金融商品取引法(日本版SOX法)に基づく内部統制システム構築義務について

ファイナンス
佐藤 光伸弁護士

 当社は、東京証券取引所に上場し、有価証券届出書を提出したうえで新規株式公開(IPO)を行いました。
 当社は、これまで会社法上の内部統制システムを構築・運用してきましたが、今後有価証券報告書とともに提出しなければならない内部統制報告書に関して、会社法上の内部統制システムとは別に金融商品取引法上の内部統制体制を構築しなければならないのでしょうか。

 金融商品取引法上の内部統制体制は、会社の財務計算に関する書類や、その他の情報の適正性を確保するために必要な体制ですので、会社法上の内部統制システムとは概念が異なります。会社法上の内部統制システムの構築次第ではありますが、基本的には、別途金融商品取引法上の内部統制体制を構築する必要があります。

解説

2つの内部統制

会社法の内部統制

 会社法上の大会社(資本金5億円以上または負債の部の合計額200億円以上の会社)は、株式会社の業務の遂行にあたり取締役の職務の執行が適用される法令および自社の定款に適合するための体制その他必要な体制(「内部統制システム」)を整備しなければならないとされています。

金融商品取引法の内部統制

 これに対し、金融商品取引法(以下「金商法」といいます)上の上場会社は、所属する企業集団および自社の財務諸表その他の財務情報の適正性を確保するために必要な体制(「内部統制体制」)について評価した報告書を、事業年度ごとにEDINETを通じて提出しなければならないとされています。
 さらに、内部統制報告書は、公認会計士または監査法人(「公認会計士等」)の監査証明を受けなければならないとされています。
 金商法上の内部統制報告制度は、米国2002年企業改革法(SOX法)を参考に、平成18年の証券取引法の改正において導入された制度です。本稿では、金商法上の内部統制報告制度について解説します。

金融商品取引法上の内部統制報告制度 導入の背景

 資本市場がその機能を発揮していくためには、企業情報が投資者に対して適正に開示されることが必要不可欠ですが、西武鉄道事件(平成16年)を始め、不適切な開示を巡る事件が社会現象となりました。これらの事件では、企業における財務報告に関する内部統制が適切に機能していなかったのではないかという指摘がされました。
 このような問題意識から、平成18年証券取引法改正において、 財務報告に関する内部統制体制の有効性について経営者が評価を行い、公認会計士などによる監査証明を受けることを上場会社に義務付ける制度 が設けられました。
 これが金商法上の内部統制報告制度です。
 この平成18年証券取引法改正は、米国のSOX法を参考に改正された制度であるため、一般に「日本版SOX法」と呼ばれることもあります。

米国のSOX法

 米国では、2001年から2002年にかけて、エンロン、ワールド・コムなどの大企業において不正会計が発覚し倒産に追い込まれるという事件がありました。これらの事件を受けて、米国世論に会計監査に関する不信感が高まりました。
 このような背景のもとで、2002年7月、米国企業改革法(SOX法)が成立し、監査人による会計監査が強化されました。
 具体的には、会社のCEOとCFOは、年次報告書と四半期報告書が正確であること、および内部統制の評価責任を果たしたことを宣誓しなければならないとされました。
 日本版SOX法は、上記のような米国のSOX法を参考としています。

内部統制報告制度の対象会社

 内部統制報告制度の対象会社は、金融商品取引所の上場会社および店頭登録会社とされています(金商法24条の4の4第1項)。外国会社もその対象となっていることに留意が必要です。
 なお、平成28年1月時点において、店頭登録会社は存在していませんので、実質的には上場会社(外国会社で金融商品取引所に上場している会社を含む)に限定されているといえます。
 また、有価証券報告書提出会社であれば、上場会社でなくても、任意に内部統制報告書を提出することができます(金商法24条の4の4第2項)。

金融商品取引法上の内部統制監査

 内部統制報告制度が適切に運用されるためには、これらの評価および監査の基準や実務上の指針が策定されることが必要となります。
 内部統制報告書および内部統制監査報告書の作成にあたっては、まず、「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令」(以下「内部統制府令」といいます)の定めに従うことになります。
 次に、内閣府令に定めのない事項については、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」やその他公認会計士協会の公表している実務指針等による必要があるとされています(法24条の4の4第1項、193条の2第2項、内部統制府令1条1項、3項)。
 上記のような内部統制監査を実施した公認会計士などは、内部統制監査報告書を作成することにより、監査証明を付すものとされています(法193条の2第2項)。

内部統制報告書の提出期限、記載事項

 内国会社の内部統制報告書の提出期限は、有価証券報告書の提出期限である事業年度経過後3か月以内とされています(法24条1項)。

 内部統制報告書の記載事項は、以下のとおりです(法24条の4の4第1項、内部統制府令4条1項、第1号様式)。

  1. 財務報告にかかる内部統制の基本的枠組みに関する事項
  2. 評価の範囲、基準日および評価手続に関する事項
  3. 評価結果に関する事項
  4. 付記事項
  5. 特記事項

会社法上の内部統制システムと金融商品取引法上の内部統制体制との関係

対象範囲の違い

 会社法上の内部統制システムは、「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制」ですので、法令適合性全般に関する概念です。したがって、内部統制システムの概念は、非常に広範囲に渡るものであり、財務報告に係る体制整備についても含むものと解されます。
 一方で、金商法上の内部統制体制は、「財務情報の適正性に関する体制」であり、自社の会計・経理に関する体制に限定されています。

 このように両者は異なる概念ですので、本質問に対する回答は、会社法上の内部統制システムとは別に、金商法上の内部統制体制を構築する必要があるということになります。ただし、財務報告は、法令に従って行う必要がありますので、広義の意味においては、法令適合性に関する概念である会社法上の内部統制システムに包含されるということもできます。

会社法上の内部統制システムと金商法上の内部統制体制の違い

監査主体の違い

 なお、それぞれの相違点は、構築された体制に関する監査の主体について現れます。
 具体的には、会社法上の内部統制システムに関する監査は、原則として監査役が行うのに対し、金商法上の内部統制体制に関する監査は、会計監査人が行います。

内部統制監査を受ける必要がない場合

 平成26年の金商法の改正により、新規上場を行った会社は、資本金100億円以上または負債総額1,000億円以上の会社である場合を除き、上場後3年間に限り、内部統制報告書に係る内部統制監査を受けることを要しないとされました(金商法193条の2第2項4号)。
 これは、新規上場を行う際に金融商品取引所による厳格な上場審査を経ていること、引受主幹事証券会社も同様に厳格な引受け審査を行っていること、既存の上場会社のデータを基に金融庁が分析したところ、多くの会社において上場後3年間は、すでに構築された内部統制体制に大きな影響はなかったということから、このような特例が認められました。
 なお、上記内部統制監査を受けることを要しない上場会社であっても、内部統制報告書自体は提出しなければならないことに留意が必要です。

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