きを受けて、日本においても、リスクマネーが円滑に供給されるための制度整備をすることができないかとの問題提起のもと、金融担当大臣から金融審議会に対して、以下の項目について検討を行うよう、諮問がなされました。 

  • 新規成長企業へのリスクマネー供給のあり方
  • 事務負担の軽減など新規上場の推進策
  • 上場企業等の機動的な資金調達を可能にするための開示制度の見直し
  • その他近年の金融資本市場の状況に鑑み、必要となる制度の整備

 この諮問を受けて、平成25年6月、金融審議会は、「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループ」(以下、「ワーキング・グループ」という)を設置しました。
 平成25年12月に公表されたワーキング・グループの報告書(以下「ワーキング・グループ報告書」という)においては、以下の提言がされています。

  1. クラウドファンディング
  2. 非上場株式の取引・換金のための枠組み
  3. 保険子会社ベンチャーキャピタルによるベンチャー企業への投資促進
  4. ベンチャー企業支援を巡る諸課題

 本稿では、①クラウドファンディングについて解説します。

 その他の報告書における提言について知りたい方は、金融審議会「「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループ」報告書の公表について」を参照してください。

クラウドファンディングとは

 クラウドファンディングとは、必ずしも定まった定義があるものではありませんが、一般的に「新規成長企業などと資金提供者をインターネット経由で結び付け、多数の資金提供者から少額ずつ資金を集める仕組み」を指すものとされています。
 クラウドファンディングは、資金提供者に対するリターンの形態により、「寄付型」「購入型」または「投資型」に大別されます。このうち、金融商品取引法(以下「金商法」といいます)の規制対象となる投資型クラウドファンディングとしては、「ファンド形態」のものと 「株式形態」のものとが想定されます。
 

クラウドファンディング

 米国においては、2012年4月、「Jumpstart Our Business Startups Act」(JOBS法)が成立し、事実上困難であった投資型クラウドファンディングによる資金調達の道が開かれました。
 こうした米国での制度改正の動きも参考とされ、ファンド形態および株式形態の双方を含めた投資型クラウドファンディングに関する制度整備に向けた検討が行われました。

クラウドファンディングの仲介者の参入要件の緩和

 ワーキング・グループ報告書では、クラウドファンディングの仲介者について「 現行の第一種金融商品取引業および第二種金融商品取引業について、登録の特例を設けることが望ましい 」と提言されました。
 これは、リスクマネーの供給促進を図るために、できるだけ仲介者にとって参入が容易な制度とすることが重要という観点によるものです。
 さらに、投資者保護の観点から、以下2点を含む限定的な範囲の特例を設けるよう提言されています。

  • 一人当たり投資額や発行総額の上限を設ける
  • 仲介者が有価証券の売買や引受け等の業務を行わないことを条件とする

 この提言を受けて、「特例第一種金融商品取引業者」、「特例第二種金融商品取引業者」が位置づけられました。
 それぞれの定義は以下のとおりです。

特例第一種金融商品取引業者

 第一種金融商品取引業のうち、非上場株式の募集または私募の取扱いであってインターネットを通じて行われる少額のもの(発行総額1億円未満かつ一人当たり投資額50万円以下)のみを行うもの(金商法29条の4の2第1項)

特例第二種金融商品取引業者

 第二種金融商品取引業のうち、ファンド持分の募集または私募の取扱いであってインターネットを通じて行われる少額のもののみをおこなうもの(金商法29条の4の3第1項)

投資者保護のために必要な措置

クラウドファンディングの仲介者に対する義務と罰則

 クラウドファンディングがインターネットを通じて手軽に多数の者から資金を調達できる仕組みである一方で、詐欺的な行為に悪用されることのないよう、制度的な工夫が必要となります。
 この点について、平成26年に改正された金商法の施行前は、株式やファンド持分の募集または私募の取扱いに際し、インターネットを通じて行うことについて、その特質を踏まえた規制は特段設けられていませんでした。
 そこで、ワーキング・グループ報告書では、クラウドファンディングの仲介者に対して、以下3点の義務付けと、情報提供を怠った場合などにおける罰則を整備することが適当であると提言されました。

仲介者に対する義務
  • 発行者に対するデューデリジェンス
  • インターネットを通じた適切な情報提供等のための体制整備
  • インターネットを通じた発行者や仲介者自身に関する情報の提供

提供しなければいけない情報

 4-1 の提言を受けて、一定の非上場有価証券等について電子募集取扱業務(ウェブサイト等を用いて行う有価証券の募集または売出しに関する業務)を行うときは、手数料、報酬その他の対価などに関する事項を、電子募集取扱業務を行う期間中、ウェブサイトを通じて相手方が閲覧できる状態に置かなければならないことが投資者に対する適切な情報提供のための行為規制として規定されました(金商法43条の5)。

金融商品取引法43条の5
内閣府令で定めるところにより、第37条の3第1項の規定により交付する書面に記載する事項のうち電子募集取扱業務の相手方の判断に重要な影響を与えるものとして内閣府令で定める事項について、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって内閣府令で定めるものにより、これらの有価証券について電子募集取扱業務を行う期間中、当該相手方が閲覧することができる状態に置かなければならない

自主規制機関による適切な自主規制機能の発揮

 ワーキング・グループ報告書では、仲介者への義務・罰則に加えて、投資者が安心して投資できる環境を整備するため、自主規制機関による規制について、以下のように提言がなされています。

「投資型クラウドファンディングが詐欺的な行為に悪用されることや反社会的勢力に利用されること等を防止し、投資者が安心して投資できる環境を整備する上では、当局による規制・監督のみに依拠するのではなく、自主規制機関による適切な自主規制機能の発揮を組み合わせることが重要である」

「こうした観点から、今後、自主規制機関(日本証券業協会および第二種金融商品取引業協会)において、当局と連携しつつ、投資型クラウドファンディングの適切な普及に向けて自主規制規則の整備に関する検討が進められることが期待される」

 このような提言を受けて、日本証券業協会は規則を新たに制定し、第二種金融商品取引業協会は、自主規制規則の整備に関する報告書を公表しました。
 それぞれの規則および報告書の詳細は、以下を参照してください。

まとめ

  • リスクマネーの供給に関する規制緩和の動きは進んでいる
  • クラウドファンディングの法整備も行われた
  • 仲介者への義務付け、罰則、自主規制機関による規制などによって安心して投資できる環境を整備している

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